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嘘じゃない本当の後日談  作者: シヲンヌ
番外編
21/22

-ある少年の回顧録3-

死ネタあります。

どシリアスです。

冒頭で回想があります。


苦手な方はこの話読まないことを強くおすすめします!


ちなみにのこの回は挙げ直した話ではないです。



真っ暗なところにいた。

ぼくはぷかぷか浮かんでる。

あれ?

ぼくはあの小屋の中にいた、よね?

真っ赤な火があって、それは男の人がつけたもので、その人たちはお屋敷の人に言われてやって、その人はガーネットさんからぼくを買って、その人は司祭さまのお友達で、その人はぼくにお母さんとすぐに会えるって言ってて、でもお母さんはとっくに死んでて。

あれ?あれ?どういうこと?


ひとまず周りを見回した。でも真っ暗すぎて、近くが見えない。ぼくの手も足も見えないくらいだ。

だけど、ゆるく風が吹いてるのはわかる。すっごく気持ちいい。だからかな、あんまり暗いのが怖くない。

お母さんと一緒にベッドで寝てるときみたい。お母さんの柔らかい歌で、胸をトントンされて、頭をなでてくれてるときみたい。それくらいこの風はあったかくて、胸がいっぱいになって。

ぼくのほっぺたにツゥと水が流れた気がした。

どうしたんだろう。

でも、今すっごく幸せ。


だからぼくは風と一緒にぷかぷか吹かれた。

見えないのに、どこかに向かっているのはわかるからぼくはそこを目指す。しばらく浮いてると、遠くの方から誰かが近づいてくるのがわかった。みんなぼくみたいに風に乗って、ぷかぷか浮いてるんだ。お話できないのがちょっと悲しい。

悲しい、かなしい?


“かなしい”って、なんだっけ?


まぁいいや。

ぼくはみんなと一緒にそこへ向かう。もう少しで着くから、着くのがわかるから、ぼくは目を閉じた。風がぼくの体をなでる。気持ちいい。ずっとこうしていたい。

ん、あれ?あれ?

何か、何か、すっごく知りたいことがあった気がする。

なんだっけ?

まぁいいや。多分どうでもいいことなんだ。だって忘れちゃうんだもん。

そうだよ。どうでもいいことなら、それでいいよ。そのままにしよう。もうすぐ着くんだし。

ずっとこのまま、ぷかぷか浮いて、風にくるまって。


『本当にそれでいいのか?』


ちょっと低い声がした。

後ろの方だ。ぼくはふりむく。

『君はそれで、そのままで本当に幸せか?何かはっきりさせたいことがあるんじゃないのか?』

聞いたことのない声。大人のヒトにしてはちょっと高い。わがままを言う子をたしなめるみたいに、でも細かいところをチクリと刺すみたいに低い、男の人の声は続く。

ぼくはうなずいた。どうでもいいよ、だって風が気持ちいいんだ。みんなと一緒にぷかぷか浮かんで、目指していたところにだってもうすぐで着くし。ずっとこのままでいたいんだ。


『だったらなんでお前は泣いてるんだ?』


え?ぼく、泣いてるの?

ほっぺたをさわってから、目元をさわる。冷たい水が、とめどなくぼくの指から流れていた。さわった瞬間、冷たい氷が刺さったみたいに胸がズキンと痛んだ。鼻がツンとする。苦しい、息ができないくらい、苦しくて、苦くて、辛くてたまらない。


なんでかわかるか?って言われて、ぼくは首を横にふった。

なんでか知りたいか?って聞かれて、ぼくは首を縦にふった。

そうか、って声は穏やかにぼくへ言った。

『なら選択し、この手を掴め。選択せぬ者に機会(みち)は開かれないのだから』

すると後ろへぼんやりと、赤黒く光る渦が現れた。迷わずに手を伸ばすと渦は、ぼくの体を吸い込む。

ぎゅるんと音をたてて、ぼくは消えた。


いつの間にか、風は止んでいた。




# # # #




もやはだんだん濃くなっていった。白いのが、布みたいにぼくの体を包む。

リューは見えたけど、3コ先の階段は見えづらい。ますます階段の終わりがわかんなくなった。わかんないまま降りてると、リューがもうすぐだぞって教えてくれた。ぼくより背が高いから見えるんだろうなぁ。リューってずるい。

