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嘘じゃない本当の後日談  作者: シヲンヌ
番外編
20/22

-ある少年の回顧録2-

【警告】

暴力、虐待描写があります。

死ネタ、火事描写あります。

どシリアスです。

途中途中で回想があります。

むしろ回想が半数を超えています。

またしても5000字超えました。



!苦手な方はこの話読まないことを強くおすすめします!

※時系列としては10と11の中盤辺りまでです。


教会での一日はそうじから始まる。

体つきや年でやるとこを司祭様が決めて、ひと月ごとに場所が変わっていくんだ。庭の井戸から水をくんで窓や床をふいたりマリア様や十字架をみがいたり、廊下をはいたりする。それから司祭さまが作ってくれたご飯をお祈りしてから食べる。家でやってたのよりちょこっと長いんだけど、ぼくより小さい子までじっとしてるから我慢することにした。


ご飯のあとはお勉強だ。

ここでは、ぼくみたいなの年の子はみんな文字と計算を習う。みんなは寄付された本を読んだり、地面に木の棒で数字を書いて計算の練習をしたりしてる。

ぼくはあまりよくできないみたいで、上から3番目に年が大きいティモシーが教えてくれることになっている。上手にできると頭をなでてくれるから、ぼくはティモシーが大好きだ。




みんなが勉強するのは、大きくなったらここを出て行かなくちゃならないっていう決まりがあるからだ。ぼくみたいに預けられてる子はいなくて、みんなお父さんやお母さんがいない。だからちゃんと1人で生きていくためにがんばってる。

司祭さまのお友達の紹介で、貴族とか商人とかのところで働くことになるんだって。お城で働きたーいってマールが言ってたけどできるのかな?よくバケツをひっくり返しちゃうしさ。


でも、ぼくも貴族とか商人とかのところで働いてお金をいっぱいもらったら。

お母さん、もうあまり無理しないかな?

実は司祭さまが来たあの夜から、ぼくはずっと孤児院の中にいる。

家には帰っちゃダメなんだって。お母さんとは会えてない。ミサにも来ないんだ。司祭さまは大丈夫ですよって笑ってくれるけど、やっぱり心配だ。



お日様が沈む頃に孤児院の中から礼拝して、また朝みたいに掃除して夜ご飯をお祈りして食べる。それからすぐにみんなベットに行って一日が終わるんだ。

入ってすぐはみんなでヒソヒソ話すけど、すぐに眠くなって寝る。ぼくもそうだ。


だけど今日はちょっと違った。




まず起きたら暗かったのにびっくりした。

外を見るとぼくたちが寝たときより、お月様が真上に近くなってた。

それでまだ夜なんだってわかった。本当ならこれでベッドに入ればいいと思う。今日は久しぶりに夜が暑くないから、すぐに眠れる。

だけどぼくは、恥ずかしいんだけど、トイレに行きたくなったんだ。だからみんなが起きないようにゆっくり離れて、ソロソロと幽霊みたいに歩いた。




終わってベットの部屋に帰る途中だった。

廊下の窓からお月様を見ていると、門の辺りで人の姿が見えたんだ。誰だろう。

じぃっと窓からがんばって見てみる。今までにないくらい目をこらすと誰かわかった。司祭さまがいた。

いつも見てる服と違う服を着ていた。白くないし、礼拝のときのローブよりなんか派手?な感じがする。でも似合っててかっこいいな。


門にはもう一人いた。

司祭さまより背が低くて細い人。髪の毛も長くて背中まである。

女の人だ。

長いドレスを着た女の人は司祭さまと話していて、たまに笑ってる声が聞こえた。楽しそう、いいな。みんなもう寝てるから、ぼくはベッドに入っても寝るしかない。司祭さまがちょっとうらやましいや。

少しすると女の人は司祭さまの腕に抱きついた!ひゃー!

