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漁師と海竜 海原を行く  作者: 赤五
第四章 迷宮都市編(後編) 最深層に潜むもの
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第8話 旅立ち

 ケンカイ達が白い黒犬亭に戻ってきたのは、彼らが迷宮に潜ってから1ヶ月後の事だった。

 既に、白い黒犬亭ではケンカイ達・海熊の銛が全滅したという噂が流れており、戻ってきたケンカイ達を見た多くの探索者は、幽霊でも見たような顔をした。

 ちなみにユッキは、成長した姿を説明できないので、ハデスに教えられた別の通路から港の家に帰っている。案内役のハデスと、ユッキに付いていきたがったリオウもいないため、店に戻ってきたのは、ケンカイとリネスと鴎のジョナサンだけだ。

 大騒ぎとなった店の中、駆け寄ってきたのは鋼鉄の盾の面々だった。

 

「ケンカイ!、お主、無事だったのか」


 鋼鉄の盾のムロイが駆け寄り、ケンカイの肩を叩く。


「ムロイのおっさんも元気そうだな。というか、無事だったっていうのは何だ?。

 どいつもこいつも幽霊を見たような顔をしてるんだが。

 リネスがひと月前に、しばらく迷宮に籠っているって、報告しているだろう?」

「しばらくって、せいぜい一週間くらいしか思いませんよ。先生」


 サーシャが呆れたように言った。


「それから、全く音沙汰ないから、みんな、てっきり先生たちが迷宮で全滅したんだとばっかり。私達も探しに行ったのだけど、まるっきりわからなかったし」

「そういうもんかね」

「け、憎まれっ子世にはばかるたあ、この事か」

「お、バカ頭にしちゃ難しい言葉を知っているな」

「うるせー、メイさんが心配してたんだよ、あの人に心配かけるんじゃねーぞ」

「残念だったね、ラーリー。ケンカイが帰ってこなきゃ、あんたにも芽があったのに」

「あぁ? 何、バカな事いってるんだラーシャ。俺あそんなんじゃねえよ」


 騒がしい中、ケンカイはメイの姿を探した。

 ケンカイ達が居ない間、メイは傷の療養もかねて白い黒犬亭で寝泊りしている筈だった。

 だが、メイの姿は見えなかった。




「わははははは」


 ハデスは笑い転げた。

 

「いやあ、そういや、リオウくんの本体って何かに似ていると、昔からおもってたんだよ。

 そうか、アザラシだったんだね。ははははは」


 港の家に着いたハデスとユッキは、リオウの本体である大アザラシと対面していた。

 

「笑いすぎじゃ、ハデス」

 

 分体である猫のリオウが憮然と言う。リオウの本体は喋ることができないのだ。


「うん、尻尾があたいと似ている。やっぱり、あたい猫じゃなかった」


 嬉しそうなのはユッキだった。リオウの尻尾を見て納得顔になっていた。

 

「いやあ、笑わせてもらったし、さっそく竜の角をつけようか。そうしたら、少しは昔のリオウくんらしくなるかな。ぷぷぷ」

 

