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新しい道よりも今は正道の欲しかったカンタは、そんなものはいらないと叫んだ。俺はユリシーズなのか? 俺はユリシーズなのか? と迫る四人に、そんな邪悪な奴らがユリシーズなわけないとカンタは否定した。いけないことか? 不安になることが? 熱い血潮は冷めてしまったのかい? 冷めるわけが無かった。妻の不貞に、カンタの憎悪は燃えたぎり、愛人には末代まで祟る勢いで恨んでいた。雪やビル風なんかじゃ消せやしない、心の炎をカンタは燃やしていた。みんなしってるよ、誰でも知ってるよ、だからベイビー、新しい道を見つけるんだ。四人組はユリシーズとカンタの耳元で歌い誘ってくる。その甘い歌声にカンタの視界はさらにゆがみ、雪が虫を引き連れて飛蚊症を誘発したと思ったら光が散り、はっとしたカンタは四人組の手を振り払った。俺は確かにユリシーズじゃない、だが、きっと帰れるんだ。帰れるんだ! カンタはキャリーバックを抱えると駆け出した。決して、決して、決して、決して、と歌い続ける四人組の最後の言葉を聞かぬよう、別れもつげずに。走りに走って息の上がったカンタは足を止めた。荒い息遣いを整え、一息ついた今のカンタに出来ることは、靖国通りを求めて再度南下することである。景気づけに雪の進軍氷を踏んでと歌ってみたが、より寒くなっただけだったのでやめる。もっと暖かい歌はないのかと記憶のサラダボールをかき回し、夏夏ナツナツココ夏と歌ってみたが、あまりにも空しくなったのでやめる。結局、何も考えずに進むしかないのだ。頭を空っぽにするのだと考えれば考えるほど、いらないことばかりが渦巻いた。そのうちいらないことも統合されていき、カンタは一足踏み出すたびに俺は何をしているんだろうと自問自答ばかりしている自分に気が付いた。道理に従うのならまず、間男であるあのクソガキを家から追い出して、その次に愛する妻を追い出して、自分はドカンと居間のソファーにふんぞり返っているべきなのだ。それがどうだ、文句を言うどころか、自分からすごすご引きさがり、自発的に家を出ていって、寒風に吹かれながら、雪でローラーが役にたたなくなったキャリーバックをえっちらおっちら引きずっている始末。情けないことに、後輩頼みで神保町くんだまりまで歩いていこうとしているのだ。何もかもが間違っていた。目についたコンビニに鼻水を垂らして入って見たはいいものの、温かい飲み物のコーナーはからっぽだった。世の中何もかもが間違っていた。


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