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だけどオデュッセウスと自分の決定的な違いは、降りたところで帰り道を教えてくれる幽霊なんているわけもなく、ただ一人路上に置き去りにされるのが確定で、あらゆる困難に立ち向かう勇気も無ければ知恵も無く、ついでにこれから起こるであろうと期待されるイベントもきっと無くて、魔女も、魔鳥も、怪物も登場しなければ、神様の牛も食べることなく、素っ裸な自分を優しく介抱してくれる女性と出会う事ものければ、自分はどこにもたどり着けず、ただただ目的もなく、大都会東京を当てもなくさまようだけの、悲しい出来事が目の前に立ちはだかっていて、そうなるとエレベーターはこのまま来ないほうが良いのではないかと考えた矢先に、扉が左右に開いて、二つの空間が接続されたということは、それは即ちエレベーターの到着を告げる現象であるが、考え事をしていた自分にはそれがどういう意味を持つのかうまく理解できず、ワンテンポ遅れてそうかと乗り込み、キャリーバックのタイヤがエレベーターと廊下の段差にはまりイラっとして、乱暴に引いたら勢いあまってのけぞり、そのまま後ろの鏡にどかんとぶつかり、割ってしまったんじゃないかと慌てて振り向いたが、鏡は無事で、目の下に隈のできた顔色の悪い三十五歳の男が死んだ魚のような目でこちらをじっと見ていたので、何だこの野郎と睨み返してやると、あちらも同じように睨み返してきて、やるのかこの野郎と凄んでみたが、運動音痴のもやしのような中年がそんなことをしたところで様になる訳もなく、つくづく自分も老けたなぁと目の下の隈を指で伸ばしてみても、離せばすぐに元通りで、ところどころ染みの浮き出ているこの顔が、自分の物だとは認めたくなくて、普段頭の中に浮かんでいる自画像はもっと若々しいのに、これは何かの手違いで、鏡がどっかのおっさんを間違って映しているだけの、出来損ないのドッペルゲンガーかなんだと、その証拠を掴んでやろうと右手を上げ左手を上げ、左手を下げ右手を下げ、再度右手を上げると思わせておいてフェイントで左手を上げ、そんなことを繰り返してみたが、鏡の自分はそっくりそのまま繰り返し、これがお前の寸分たがわぬ姿だとあらためて突き付けられ、現実はなんて悲しく、なんて無慈悲で、そう思うと先ほどの愛人のつるっとした肌が羨ましくなり、なんとかあれが自分の物にならないかと考えてみて、痛いのが嫌いな自分にはメスの入る皮膚移植は御免被り、そうなるとどんな手段が残されているのか、足らない頭でうんうん考え、まだ身体丸ごと乗っ取れる脳移植のほうが痛み的にはましなのではないかと、そうなると科学の進歩を待つしか手段がなく、

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