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漁師と海竜 海原を行く  作者: 赤五
第五章 交易都市ベルバウム
48/57

第9話 旅立ち

2015/01/22 改稿


少し加筆、修正しました。

 ゴンザ達波濤組が、四区に出入りを仕掛けてから3週間が経過した。

 その間に、ベルバウムで始まった地回り同士の抗争はあらかたが終結している。

 小競り合いは、いつもどこかで起きているのだが、大規模は抗争と呼べる争いは無くなっていた。 

 それは、最近落ち目となっていたリトバウム本家が新しく2区分のシマを手にいれたことにより勢力を取り戻し、抑止力を発揮するようになったのが、主な要因である。

 さらに、三、四区をシマにした波濤組は、分家扱いに昇格した。

 筋目を重視する波濤組が本家と協力体制を取ることによって、さらに抑止力が強化されたのだ。

 混乱を嫌う商人たち─レイリクスのベルザウア家を筆頭に─が、裏で動いたことも、抗争の早期解決に繋がっている。

 四区の復興もせねばならないのに、余計な争いなどをされていては困るのである。

 実際、ベルバウム本家のシマの拡大や、波濤組の昇格は、レイリクスがアイデアを出して実行させたものだ。

 本来、レイリクスは四区を含めた3区分をリトバウム本家に組み込むことを想定していたのだが、ゴンザが四区を支配下におさめてしまったため、波濤組の昇格に方針を切り替えて行動したのだった。

 

「目敏い男は嫌いじゃないんだが、できれば事前に相談してくれておけば、楽なんだがね。まさか、私の鼻を明かしてやろうなどと、考えたわけじゃないよね」


 後日、レイリクスはそうゴンザに言った。


「とんでもねえ。只の成り行きでさあ」

「そうかね。まあ、もう、済んだことだからね。

 気にしないさ。君も意外と頭を使えることと、決断力があることが判って、私は嬉しいくらいだよ」

「ありがとうごぜえやす」

「それほどの男が、いまだに女に関しては決断出来ないのも面白いところだよね」

「・・・・・ちと、忙しいので、これで失礼しやす」


 実際、ゴンザは忙しかった。

 シマは増え、人員も増えた。だが、優秀な人材の数は少ないままだ。

 シマの仕切りをしつつ、使える人間を増やす。

 彼はこれから、新しく波濤組に入った人間を実地で鍛え上げていかねばならないのだ。

 それまでの間、彼の忙しい日々は終わらないのである。

 

 

 

 イーリンは上機嫌だった。

 にこにこと笑う顔は可愛らしい。

 しかし、彼女の見た目は滑稽である。

 頭の上に海姫の頭が載った状態になっているからだ。

 

「うん、凄いわ。今までの赤月号が霞んじゃうわね!」


 今、イーリンは改装の終わった赤月号の航海実験をしていた。

 ケンカイから提供された魔法道具を使って、更に船の改修を行ったのである。

 海姫の知識が加わったおかげで、改修はスムーズに完了していた。

 海姫と融合したイーリンは、今まで出来なかった魔動船の操縦を楽しんでいる。

 赤月号の主な改修内容は、船速の上昇、武装強化、船室の居住性向上と多岐にわたっていた。

 

「こいつは・・・お嬢、本当にお嬢一人で操船に問題ないですね」


 同乗しているのは、本来の船長であったキヌートである。

 

「私ガ協力シテイマスノデ当然デス」


 イーリンの頭の上の海姫が喋る。

 

「にひひ、これでいつ出発しても大丈夫ねっ。あ、船室の仕上げが残っているかしら」

「マスターハ、快適ナ部屋ヲオ好ミデス。モウ少シ手ヲ加エテオイタホウガヨイデショウ」

「あれ以上良くするんですかい。豪華客船並になりやすぜ」

「乗員なんてほとんどいないんだから、スペース的に問題ないでしょ」

「本当に、お嬢一人で行くんですかい?」

「だって、行き先の当てなんて無いも同然だし。皆を連れていけないわよ」

「操船、船ノ補修ナドモ、問題有リマセン。他ノ乗員ハ不要デス」

「問題無いのは、同乗して判りましたがね。なんというか、寂しいというか心配というか」


 キヌートとイーリンの付き合いは長い。

 既に5年にはなるだろう。キヌートは昔を思い出した。


「いきなり金貨袋で顔を叩かれて、引き抜かれたのには驚きましたぜ」

「あ、あら、そんなことしたかしら」


 そっぽを向くイーリン。赤月号を操船できる人材を探して港を彷徨っていた頃の話しだ。

 それから、他の乗員を集め、5年にわたり大陸中をイーリンの趣味にあわせた交易の旅をしてきたのである。


「まあ、お嬢の新婚旅行を邪魔するわけにゃあいけやせんな」

「ちょ、ちょっと、まだケンカイとは婚約しただけよ。新婚旅行って、、やだあ」


 顔を赤く染めるイーリン。


「まあ、俺達全員に次の仕事を紹介してくれたんだ。誰も文句はいいませんぜ」

「あ、そうだ。言い忘れてた」


 キヌートの台詞で大事な事を思い出したイーリン。


「お爺様が手をまわしちゃった。キヌート、あなた、明日から直飼い衆になるらしいわよ。

 良かったわね。お給料ももっと貰えるし」

「へ?」

「さあて、港に戻るわね。後仕上げも残ってるし。まだまだ忙しいわよー」

「ちょ、ちょっと、お嬢。俺、大旦那の仕事は、もう懲りてるんですが。それ、断れないんですかっ!」

「んー、お爺様に直接言ってみたら?」

「それ、無理だってことですぜ・・・お嬢」


 がくりと項垂れるキヌート。

 海走りのキヌート。

 イーリン直下の赤月号の船長を経て、直飼い衆に転属することになる。

 一応、ベルザウア商家に所属する身からすれば栄転である。

 本人がどう思っているかは定かでは無い。


 

