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嘘じゃない本当の後日談  作者: シヲンヌ
本編
15/22

15

あけましておめでとうございます。

今年も読者の皆様にとってよい年でありますように。


【注意】

・長い。ひたすら長い。

・前半は3人称、後半でジェネの1人称。区切りは*(アスタリスク)で区切ってあるので、目安に考えてください。

・3人称のところで胸糞表現注意。胸糞表現注意(重要)

・できる限りぼかして抑えましたが、残酷表現もあります。とうとう保険じゃなくなりました。


ダメだと思ったらいつでも無理せずプラウザバックお願いします。

「おう兄ちゃん、ぜってぇに動くなよ?今、動いたらこいつの喉をかっ切ってやるからな」





ジェネがクエバスを羽交い締めにして、爪を突き立てていた。

充血していた眼をぎらつかせて、『俺』を睨む。

クエバスは困惑し、怯えた表情を浮かべている。

ふざけているわけではないのだ。

ジェネは真剣に自らの主人を盾にしていた。



「ジェ、ジェネ?お前、どうしたんだ?」

クエバスが震えた声で話しかけても、ジェネは反応しない。

『俺』を憎らしげに見るだけだ。

「なぁ、ジェネ?お前、どうして俺に爪を向けているんだ?どうして俺を抱いて、喉元をアイツに見せびらかすんだ?なぁジェネ、何とか言ったらどうだ?危ないではないか」

ただクエバスは理解できていない。

眉尻を下げつつ、ジェネへ問いかける。

「な、なぁこれではまるで、まるで俺が、人質のようでは」


「そうですよ。あんたはさしずめ、人質なんですよ坊ちゃん」





え、とクエバスの嘴から驚愕が漏れる。

「どういうことも何も、あんたは俺たちを逃がすための人質ですよ。見てわからないんですかい」

「え、そんな。う、嘘だよなジェネ?アイツは、今、見逃し、て、くれようと」

「んな割の良い話はありゃあしませんよ、坊ちゃん以外は良くて監獄という名の地獄行きですわ」



淡々と答えるジェネに、クエバスはいやいやと首を振った。

「でも、だってお前、は、俺の部下で、そ、それに、こんなことしたら父上が」

「大丈夫ですよ坊ちゃん、公爵様には『死んでしまった』とお伝えしますので」

「そ、そんなの父上が許すはずがないだろう!」

「許すんですよそれがねぇ」

クエバスは言葉に詰まった。

「坊ちゃんは知らないでしょうが、今度分家から養子が来るんですわぁ。そいつは坊ちゃんよりも遙かに優秀なんですよ。だから」


「あんたはいなくなっても良いんだよ、坊ちゃん」





――今、何て言った?


ジェネは口を歪にして嗤う。

「今度から俺たちはみーんな、ソイツ付きに変わるんです。名残惜しいですけど、坊ちゃんとはこれでお別れなんですわぁ」

「そんな、嘘、だ。お、れが、捨てられ、る??」

クエバスの顔がどんどん白くなっていった。


無意識に『俺』は脳内で、ジェネの言葉を反芻する。

捨てられる。

すてられる。

ステラレル。





――なんだ、これは。



「そんなとこですねぇ。だから、精々最期に、俺たちの盾になってくださいよ坊ちゃぁん」

盾。そうジェネが口にした瞬間、クエバスは身体を震わせる。

「どうしたんですか、坊ちゃん。もしかして嫌なんですかぁ」

「そんな、の」

「あれぇ、でも坊ちゃんは俺たちの上に立つ存在なんですよねぇ、責任を取ってくれるポジションなんですよねぇ。だったら、責任者として俺たちの身代わりに死んでくれるよなぁ?」

クエバスは首を左右に激しく振った。






――俺の目の前で起こっているのは、なんだ。



ジェネはせせら嗤った。

「あれぇおかしいなぁ、さっき坊ちゃんが言ってたことじゃないですかぁ。上に立つ者の責任なんでしょ?俺たちの代わりに罪を被ってくれるんでしょお?」

「それは、だって、お前らが、そう言って」

「はーあ、これだからボンボンは困るんだよな。自分の言ったことに責任持ってくれよ、他人の所為にするなんて、これでもお貴族様なのか坊ちゃんは。って、もうすぐ死ぬから違うよな?」

