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あーと思ってカンタは画面を確認すると、確認するまでもないが、後輩のシュウサクだった。入社当時はソプラノボイスの美声を誇っていたシュウサクも、一年経ち二年経ち、日々のストレスに負けたのか酒浸りの日々が始まり、今では立派なデスヴォイスだ。恐ろしい酒焼け声であれこれ現在進行中の企画について尋ねてくるが、あいにく今は業務時間ではない。ワーカーホリックではないカンタは、比較的公私の区別をはっきりさせるタイプである。なのでその手の連絡は業務時間内にして来いと口を酸っぱくしていっているのだが、このシュウサクにそんなことは通用しない。何かあれが問答無用で掛けてきて、こちらの様子などお構いなしに質問してくる。時折こちらを馬鹿にするためにわざとやっているのではないのかと、つい悪く考えてしまうこともあるが、ビジネスライクとはいえそんな悪意をもたれるようなことをやった憶えは無く、普段のシュウサクの様子からしてこれが天然なのだろう。それでも迷惑なことには変わりない。カンタはスマホを持ちかえた。先ほどまでスマホを持っていた手は冷たくかじかみ、真っ赤になっていた。カンタは息で手を温めながら、はいはいと空返事をしながらシュウサクの言葉に耳を傾け、早く終わらないかなと待っていると、商店街の時計が目についた。すでに日付が変わりそうになっており、こんな時間まで会社が開いているなんて珍しいなと思った。御多分に漏れずうちの会社もコンプライアンスだ何だと五月蠅いのに、どうなっているのだろう。あっ、とカンタは閃いた。それならば自分もこのまま出社して、一晩過ごせばいいじゃないかと。カンタはシュウサクの独演会に口をはさみ、それとなく聞いてみた。すると当のシュウサクはとっくに退社していて、家にいるのだという。漏洩問題が叫ばれる昨今、家でまで仕事はやるんじゃないと思わず注意しそうになったが、ぐっとカンタは堪えた。次の作戦に打って出ることにしたのだ。つい先日、シュウサクは何年も同棲していた彼女と分かれていた。酷く打ちのめされたのだろう、見るからに落ち込んでいたシュウサクを、カンタもこいつの上司という手前、仕方なく舌先三寸ではげましたものである。非常に痛ましく、非常に憫然で、同情に足る出来事ではあった。だが、不本意ながらも、まことに大変不本意ながらも、今のカンタにとってはまさに僥倖だった。すなわちシュウサクは今ではフリーで、家にはシュウサク以外の誰居ないのだ。起きて半畳寝て一畳ということで、成人男性が一晩厄介になるスペースくらい余っているはずである。

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