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葉を落とした銀杏は、このみぞれでも雪化粧で白く染まり、道路の街灯でぼんやりと照らされていた。両側に銀杏の植わった薄暗い園内には、灯篭が等間隔で並べてあった。カンタの記憶では夜はライトアップされていたはずだが、時間が時間だし天気も天気だ、今日は明かりを落としたのだろう。それでもこんな日じゃなければ人気の消えた外苑は幻想的なの風景に映るのだろうが、歴史の偉人に叱責されたばかりのカンタにはそんな感慨に浸っている余裕は無かった。行こう、先へ進もうと足を前に踏み出すカンタは、みぞれに濡れた石畳が思いのほか歩き辛い事に気が付いた。それはアスファルトの比ではなく、革靴では気を抜いただけで滑って引っくり返りそうになる。あまりの歩き辛さに、引き返えして靖国通りに戻ろうかとも考えたが、背中に向けられた圧迫感は凄まじく、カンタは渋々そのまま進むことにした。一足ごとに気を使い、キャリーバックを杖代わりにカンタは聳え立つ鳥居を目指した。しかしそんな単純作業も、傘をさしたままでは意外なほど難しく、時折吹きつけてくる風に何度も足を止められた。左手で傘を握り、右手のキャリーバックでバランスを取り、蟹歩きの要領で歩いていく。左足、キャリーバック、右足という順番である。ピチャンタン、カッ、ピチャンテイン。音に直すとそんな感じだ。いや、ピンチャンタンはプチャタインと表記したほうが正確か、いやいや、カタカナで表記するよりもローマ字で表記する方があっているような気がする。PUTYATIN、CCA、 PITYATYN、こんな感じか。響き的にエストニア語のように聞こえるが、問題は自分にこれっぽっちもエストニア語の知識がないし、なんだったらエストニアが何処にあるのかすら知らないことだ。しかし便宜的にこれをエストニア語だと仮定して、 PUTYATIN、CCA、 PITYATYN、 PUTYATIN、CCA、 PITYATYNと歩いていく。この後の展開をカンタは知っていた。靴音の響きにつられて物語を想起しだすのだ。それはある日、老人が道を歩いていると、道端に悪魔がうずくまっていて、どうしたんだいと声をかけることから始まるものではあるが、外苑はそんなとこにまでたどり着けるほど広くはなく、カンタははやくも鳥居をくぐっていた。天気は目まぐるしく変わり、今ではまたぼた雪が降りだしていた。ぼた雪にちなんで地下室へ、と思ったが一度やったことなので止める。カンタはコートの襟をきつく合わせ、ぶるっと震えた。

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