「あ、あ、そんな、俺」

嫌だ、嫌だ。

うわごとのようにクエバスは、言葉を繰り返す。



とうとうジェネは唾を吐いた。

「ガタガタガタガタうるせぇよガキが、黙って大人しくしろ。俺が逃げられねぇだろうが」

ドスの効いた低音で、早口で言い切るとジェネは強く抑えつける。

ギリ、と何かが締まる音がした。


クエバスはすくみあがると、それっきり何も言わなくなった。

ただ、ぼろぼろ、ぼろぼろと。蒼白な顔で大粒の涙を流すだけだ。





「なぁおっさん」

「あぁ、兄ちゃんか。そんなわけで俺は逃げる。一歩でも動けばガキを殺(や)るぜ」

「泣いてるぞ、坊主」

「おう、それがどうした?」

「だから泣いてるぞ」

「はぁ、知ったこっちゃねぇわ。それとも、泣き止ませたら見逃してくれるのか?ならベビーシッターでもなんでもやってやるけどよォ」

「いや?全く」

「だろう?なら俺の知るところじゃないね」





ジェネはゲラゲラと嗤う。

「しかし、兄ちゃんは優しいなァ。こーんな憎たらしくて甘っちょろいボンボンのことを気にかけてくれるなんて。俺は無理だわ、だってムカつくんだぜこいつ」

「ふーん」

「そう!何言っても従うのは良いんだけどよ、物覚えが良すぎるから一々うるせぇんだわ。ほらさっきだってよ、お貴族様の責任だかなんだか、言ってたろ?あれって1回ポロッと言っただけなんだぜ、まぁその方が扱いやすくなるからなんだがな。今みたいな時にな」

「へー」

「反応薄いなァ、まぁ、兄ちゃんがいけ好かないガキを見捨てない優しい優しーいヤツで助かったぜ。このガキも最期に役立つんだな」

「ほー」

「ははっ。まぁ今も兄ちゃんに何も思わないことはないが、流石にあの兄ちゃんの実力に、お荷物のガキを抱えながら戦うのはツラいしなァ。どうせ次会うときはお屋敷の牢屋さ。俺が直々に嬲りに来てやるから楽しみにしてなァ」

「ふーん」

「だから反応薄いって!もっと悔しがったりしねーのかよ、逃がしちまうんだぜ獲物をよォ!!」




あまりの塩対応に、ついにジェネがキレた。

だが『俺』はジェネを冷ややかに見たままだ。

「必要性感じないからな」

「はッこれだからガキは。俺なら地団駄踏んで悔しがるのに、案外冷たいなァ」

「必要性を感じないからな」

「さっきも聞いたっての。悔しいからって何度も同じこと言うなよ、つまんねぇだろォ?」




表情を変えない『俺』に、ジェネは鼻を鳴らした。

「まぁいい。もう一度言うがそこから動けば、ガキの首と胴はオサラバだ。助けたけりゃ動くなよ兄ちゃん」

「おっそうだな」

言うが早いか、『俺』は腕を動かした。ジェネの肩がビクリと震えたが、ただ腕を組んだだけだとわかると、あからさまに安堵する。


「は、ははは、ビビらせんなよ兄ちゃん。サックリ殺っちまうとこだったぜ」

「俺はここから動いてないんだが」

「だからビビらせんなよ。これからは腕を動かすのもダメだからな、いいな?」

適当に返事をすると、ジェネはクエバスを抱えたまま、じりじりと後ずさる。

離れる度にジェネの表情は柔らかく、勝ち誇ったようになっていった。




それを見て、『俺』は最後の確認に移る。

ジェネを呼びかけた。

「なんだよ兄ちゃん」

「ただの確認さ、おっさん。その後坊主をどうするんだ?」

ジェネは虚を付かれたように目を丸くした。

すぐさま吹き出す。



「んなもん、殺すに決まってんだろ?知られちまったし、元々死んだって報告するつもりだったからなぁ」



『俺』は何度も頷いた。

「あっそ」

「もういいか?いいよな?じゃあ俺はずらかるからな。優しい優しい兄ちゃんよォ、また今度会おうな」

「おぉそうだな。じゃあな、ジェネ=セドルド」



***






満面の笑みだった。

見ているだけで心が溶けそうな微笑み。太陽のような暖かい、燦々とした微笑み。

本当にあの兄ちゃんは動かず、笑って俺を送っている。



俺は踵を返して道を進んだ。

でも、どこか、おかしい。何故か警鐘が鳴りやまない。

何かミスを犯していないか。そう頭が訴えてくる。

おそるおそる後ろを振り向く。が、あの兄ちゃんはそのままだ。

舌打ちした。

「らしくねぇや」




だがこれでいい。

実際追ってこないのだから、後はお屋敷まで逃げ切るだけだ。

道中でガキを殺して。

しかし、このガキには散々嫌な思いをした。

無駄に真っ直ぐだから、とにかく融通が効かないのだ。

何度それで苦渋を舐められたことか。


次の角を曲がれば、ワープエリアだ。これで一気に高飛びができる。

確か近くに茂みがあったはずだ。あそこで殺して死体を捨てるか。

あぁ、次のご主人様には苦労しないと良いな。

そう思いながら角を曲がった。






「でも『また今度』なんて無いんだよなぁ。なぁ、おっさん」



その先には何故か、先程別れたはずの兄ちゃんが立っていた。

脊髄反射で俺はガキの喉元に爪を当てる。

「な、なんでお前がそこに!?」

「え?俺がここいちゃ悪いのか?」

「悪いに決まってんだろ、動くなって言っただろうが俺はッッッ!?」

何で、何でここに。いつの間にここへ?