なんて思ってたら周りが明るくなってきた。少し先には茶色い砂も見える。ホントにすぐだったんだね。ごめんねリュー。




砂を踏むとぼくは顔を上げて、びっくりした。

目の前には見たこともない木がいっぱい、地面からにょきにょき生えてた。緑色の幹をした木は針みたいに細い葉っぱをいっぱいつけて、サラサラと音を出してる。だけどぼくの周りにある白いもやは、その木の近くにもあるから見えづらい。

ぼくとリューはその中の道を通る。砂がでこぼこしてるから、ちょっと歩きにくい。転ぶなよー?ってリューがケラケラ笑う。リューのいじわる。


一本道を歩いてると、開けたところに出た。

横を見るとあの緑色の木はなかった。白いもやがいっぱいあって遠くまではよく見えない。でもすっごく広いところだってなんとなくわかった。

奥には石の壁があった。あっ、違う、壁じゃない!

よく見るとチョークくらいの細いすきまがあって、そこから黄色い光が出てる。もやもそこから一緒になって出てる。今までよりすっごく濃くて白い。雲みたいだ。




なんて思ってたら、がくんって体が揺れる。

びっくりして横を見ると立ちんぼのリューがいた。止まったんだ。

リューは難しい顔をしていた。唇をキュッとして、扉をじっと見てた。

怒ってる顔だ。孤児院のみんなならそう言ったかも。

でもぼくは、なんでかな。

悲しそうだって思うんだ。



リューは目をつむってフルフル首をふった。

それからゆっくり目を開けるとぼくの手を離して、目の前にしゃがむ。

「ケビン、これから大切な話をする。だけどその前に1つだけ、俺はケビンに謝らなくちゃいけないことがある」

草原みたいな緑がぼくを刺すように見る。緑はゆらがないで、水みたいに透明にだった。リューは笑ってなかった。でも泣いてるわけでも怒ってるわけでもない。


真剣だった。

今までとおんなじ人だなんて信じられないくらい、リューは真剣な顔をしている。

リューは静かに言った。

「俺は街にいたとき、お前が行きたいとこならどこへでも連れていってやるって言った。けどそれは嘘だ」





「お前は家に帰れない」



「ケビン、お前は亡者だ。亡者を下界に連れて行くことはできない。亡者は生者と会わせてはいけないし、そもそも下界の地へ足をつけることすら許されない。なのに俺はあんなこと、どこでも連れていくって言ったのに約束を守れない。踏みにじることしか出来ない。本当に、本当にすまない、ケビン」

そうやってリューは頭を下げた。


息ができなかった、リューの言ったことがわからなくて。

リューを見た、ふざけてるんじゃないかって。

そんなことなかった。

高そうなモノをこわして怒られた子供みたいに辛そうで、転んで怪我したときより痛そうな、そんな顔をしてた。リューは本気なんだ、じゃあ言ってることもホントなんだ。そう思うと、すとんって胸の奥でボールが落ちたみたいな気がした。



「リュー、顔、上げて?」

ぼくの言葉にリューはゆっくり顔を上げた。

口をきゅうっと閉じて、辛そうにしてる。でもぼくから目をそらさない。

ぼくはリューに笑って言った。

「あのね。リュー、ぼくは、ね、大丈夫、だよ?」

リューは口を開こうとしたけど、ためらってやめた。

ぼくは続ける。


「お家、には、帰ら、なくて、いい。大丈夫、なんだ」


「でもケビン、お前」

リューは言いづらそうに言葉を切った。ぼくは首を横にふる。

「行きたい、って言っ、たのは、他に、行きたい、とこが、わからな、かった、から。だから、今は、行かなくて、いい」

その時のリューは多分、悪気なかったんだと思う。そういう人だ、リューは。




初めて会ったとき、リューはお部屋の中にいた。

ぼくを連れてきた男の人はよく笑う人で、ぼくにもよく笑いかけてくれた。けど、最初に会ったときに頭が首から落ちたのを見てなんとなく怖かった。それからその人とは近づかないようにしてたから、ずっとその人は困った顔をして、肩を落としていた。


リューはその人にガミガミ言われてた。けどリューはそれをするするかわして、逆にからかって、ニシニシ笑ってた。そしたら男の人もいつの間にか笑ってて、リューはちょっとだけしてやったりって顔をしてから、笑ったんだ。びっくりした。あんなにキレイに心から笑った顔を見たことなかった。すっごくステキな笑顔だった。リューはその人を笑顔にしたかったんだ。