 ハデスは笑いながら、背負っていた荷物の中から竜の角を取り出す。

 地竜の本体から抜き取った角だ。

 その角を、リオウの分体である青い猫が咥えた。

 そして、本体の体を上り、頭部まで到達すると竜の角の根本部を額に押し付ける。

 すると竜の角が微光し、続いてリオウの体も微光を発する。

 微光は徐々に輝きを増し、光が文様を描き、リオウの全身を覆った。


「特に調整は必要無しじゃったな」


 そして、リオウの本体である大アザラシが喋った。

 竜の角の力を利用して、喋ることが出来るように声帯を調整したのである。


「うまく行ったみたいだね。少しは、昔の身体に近づいたかな。

 それにしても、やはり魔法の制御はリオウくんが抜群だよね。あれで調整が必要無いなんて言えるなんて、僕には無理だね」

「オヌシとは得意分野が違いすぎるからのう。

 まあ、なにはともあれ、竜の角は有り難い。礼をいうぞい」

「おや、リオウくんが素直に感謝するなんて珍しいね。これは、珍事が起きそうだ」


 おどけたように肩をすくめるハデス。


「そうであろうな。珍しい事とは起きるものよ」


 ユッキの声だった。だが、口調が、声の雰囲気が違う。


「このような所に、分体込みとはいえ竜が3名もそろうとは。

 妾も驚いて目が醒めてしまったの。

 久しいな。リオウ。それとハデス」


「マリアか」

「マリアちゃん?」


 それは、海竜マリア。情のマリアと言われた唯一の女性格の竜。

 そして、リオウ達をこの地まで連れ去った張本人でもあった。

 マリアが、ユッキの体を使って体現したのである。


「リオウ、そう警戒しないで欲しい。今の妾は人の意識を保てておる。

 竜の意識しかなかったあの頃とは違うのじゃ」

「どうやら、本当にマリアのようじゃのう。ユッキの意識はどうした?

 まさか、完全支配をしたわけではないだろうの」

「妾の娘を壊すようなことをするわけがなかろう。一時的に眠ってもらっておる。

 妾が去れば、元通りじゃ」

「ふむ、ユッキがワシの娘というのも本当なのじゃな?」

「この娘は、妾の唯一の本当の娘じゃ。その父親がリオウ以外にいるとでも?」

「ああ、じれったいなあ。というより、まどろっこしいなあ」


 突然、ハデスが口を挟んだ。


「マリアちゃん、ここは、古代魔法帝国の宮殿でも、キミの竜の宮でも無いんだよ。

 そんな、堅苦しい喋り方じゃなくて、昔の普通の喋り方をしてよ。

 権威を振りかざしておかないと駄目な連中なんて、ここには居ないよ」

「・・・・・」


 ユッキの体を借りたマリアが、暫く黙る。顔に赤みが差した。


「だ、だって、こういう喋り方しないと、あたし、リオウに合わせる顔がないんだよ。

 前、会ったときに、本体が酷い事・・・ばかりじゃなかったと思うけど、とにかく、いろいろしたんだからねっ。

 そのあと、リオウ全く会いに来てくれないし。寂しいからずっと寝てたけど、今度は寝ぼけて迷惑かけたみたいだし、あたしの契約者が暴走して変なことしてたし。リオウに嫌われちゃったら、あたし、あたし・・・」


