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嘘じゃない本当の後日談  作者: シヲンヌ
本編
17/22

17

大変遅くなって申し訳ありません。

不用意に長くなったので分けました。

本日は2話投稿につき、20時に投稿の予約を入れました。

俺は財務局や人事局の文官に、半ば押しつけるような形で報告書などの書類を提出してまわった。その後はとっとと城下へ外出して、今は領内を歩いている。

書斎から離れたとき。デュークの減給通知にビビったような悲鳴が聞こえた、ような気がしないでもない。だがデュークのことなら大丈夫だ。

そもそもデュークに渡したものは減給通知ではない。実際に書類には減給通知と印刷したから、減給通知だと考えたと思う。しかしそれは誤解だ。

なぜならあの書類。増給、謂わば臨時収入(ボーナス)通知だから。




先程言ったように、『減給』と印刷したのは確かだ。

しかしその印刷には少し仕掛けを凝らしてある。

それは、『当事者に渡されてからきっかり5分後に文字が変化する』といったギミック。

つまりデュークが受け取って5分後に、減給の『減』が増給の『増』に変わる。

少し形容しがたいけど、要は魔法だ。中々ファンキーなファンタジックだろ?


ただ、この遊びは身内とデューク以外にはできないけどな。

それ以外の相手にやらかせば勘違いによって友情や信頼が破壊され、険悪な関係になる未来しか見えない。【目】を使っても多分同じ光景しか見えない、絶対にだ。

デュークにこのギミックをする理由は、いくつかある。特に大きな理由はこの魔法を仕掛けるのが初めてではないことと、親友同士なこと、それとやりたい気分だったことの3点だ。



経験と間柄に胡座をかいている。

なんて指摘されたらぐうの音も出ない。でもデュークも結局笑って許してくれるから、やっぱり俺は甘えてしまうのだ。それくらい信頼してるって現れがこのギミックで、それをあいつもわかっているから良い。

親友同士のコミュニケーションというものさ。



さて。

報告書に思いをはせていると、目的の場所についた。そこは塀に囲まれた簡素な建物で、小さな子供の笑い声が響いている。ここは俺の管轄内の孤児院だ。

実は俺。ただぶらぶらと、当てもなく歩いていたわけではない。ちゃんと行き先があって、そこを目指して移動していたのだ。もっとも、俺は散歩がてら行くことだって、ある。否定はしない。それはそれ、これはこれ。


いずれにせよ目的地に着いた俺は、塀の影からそっと中の様子を観察した。

そこでは多彩な種族の子供が楽しく遊んでいた。ごっこ遊びや鬼ごっこ、木登りなど色々な遊びを人種、種族問わずに元気で仲良く遊ぶ子供たちがいた。表情を見ると非常にありのままで行動していることがわかるし、服も清潔だ。血色も良さそうで、ちゃんと栄養も行き届いていることが理解できる。良かった。




「龍禅さん」

振り返るとディアンドル姿の女性が俺の後ろにいた。

俺はにこやかに挨拶する。

「婦人、今お帰りみたいだな。息災で何よりだ」

「はい。買い出しで外出しておりました、お出迎えできず申し訳ありません」

「あ、良いんだ。お忍び状態だし。楽にしてくれよ」

手をヒラヒラさせると婦人、ミーチェル=キュレットは静かに一礼した。


俺は世間話ができるくらいの距離まで、婦人に歩み寄る。

「施設の人員は足りてるか?この前の増員蹴ってたみたいだけど」

「はい。みんなとても良い子たちなので、あまり手が掛からないんですよ。少し物足りなさを感じるくらいです」

「そっか、それなら良かった」

婦人は穏やかに笑った。すぐ後にきゃあきゃあと塀の中で元気な声が聞こえてくる。俺は綺麗に保たれている施設内を一瞥して、頷いた。本当に必要がなかったから断った、それだけのようだ。



