番外編 茶番
「ああ、痛い。
僕も、全身が痛いんだよ。
ちょっと前まで、過負荷で気絶してたし。
というか、さすがに一週間連続で念動力使ったことなんて無かったし。
途中で本宮の応援が来てくれてなきゃ、今頃廃人になってたところだったんだ。
なんで、あそこで反撃してくるんだろう。
全く無駄な事なのに。
僕としては理に反するとしか言えないよ。
往生際が悪いリオウさんが全部悪いよね。
ね?
ほ、ほら、だからそんな怖い顔はやめようよ。
お互い、傷ついた身なんだし。
そんな怖い顔より、ミリスの可愛らしい笑顔が見たいなあ」
そう言ったのは少年だった。
優しげな少年だ。年頃は15を超えたくらいだろうか。
ベッドに横たわっており、その体には包帯が巻かれていた。
にこやかな笑顔が、多少引き攣っているように見える。
「言いたいことはそれだけか?
ざけんじゃねえぞ、このロリコン野郎。
玉潰して、てめえの口に放り込んでやりたくて、うずうずしてんだ、こっちは」
そして、少年の前に立っているのは可愛らしい少女だった。
むしろ、幼女と言ってもいい年ころの女の子だ。
顔だちは整っており、細い首筋と切りそろえられた黒い髪が印象的な儚げな幼女である。
さらに、彼女も少年と同じく、体中に包帯が巻かれている。
少年と同じ位置に。
「ああ、駄目だよ。ミリス。
そんな、言い方、女の子らしくないよ。
もっと言葉使いに気をつけなくちゃ。
せっかく可愛い顔をしているのに、勿体ない。
ほら、笑ってごらん。
君の笑顔は、僕の心に響くんだ」
「うるせえっ
気色悪い」
「ひどいなあ。僕はこんなに君の事を愛しているのに。
君だって、帰還して直ぐに僕の所に駆け付けてくれたんだ。
君の愛は僕にも判っているさ」
「黙れっていってんだろうが。
このくされち○ポ野郎。
誰が誰の子供を産むって!
しかも、あの男に余計な事いいやがって。
あたしは別に感謝なんてしてないっ」
「えー、僕に心を隠そうとしても無駄・・・
いたい、いたい、その暴力は理に反するよ。
ミリス」
ミリスは、少年の枕元に会ったグラスで、少年を殴った。
何度も殴るが、所詮幼女の力である。
あまり効果は無い。
「しかも、勝手に体を乗っ取りやがって。
あたしの意識が無い時に変な事してねえよな」
「してない、してない。
というか、意識が無い時なんてほとんどなかったじゃないか。
意地っ張りなんだから」
「マリスに乗っ取られている時に安心なんてできるかっ」
「もう、そんなに意地張って。そこが可愛いんだけど。て、いたいってば。
おっと」
殴るだけでは大して効果がないと悟り、ミリスは念動力を用いてグラスを飛ばした。
マリスは、空中で難なくグラスを抑える。
使うのはミリスと同じく念動力である。
抑えられたグラスは、暫くして粉々に割れた。
「危ないなあ。ダメだよ。直ぐに人を傷つけるように力を振うのは。
でも、だんだん力が強くなっているね。
これはいいことだよ。さすが未来のボクの妻」
「だから、その言い方をやめろ、ロリコンっ。
・・・・っ」
ミリスは叫ぶ。そして倒れた。
顔色が青ざめているが、呼吸は乱れていない。
「あーあ、やっぱり。限界だったのに無理しちゃって。まあ、そこが可愛いんだけど」
マリスは床に倒れたミリスを見た。
優しく、という表現が相応しいかどうかわからないが、そっとミリスの体が持ち上がった。
そして、自分の寝ているベッドの中にミリスを寝かせた。
「いいよ、入ってきても」
「失礼いたします」
マリスの部屋に入ってきたのは、頭の先から足元までを覆うローブを身に着けた人間だった。
本宮でマリスの身の回りを世話する侍従だ。
「そこの床を片付けたら、医者を呼んで来て。
今なら、大丈夫。
ミリスにうっかり潰される事は無いよ」
「はい、畏まりました」
侍従は深々と頭を下げる。
「それと、父上に報告はしているね?」
「はい、既に」
「父上からの託は?」
「それに関しては、直接、マリス様に伝えるとの事でした」
「ふーん。でも、今はミリスの面倒を見ないといけないから無理かな。
どうせ、ラリスのいる東の話だろうし。
僕がでしゃばる必要は無いね」
マリスは、優しくミリスの頭を撫でる。
「ミリスが大人しくしてくれているんだ。こういう時間を大切にしないとね」
「そんな、マリス様がそこまで気を使われなくても宜しいものを・・・」
「気を使う?」
「いえ、外で拾ってきた娘にかまけ過ぎでは無いかという意見も、宮中にございまして」
「ふーん、君もそう思ってる?」
「いえ、私めがそのような・・・ぐぅっ」
侍従の身体がいきなり持ち上がった。壁に押し付けられる。
「僕に嘘は通じないって、いい加減わかってよね。
嫌いなんだよ。そういう奴って」
マリスは、虫を見るような目で壁に張り付いている侍従を見る。
「僕はミリスと違うよ。うっかり、殺してしまうような間違いなんてしないから。
そのまま、最後まで意識を残したまま全身の骨が折れる音を聞いてみる?」
「お、お許し、を・・・」
「うん、今度は嘘は無いね」
侍従の身体が床に落ちた。
「ミリスは、僕が見つけた比翼の鳥だよ。
今度、ミリスをバカにする奴がいたら、教えておいてね。
僕が殺しておくから」
「か、畏まりました」
侍従は慌てて部屋を出て行った。
「全く。とんだ茶番劇だ。そう思ってない?
ミリス」
マリスは再びミリスの髪を撫でる。
「うん、まあ、ミリスが見ているところでやった方がよかったかもね。
そうしたら、少しは見直してくれるかな。
・・・・・それとも、寝たふりをして見てくれていたかな?」
ミリスの身体がぴくりと動いた気がした。
マリスは微笑む。
これだから、この娘は可愛らしいのだ、と。