足音は聞こえなかった。かといって兄ちゃんは宣言通り、後を付けてもいなかった。約束通り立ち止まって、俺を見ていたのだ。





俺の動揺を余所に、兄ちゃんは目を丸くさせて頰をかいた。

えーでもいなくなったし、などとのん気そうな声を上げる。

「俺だって帰り道こっちだし、仕方なくね?」

仕方ない、その言葉を聞いて1つの考えが落ちてくる。

にやりと顔が変化したのは自分でもわかった。

「あぁそうだな、それは仕方ないなぁ。確かに俺は『いなくなるまで』とか指定してなかったしな。確かに不親切だ」


だが、兄ちゃんは動いた。動いてしまった。

俺は動くなと言ったのに今、目の前にいる。

つまりこのガキが死ぬのに、違和感が湧かない理由が成立した。しかも弔い合戦という大義名分つき。ということは後々、この兄ちゃんをいたぶる理由にも使える。

最高だ、まさかカモが説得力っていうネギを背負って来てくれるなんて。



俺は口を開く。

「だが兄ちゃんは約束を破ってしまったんだ!だから俺はこのガキを殺さなくてはならない!あぁ、可哀想なクエバス坊ちゃま!」

俺の言葉にガキは小さく身じろいだ。

あぁ、可哀想に。

折角美談で終わるはずだったのに自分でぶち壊しに来るなんて。

まぁ端からガキは死体になる予定だったから、どう行動しても兄ちゃんにとっては無駄骨になるんだが。




「ふーん、そう。確かにそうだな。筋は合ってる」

対して兄ちゃんはとてもどうでも良さそうだ。

やっぱりどこかおかしい。殺されかけてたガキを逃した人間と、同じだと思えない。少なくともここに今、途中から来たら俺はそう思うだろう。


「そんなに殺したいんなら殺せば良いんじゃないか?」

言い終えると兄ちゃんは大きく欠伸をした。

とても何かが引っかかる。

引っかかるが、まぁ良い。辻褄が付く理由ができるんだ。

せせら笑って気を取り直した。

「わかってくれたようで何よりだ。あばよ、坊主。恨むんなら今までの自分とこの兄ちゃんを恨むんだぜ」

そして俺はガキに当てていた爪を、思い切り動かすッッ!


ぽつりと兄ちゃんは呟いた。



「本当に殺せるんならな」





動かなかった。

全く動かなかった。

何故か俺の腕は固まったように、動かない。動かしたいのに動かないのだ。

どうして。確認しようとして首を動かそうとして、首も動かないことに気がついた。

だから目だけを動かして腕を見たが、何もない。

「どうして動かないんだって顔してんな、おっさん」

朗らかな声に視線を前に移した。



兄ちゃんは笑っていた。白い月に照らされても、太陽みたいに暖かく笑っていた。

さっき俺たちを見送ったときと同じ種類の笑顔。好青年という言葉はきっと、この表情を浮かべた奴に対して言った言葉だろう。つい、そんな考えがよぎってしまうくらいには兄ちゃんの笑顔は眩しい。

だが同時に、俺の肝はどんどん冷えてくる。どうしてか。目の前にいる男の笑顔はきらきらと、溌剌としているのに。何故、俺の身体は汗が止まらないのか。

喰う側の俺が、補食されると思ってしまうのか。





俺の様子を無視して兄ちゃんは口を開く。

「いやーだってさ、おっさんが言ったんじゃん?『指定してなかった』って、だから『約束を破ってしまったんだ』って。でもさ、それって、おっさんの頭の中だけの話で、俺と正式に約束してないよな?」