でも司祭さまは気にしてない。そのまま二人とも外に出て行った。




それからぼくはベッドに潜ってぐるぐる考えてた。

なんで司祭さまは派手な服を着てたんだろうとか、女の人は誰だろうとか。

今街では悪い人が夜に人を殺してるって話でもちきりなんだって司祭さまは言ってた。だから夜になったら家から出ちゃいけないらしい。殺されるのは嫌だもんね。

なのに2人はどこに行ったんだろう。なんで司祭さまは外に出て行ったんだろう。

明日司祭さまに聞いてみよう。


だけど大丈夫かな、司祭さま。司祭さまが悪い人に会わないといいな。







# # # #





リューよりも高くて赤いへいがずらっと道の先まで続いていて、終わりが見えない。その近くにガス灯みたいな赤い灯りもぽつぽつと並んでて、一番上には黒い屋根みたいなのがくっついていた。ぼくとリューの目の前にも赤い門があった。へいよりも高い門のドアは閉まっていて槍を持った人、人じゃないけどそこには二人いた。雲みたいに白色の牛みたいな頭がついていて、胸当てやぴらぴらしたスカートみたいなものをはいている。スカートみたいなものの近くからは、白色のしっぽが見えた。しかも二本足で立ってる!牛なのに!




「ちょっと待っててくれよ?」

リューはぼくから手を離して頭を撫でた。それから門の方に近づく。そしたら牛は持ってた槍を倒して、門のドアの前にバツを作った。

牛は低い声で何か言った。あまりよくは聞こえなかったけど、通っちゃダメだぞーって言ってるのは何となくわかった。牛はぎりりと槍を握りしめて、リューを鋭い目で見る。怒ってるような感じがしてちょっと怖い。だけどそれより。

ぼくは興奮していた。だって牛がしゃべったのだ、すごいじゃないか!




確かに今までも街を歩いたりご飯食べたり遊んだりしているときも、すごい人はいた。羊みたいな角や犬みたいなしっぽが生えていたり、魚みたいなウロコがついていたり、イースみたいに目かいっぱいあったり。

でも目の前の牛は牛だった。被り物でもしてるみたいにそっくりだ。


手には指が5本あるから、人みたい。でも後ろにあるしっぽは上下に動くから、頭が作り物には見えないんだ。

ずっと見てたのに気づいたのかな。

右の人、牛がぼくをギロリと睨んだ。思わず肩が震えちゃったけど、あんまり怖くなかった。口元が笑ってるように見えるからかな?





リューがちらっとぼくを見て、また前を向いた。そのまま何か二人、じゃなくて二頭と話をする。なんかリュー、笑ってる?楽しそう。

すると牛は二人とも難しい顔をした(もう人でいいや)。ギリリと牛の手が槍をもっと強く握る。ふんすと鼻を鳴らしてるのがぼくにまで聞こえてきた。

それでもリューは二人と話す。

たまに二人がリューに怒ったけど、リューは気にしてない。すっとんきょうな声を出したり、面白そうにニヤニヤしてたりする。ピエロみたいだ。




どれくらい話してたんだろう。いきなり、リューがあきれたようにがっくりと肩を下げた。そのまま何か言い始めると、二人は幽霊を見たみたいにビクッとした。リューはゆっくり右の人に近づいて、耳元で何か囁いてる。そしたら右の人は顔を青くして、ぴんと背筋を伸ばした。

右の人は慌てて何か叫ぶ。タンッって音をたてて、槍をまっすぐに持ち直した。左の人も右の人の様子を見て、すぐに同じようにする。


リューがぼくのところに戻ってきた。

スッキリしたような顔してる。なんか嬉しそうだ。

「お待たせケビン。さ、行くぞ」

声を弾ませながらリューはぼくに手を伸ばす。つなぐと楽しそうに歩き始めた。

さっきの部屋の中にいるみたいに鼻歌を歌いそう。

それくらい嬉しそうなリューとぼくは、目の前のお屋敷に入った。







# # # #







その日、勉強の途中に司祭さまが一人の男の人を連れてきた。

司祭さまが紹介したガーネット=ブラウドって人は、ぽっこり出ていたお腹をさすってた。たれ目でニコニコ笑ってたから、ぼくは優しそうなおじさんだなって思った。

「商人のガーネットさんはお忙しい方ですが、今回もご厚意によって何人かお仕事の見学へ連れて行ってくれるそうです」

司祭さまはそう言ってぼくとあと2人の子供たちをガーネットさんの前に連れて行く。

お母さんを助けるために、ぼくもみんなみたいにやりたいって司祭さまに相談したこと、覚えててくれたんだ!一生懸命勉強がんばったからぼくは嬉しかった。誇らしかった。



「この子たちになります。お願いしますねガーネットさん」

「はい司祭さま、私めが責任もってお預かりいたします」

ガーネットさんはにっこり笑うと僕たちを外の馬車に案内してくれた。


みんなに見送られて出発してから、ぼくら3人はこれからどんなことが起きるか言い合いっこした。ガーネットさんはどんなものを売ったりするかって教えてくれなかったから、ぼくらで予想することにしたんだ。いっぱいフルーツとか売るのかな、でもそうしたら全部1人で食べたいなぁ、それじゃあ商売にならないよ。そんなことをずっと言ってた。楽しかった。ワクワクした。まるで本の中の勇者になった気分で、なんでもできそうな予感がした。