 マリアは泣き出した。そこには竜の威厳を何もない、只の娘の姿があったのだった。


 メイが帰ってきたのは、夕方になってからだった。

 それまで、ケンカイはムロイ達と久しぶりに酒を飲んでいたのだが、メイが食堂に姿を現すと席を立った。

 そして、メイと一緒にメイの部屋に向かう。

 その様子をリネスはじっと見ていた。


「ご主人さま、メイさんどうするんだろう・・・」


 既に迷宮都市での目的は果たしたのだ。これからは、再びケンカイの故郷に向けて旅をするようになる。

 竜たちと古い因縁があるカリスという人物との問題もあるが、その人物がいるのもここからは遥か西。ケンカイの故郷に近い方向にあるのだ。

 リネスにはまだ、こういう男女の機微が絡むような事態の経験は無い。

 恋愛物語を見ているようなドキドキ感と、もやりとした不安感、それに嫉妬心。

 まだ、14歳のリネスにはこれらの感情をうまくまとめることができていなかった。



「ん、キミなら無事だと思っていたが、本当に無傷だな。

 いや、むしろ、傷が消えてないかい?」

「メイも、もうあの時の傷は大丈夫のようだな。ちょっと傷が残っているのが惜しいが」

「なに、軍人にとって、負傷の跡は名誉の勲章のようなものだよ。気にはしない」

「もう痛みはないのか?」

「ああ、ん、触っても大丈夫だぞ。こら、少しは遠慮しないか。ちょっと、そこは違う。あん」


そして、恋人同士の時間が終わり、お互いに余韻を楽しんでいる時に、不意にメイが言った。


「それで、キミの目的は達成できたのかな?」

「ああ、目当ての物は手に入れた」

「それはおめでとう」

「ああ」


 暫く沈黙が続く。


「なあ、メイ。お前がよければ・・・」

「先に言っておくが、ケンカイ」


 メイが割り込んで話す。


「私は、キミと一緒に行くことはできないぞ。私の生きる場所はチャンター共和国で、生きる道は軍人の道だ。

 いくら、私でも生きざまと趣味を交換することはしないのよ」

「・・・随分ときっぱり言うな」

「ああ、生まれた国の軍人として生きていく事は、私が幼い頃から自分でたてた誓いなのだ。こればかりは、曲げる気にはなれないし、そのつもりもない。

 それとも、キミが一生チャンターに残ってみるか?今なら私が養ってやるぞ」

「それは、無理だな」

「ん、そうだろう。それと同じことだよ」


 メイはケンカイの胸に顔を埋めた。


「それに、ケンカイのお蔭で、面白い手柄をたてることもできた。今はそちら関係の仕事も迫っている。遣り甲斐と生き様と責任を捨ててまで男についていくほど、私は殊勝な女ではないのだ。

 ・・・・・非常に残念だけど」

「うーむ、これって、オレがフラれたことになるのか?」

「私もキミを誘ってみたのにフラれたぞ。お互い様だな」

「そうか」

「そうだ。こういう時は、円満に別れたというべきだな」

「円満か」

「多少の後悔や未練が残っても、お互いすべきことをするために別れることを決めたのだから、円満だろう?」

「軍人生活がそれほどよさそうには思えないが」

「故郷に帰ることがそれほど大事だとも思えない」

「ふむ、見解の相違か」

「その通り。だから、円満に別れられるのだよ」

「なるほどね」


 ケンカイはメイを抱き寄せる。


「でも、まだ夜は浅いよな」

「ん、その通り、まだ時間はある。

 お互い楽しめる時間が、ね?」


 そして二人は体を重ねた。それは朝近くまで続くのであった。




 

「と言う感じでね。あたしとリオウはラブラブだったのでした」

「あ、はい」


 ケンカイ達を置いて港の家に帰ったリネスは、雰囲気がまるで違っているユッキと遭遇した。

 リオウ達の説明によると、東海母竜マリアがユッキの身体を操っているらしい。

 その説明を聞いたリネスは絶句した。彼女にとっては、その名前は怪物を操る親玉の名前である。

 それが、まるで普通の女の子のように喋ってくるのだ。

 しかも話す内容は、過去のリオウとの恋話だった。

 話す内容だけ聞くと、只の惚気話をするお姉さんである。

 

「ああ、リネスちゃんはいいなあ。ちゃんと人間の体を持ってて。もし、早死にしたら体をあたしにくれないかな。こんどこそ、ちゃんとした分体を作るから、ね」

「ね、じゃありません。不吉な事言わないでください!」


 時々突拍子もないことをいってくるが、まるで実害は無かった。

 

「マリア、いい加減にせんか。リネスも困惑しっぱなしではないか」

「いいじゃないか、リオウくん。照れくさいのはわかるけど、マリアちゃんにとっては久しぶりの話相手だよ。しかも同性のさ。ここで一緒に、キミの恋話を聞いていようよ」

「五月蝿いわい。このど阿呆が」

「なんか、リオウくんも昔のキミらしくなってきたねえ。僕も懐かしくなるな」

「ああ、リオウの昔の姿も見たいなあ。だって素敵だし。

 猫じゃなくて、人間の分体を作ったら、会いに来てよね。

 あたしも、寝ぼけてリオウに変なことしないように頑張っておくから」

「やはり、ワシらをここまで引っ張ってきたのは、寝ぼけておったのか」

「うん、だって、あたしの本体も何するかわからないもん。あたしはリオウに逢いたいってずっと思ってたの。でも、その思いを本体が受けると、変な事に成っちゃうのお。

 だから、あの時も、けっしてあたしの本意通りじゃないんだよ。そりゃ、リオウが契約者に女の子を選んだのは引っ掛かってたけど。

 あたし、そんなことで嫉妬するような女じゃないもん」

 


