-ある少年の回顧録1-
【警告】
暴力、虐待描写があります。
シリアスです。
途中途中で回想があります。
5000字超えました。
苦手な方はこの話読まないことを強くおすすめします。
※時系列としては9の直後から10の*の区切りがあるところまでです。
やめて。
あついよ、さむいよ、おなかすいたよ。
たたかないで、けらないで、くるしいよ、いたいよ。
やめて、やめて。
やめて。
# # # #
「ケビン、またな!」
「バイバ、イ」
手をふってイースは家の中に入っていく。
イースは最初にぼくと勝負してくれた男の子で、すごく強かった。顔に目が3つあったのはびっくりしたけど、明るくてすごく親切だった。
「はい、これを一応今日から3日間だけ。出来れば家の中心に飾っていただけると嬉しいです」
「あの子を送って頂いたり、こんなたいそうなものを下さったり。何から何まですみませんねぇ」
ぼくの右手をつないでリューが、イースのお母さんと何か話している。さっきからずっと、何を話しているかはわからないけど、リューが違う人みたいだなぁと思う。ていねいだし、自分のことを『私』って言ってるし。変な感じがする。
「いえ、むしろご子息を巻き込んでしまったのは私ですからお気になさらないで下さい。お手数かけさせることになるため、大変恐縮致しますが何卒お願い致します」
そう言ってリューはイースのお母さんにおじぎをした。
「ちょっ、ちょっと顔を上げなよお兄さん!大丈夫だって、あたしたちは感謝してんだから。あの子だってすごく楽しそうに帰って来たんだし!」
イースのお母さんはリューの背中をバンバン叩く。
ちょっとリューが痛そうだけど、いやな顔はしてない。なら良いことなんだなぁ。違うならさっきみたいに、リューが何か言うもんね。
「ちゃんと飾るよ。部屋の真ん中の柱の、一番見える場所にね!」
「はい、ありがとうございます!」
「いいのいいの、本当に良く出来た兄ちゃんだね。その年でこんなに出来る子はいないよ、若いのにすごいねぇ」
「ふふ、ありがとうございます。素敵な奥様にお褒め頂き光栄です」
「あらやだお上手ね」
そうやってイースのお母さんとリューはニコニコと笑った。なんか楽しそうだったからぼくも笑うと、リューは嬉しそうにぼくの頭をなでた。
「では私たちはこれで失礼致します。本日はありがとうございました」
「あぁ、お兄さんもケビン坊やも気をつけて帰りなさいね」
「はい。行くぞ、ケビン」
「うん」
そう言うとリューはぼくの手を繋いで、家の外へ出た。
パタンとイースのお母さんがドアを閉める音がする。するとリューは歩くのをやめて、イースの家の方に振り返った。上着のポケットから長くて薄い紙を出して、壁に貼るみたいに顔の前に出した。そしたら、紙は溶けるように消えちゃった。
これをずっとリューはみんなの家の前でやってた。
始めはなんで紙が消えちゃったのか不思議で不思議で、リューに聞いた。でもリューはそのたんびにぼくに笑ってこう言った。
ちょっとしたおまじないさって。
どんなおまじないか聞いてもニシシって笑うだけで答えてくれない。人差し指を口の近くに当てて、静かにっていうポーズをする。リューはいじわるだ。
「よし、全部終わった。待たせたなケビン」
パンパンと手をたたいて、リューは満足そうに言った。
僕は首を振って大丈夫だよって言う。
そしたらリューはそっか、って言って頭を撫でた。
# # # #
今日は四角くて長い木の棒だった。
ごすっごすっと何度も何度もぼくの背中を打つ。最初のときはなんだかよくわからなくて、地面に倒れて、横になって、いっぱい吐いた。でもそしたら足でお腹をいっぱいけられた。いたかった。
今は倒れないようにしてるから、最初のときよりはまだ楽だ。でもホントに最初のときは、手のひらでほっぺをたたかれるだけだったかも。もう覚えてないけど。
「あんたの所為であんたがいるから私はあんたなんてあんたなんて、そもそもなんであの人じゃなくてあんたがいるのなんであの人がいないの」
叫ぶようにぼくはその人に叩かれる。目がちかちかする。背中もじんじんして、足には力が入らなくなってきた。あぁ、今日はもうダメかも。
自分でものんきだなぁって思いながらぼくの頭は地面についた。目の前が霞んでる。まぶたも落ちてきた。だんだん黒しか見えなくなる。
完全に目が閉じる前、ぼくを叩く人が見えた。
何でかな、怒っているはずなのにすごく悲しそう。たたいているのに、悪口を叫んでいるのに、みんな自分に返ってきてるみたいにぼろぼろ泣いてる。とてもかわいそうな人。あぁ、この人は。
ぼくのお母さん。
# # # #
今ぼくはすっごく間抜けな顔をしてると思う。
『がらす』っていう特別な窓に顔をはりつけてぼくは外を見ていた。
外には黒いところにお星さまがぽつぽつとあったり、いっぱい集まったりしている。三角にとんがったり、四角く平べったかったり色んなのがあった。すごくきれいだ。でもあれはお星さまなんかじゃない。
家だ。
ぼくたちは今、空の上を飛んでいる!