でも楽しかったときはこれで最後だった。




気がついたら目隠しされていた。

途中の森の中で悪い人に会って、ぼくたちは捕まった。ガーネットさんは最初に叫び声を上げて、動かなくなった。ぼくらがどうしていいかわからないでいるうちに、捕まって、眠って、起きたら布で目隠しされて、冷たいところにいた。手は後ろでまとめられていたけど、足は自由だったからいっぱいじたばたした。そしたら足が痛くなった。何か固いものでぶつけたらしい。すごい音がした。ゴーンって音がしたから、多分鉄だと思った。教会の鐘とおんなじ音だもん。


そしたら周りがざわざわし始めた。なんか慌てた人の声がしてた、お静かにとか。叫んでたんだ。

ちょっと待ってると、誰かが近づいてきた。

それからすぐに、布の上から強い光を感じた。

「大変お待たせ致しました!本日はお越しいただきありがとうございます!」

右の方で男の人が大きな声で叫んでる。

誰かの手が伸びてきてぼくの目隠しを取った。

「これからオークションを始めます!数点限りの厳選商品、どうぞお買い求めください!」




叫んでから男の人は木づちをカンカン打った。

その人はたれ目でお腹がぽっこりと飛び出ていた。

お客さんは沢山いた。若い女の人からおじいさんまでいっぱいいた。

とてもギラギラした目をしてる。その目は見たことがあった。

司祭さまがたまに買ってくるフルーツを孤児院のみんなが見てるときだ。自分が一番大きいところを、美味しいところを食べたくて狙ってるときにあんな目をしてた。

お客さんはみんなぼくを見てた。黒い檻の中にいるぼくを。


商品はぼくだった。







# # # #







門からお屋敷の中に入って。

ぼくはリューと手をつないで歩く。赤い木の板は踏むたびにきしきし音をたてた。周りの白い壁に赤い木の柱が埋まってる。ざらざらした壁をノックしてみると固かった。石かな?こんな大きくて白い石、初めて見た。すごいなぁ。


ちょっと先の曲がり角から、誰かがこっちに歩いてくる。リューは歩いてきた人(今度は馬だった)に話しかけた。それで少し話すとその人はおじぎをして右の通路に歩いていく。リューはうんうん頷いて何か呟いてる。よく聞こえなかったけど、ゆーのうって言ってたのはわかった。ゆーのうってなんだろう?




それからまた歩くと赤い木の板はなくなって、赤い車輪に雲がかかってるドアの前に来た。部屋の中は緑の床でいっぱいだ。取り外せるタイプみたいで、リューが真ん中の床を外すと階段が出てきた!

平べったくて丸い石が集まって、四角いかたまりになってた。降りてると、靴をはいているのに足の裏がひんやりとする。階段の終わりが暗くて見えない。周りには灯りがないからぼくは下を向いて降りる。灯りがないから見えないはずなのに、なんでかいつもみたいに降りれる。階段の場所が見えてるみたいだ。



すると下の方から白いもやが見えた。そしたらぶるって体が震えて、寒くなった。なんでだろう、ありふれてるもやのはずなのに、とても怖い。下に、あのもやのところへ行くのが怖い。ぼくは止まる。

「どうした、ケビン?」


リューも止まった。白いもやを指さすとあぁ、って言ってまばたきした。

「単なる霧だぜ。触っても体の調子が悪くなったりとかしないしな」

大丈夫大丈夫って言ってリューは笑った。

ぼくより1コ下に降りてたから、リューの顔が見やすい。にかっと笑う口から歯がちょっとだけ、白く光ってるように見えた気がした。


それからぼくの手が見えた。重なってリューの手も見える。

ずっとつないでる、って思ったらじんわりと体が温かくなってきた。お日様の光を浴びてるみたい。

そう思ったらいつの間にかあのもやが怖くなくなった。なんで怖かったのか不思議なくらいだ。ぼくは1コ下に降りると、リューは満足したように足を動かした。

リューは隣で前を向いて降りてた。

ゆっくり、ゆっくり、ぼくと一緒に1段ずつ降りる。






# # # #






さむい・・・さむいよ・・・

ぼくは小屋のすみっこでぶるぶる震える。外ではとっくに葉っぱが全部散ったのに、今ぼくは何も着てない。丸はだかだ。

この小屋にはぼく以外誰もいない。だけどすきま風がぼくを何度も引っぱたく。そのたんびに、背中やお腹、足、うでの傷がずきずき痛くなるんだ。身をちぢめるために抱きしめるけど、そうやって触っても涙が出るほど痛い。

