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妙に長くなったので、キリの良いところ分割しました。
カリカリと、ペンの走る音が部屋に響く。
手元を照らす陽光がペンの金属部分を淡く反射していた。
ペースを落とさず、そのまま自分の名前を署名する。
ペンを置いた手で右側に置いてある認印を取ろうとして、空振った。不思議に思って、認印があるはずの場所へ視線を移す。認印は跡形もなかった。
俺は唸った。席から立つ。
「っかしいなぁ。何処行ったんだ?」
俺は周囲をぐるりと見渡す。認印らしきものは見えない。
続いて机の上を探す。インクとペンと書類の束以外に見えるものがない。
おかしいな。さっきまで使ってたから、片付けてないはずなんだが。
机の引き出し類を開けても、やっぱり目的のものはなかった。そのまま椅子を後ろへ除ける。机の下へ身をかがめて、目を皿にして探す。
認印って言っても、先程まで使っていたのはまぁまぁ大きいサイズだ。
厚さは5cm、直径10cmくらいの円形で判子に近い形状をしている。握りこぶしを思い浮かべてもらえば、想像できるか?朱肉の上に載せて、色をつけてから押すのだ。なお朱肉はちゃんと机の上にある。
丸っこいので机の上からすっとんとんと落ちてもおかしくない。とはいえ普通の認印に比べれば段違いで大きいから、すぐ見つけやすい。見つけやすいと思っていたんだけど、なぁ。
眉間に皺が寄る。ここにもない。息を吐くと大きなため息になった。
本気で何処へ行ったんだろう。
紛失したらヤバいんだよな、俺の名前って少ないし。
ついでに俺はそれなりに偉い立場にいるので、悪用されると事後処理が面倒だ。
書類とかを止めること事態は簡単である。だけど動いた人材とか物事を収束させるのは、中々大変だろ?止める頃には色んな奴が関わっているだろうし。
本格的に探そうと机の下から出て、立とうとしたとき。
パサリと何か薄っぺらいもので乱雑に頭が触れられた。なんだなんだ。
見るとそれは書類の束だった。だが書いてあった文字は俺のものではない。
勿論名前も。
俺は書類を持っている存在を見る。
俺が存在を認知したのを確認すると、そいつはおおらかな声で挨拶した。
「提出しに来たぞ」
「どうも。じゃあどけてくれ、デューク」
そう返すとデューク=アブラヒムこと、デュークは笑って書類を手元に戻す。
ウインクする脳天気さに恨めしくなり、俺は親友をじとりと見た。
「ふーん、良いんじゃね?じゃあ押しとくわ」
「ありがとうございまーす」
デュークから書類を受け取り、さっと確認して認印を押した。
デュークは満面の笑みを浮かべる。
認印はデュークが持っていた。正確には拾ってくれていた。なんでも俺の書斎のある廊下の隅に落ちていたらしい。確かに探していたとき、書斎のドアは全開だった。机の上から落ちたという俺の予想は当たっていたわけだ。
部屋の換気にとドアを開けていたのが災いした。
でも拾ってくれたのがデュークで良かったと思う。俺の親友は何やってんだよと笑っても、不正に利用しようとなんて絶対にしないからだ。
今?ドアはびっちりと閉めてある。だってもう換気は十分だろ。
「そういえば、またお前なんか拾ったんだって?」
天気の話をするかのようにデュークが話題をもたらす。
ドアから意識が戻り、俺は親友を見た。
「何かって、何だ?」
「えー?自分で連れてきといてそれかよ反応」
やれやれと肩をすくめる親友を無視して、俺は考えた。
連れてきといて、と言われても困る。
思い当たる事象が多すぎて、親友の指す対象が特定できない。一体どれのことだ?
とりあえず全部言ってみるか。
「んー、それってぽっと出の生意気な鳥共を一斉検挙且つ一斉屠殺したこと?それとも鳥共が不正に所持してた奴隷を連れてきて、疑似ハローワーク開いて希望のところへ就職させたこと?それとも」
「小さい鷹の坊主を連れてきたことです龍禅サン」
「あぁそっちか、俺の管轄の孤児院に預けたぜ」
言葉を割り込ませたデュークに俺はうんうん頷く。やっと納得した。特定できずにもやもやと胸中に滞在していた不快感が一掃される。気分爽快。
「いや待ってくれ疑似ハローワークってどういうことだ、俺聞いてないぞ?!そもそもお前あれを『屠殺』って色々酷くないか?というか、そういえばあの日のメシって鶏肉だったような?いやまさか、まさか、な。あぁもう今の言葉で色々追求したいことが増えたッ!」
しかしデュークはパニックになった。今も頭を掻きながらわめいている。俺としては一人劇を見ている気分だ。独り言ならもう少し小さい声で言えば良いのにな。
俺はまた椅子から立った。側にある上着かけから外行きのコートを取る。
手には先程まで記入及び捺印をした書類がある。
その中から数枚を抜き取って、未だ興奮状態の親友に渡す。デュークは少しの間、目を瞬せてから、呆けた顔で俺を見た。
「何これ?」
「お前宛ての報告書。事後報告形式で監査通過済みだから、絶対に覆せないけど」
「あっサンキュー」
いぶかしげな表情が一転し、ウキウキしながらデュークは書類確認に移っていった。今にも鼻歌が聞こえてきそうくらいに上機嫌だ。相も変わらず切り替えの早いことで。そこがこの親友の良いところだけどな。
「じゃあ俺は外回ってくるから」
デュークの生返事を聞き流しつつ、俺はドアへ向かう。ドアノブを引き、開ける。そして同時に書斎の鍵を、ポケットから出した。廊下に出てから、俺は静かに部屋の鍵を鍵穴へ入れる。ついに扉を閉めようとしたときだ。
デュークに呼び止められた。
俺が短く返事を返すと、デュークは1枚の紙をかざした。
「なぁ、これ減給通知って書いてあるんだけど。もしかして俺の見間違い?」
俺は真面目な顔を作って、紙を見た。次に笑いつつも困惑を隠そうとしないデュークを見る。続いて俺は、軽く鼻を鳴らして、にっこりと微笑んだ。そうして俺は、勢いよくドアを閉める。
瞬時に鍵をかけると、全速力で書斎から逃走した。
次回予告「もう少しだけ続きます」
リュ-「終わる終わる詐欺は読者を逃すだけだぞ」
デューク「あのリュ-さん減給って一体、あの、俺何かやったっけーッッ!?」