だからあの時もぼくを同じように笑顔にしようと思って、どこでも連れて行ってあげるって言ったんだ。なのにぼくはわからなかった。ぼくは町にどういうモノがあるか知らなかったから。ぼくはずっと、“ぼくがここにいたいって思った場所”でいられなかったから。

あの時、ぼくは行きたい場所って言われて何も思いつかなかった。だから考えて考えて考えぬいたときに、やっと出てきたのがお家だった。ただそれだけだった。


リューは多分ぼくが『行きたかったのにあきらめたんだ』とカン違いをしてる。

でも違うよ。お家は“ぼくがここにいたいって思った場所”だったよ。

だからこそぽろっと口から出てきただけなんだ。

それに、とぼくは続ける。

「お家、に行って、も、いない、でしょ?」


お母さんはそこにはいない。お父さんもとっくにいない。

だったら行ったってぼくは嬉しくない。楽しくない。

お母さんやお父さんがいないお家なんて、ただの小屋でしかないでしょ?

だからお家は“ぼくがここにいたいって思った場所”であって、“ぼくが行きたいって思った場所”じゃあない。つまり行かなくていいんだ。


「だったら、行っても、つまんない、よ。だから、いい、んだ」

「ケビン、お前本当に悔いが」

大きく頷くとリューは目を大きく開ける。




それにぼくね、リュー。

全部聞いたよ。

全部知ったよ。

お母さんが誰に殺されたのか。

司祭さまが何をしていたのか。


ぼくが死んだ後のことも、全部、全部、全部わかった。教えてくれた。

あの赤くて黒い渦の中にいた人が、教えてくれた。

ぼくをリューやリューのところまで連れてきてくれた男の人がいたお屋敷へ、連れてきてくれた人が、みんな教えてくれた。


なんで痛かったのか、なんで苦しかったのか。

ぼくは悲しかったんだ。

お母さんは知らないうちに死んで、司祭さまとそのお友達にウソをつかれて、お屋敷の人には辛いことをされて、最後は火の中で。

心が痛くて痛くて、悲鳴を上げて。なのに聞いてくれなくて苦しくて。仕方なかったんだ。



リューの名前を呼ぶ。

「これ、持ってて、ほしい、んだ」

ぼくはリューへ数枚の分厚い紙を出す。丸かったり四角かったりするそれらには、羽の生えたライオンとか剣を持った男の人とかが描かれてた。分厚い紙、メンコを見たリューは困った顔をする。

「それは俺がお前にあげたもので、お前が勝ち取ったものだ。お前が持ってろよ」

「ううん。リューが、持ってて。ぼくは、持って、いけない、でしょ?」

ぼくは笑って言ったけど、リューは一瞬痛そうな顔をした。でもすぐに真剣な顔をする。

ちょっとだけ止まってから、リューはうなずいて受け取ってくれた。


ぼくは笑ってた。

「楽し、かった、すっごく、楽し、かったよ、リュー。すっごく、すっごく、夢、みたい、だって、ずっと、ずっと、思った。起きたく、ない、って、ずっと、思った!」

キレイに光る町でお散歩したこと。

リューと一緒にご飯を食べたこと。

みんなで“メンコ”で遊んだこと。

お空を飛ぶ部屋に入ったこと。

一緒に笑って、遊んで、むくれて、喜んで。


そしたらなくなったと思ってた心が、ぼくの胸の奥でばくばくと大きくなっていった。がらんどうのクローゼットに軽いのに重たくて、どこかほんのり暖かいものがどんどん押し詰められていくみたいな。全部大きくて入りそうもないのに、不思議とクローゼットはいっぱいにならないで、まだいっぱい入れてほしそうにドアを開けてるんだ。

ぼくのクローゼットは鍵をかけたまま、壊れてるんだと思ってた。でも違った。

もう二度と、このクローゼットの中は埋まらないって思ってた。

もう二度と、こんなにも心が鳴り止まなくなるなんて思わなかった!