数日前、国全体の孤児院への人員増加策が議会で承認された。

孤児院は元々、人事不足が問題視されている。だから国中の孤児院は補助金を利用して人員を増加したのだ。しかし、この政策をここだけは辞退していた。だから、少し気になっていたんだ。

理由は俺の管轄施設だからというのが大きい。だけど目の前のキュレット婦人を筆頭にした孤児院の従業員や子供たちは既知の間柄だからというのが、一番の理由だ。第三者の視点から鑑みても、人員増加を唯一断ったのは何故か、何か断るべき要因があるなら知っておきたいと考えるのは、自然だろう。

とりあえず大丈夫なら良い。安心した。


だとすれば、残る懸念材料は1つだけ。




俺は口を開く。

「あのさ、婦人。最近急に子供を1人任せちまっただろ?そいつどう?」

「子供と言いますと、あぁ。クエバス君ですね。まだ8歳なのに、非常に大人びていて面倒見が良い子ですよ」

少しの間を経て、婦人は柔らかく微笑んだ。


あのおっさんとの邂逅後。俺は放心状態のクエバスを連れて帰宅した。

そしてクエバスの父親を初めとしたアルキスト族を全員捕縛した。理由?おっさんの話と当時発動させていた【目】の情報から、きな臭かったからな。それだけ。

でもまさか本当に、この国を攻め落とす準備をしていたとは思わなかった。

検挙する気は無かったけど、手筈を整えていて正解だったと思う。実際に聴取すれば、捕らえたアルキスト族は選民思想が天元突破してるような奴らだったし、クエバスの父親に関しては坊主を完全に出来の悪い捨て駒扱いだった。だから、速やかに奴隷以外の一族郎党を屠殺(しょけい)させた。全く悔いが無い。



それでクエバスだが。

坊主は奇跡的に、クソみたいな一族の考え方が浸透してなかった。もっとも選民思想はあったけど、あんな程度なら貴族は大抵持ってる。矯正は可能だと思ったので、あのクソ一族を処刑しきるまでデュークに預けてから、この施設に託した。前触れはほとんど無かったから、快く対応してくれた婦人を筆頭にしたここの職員たちには頭が上がらない。

とは言えども、確実に、坊主の置かれた状況は激しく変化した。

坊主だけではなく他の子供にも言えることだが、急すぎる変化は子供の発育、特に精神面の発育に悪影響を及ぼすことがある。もちろん婦人やこの施設の子供たちが善者なのは俺も知っている。だけどそのことが必ずしも、悪影響を食い止められるとは確約できない。非常に難解な問題だが、事実だからこそ俺は気がかりだった。


坊主はちゃんとこの場所に馴染めているのか。

もっと核心染みたことを聞こうとした、そのときだった。




「う、う゛ぁああああん」

子どもの泣き声に、塀の方角へ振り向いた。何があったんだ?

門の柱の陰からそっと中を覗く。敷地の中ではグランドらしき場所で、4歳くらいの男の子が座り込んでいた。ぐしゃぐしゃに顔を歪ませて、大粒の涙を流している。よく見ると膝から赤い液体が滲んでいた。

「ありゃあ転んだな」

「そのようですね」


一緒になって覗いていた婦人と顔を合わせ、頷いた。そして傷口に視線を戻す。

血の流れは緩やかだった。もう止まりかけている。

傷も浅い。どうやら擦っただけらしい、陥没していないのがわかる。本当に表面を擦っただけの、軽い傷。これさ、見た目で感じる印象より痛いんだから、生物って不思議だよな。



