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こんな雪の中でも大村益次郎の雄姿は立派であった。幕末に命を掛けた人間の銅像を、カンタは息を飲んで見上げた。あの騒乱の時代(といってもカンタも教科書や小説の中でしか知らないが)の人間は面構えから違った。自分との境遇の差に、はたして同じ人間なのかと怪しく思った。お国をかけて力を尽くし散っていった人間がいる一方、至極個人的なことで雪の中の東京をぶらついて折角の命を無駄に浪費する羽目になっている人間もいる。この落差には、さすがのカンタも情けなくなり、がっくりと肩を落とした。ご先祖様への不甲斐なさに、カンタはそれ以上進ことができなかった。進んだところで内苑は鍵が閉まって入れないのだが、カンタはそんな事を知る由もなく、ただただ自分への不甲斐なさに肩を落とした。靖国神社へむかって手を合わせて頭を下げると、カンタはありったけの感謝の念を送った。自分がこうして禄でもないことで七転八倒できるのは、先人の努力があったからだ。和を以て貴すとなす、本来であれば、みんなと仲良く過ごすことが最大の奉仕なのかもしれない。周りの人間と仲良くし、手と手を取り合えば繋がりが生まれ、繋がりは広がり同盟となり、同盟は侵略者への対抗策となる。一つにまとまった集団は、おいそれと侵略されることはない。友人知人家族と仲良くすることは、結果的に国を守ることになるのだ。妻一人ともまともに関係を保てないカンタは、先人の努力を無に帰す、まさしく恩知らずの輩だ。こうして大村益次郎の足元に立っていると、カンタにはまるで彼から叱られているように感じた。常識を発達させよ。見分を広くしなければならぬ。小さな考えで世にたてぬ。それは分かっている。分かっているが、出来ないのだ。すぐに小さな考えに捕らわれる自分は、どうやったら立脚できるのか、はなはな見当がつかない。カンタはしばしそうしたまま、傘を打つみぞれの音を聞いていた。パラパラと音を立てては、大きな塊となって滴り落ちていく雫を、カンタは見つめていた。しかしいくらそうしていても、答えは見つかりそうになかった。道に迷った凡人ねと、諭してくれる詩人もカンタのもとには居なかった。カンタはただ一人で立っていた。無力感に押しつぶされそうな心を、なんとか支えるので精一杯だった。行こう、とカンタは思った。この先に進んで何があるのか分からないが、何かが起こる筈である。後輩のシュウサクとさえ合えば、事態は動くはずだ。筈だと願いたかった。

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