 じゃれる竜3名。

 内、惚気話を繰り返す竜1名。

 その間で、話を聞いているだけの人間1名。


 ボク、一体何をしているんだろう。と、リネスは思った。

 マリアは朝になれば、ユッキの体から去る事になるそうだった。つまり、朝まではこの調子ということである。


「それでね、リオウったら酷いの。あたしはちゃんとリオウの事を思って、お弁当とか作ってたのに、こんなもの食べれるかって、突き返されたことがあるのよ。女の子が頑張って作ったんだから、少々、まずそうでも食べるべきよね。

 でも、リオウったら、その後優しくて。

 自分で作ってきたお弁当をわたしにくれたの。これを食べて、もっといいものを作れるようになれって。

 でねでね、そのお弁当を一緒に食べたのよ。あたし達ふたりで。

 あたしが、あーんしてあげようとしたら、照れちゃって、周りを見回して、使い魔で偵察させてから、口を開けたりしてね。

 その様子が可愛かったから、思わずキスしちゃった。きゃ、恥ずかしい」


”リオウさん、これ、いつまで続くんですか?”

”すまぬ。マリアも久々に楽しんでおる様じゃ、今日だけは付き合ってやってくれ”

”え、えええー・・・”


 そして、リネスの拷問のような時間は朝まで続いたのだった。


「うー眠い。疲れた。頭が痛いよお。ボク、寝るからね」

「リネス、どうしたの?」


 一晩中、マリアの惚気話を聞かされていたリネスは、頭が綿になったようはふわふわした眠気に苛まれていた。


「えーとね、ユッキちゃんの両親はバカップルだったってことだよ」

「それなに?」


 ユッキにはマリアに支配されていた時の記憶が無かった。


「後で説明してあげるね。でも、今はボク、寝る。おやすみ、ユッキちゃん」


 ベッドにもぐりこむリネス。

 

「まあ、今朝は寝させておくのじゃな。疲れたじゃろう」


 猫のリオウが部屋に入ってくる。


「でも、あたい、お腹すいた」

「よし、わかった。ここは僕が作ってあげよう」


 一緒に入ってきたハデスが安請け合いした。


「オヌシ、できるのか?」


 ハデスが棲んでいた部屋の状況を思い出して、嫌な予感がするリオウ。


「大丈夫大丈夫。こう見えても、昔から料理はよくしたものだよ。僕が苦手なのは後片付けだけさ」




「それで、この惨状なのか」

「ケンカイ、お腹すいた」

「ははは、野外の料理が専門だったのを忘れてたよ」


 帰宅したケンカイを待ち受けていたのは、悲惨な状態になった台所と食材の山。

 それに、お腹が空いて動けないユッキだった。


「リネスはどうしているんだ?」

「まだ、寝ておるの」

「あいつにしては珍しいな。どこか体調でも悪いのか?」


 まさか、東海母竜が出現し、一晩中惚気話をして去って行ったとはケンカイに想像がつくわけがなかった。


「寝不足じゃよ。別にどこか悪いわけじゃないぞい」

「久しぶりに地上に帰ってはしゃいでいたのか?らしくないが」


 とりあえず、まだ使えそうな食材を選んで、適当に調理するケンカイ。


「ほれ、食べろ」


 野菜と魚を切って、油をいれて手早く炒めたものを、器にいれてユッキの前に置くと、ユッキが動き出した。

 ただの炒め物だが、ユッキは喜んで食べていく。


「その年頃になったんなら、もう少し綺麗に食べないとな」

「ワシの分はないのか?」

「爺さんも食べるのかよ」

「あ、僕のもよろしく」


 食い意地のはった2名の竜。

 ケンカイは諦めて、再び使えそうな食材を漁り始めた。

 