暗くなってからはもっと寒くなってきた。


小屋には窓がなくって、麻袋やだんろに使うような木材が積まれてる。麻袋のそばでぼくは寄りかかって震えてた。横になると木の床が冷たくって、傷がずきずきしたからやめた。だけど、寄りかかる前よりか風があんまり当たらないから良かった。




あの後ぼくはアンダーウッド男爵に買われて、お屋敷で働くことになった。小間使いのしたっぱとして麻布の重たい袋を運んだり、廊下のそうじをしたり、お庭の草むしりをしたり。全部言われた通りにやっても、やり直しって、遅いって叱られてムチで体を打たれた。酷いとご飯を取り上げられた。


お腹の虫がゴロゴロ鳴く。しょうがないや。今日はぼくの手くらいの黒パンを朝に1つ食べただけだ。

孤児院では黒パン2つとスープが2回食べられたけど、お屋敷に来てからのご飯は黒パン1つ。

1日で黒パンを2つ食べれたら奇跡なくらい。したっぱだからもらえないんだ。


お給金はない。したっぱだからないんだって。

だけどドルマンさんは感謝しろって言われた。お前はまだ半人前以下なのに、ご主人様のご厚意で住まわせてやってるんだからって。




さっきぼくはドルマンさんに連れられて、お屋敷からちょっと離れた小屋に入った。ドルマンさんはぼくの背中を押すとすぐにドアを閉める。ガチャリって音が聞こえた。今日は朝までそこで大人しくしていろ、って早口で言ってからドルマンさんはいなくなった。ご飯もらえなかった。


「さむ、い・・・」

口に両手を当てて息をはいた。ムチに打たれたときやお皿洗いのときにできた赤く切れた傷がピリピリした。

「さ、むい・・・」

またうでをさすった。ケイトさんたちにけり飛ばされたときの青あざがズキズキいたい。



明日こそはちゃんとやろう。がんばればご飯食べれるし服も着れるしムチに打たれない。

それに半人前じゃなくなればお給金がもらえる。集めればお母さんを助けられる。

みんなも仲良くしてくれる。こんな罰も受けなくていい。

がんばろう。がんばればみんな、きっとぼくを。




「おい、本当にやるのかよ」

「んだよ、たりめーだろ?何のためにここまで来たと思ってんだバーカ」

いきなり外から聞こえてきた声にぼくはびくりと体を震わせた。2人分の男の人の声、知らない人の。お屋敷の人じゃないの?やるって何するの?

「ちゃんとあの陰険ハゲが言ってたろうが。聞いてなかったのかよ」

「いや聞いてたけどよ。だって中に子供いるのに、ここ燃やすんだろ?」



え?

燃やす?ここを?何それ、どういうこと?

あーあって別の男の人が言う。

「だからだよ。その子供が生きてると邪魔になるんだと」

「何だよそれ。ってか親兄弟に知られて、ヤードにでもバラされたらどうすんだよ」

「大丈夫だって、こいつ天涯孤独の身らしいし」

「てん、ってこいつ、ハゲが母親いるとか言ってなかったか?」

「はぁ?お前ホントに聞いてなかったのか?」




「そのハゲが母親は夏前に死んでたって言ってたろうよ」




お母さんが死んだ。

おかあさんがしんだ。

オカアサンガシンダ。

男の人のすっとんきょうな声が、ぼくの耳にずっと残って。

ぐるぐる、ぐるぐる、頭の中で言葉が回る。


「今お騒がせの殺人鬼にブチ殺されたんだろ?そこの地域の管轄司祭が言ってたらしいぜ」

「うわぁあのド変態に。それはそれは不運なことで」

殺人鬼に殺された。

え、でも、司祭さま、大丈夫だって。

今はお忙しいだけで春ごろには会えますよって。言ってたよ?