「おいおいケビン、そんなに近づけたら顔がつぶれちまうぜ?」
それでもぼくが外を見ていると、隣に座るリューはふふんと笑う。
ぽんぽん頭を優しく叩いて、リューはいった。
「ケビンくんちゃんと座んなさーい。危ないし」
「だって」
「だってじゃありませーん。乗車中はお行儀良く、これ鉄板な?」
リューがぼくを窓から引き寄せた。お手本みたいな形にすると、ぼくの座るところの右側にあるくぼみから、薄くて平べったい布みたいなものを引っ張り出した。シュルシュル言わせながら左側に持ってくると、別の四角の中に先っぽを入れた。カチッと音を立てるとリューは手を離す。チャンスだ!
そう思って立とうとしたのにぼくの体は動かない。
トリモチにくっついたみたいに上手く動けないんだ。
リューを少しにらんでみると、いたずらが成功したように笑ってぼくのおでこをつついた。
「シートベルトには勝てないぜ。文明の利器さ、すごいだろー?」
「外、して?」
「ダーメ。列車は緊急停車のためいきなり揺れることがあるんです、そのままでも見れるし危ないから外さない」
「おねが、い」
首をひねってお願いしたらかわいくお願いしてもだめです、と胸の前でリューはバッテンを作った。むぅ。リスみたいに膨れると、リューはうしししと笑ってほっぺをつんつんする。それからさっさと前を向くと鼻歌を歌い始めた。
リューのいじわる。
でも、外せないならしょーがないか。動きづらいけど苦しくはないもんね。
さっきみたいに外を見るのは諦めて、ぼくは2人だけしかいない部屋の中を見る。
カタンカタンと音がする以外は森の中みたいに静かな部屋で、リューとぼくはベンチに座っていた。
ベンチは前に7つ後ろに2つあって、2人くらい通れそうな道の挟んで同じように続いていた。銀色でキラキラしていて、でもちょっとくもってる不思議なベンチ。
そのまま言ったらまぁアルミニウムだしってリューは呟いた。『あるみにうむ』って銀の仲間なんだって、聞いたことないや。でもさわってみると、ひんやりしていて気持ちよかった。
ベンチには背中とおしりのところに赤いクッションもぬいついている。すごくフカフカでソファみたい。すごいなぁ。
なんて思っているといきなり、部屋の前から音楽が流れた。
バイオリンでもラッパでもない音で、軽く優しくぼくとリューしかいない部屋に流れる。でもすぐに曲は止まって、次には男の人の声が前から流れてきたんだ!
「ご乗車ありがとうございました。次は終点、【閻魔門前】、【閻魔門前】でございます。お出口は左側に。【閻魔街】や【閻転庁】は右側、【中央獄卒庁】は左側からお進みください」
なんかくぐもった声でえんえんと同じ言葉が聞こえてくる。
意味もあんまりわかんない。
でもリューはこの声を聞いた途端に、すっと目つきが鋭くなった。いつの間にか鼻歌も歌ってない。どうしたんだろう。
リューに何か聞いてみようと声を出そうとしたら同時にリューがこっちを向いた。それでなんでもないぜ、気にすんなって言って笑った。つい頷いちゃったけど、ぼくはびっくりした。リューってすごいなぁ、まるで心を読んでるみたいだ。
ぷしゅうと音を立てて、部屋が少し揺れる。
窓の外を見ると景色が変わらなくなっていた。
リューがぼくの右側の四角の中からあの薄くて平べったいものを取り出して、左側へ戻した。ってことはもう動けるぞ!やった!
