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カンタはアンニュイ気もちに襲われたが、この世に不可能なことなんて無く、常に可能性で構成された世界には、空飛ぶ車のよう、脳移植だって決してありえない話ではなく、それは自分が生きているうちに実用化され、他人に入れ替わって、誰かの人生を歩む希望も残されているんだと、他人の顔になって、娑婆の空気を吸うことだって出来るんだと、そんな近い未来を思って、カンタはほれぼれしたが、まてよと疑問が頭をもたげ、自分一人の人生ですら手に負えないのに、そこに他人の人生まで伸し掛かってきて、はたしてこの先自分はやってけるのかと、潰れず生涯を完遂できるのかと、そんなことは考えるまでもなく、当然のことながらノーで、いくら他人の皮膚が羨ましかろうと、二人分の人世という割に合わない選択に、ゲンナリしたところで、エレベーターのボタンを押し、扉が閉まり、狭い箱の中に閉じ込められたカンタは、ふーとため息をつき、あるか無きかの慣性の法則の中、軽く胃をキュッと捕まれ、少し気持ち悪くなって、気持ち悪くなるのなら先ほどの便所の中でなれよと自分の体に文句を言い、もう一度ため息をつき、ついでに腹に力を入れて尻からガスを放出し、嗅ぎなれた臭いを当たりに充満させながら、おまけに大きなゲップだってしちゃうが、もしかしらたこのエレベーターにも監視カメラがついていて、自分の行動が全て誰かに見られているのかもしれなくて、そう思うと急に恥ずかしくなり、四隅を探してみてがそんなものは無さそうで、天井には空調が設置されているだけで、カメラのありかなんてどこにも無くて、安心したのもつかの間、昨今のカメラの小型化は目を見張るものがあるし、一見設置していないよう偽装するのは簡単な事であろうし、恥をかかないよう迂闊な行動は控えるべきだと、背筋を伸ばし、襟を正し、いっちょ前のプライドを持ち出してみたところで、さんざっぱら廊下で不審な行動を繰り返した後では、こんなことやっても空しいだけではと、いや、こちらとしては、観測者が多少なりともこいつには常識が残っているのだなと、そう思ってくれれば万々歳だが、それは後の祭りのようで、良くて単なる情緒不安定な中年男と思われるだけなのは火を見るより明らかで、結局何をやっても手遅れなのかと、まるで自分の人生のようだなと大げさに考え、




