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それもぼた雪がもたらす効果のようで、みぞれに変わると引きこもりたいなんて気持ちはどこかに吹きとんだ。しかしまたぼた雪がちらつきだすと、手帳を取り出して地下室へ引きこもりたくなるのだ。カンタはこの不思議な現象に心を奪われ、売笑婦に説教している自分に思いをはせた。何故そんなものを想像したのか分からなかった。ソープランドどころかピンサロにすら行ったことないカンタである。お金を余計に払って嬢を選んでいるときの高揚感も、待合室で居合わせた他の客との気まずさも、そこに流れる謎の秩序も、そんな客をおちょくる緩いユーロビートも、案内された先で待っている嬢の詐欺紛いの容姿も、だけどそんな嬢が以外と当たりだったりする発見も、そんなもろもろを知らないカンタであった。しかし今、カンタは嬢を説教している自分を想像をしている。やることだけはやって、余った時間で身勝手な常識を説いてくる迷惑な客に自分はなっている。嬢が可哀そうだとは思うが、何故か説教は止まらなかった。地下室にいて、そんな体験を手帳に書き込んでいる。いつかそんな自分のもとへ、嬢がお礼参りにやってくるんじゃないかと震えている。そんな情けない男に自分はなっている。情けなさでいえばコキュだってだけで十分情けないのに、さらにそこへ変な属性を付属させていく。そのカテゴライズがどんな意味を持つのか、カンタには分からなかった。そしてこれは前向きな意見なのかと疑問に思う前にぼた雪はみぞれにかわり、再び空がしとしとと冷たい雨を降らし始め、傘に積もった雪が塊になって落ちたところで、やっと靖国通りへ着いた。九段下の駅を降りて、坂道を、人の流れ追い越していけば、ということで屋根の上に光る玉ねぎを見つけようとしたが、お濠はみぞれで霞み、どこにあるのか分からなかった。たかだか数百メートル歩いてきただけなのに、カンタの肩にはどっと疲れが押し寄せていた。足はこわばり、どこかで一息いれたかったが、靖国通りのコンビニは真っ暗だった。店の前まで行ってみると、豪雪につき臨時休業と張り紙が張ってあった。全国チェーンのコンビニでこんなことがあるのかいと突っ込んでみたものの、現にやっていないのだから仕方がない。ではとファストフード店にいってみたが、そちらも臨時休業中だった。途方に暮れたカンタは靖国神社の鳥居を見上げた。寒々とした空にも映える、立派な鳥居である。困った時の神頼みということで、誘われるままカンタは足を踏み入れた。