改めて俺は件(くだん)の男子を見た。そのまま腕を胸の前で組む。

この子、確かリイドだったっけ。泣き止む様子も、立ち上がる様子も無い。

いくら擦り傷とはいえど、放置するのは良くないし。特にあれくらい小さな子どもだと、膿んでしまえば重症になりかねない。心配だ。

さっさと傷口を洗い流すなり施設の中に駆け込むなりして欲しい。

何となく婦人を見ると、眉を下げて彼女は微笑んだ。

「あの子は甘えん坊なところがあるので、よくあるんです」

「ワガママ言って甘えたい盛りだもんなぁ、4、5歳ってさ」



長めに息をついて、俺は口を開く。

「俺が何とかする。婦人は荷物でも置いて行ってこいよ」

「良いのですか?」

頓狂な声を上げた婦人に、俺は顔の前で手を振る。

「いーよ、婦人は買い物帰りだろ。むしろ俺こそ関わって良いのか?」

「ええ、子どもたちも喜ぶと思いますよ」

「じゃあ遠慮なく」

改めてリイドの方向へ顔を向けた時だった。




少年がいた。

黒い翼を器用に畳ませて、腕組みをしている。

黄色の嘴が太陽の光に反射して鈍く光り、仁王立ちの迫力を増していた。

少年、クエバスの凶相はリイドの膝を捕らえると、困惑に変わった。

「また転んだのかお前は」

リイドは泣き止まない。

クエバスが現れる前と変わらない様子でしゃくり上げている。

リイドが頷くのを確認したクエバスは、やれやれと言いたげに首を振る。

そして、リイドへ背を向け、腰を下ろした。

「ほら、背に乗れ。家まで運んでやる」


初めてリイドが愚図るのを止めた。

リイドはあんぐりと口を開けて、クエバスを見る。クエバスは視線だけ動かすと、座り込んだままのリイドへ促した。

「何してるんだ。手当てをせねばだめだろう、乗れ」

「いいの?」

「なら自分で戻るか?」

クエバスは立つと、嘴を施設へ向ける。リイドは首を横に振った。

リイドの視線がもう一度自分を捉えたのを見て、クエバスはまたしゃがみ込んだ。

緩慢でも確実に、リイドの両腕が自分の肩へかかったことを確認すると、クエバスは静かに立つ。そしてゆったりと施設へ足を出した。



「わぁ、鳥のにぃちゃんどうしたのー?」

「リイドどうしたのー?」

クエバスが建物へ近づくにつれ、施設の子供たちが歩み寄る。

子どもたちはリイドを覗いて、口々にクエバスに話しかけた。

クエバスはクエバスで、子どもたち1人1人へ聞こえるように語る。

「これはだな、こいつが転んで怪我をしたのに全く何もしようとしないからな。仕方ないから俺が運んでやろうと、ってこら、俺の羽根をもごうとするな!あとお前、外で落ちた羽根は拾わんでいい、風が運んで、えっ綺麗だから拾いたい?む、むぅ。なら仕方ない、ちゃんと洗ってから部屋に持っていくんだぞ。って、だから押すんじゃないッ!こいつが落ちてしまうだろ!」

ただ子どもたちは話をきちんと聞かずに、クエバスにじゃれつく。

伴って、クエバスの施設へ進む速度は格段に落ちていた。


「やったぁ!ありがとクエバスにぃちゃん」

「ねぇ次はわたしもおんぶー!」

「あぁもう!お前たち、一度離れろッッ!!」

笑顔の子供たちによって揉みくちゃにされたクエバスは吠える。

それでも吐かれた言葉に反して、声色は非常に上擦って聞こえた。





俺は施設の敷地に背を向ける。

「お帰りですか?」

キュレット婦人を見て、俺は短く返事をした。

「聞きたいことが見れたからな。また来るぜ施設長」

「施設一同、お待ちしております」

婦人が低頭する横を通る。


「本当に、ありがとうな」

すれちがいざまに心の声が漏れる。言葉はただの独り言で、微かに空気を振るわせるくらい小さなものだった。だけど、直後にキュレット婦人が慈しむように微笑んだのは、何となくわかった。











次回「いい最終回だった」

リュー「よい子は今回俺のやったいたずらを実行するなよ?間違いなく友情壊れるから」

デューク「いやまず魔法とか使えないと思うんだが、あっマジックの応用でできそう?そうなんだ」

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