「そーゆーこったから、ハゲんちが変に勘ぐられないうちに処理するんだよ」

「しかし子供は子供で司祭に売られて、家畜以下の扱いされた上に焼死かぁ」



売った?

司祭さまが?

あのちょっとのんびりしてて親切な司祭さまが、ぼくを私の大切な家族ですって言ってくれた司祭さまが?

ぼくを、売った?

え、でも、でも。ぼくを売ったのは司祭さまじゃなくてあのおじさんでだけどあのおじさんって司祭さまのお友達でだけどおじさんは悪い人に倒されててだけどおじさんはあのとき木づちを打ってて。

何、何が、どうなって?



男の人は続ける。

「まぁだから、ある意味こりゃあ救済なんだよ。だってお母様のところへ行かせてあげられるんだぜ?」

「だったら自分でやりゃあいいのに、あんなにこき使ってたんだから」

「サドなハゲのことなんて知るかよ。面倒だから俺たちにやらせんだろ」

まぁ顔見れないのは救いだな、ってほっとしたように言って男の人は話すのをやめた。

シュッシュッって言って、ボゥと何かが音を出した。正体はすぐにわかった。

「うわっ、わわ!」



目の前に真っ赤で大きな炎が飛び出してきたから!


「た、助けて!開けて!」

ぼくは一生懸命壁を叩く。返事はなかった。でも叩いて叫んだ。

その間にもドアの近くから始まったそれは麻袋に飛び移って、一気に部屋中へ広がる。麻袋から出てきたけむりを思いっきり吸っちゃって、ぼくはせき込んだ。せき込むとケイトさんたちにけられたお腹がギシギシ痛んだ。


叫ぶのをやめて、まだ火が来てない木材の山へ寄りかかる。けむりで目がかすむ。ぼんやりと赤が近づくのが見えた。

死ぬんだなってなんとなく思った。

とっくに寒くなんてなくなってて、暑くて熱くて動けなかった。なのにぼくの頭は氷を飲み込んだみたいに冷たくて、息をするみたいに当たり前のことだって感じた。


だって、そうでしょう?

みんなにも役立たずの穀潰しだっていつも言われる。

毎日、毎日罰を受けてる。

ぼくはしたっぱだから、がんばんなきゃいけないのに、できなかったんだもん。しょうがないよ。

ねぇ。



――本当に?


ぼくはがんばったよ。

ドルマンさんやケイトさんたちに髪を引っ張られて投げられても、失敗して怒鳴られたり笑われたりしても、いっぱいムチで叩かれても、夜にお家の中に入れてくれなくても、お水の中に頭を入れられても、トイレから朝まで出られなくても。ぼくはお屋敷の人の言うことを聞いてお仕事した。

がんばってお仕事した。

お仕事した、お仕事したんだよ?

ねぇ。



今日はぼくが掃除したところに大きなゴミが落ちていて、ご主人様がつまづきそうになったんだって。

ドルマンさんにお前の所為だから反省しろって言われた。

服を取られて、いっぱいムチを打たれた。

でもぼく、やり直しって言われたから何回もそうじしたよ。ぼくがそうじしたときは何もなかったよ。ピカピカでホコリなんて落ちてない、キレイな床にできたんだよ。ケイトさんも次やって良いって言ってくれてたよ。

だけどドルマンさんは今日も聞いてくれなくて。口答えするなちゃんとやれって、いつもより多くムチを打った。

ねぇ。



ぼく、ちゃんとやってるよね?

だって別の人よりいっぱい仕事してるよ?

ぼくがやったとこ、他の人より上手にできてるよ?

なのにぼくは半人前以下でがんばってないから、服を取られてご飯を食べれなくて殴られて蹴られて叩かれて嗤われて怒られているの?


でもぼくはがんばってるよ?

いたいことされても泣かないし、ご飯も服も取られても文句言わないし、怒られたらすぐにごめんなさいって言うし。

すごく、すっごくがんばってるよ?

がんばってる。がんばってる、けど。

ねぇ。




じゃあなんでぼくはここにいるの?




どこか遠くで名前を呼ばれた気がした。後ろを振り返れば、ガラガラと赤に包まれた木材がいっぱい、ぼくの顔の前まで落ちてきてるところで。

絵の具をぶちまけたように目の前が赤くなって。




これより後は覚えてない。

次回更新は6月18日20時です。

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