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日付が変わってだいぶ人が減ってきたとはいえ、タクシー待ちの列が途切れることはない。タクシーを待っているよりは直接歩いて行ってしまった方が早いだろう。寝床ゲットしたカンタはガッツポーズをした。この寒さと鬱陶しい雪からおさらば出来るのだ。喜びもひとしおで、周りから奇異な目で見られても気にならなかった。勝利の余韻に浸っていると、そういえば、とシュウサクが水を差してきた。カンタもまだ通話中なのを忘れていた。随分と五月蠅いですが、どこにいるんですかというので、カンタは駅前……と言葉を濁す。察してくれと願いながら歯切れの悪い受け答えをしてみるが、シュウサクはそんなことお構いなしにあれやこれやと食い下がって来る。だいたい大阪に出張中の筈じゃないですか、いつ帰って来たんですか? あ、もしかして、いきなり帰ったら奥さんと喧嘩でもして追い出されちゃったんでしょ? 駄目ですよ、夫婦げんかは犬も食わないっていうじゃない――五月蠅い! と怒鳴ってカンタは電話を切った。切ってからすぐにしまったと思た。こんな事でへそを曲げられてはたまったもんじゃない。特に最近の若い奴はすぐにへそを曲げるので困る。しかしここで電話を掛けなおして機嫌を取るのも得策ではなかった。どなられた奴さんが、どんな手に出るか分かったものではない。ここは一端頭を冷やす時間を作り、断れない状況に持っていくのが先決だ。こちらは相手の住所を握っているのだ、部屋の前までいってしまえば自分の勝ちである。ヘッヘッヘとカンタは駅前のコンビニでちょっとお高いロイヤルドリンクを買うと、前祝だと一気飲みをしてエネルギー補給した。ついでにあたたかいコーヒーで体を温め準備は万端、シュウサクの家にむけて歩き出した。人通りが少なくなったせいか、踏み汚された歩道の雪の上には新しい雪が積もりだしていた。そのお陰で滑ることはなくなり歩きやすくはなったが、今度はキャリーバックが邪魔をした。先ほどの比ではないくらい運び辛い。仕方が無いので持ち手を畳み、持ち上げて運んでみるが、非力なカンタにとって難儀な作業だった。どうしてこんな重いんだと、今すぐにでもキャリーバックを道端に放置したくなるが、したらしたで困るのは後のカンタ本人だった。そのうち汗が噴き出してきて、ロイヤルドリンクが燃えているのが分かった。この調子で五十ミリリットルの液体がどこまでもつのかカンタにも未知数だが、飲まないよりましな状況なのは確かだった。云千円のロイヤルドリンクを信じ、カンタは靖国通りを目指した。




