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漁師と海竜 海原を行く  作者: 赤五
番外編2 魔法帝国の残滓たち
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番外編 国壊

 魔法帝国と言われた帝国が過去に存在した。

 魔法に高度に依存した帝国。偉大なる魔法使いたちによって作られた帝国だ。

 東の大陸の全てと西の大陸の半分という、世界のほぼ全てを手中にしていた。

 その帝国は、四竜と呼ばれた超越的な存在によって滅ぼされた。

 だが、その残滓は存在していた。

 四竜が古代魔法帝国と名前を変えた帝国を維持する間も、彼等が徐々にいなくなっていく間も、そして彼等が全ていなくなってからも。

 魔法帝国の残滓たちは存在し、そして活動を続けているのである。




「あら、もう始めるのねえ。

 予定通りといえばそうかしら」

 

 そう呟いたのは、小柄で色白、グラマーな少女だった。

 白い肌の中で唇だけ艶やかに赤い輝きを放っている。

 あどけさなと妖艶さが同居している不思議な魅力を発する少女だ。


「再生が間に合ったのは丁度よかった。

 カリス様の指示だ。お前にも協力してもらうぞ、リリス」


 それに答えたのは一人の男。

 妙に印象が薄い男だ。本当に、そこにいるのか疑ってしまうような空気のような薄い印象しか残さない男。

 

「あら、おめでとうの一言も無いの?

 酷い人ねえ。再生漕の中でずっとあなたの事を思ってきたのにぃ。

 酷いわ、ラリス」

「くだらん冗談を言う元気があるなら大丈夫だな」

「ああん、もう、本当に酷い人

 |私に構いなさない《・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・》」


 言霊。言葉による行動強制もしくは思考制御。

 それはリリスの得意とする能力である。

 彼女の言葉に少しでも同意する意思があれば、そこから侵入して人の行動を縛る。

 それは悪魔じみた能力であった。

 

「強制力が弱い」

 

 だが、ラリスはそれだけを言うと背を向けた。

 

「体調が悪いのなら、早く回復しろ。

 今回の仕事は大規模だ。

 いつもの街や村程度の話ではないのだ」

「そうみたいだわね。これが宗主様のおっしゃる最終段階なのかしら」

「我は知らぬ。

 だが、近いかもしれぬな」


 ラリスの態度は、冷静というより無関心に近いものがあった。


「ラリス、あなたも、もっと宗主様とお話したら?

 マリスなんて、ずっと引っ付いている程よ」

「あいつは、あいつだ。我とは違う」


 ラリスはそれだけを言うと、そのまま歩きだした。

 彼の胸中を知ることはリリスには出来ない。

 何かを秘めていそうだとは思っているのであるが。

 

「準備は進めているが、やはり、お前がいるといないとでは、この手の仕込みの手間が変わる」

「あら、それってあたしが必要だって言ってるのね。嬉しいわあ」

「本宮の奴らが使えぬだけだ。まあ、それでも・・・」


 ラリスは扉を開けた。扉を開けた先にあるのは豪華な大部屋だった。

 中央に置かれているのは、豪勢な装飾を施された王座。

 そこに座っている男は、扉を開けて入ってきたラリス達を見ても何の反応も示さなかった。

 

「既に、国の中枢は落として、洗脳済だ」

「あら、こいつって、ここの王様?」

「ああ、さすがに少し手こずったようだな。本宮の魔法使いも腕が落ちた」

「そうみたいね、こんなので、他の人たちを騙せるの?」

「既に、大臣クラスは全て洗脳済みだ。問題ない」

「じゃあ、あたしはいつも通り、兵士や一般人を相手にしてくればいいのね」

「話が早いのは助かるな」

「いつものことですもの」


 リリスは嗤う。


「でも、さすがに小さいとはいえ、国一つ滅ぼすのは初めてね。

 ちょっと興奮するわ」

「結界の完成までには、もう少し時間が必要だそうだ。その間に、進めておいてくれ」

「どれくらい時間があるのかしら?」

「あと3日だそうだ」

「あら、忙しいのね」


 でも、仕方ないか。とリリスは呟く。すべては魔法帝国の為に。

 

 


 東の大陸にラシア王国という国がある。

 国としては大きなものでは無い。

 本来なら小国と侮れるほど小さな国でもないのだが、大陸でも有数の規模を誇るチャンター共和国とヒンディア帝国に挟まれているという立地の問題上、常に小国の悲哀を味わっている国だ。

 チャンター共和国とヒンディア帝国の間を揺れ動いてきた歴史を持つ。

 現在のラシア王国は、ヒンディア帝国との関係が近い派閥が主導している、と言われていた。

 そして、チャンター派や中立派が入り混じって対立し、時に妥協をし、国家の間を綱渡りをしながら月日を重ねていく。

 そんな風に考えていた人々の思いは、あっさりと消えてなくなった。

 それがどうして起こったのか、正確なところを知りえた人間はいない。

 ただ、切っ掛けは内乱であったらしい。

 だが、その内乱が急速に広まり、両大国が手出しをする前に終結した。

 いや、それを内乱と言っていいのかどうか。後日、ラシア王国を調査した両国の諜報部は、表現に窮したと言う。

 

 内乱と呼ばれた騒乱の発生から鎮静まで3日。そして、鎮静後に生き残っていたラシア王国民・推定5%。

 実に95%の国民が死亡していることが確認されたのである。

 しかも、お互いに殺し合って。

 

 東の大陸にラシア王国という国があった。

 そして、今は無い。

 その理由を知る人はいない。

 それを知っている者は魔法帝国の残滓のみなのであった。

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