 

「あら、頑張ってるわね」

 

 ムツキは久しぶりにレイトンを見た。

 ここは、直飼い衆の為に作られた訓練場である。

 ベルバウム家の本家の地下に設けられている。

 レイトンはここで扱かれていた。

 

「少しは、昔の腕が戻ったかしら?」

「もともと、そんなに強くないんだけど」

「でも、教官たちの評判はいいみたいだわ。私も推薦した甲斐があったわね」


 レイトンはこの一か月ほどの鍛錬で、驚くほど引き締まっていた。

 頬はこけているが、眼光の鋭さは依然と比べ物にならないほどだ。


「才能が無ければ、とっくに放り出されているから。自信を持つことね」

「そっちの方が良かった・・・」

「まあ、手を抜いてたら大怪我を|させられてから《・ ・ ・ ・ ・ ・ ・》放り出されるから、気を付けてね。

 ここの教官は手抜きを見抜く天才よ」


 それからレイトンはイーリンの事を尋ねる。やはり自分が仕えていた主の事は気になるのだ。


「ああ、ケンカイ様の婚約者になってはしゃいでるわね。もう、あなたのことは存在を忘れてるんじゃないかしら」

「・・・」

「冗談よ。そんな顔をするくらいなら、訓練を頑張りなさい。

 あと一か月くらいで卒業許可がでたら間に合うかもよ」

「?」


 ムツキは肩を竦めた。


「大旦那様は何処までもお嬢様に甘いってことかしら。

 心配性もいいところね」




「おお、何だ。今日は女連れか」

「ああ、もう湖陵庵も安心だしな。こいつらがいなくても大丈夫だろうから連れてきた」


 ケンカイは、リネスとユッキを連れてダンの店に顔を出した。


「そうかい、なんか、いろいろあったがなあ。まあ、落ち着いてくれて俺は安心だ。

 お前はいつもの酒だろう。お嬢ちゃんたちは何がいいんだ」

「ボクは、もう少し軽いのでお願いします」

「あたいは、ケンカイと同じやつがいい」

「あいよ。ちょっと待ってな」


 ダンは店の奥の厨房に入って行った。


「ご主人さま。大きなお店ですね」

「ケンカイずるい。自分だけ来てた」

「仕方ないだろう。それに、湖陵庵の方が高級な料理や酒が出るぞ」

「あそこの料理おいしいけど、ボクには高級すぎて・・・」

「量が少ない」

「お前は平気で御代りしてただろうが」


 抗争が落ち着き、湖陵庵も平穏な日々を迎えていた。

 今ままでは、監視役のリネスといざという時の戦力になるユッキを常在させていたのだが、その必要も薄くなっていた。

 さらに、波濤組も大幅に人員が増加されている。ケンカイ達が必要とされる時期は終わったのだ。

 酒と料理を運んできたダンは、いつものようにそのままケンカイ達のテーブルに混ざった。


「それで、このお嬢ちゃんたちは何者だい?」

「あ、ボクはご主人さまの契約奴隷です」

「あたいはケンカイの女」

「ユッキちゃん、そういう言い方しちゃダメ」


 そしてダンが興味を持ったのは、当然ながら二人の少女についてである。

 

「なんだ、そりゃ。ケンカイ、お前、ベルザウアのお嬢様と婚約したんじゃなかったのか」

「なんだ、もう知られているのか」

「そりゃ、あれだけ騒ぎになったからな。よく、あの当主が許したもんだって大評判だぜ」

「むしろ、押し付けられたんだが」

「しかし、まあ・・・」


 ダンはじろじろと二人の少女を見る。


「愛人にするにゃ若すぎるだろう」


 とりあえずケンカイは軽くダンを殴る。


「いろいろ事情があるんだ。まあ、成り行きだ」


 ケンカイは、簡単に経緯を説明した。もっとも、リオウの情報を含む詳しい内容は話さない。


「よく判らんが、お前の魔法道具が暴走ねえ。魔法使いとは意外だな」


 ケンカイは無言でグラスに入った酒に、左腕の魔法印を作動させて氷を作って浮かばせる。


「まあ、魔法なんざこれ以外使わないが」

「そりゃ、お前なら殴った方が早いわな」


 それから暫くたわいのない会話が続いた。

 ユッキは相変わらずよく食べた。

 リネスは、いつもの癖で給仕をするようになり、厨房とテーブルの間を行き来している。


「そうか、旅立か」

「ああ、ここでの用は済んだし。オレには目的があるからな」

「故郷に帰るといってたな」

「その前に、ケリをつけなきゃいけない事が増えたけどな」

 

 ケンカイの眼が物騒に光った。


「それが何かは訊かねえがよ。お前の相手が可哀そうになるな」


 ダンは心の底からそう思うた。

 そして旅立ちを祝うために、新しい酒樽を開けるのであった。



 そしてそれから2週間後、改修の完了した赤月号に乗ってケンカイ達は出発をした。

 ボルス島の漁師 ケンカイ

 奴隷娘 リネス

 人魚娘 ユッキ

 それに、今回から加わる船娘のイーリン・ベルザウア。

 彼らが目指すのは西。海賊王の海域である。

随分長くなってしまいましたが、第5章完了です。

途中で仕事や体調不良のための中断などあったので、内容が結構酷い状態になってますね・・・

これから校正します。


この後の予定では、番外編を挟んで最終章(おそらく2章分に分割)になる予定です。

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