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漁師と海竜 海原を行く  作者: 赤五
第五章 交易都市ベルバウム
38/57

序 交易都市の林檎酒売りかく語りぬ

新章開始です。

まずはいつもの序文


今までのあらすじ


バトア王国から遥か東にある迷宮都市・ユエンディーに辿りついたケンカイ達は、そこの地下迷宮で自分たちに必要な魔法道具を見つけるために探索者となっていた。

ケンカイ達は最深層に辿り着き、そこでリオウとは別の竜と出会い、目的のものを手にいれた。

そして、新たな敵の存在を教えられる。

ケンカイは故郷に帰るついでに、そいつを倒すために西へ向かって出発したのだった。

 なんだよ、あんたら。おいら、これから行商にいくんだ。

 邪魔すんなよな。

 何を売るって?

 け、おいらの恰好をみて判らねえのか。

 背負っている樽に売り物が入ってるのぐらい見えるだろ。

 林檎酒を売るんだよ。歩き売りしながら、港で。

 おいらの毎日の商売さ。

 ま、儲けは少ないけどさ。これで妹達を食わせてるんだ。

 結構うまいんだぜ。おいらの家の林檎酒。

 まあ、あんたらみたいな、綺麗な服を着た人間様が口にするようなもんじゃないかもだけどよ。

 昔はよく飲んだって?

 へえ、結構下町暮らしにも詳しいのかい。なんなら、一杯買ってくかい。

 林檎酒は活きているから、今の時間は、酒精は低い代わりに甘味が多いんだ。

 もちろんしゅわしゅわの炭酸の喉ごしも楽しめるよ。

 ほい、毎度あり。

 なんだ、綺麗な恰好をしているから気取った偉そうな奴だと思ったら、結構話せる奴じゃないか。

 へへ、それで何の用だい。

 わざわざ、おいらに声をかけたんだ。なんかあるんだろう?


 ああ、やっぱりその話かい。

 そうじゃないかと思ってたんだよ。

 なんせ、ここ最近、この界隈じゃその話でもちきりだしね。

 実の所、このおいらも当事者ってわけさ。

 まあ、わざわざおいらのとこに来たんだ。それぐらい知っているんだろうけどさ。

 あんたらは、あっちの関係者とは違って堅気だろ?

 それくらい、雰囲気でわかるよ。

 おいらたち小売り商売にゃ、地回りってのは頼もしくもあり厄介でもあり、ましな連中を見分けるこたあ、大事なんだ。


 その点じゃ、前までここを縄張りにしてた連中は外れもいいとこだったね。

 そいつらも、カシラが代替わりするまではまともなシノギをしてたけど。

 代替わりして、息子が後を継いだ後は酷いもんだった。

 妙にチンピラを増やしやがってね。そいつらが悪さをしてたんだ。

 場所代はちゃんと払ってるのに、因縁つけて金を巻き上げたりするのは序の口でさ。

 女には絡んで無理やり手を出す。

 勝手に飲み食いしやがっても金を払わねえ。

 挙句に文句を言った相手には、集団で乱暴しやがる。

 とんでもないチンピラ集団になりさがってやがった。

 息子が港の代官の後ろ立てがある奴だったから、好き勝手しやがっていたのさ。

 普通なら、別の組が出張ってきて縄張りを奪い取ってもおかしくないような状況が続いていたさ。

 でも、代官がいやがったからなあ。おかげで、木端役人が味方しやがるから、よその組も手を出せなくてね。

 おいらたちは、息苦しい生活をずっとしてたんだ。

 まあ、今じゃ、元に戻ったから安心して商売できるけど。

 

 もともとここの地回りでも、先代のころから真面目なヤクザもいたんだ。

 ちょっとした切っ掛けがあって、そいつがドラ息子から組を奪ったんだよ。

 おかげで、チンピラどもも一掃されてね、おいらも商売に精を出す気になるってもんよ。

 

 どうだい、もう一杯。おいらも喋りつかれてきたからね。おいらの分も出してくれると続きが喋りやすいんだけどなあ。

 へへ、悪いね。あんたいい人だ。


 そうそう、その切っ掛けってのが面白くて。

 あんた信じられるかい。

 たった1人の男が、地回り相手に、ヤサをぶっ壊してチンピラども全員を叩きのめしたんだぜ。ありゃ、凄い男だった。おいらも憧れるね。

 こう、ごっつい体をした20歳くらいの男でね。潮の匂いが染みついているから海の男だよ。額と左腕にカッコイイ刺青しててさ。

 名前? 

 格好よく見得を切って名乗っていたんだ、忘れるもんかい。

 ケンカイ・テラスミっていうんだ。その男。

 おいらも関係してくるんだけど、この話。詳しく聞きたいかい?

 え、いいのかい。

 そりゃ、立ち話も疲れるけど、そこまでしてもらうわけには、へへ、まあ、お言葉に甘えさせてもらうか。



 交易都市の港の一画で、林檎酒売りをしている少年は、その日豪華な食事をご馳走になった。

 そして、初めて食べる食事に夢中になりながら、自分の体験した事を話した。

 その話を聞いた綺麗な服を着た男は、食事が終わると満足した表情で礼を言い、そのまま去って行った。

 林檎売りの少年は知らない。

 去って行った男が、どこに行ったのかを。



 男は、港にある交易用の館のうち、一際豪華な館に入り、そこで自分の主に言った。


「お嬢様。お目当ての男を見つけました。

 名前まで確認しておりますの、間違いないと思います」

「そう、ありがとう」


 お嬢様と言われた少女は、にやりと口元を歪めた。


「逃がさないわよ。ケンカイ。わたしをバカした報いは受けてもらうんだからね」

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