序 港湾管理人かく語りぬ
新しい章開始です。
まずは、いつものかく語りぬ。
短いです。
いやあ、金持ちってのは何を考えているのか、俺らみたいな木端役人にやあ判らねえな。
ああ、今日 俺の受け持ちでな。面白い船が来たんだ。
そう、その評判の船だよ。
まあ、目立つから噂になって当然だよな。
でもよ、その船の詳しい事情までは知らねえだろ。
俺? 当然知ってるさ。
だけどよお、杯が軽くなっちまってなあ。
杯が軽いと腰も軽くなってどこかへ行きたくなるもんだよな。
へへ、すまねえな。たかったみたいでよ。
おう、判ってるって。話の続きだろう?
そうそう、ありゃあ魔動船だよ。
帆も張らずに、すっと港に入って来て、ピタリと俺の受け持ちの桟橋に碇泊してな。
これが、また見事な船でよ。
航海してきたばかりだろうに、汚れ何てどこにもついてねえ。
まるでこれから処女航海に出発するんじゃないかっていうくらいピカピカなわけよ。
つい、見惚れちまったが、船の旗を見て納得したね。
ベルザウア家の旗だ。
確かに、あの商家ならどんな船を持っていようが不思議はねえわな。
え、そこまでは知ってるって?
まあ、あれを見間違えるんじゃ港湾管理の仕事なんぞできないわな。
いやいや、焦るなって。
ここからが面白いんだ。
その船、何を運んでいたと思う?
魔動船で運ぶんだ。こりゃあ、貴重で高価な高級品でも運んできたと思うじゃねえか。
それが違うんだな。
運んできたのは魚だよ。
俺は見てびっくりしたね。
普通、魚なんて運んだ日には、船に匂いが付くもんじゃねえか。
それこそ、離れてても判るくらいによ。それが、全く臭わねえんだ。
なんでだと思う?
まあ、わかるわきゃねえよな。
魚がさ、全部凍ってるんだ。
氷漬けになってりゃ、腐らないってのは判るよな?
いったいどうやったか知らねえが、魔動船ってのは凄いよなあ。
もっとも、その船が運んできたのはそれだけじゃあねえんだけどな。
魚なんて、大樽一つ分しかなかったからな。
おっと、いけねえ。また軽くなってきたなあ。
いやあ、また悪いな。
ああ、他に何を積んできたって?
いやね、これが傑作でさ。
その船に乗ってる人数ってのが、びっくりするほど少なくてな。
4人しかいねえんだ。
しかも、その内の3人が女。まあ、俺の趣味には若すぎるけどな。
男? ああ、一人、ごっつい兄さんがいたぜ。
ありゃ、一目みたら忘れないね。
羨ましい?
やめとけやめとけ。喧嘩売るなんてとんでもない。
あの兄さんに殴られたら、絶対やべえ。
その兄さん、一人で樽にいれた氷漬けの魚を船から降ろしたからな。
大樽だぞ。しかも、ひょいって感じでな。
凍った魚は見間違いで、本当は中身が入ってないのかと思ったくれえだ。
もっとも空樽でも一人で持てる大きさじゃなかったけどな。
おっと、話が逸れたな。
それで、その女の中の一人に訊いたんだよ。
ほかに積み荷は無いかってな。
そうしたら、その綺麗な赤髪の女が言うわけよ。
そんなの無いってな。
じゃあ、何しに来たのか気になるじゃねえか。
まさか、魔動船を使って魚を売りに来たわけじゃねえだろうしな。
客船として使ってる訳でもない。
知ってるか?
魔動船って動かすだけで、とんでもない費用《金》が掛かるんだ。
なんか高い石みたいなのがいるって聞いたことがある。
ひっく、そしたらな。
女が言うんだ。
その女は、さっきの男と婚約したばっかりだってよ。
早い話が、これは婚前旅行ってことだな。
信じられるか?
たったそれだけの為に、魔動船だぞ。
俺は呆れたね。
もっと呆れたのは、その女の話を聞いて、他の女も自分が愛人だって言いだしことだね。
赤髪の女より幼そうだったが、胸はでかかったな。
もう一人?
ああ、すっきりした体形だった。
可愛かったけどな。でも、契約奴隷の輪をはめてたからなあ。
まあ、そういうことなんだろうけどな。
ということで、その船は、婚約者と愛人と女奴隷だけを乗せてきたって訳だ。
凄いだろう?
結局、他の積み荷は無かったじゃねえかって?
お前、バカだなあ。
そいつら、愛を積んできたんだよ。まあ、傍から見たら歪んでるけどな。
本当に金持ちってわからねえよな。
て、おい、何だその拳は。
綺麗に話が落ちただろうが、拳より酒を寄越すのが筋って、
あ、いてて、冗談、冗談だった。次は俺が奢るからよ。
まったく、洒落の判らんやつは困るぜ。
ケンカイ達がベルバウムを出立してから、立ち寄った港の酒場でこのような会話があったという。
もっとも、本人たちはそのことを知る由もないのだが。