すぐにぼくは立ち上がる。リューはびっくりした顔をしたけど、すぐに笑うとぼくの前に右手を出した。ぼくは首を縦に振ってリューの手を握った。
# # # #
鐘の音が聞こえる。すごく大きな音。
外の高いところにあるはずなのに、部屋の中で鳴ってるみたい。
部屋の、教会の中は川の中みたいに静かだった。
午後の礼拝も終わってるし、みんな帰っちゃったんだ。さっきまでいた近所のおばあちゃんが帰ってからはぼくしかいない。
ぼくが木のベンチに座ってると、後ろからコツコツ足音が聞こえてきた。
「おぉ、ケビンくんではありませんか」
「司祭、さま」
歩いてきたのはニコール司祭さまだった。
ぼくが振り返ると司祭さまはふんわりと笑う。オレンジの光が司祭さまを明るくする。そのまま近づいてぼくの隣に座った。
「もう礼拝は終わりですが、まだ帰らないのですか?」
「うん」
「そうですか。でもそろそろ帰らないとお家の方が心配」
しますよって言いながら司祭さまはぼくの方を向いた。
そしたら司祭さまはギョッとして体を震わせる。
司祭さまがぼくの名前を呼んだ。
「これは、一体、何が?何があったのですか!?」
その声はかすれてた。
いきなりどうしたんだろうな、司祭さま。ぼくは首をちょっとだけ横にした。
すると怒るみたいに司祭さまは言った。
「その怪我です!どうして、どうしてそんなに傷だらけなんですか!?」
叫ぶみたいに言ってからぼくの肩を思いっきりつかんだ。とたんに頭へ刺されるような痛みがぼくの肩から感じて、ぼくはぎゅっと目をつむる。司祭さまはハッとしたように手を引っ込めた。司祭さまはぼくの顔をのぞき込む。
「転び、ました」
「どこでですか?」
「お家、の近く、です」
そんなわけありませんって司祭さまは強く首を振った。
「貴方の家の周りにはそんな重症を、大きな怪我をしてしまうような場所はありません。喧嘩、にしては質が悪すぎる。親御さんは一体何を」
途中で言葉を切って司祭さまはまさかと呟いた。
気づくとぼくは足を見ていた。
太ももにもひざにも黒くて大きい模様がいっぱいあった。それは太ももの上でズボンをにぎってる、ぼくの手やうでにも同じくらいあった。
「ケビンくん、もしかして貴方」
「違い、ます」
「ですが、その人がそうする以外はもう」
「違、います」
「正直に答えてください。ケビンくん、貴方親御さんから殴られて」
「違う!」
ぼくは叫んでいた。いきおいよく立ち上がる。司祭さまが息を飲んだ。
「ほんとに、お家、の近く、で転ん、だんです。ぼくが、ぼんやり、してた、から」
「ケビンくん」
「お母、さんは、そんな、こと、しませ、ん。お母さ、んは優し、くてあたた、かくて。ぼくは、とてもお、母さんが、だいすき、です!」
そう言ってぼくは教会から出た。
後ろで司祭さまがぼくを呼ぶ。でもぼくは走った。
転びそうになってぼくはよろめく。がんばってふんばると、つき指したようにズキンと体が痛くなった。あまりの痛さにぼくは走るのをやめる。歩くとだんだんズキズキは無くなっていった。でも胸の奥はまだ痛かった。
空を見た。丁度向こうの山に太陽が隠れそうなところだった。
ぼくにはそのマルがゆれて見えた。
# # # #
とてもにぎやかな場所を歩いてる。
赤いカンテラみたいなものが上にいっぱいつながって、風が吹くと揺れてた。真ん中には黒い文字がマルで囲まれていて、上手く読めないけどかっこよかった。歩いている人たち、中には人じゃなさそうな人もいたけどみんな白いお面をかぶっていた。リューとぼくはつけてない。あれで前が見えるのかな?
それとさっきから、聞いたことのない笛の音がずっと聞こえる。すごく楽しそうでぼくは踊りたくなったけど、やらないことにした。それよりもリューと一緒に手をつないで歩いてたいって思ったんだ。
リューはあの部屋から出て最初のうちは大丈夫か、とか疲れてないかとか聞いたけど、今は言わなくなった。むしろ何も言わない。ちらっと見上げてみたら、なんだか難しそうな顔でずっと前を見つめてるんだよね。どうしたんだろう?
するとリューがぼくを見た。
「どうしたケビン、疲れたのか?」
首を横に振るとそっか、って言ってリューはまた前を向く。
なんだか元気がなさそうだ。
リューの顔を見ていたら、頭の中の一番星が光った。
もしかして、リューこそ疲れてるのかも!大丈夫なのかな?