だったらさ、と言って兄ちゃんは首をすくめる。

「俺からしたらもう、約束は達成されたって考えても可笑しくないよな?」

そして、心の底から、愉快そうに笑うのだ。


全身の肌が粟立った。




へらへらしながら兄ちゃんは続ける。

「なぁ、聞いてんのかおっさん。さっきからうんともすんとも言ってねぇんだけどー?」

言い終わってから、兄ちゃんは目を丸くした。小さく叫ぶ。

「もしかして声が出せないとか思ってる?大丈夫大丈夫。喉と口は動くはずだぜ?だって、そうじゃないと俺が動くまでに、おっさんは窒息してるはずだからな」

「これ、お前、が?」

「これって、動けない理由?そうだぜ」



兄ちゃんは当然のように頷いた。なぜ、と声が漏れていた。

兄ちゃんは首を傾げる。

「何故って?」

「なんで、俺が、こんな」

だってそうだろう。

俺は最強なんだ。アルキスト族の中で俺を倒せる奴はいない。ずっと同族や餌を気の向くままに屠ってきた。だからアルキスト族の頂点、バルミロ公爵家に引っこ抜かれたんだ。だから俺は本来、こんなガキや青二才に手間取るような男ではない。いずれはバルミロ公爵家も乗っ取り、もっと高く、高いところでこの世界を牛耳る存在なんだ。特別な存在なんだ。





「いやぁ、お前全然特別じゃないぞ?」

呆れた声が俺の脳内を突き抜ける。

視界がくっきりと目の前の兄ちゃんを捕らえた。兄ちゃんは腕組みする。

「たーしかに猛禽類って最強とか言われてるし、実際強いけど。でもそれってさ、所詮同族と餌との間柄ってだけだろ?」

「なんだとッッ」

「だっておっさん、それ以外と戦ったことあんの?自分たちのテリトリー以外で力試ししたことあんの?」

言われて、ハッとする。確かに俺はアルキスト族の領内から出たことがなかった。


アルキスト族はとても閉鎖的だ。他種族の交流はおろか、出入りもほぼ無い。しかもバルミロ公爵家の領内はアルキスト族と、奴隷と餌を兼ねるうさぎなどの獣人くらいしかいない。そもそも食料は領内の森で事足りるし、弱い同族を喰ってしまえばいい。弱肉強食とは言い当て妙で、まさにその通りなのだから。

で、だから?

「だからどうした、俺は最強なんだッッ!」

「俺のキック一発で沈んでたし、世界のトップとか無理だろ。今も動けてねぇじゃん」

「こんなのマグレに決まってんだろッッ!俺は最強なんだ!」




前のめりになる勢いで青二才に吼える。

瞬時にキリリと音がして、身体がキツく圧迫された。何か紐のようなもので雁字搦めに締め付けられている。どうしてかそんな馬鹿らしい考えが浮かんだ。


青二才、もとい兄ちゃんはもう笑っていない。草原よりも発色の良い緑が、月を背にして光っている。光は自然光より強く、ランプの光に似ていた。

だが、果たしてサルや人間の目って光るものだったか?

兄ちゃんは一歩、一歩ゆっくりとこちらへ歩いてくる。俺の身体は磔にされたように動かない。今すぐ全速力で逃げ出したいと思っているのに。震えることしかできないのだ。

あれ?俺、俺は今、震えているのか?

相手はサルの仲間の人間、ヒトだ。俺たちよりも弱い人間、俺たちの餌だ。

何で、どうして。



兄ちゃんはおもむろに止まる。あと一歩踏み出せば手の届く距離だ。

「なぁジェネ、お前が弱い理由を教えてやろうか」

凜とした声が路地に響く。言うほど大きな声でもないのに、すぐ真上で言われている気分になる。

何故だ。バルミロ公爵家当主よりも、兄ちゃんがとても大きい存在に思えてくる。聞いただけで跪き、そのままずっと低頭したくなる衝動に駆られる。

いや違う、今すぐ頭を垂れなければいけないのだ。


兄ちゃんは話を続けた。

「1つはお前が井の中の蛙で大海を知ろうとしなかったこと、2つはこの世の中が不思議でいっぱいなのを理解しようとしなかったこと」

兄ちゃんは言い終わると一歩、近づいた。

ガキに爪を当てている方の腕を右手でゆっくり掴む。

そして前のめりで俺の顔を覗き込んで、口を開いた。



「3つ目は、俺が子供が大好きで、お前みたいなクズな大人が死ぬほど大っ嫌いってことだ」





言葉を終えるが否や、俺の首元が一層強く締められる。しかしこの衝撃はすぐに終わり、ふと加えられていた力が無くなった。しかも一瞬でだ。

わからない。

何も理解できない。俺は最強なのに、最強ではないという、この兄ちゃんの言葉の意味が、理屈がわからない。どうしてもこの兄ちゃん相手に、餌の人間相手にえも言われぬ恐怖を感じてしまうのかわからない。全てがわからない。わからない。

唯一わかったのは、1つ。俺が後ろ頭から地面に伏したこと。






未だに直立不動な、胴体を残して。














次回予告「エンドロールにはまだ早い」

リュー「俺の名前言うタイミングを逃した...読者のみんな、俺の名前忘れてるよな絶対。主人公だけど」

リュー「そういえばデューク来ねーな。あいつ何処行った?まさか職務怠慢?減給しとこ」

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