光がリューの後ろからキラキラ光る。

誰かに名前を呼ばれてる気がした。でも不思議。嫌な感じがしない。

なんだかずっと、呼ばれたかった人の声だって思った。多分、正解だと思う。

「行くのか?」

リューに聞かれてぼくはコクリと首を動かした。

するとぼくの体が浮いた。リューの胸板が目にいっぱい広がる。

暖かくて、ほんわか気分が和らいでいく。

ぼくの好きな温度。

「ごめんなケビン、不器用な俺で。こんなことしかできない馬鹿な俺で」

リューの腕がぼくの背中にまわる。

頭の後ろに手が来て、優しく上下に動いた。そのたびにさらさらと、耳に髪がぶつかる音がする。

ぼくの好きな手。

「だけど最後に、これだけは忘れずに、よく覚えておいてくれ」


「世の中に生まれてきちゃいけない子供なんていない、もちろん幸せになっちゃいけない子供もいない。だから、その塊を二度と――捨てるな」


「う、ん!」

ぼくが言うとリューは体をゆっくり離して、ニッと歯を見せて笑った。

その顔を見てるとぽかぽか暖かくなって、何でもできそうになる。前に歩けそうになる。

ぼくの好きな顔。


ぼくは笑った。リューに負けないくらい、元気に笑った。

「あり、がとう。ぼくと、一緒、にいて、くれて。ありが、とう。ぼくに、“楽し、い”、を、教えて、くれて。ありがと、う」


「ぼくを、この、世界に、連れて、来て、くれて。ありがとう!」


リューの横を歩く。リューは口を開けて固まってたけど、すれ違うときにはふんわりと笑ってた。

ぼくはずんずん歩く。ここから先はぼくだけで行かなきゃいけない。でも怖くない。さみしくない。

だってぼくには、ぼくの胸の中には、軽くて重くて暖かいモノがぎっしり詰まってるんだもん!


扉の前まで来ると岩のドアがズズズって横に動いた。びっくりして立ってると、すぐにぼく一人が通れるくらいにすき間が大きくなった。ぼく、何もしてないのに勝手に開いた!すごい!

光がぼくを照らした。太陽の光を一気に浴びたみたいに、目の前が白くなる。でも、なんでか眩しいって思わなかった。わかってたからかな、何となくここに来るべきだって。

少しだけ、何か耳に聞こえた気がした。


ぼくは前に踏み出す。

周りは白くて、1歩1歩進むとふわふわした気分になった。

ちょっと歩くと後ろでまた、ズズズって音がする。見ると、ドアが勝手に閉まってた!まただ、すごい!

完全に音が止まると後ろには何もなくて、ただの白い景色が遠くまで広がってる。

また何か聞こえた。あれ、これってぼくの名前?

ぼくは前を向いた。


歩くとだんだん、体がふわふわしてきた。

手を見てみるとちょっとだけ、色が薄くて透明になってる気がする。でも心は騒がなかった。当たり前だと思った。

やっぱり聞こえた。はっきり聞こえた。

ぼくの名前だ。


ぼくは早く歩く。

体がどんどん軽くなる。

手も足もどんどん薄くなる。

その声はだんだん、どんな声か聞き取れるようになった。


2つだった。

1つは男の人。リューより低いけど、くすぐったい。

もう1つは女の人。聞くだけで暖かくて嬉しくなった。

だけどその度にぼくを呼ぶ声ははっきり、大きく聞こえて。

目の前に人影が、現れていく。

ぼくの胸がばくばく音をたてる。

もしかして、もしかしてもしかして!


ぼくは走った。

顔が見えてくる。2人ともにっこり笑ってた。

「ケビン」

「ケビン」

やっぱりそうだった!

「お父さん!お母さん!」


速く走った。

ぼくの体は浮いてるみたいに早かった。でもいいんだ。

お父さんとお母さんのところに、早く行きたいから。

「お父さん!」

胸の中に飛び込みたい。

「お母さん!」

抱きしめて欲しい。


ぼく、お話したいこといっぱいあるんだ。

ご飯のこと、歩いた町のこと、一緒に遊んだ子供たちのこと、そして、リューのこと。

ねぇ、ねぇ、お父さん、お母さん。

聞いて、聞いて!




「お父さん、お母さん!」

ぼくは伸ばされた手に飛び付いた。

これで『-ある少年の回顧録-』は終わります。

次回はクエバスの後日談を1話掲載予定です。

更新は6月20日20時になります。


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