「えーと、ご主人さま、ごめんなさい」

「謝ることは無いが、片付けを頼む。オレも眠い」

「はい、わかりました」

「それと、荷物をまとめておけ。出発の準備だ。 

 そう考えると、余分な食材が全部だめになったのはいい切っ掛けかもな」

「はい、・・・・あの」


 リネスは訊きづらそうに尋ねる。


「メイさんは、どうするんですか?」

「あいつは、来ない。自分の生き様を変えることはできないそうだ」

「あ、そうなんですか」

「だから、円満に別れた。あとはお互いの道を行くだけだ。

 ・・・リネス」

「はい?」

「お前はついてくるよな?」

「はい、当然じゃないですか。ボク、ずっとついていきますよ。

 ご主人さまと一緒です」

「そうか」


 ケンカイはなんとなくリネスの茶色の髪を撫でた。

 しばらく、そのまま撫で続けてから、手を放す。


「それじゃ、オレは寝る。後は任せた」



”爺さん、オレの年齢を変えることは出来るようになったんだよな?”

”いきなりなんじゃ、竜の角が手に入ったからのう。当然、できるぞい。

 じゃが、海姫の雷号に帰らんと無理じゃぞ”

”わかった、船に戻ったら頼む”

”まあ、ハデスからも肉体的に最高の条件ではないと、カリスの相手はヤバいと言われておるからのう。もう少し年齢が上の方が良いじゃろう。急にどうしたのじゃ? ”

”この体は、リネスやユッキと齢が近すぎる”

”それがどうかしたかの?”

”いや、酒場とか娼館とかで、舐められるのが嫌なだけだ。じゃあ、頼んだぞ”


 ケンカイにとって、14歳の少女などは本来欲望の対象外である。

 実年齢25歳の彼にとっては、幼すぎるのだ。

 だが、15歳の少年にとって14歳の少女はどうだろうか。

 さきほど、リネスがずっとついていくと言った時に、感じた感情。

 ケンカイは、うっかり間違いを犯さないように、早めに歳をとっておくことを決めたのだった。



 そして、それから3日後。

 ケンカイ達は、海の家を処分すると出発した。

 白い黒犬亭の主人や、鋼鉄の盾のムロイ達が見送りに来た。

 メイは来ていない。既に別れは済ませたので、ケンカイは気にしなかった。

 メイはメイで、リリス絡みの軍の仕事で忙しいようなのだ。

 彼女は、これも切っ掛けにして、さらにチャンターの軍人として出世していくだろう。

 メイの決めたことに口出しをする気は、ケンカイには無かった。

 もちろん、寂しさを感じないというと嘘になるのだが。

 白い黒犬亭の店主は、最後までケンカイを引きとめたがっていた。彼にとっては店がここまで大きくなったのは、ケンカイのお蔭なのだ。

 それがなくても、優秀な探索者を確保して起きたがるのは、探索者の店の主人として当然のことである。

 だが、ケンカイの意志が固いと判ると、せめてもの選別にと、店においてある最上の酒を樽で渡してきた。ケンカイが、店の中でなにをしていたかよく判る選別で、ケンカイも喜んで受け取った。

 ケンカイ達の去った後は、筆頭探索者チームになる鋼鉄の盾の面々は、複雑な表情をしていた。

 彼らにとって、ケンカイは命の恩人であり、また探索のライバルでもあった。

 これからも一緒の店で、探索を続けていくと思っていたのも間違いない。

 なにしろ、ケンカイ達なら、この店で探索をするだけで、とてつもない大金を稼いでいく事が可能なのだ。

 それを捨ててまで、旅に出るということが、ラーリー達若い3人のメンバーには理解できなかった。

 だが、ムロイだけはケンカイが旅立つという話を聞いた後、無言で頷いた。

 ムロイは、ケンカイが金目当てで迷宮に潜っている探索者達とは違う行動をとっていることを判っていた。

 何らかの目的があったのなら、それを果たした後は当然旅立つものだ。

 ムロイは自身の体験でそれを知っていたのだ。

 ムロイは、故郷の酒を探してきて、大樽毎ケンカイに渡した。

 付き合いは短いながら、ケンカイを良く知っている男である。


 そして、ケンカイ達は旅立った。

 大角丸に乗って沖に出て、そこから海姫の雷号へ乗り換える。

 目指すは西。

 迷宮都市での冒険は終わった。

 そして、それは、新しい冒険の始まりでもあるのだ。

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