「リュー、は?」
「ん、俺?」
リューは目をまんまるにして、リューの顔を指さした。それからプッと吹き出す。
「いや疲れてなんかないぜ?全然平気、むしろ元気100倍ってところだ」
ふふんとちょっぴり胸を張ってリューは言った。
でも、余裕余裕って言ってるのに、リューの顔はそんな風に見えないんだ。
なんかほんの少しだけ、悲しそうに見えるんだ。どうして?
ぼくが不思議に思ってるとリューはつないだ手を離して、うりゃうりゃとぼくの頭をなで回した。
「もうすぐで目的のとこには着くからな、あと少しの辛抱だぞー?」
言ってからもぼくの頭をリューは撫でる。リューが満足して撫でるのをやめたときは、ぼくの頭はぼさぼさで前が見えづらくなってた。なんてことをしたんだ、って思いながらリューを見ると歯を見せながら楽しそうに笑ってる。あんまりにも楽しそうだから、ぼくは怒るのはやめた。伸ばされてた手をまたつかんで、つないでいない方の手でゆっくり整える。
やっと頭を元に戻し終わったとき。リューはゆっくりと立ち止まった。
ぼくも止まる。
大きなお屋敷があった。
# # # #
今日もお母さんはぼくを叩く。
今日は何も持たないでパーでぼくのほっぺを叩く。
「なんでなんで私はちゃんとやってるのにみんなみんな私をいじめるの見てくれないの」
叫びながら、怖い顔で怒りながらお母さんはぼくの目元を叩く。
ぼくより小さい子みたいに、だだっ子みたいに泣きながらお母さんはぼくの頭を叩く。
「どうしてどうしてなのよなんでこんな目にあわなきゃならないのなんで私ばっかりこんなことになんでなのよ!」
バシンって音がした。目の前にお星さまがちらちら光ってる。
それからどこも叩かれなかった。
だけど、いつもみたいにお母さんが抱きしめてくれるみたいな感じもしない。なんだろう、どうしたんだろう。ぼくはお母さんを見る。
お母さんがぼくをまっすぐ見ていた。ぼんやりした顔をしてる。
「何よ、その目」
かすれた声でお母さんは言う。目?目がどうしたの、お母さん?
よくわからなくてお母さんを見てると、お母さんは怒った顔をした。
「なんで、なんで私をそんな目で見るの。私が全部、全ッッッ部悪いみたいに、なんで、なんで貴方まで、そんな目で私を見るのッ!」
お母さんは叫んだ。
ぼくの肩を思いっきりつかんで、顔をしわくちゃにして叫んだ。
ぼくの目がいっぱいに開いた。心がミシミシと音をたてる。
違うよ。
ぼくはお母さんが悪い人なんて思ってないよ!
言いたかったのに言葉は出ない。あぁとかうぅとか変な声しか出ない。
「貴方だけは私の味方でいてくれてたと思ってたのに、貴方は私を好きでいてくれてると思ってたのに」
お母さんはうでを上げた。
違うよ、ぼくはお母さんが好きだよ。ずっとずっと大好きだよ!
やっぱり言葉は出なかった。嫌だ、どうして?なんで出ないの!
お母さんはまた泣いている。どこか上の空で涙だけ流している。
お母さん。
嫌だ、嫌だよ。
泣かないで、そんな悲しい顔しないで。
ぼく、お母さんがずっとがんばってるの知ってるよ。お父さんがいなくなって、お母さんがお日様が出る前からお月様が出てくるまでずっと外でお仕事してること。体が良くないのに、ゴホゴホ咳してるのにおいしいご飯作ってくれること。一緒のお布団で、ぼくが寝るまで歌を歌ってくれること。
「こんなことになるなら、死んでしまえばよかった、あの人の後を追ってすぐに死ねば良かった」
「貴方なんて、生まなきゃ良かった!」
アナタナンテウマナキャヨカッタ。
どうしてか、今のお母さんの声がすごく遠く聞こえた。
ぼくは凍りついたみたいに動けなくなった。お母さんのうでがいきおいよく向かってくる、もうすぐでぼくの頭に――。
「もうやめましょう、ノエルさん。これ以上は見過ごせません」
来なかった。
男の人の声が聞こえる。お母さんは後ろを振り返ってた。
白い服に、十字架のペンダントをかけてその人はお母さんのうでをつかんでいる。
「こんばんは、ケビンくん。今夜は教会の孤児院にお泊まりしよう」
お月さまの光を浴びて、ニコール司祭さまがふにゃりと笑った。
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次回更新は6月13日20時です。




