第3話 宿泊用魔法道具の登場
改稿しました。
”うむ、完成したぞい”
リオウからの念話がケンカイに入った。
当初の予定より大幅に遅れたが、遂に迷宮内宿泊用の魔法道具が遂に完成したのだ。
”ようやくか、爺さん、また凝りすぎたんじゃないのか?”
”そんなことはないわい。オヌシ等の要望が多すぎたのじゃ”
”そんなに注文を付けた覚えは無いんだが”
”持ち運びできる魔法道具に風呂をつけろというたのは、オヌシじゃろ”
”いや、あれは冗談だったんだが。本当に付けたのか。凄いな、爺さん”
”ふむ、なにせワシは、知のリオウじゃからな”
自慢げな調子の念話を返すリオウ。
”海竜であるワシの傑作品じゃ。これで迷宮の探索もはかどる事請け合いじゃな”
”そりゃ楽しみだ”
その日の夜、リオウ自慢の新しい魔法道具のお披露目会が開催された。
参加者は、ケンカイとリネス。ユッキはリネスの部屋で寝ている。
メイは、最近、軍の仕事が忙しい様で、罠の解除を習得する合間にいろいろと活動している。そのため、今日は港の家に帰っていなかった。
リオウを加えた三人なら、猫のリオウも憚ることなく喋ることができるということで、今が好機とばかりにお披露目および説明会の開催となったのだ。
表向きはケンカイが製作したことになるため、ケンカイは詳細を知っておく必要がある。
ケンカイ本人は、判らなきゃ念話で確認すればいいと、適当に思っているのだが。
「さて、それでは、ワシが開発した宿泊用魔法道具の紹介をするかのう」
分体である猫のリオウが、テーブルの上で胸を張って喋った。
「いや、爺さん。どこにもそれらしきものが無いが」
テーブルの上にそれらしい道具は載っていない。
部屋の中のどこにもそれらしい道具は無い。
「それと、ボク、リオウさんに言われて、この袋用意してきたんですけど。何に使うんですか?」
リネスが持っていたのは、大きな細長い袋だ。人間1人が中に入るほどの大きさがある。
「まあ、直ぐに判るわい。宿泊用魔法道具よ、入ってくるのじゃ!」
リオウが扉に向かって叫ぶと、扉が開き、何かが部屋の中に入ってきた。
「・・・爺さん。これ、服を着せたほうがいいだろう」
「ご主人様、そっちじゃありません。リオウさん、これ、海姫の雷号の船首像じゃないですか。なんで動いているんですか!?」
リオウは自慢そうに、歩いてきた少女の像の肩に飛び乗った。
「うむ、資材が足らなくてのう。丁度よかったので船首像をベースにしたのじゃ。
動いているのは、そうせぬと重いのでな。さすがに担いだまま探索をするわけにはいかぬからのう。なら、魔法道具事自体に動いてもらえばよい。
これぞ、自動人形型宿泊用魔法道具。
古代魔王帝国時代にも存在しなかったワシの傑作じゃ」
「ミナサマ、ハジメマシテ」
「きゃー、喋ったああ。なんですか、これ、これぇ」
「意志疎通が出来ぬと不便なので、会話機能もつけてみたのじゃが、やはり容量が限られておってのう。滑らかに喋らせることが出来なかったのが残念じゃ」
「ワタシハ、自動人形型宿泊用魔法道具デス。名前ハマダアリマセン。名前ハマダアリマセン」
「欲しいんですか?名前が欲しいんですか?リオウさん、この像、自意識ありますよ」
「自動人形だから当たり前じゃ」
「改めて見ると、ミトア姫に似ているんだな。この船首像。本人より胸がだいぶ大きいが」
「ご主人さま、どこ見ているんですか。助平です。触らないでください」
「触った感触は木のままか。どうやって動いているんだこれ?」
「ふふふ、魔法技術の結晶じゃよ。詳しく説明するとじゃな・・・」
「いや、聞いても判らんから、説明はいらん」
「なんと、ワシの話を不要とは。こういう薀蓄を語るのは、魔法技術者にとって至高の時だというのに・・・」
悔しそうなリオウ。混乱しているリネス。平然としているケンカイ。
3人に囲まれた自動人形型魔法道具は、ミトア姫に似た面影の顔の表情を変えることなく言い続けた。
「名前、マダアリマセン。名前、マダアリマセン」
「とりあえず、お前の名前は海姫だ」
「ご主人さま、ものすごく安直だと思います」
「魔力提供者ヨリ命名サレマシタ。以後、ワタシハ自分ヲ海姫ノ名前デ認識シマス」
「魔力提供者がオレってどういうことだ?」
ケンカイは猫のリオウに尋ねる。
「こやつ、今は海姫か。海姫は魔力を馬鹿食いするでのう。ワシにあったオヌシとの契約魔法回路を調整して、オヌシの魔力を直接吸い上げるようにしたのじゃ」
「なに、勝手な事しているんだ。それにしちゃ、特にオレは変わった感じがしないが」
「いつも言っておるだろう。オヌシの魔力は出鱈目じゃと。海姫に提供するくらいの魔力では、オヌシの体調が崩れる心配なぞないわい」
「ちなみに、リネスが魔力提供してたらどうなる?」
「寝込んで動けなくなるじゃろうな」
「ご主人さまの魔力って本当に底なしですよね。
魔法使いとしては、羨ましいです」
「オレは、魔法使いじゃないけどな」
「こやつの魔力は超人的じゃ、比べても仕方ないぞい。ワシの知っておる限りだと、遥か昔に1人似たような魔力量の奴がおった程度じゃ。もっともそいつは魔法使いだったがの」
「爺さんの昔って、何百年前なんだよ」
「さあのう、500年よりは前じゃな」
リオウは嫌な記憶を思い出して、思わず顔を顰めた。猫の顔で器用なことである。
「まあ、そんなことより、海姫に何ができるか説明するぞい。まあ、実際は迷宮の中に入らぬと機能の確かめようがないのじゃが」
「ちょっと、待て。さすがに、これを連れていくと目立つだろう」
動く木の人形。現代において、そのような物を作る技術は失われている。
人目に付くとトラブルの元になる可能性が高い。
「迷宮の奥に行くまでは、担いでいけばよいのじゃ。そのためにリネスに袋を用意させたのじゃ」
「袋ってこれか?・・・爺さん、これ死体袋じゃないか」
迷宮などで死亡した探索者を運ぶのにつかわれる細長い袋。通称、死体袋。
中身入りの死体袋を迷宮から運び出すことはあっても、運び入れることなど無い。
「サイズ的に丁度いいと思ったのじゃが。何か問題でもあるかのう?」
リオウは不思議そうに尋ねた。
これ以降、白い黒犬亭の探索者が見たケンカイの不思議な行動の中に、迷宮に入るのに中身入りの死体袋を持ち込んでいるという項目が追加されるのだが、その程度を不審に思う者は既にいなかったという。
「ん、また変な物を作ったな。まあ、キミのやる事だ。いまさら驚きはしないが」
「硬いのに動く。不思議」
翌朝、目を醒ましたユッキと朝帰りしてきたメイは、自動人形型宿泊用魔法道具・海姫と対面した。
喋って動く木の人形を見た割には、両者とも落ち着いている。
「ハジメマシテ。ワタシハ海姫デス。今後トモヨロシク」
ぎこちない礼をする海姫。上半身は裸の像だったのだが、今はリネスの手によって胸の部分に布が巻かれていた。
海姫の雷号の船首像として飾られているときは気にならなかったのだが、身近で動かれていると木製とはいえ少女像の胸が晒された状態は気になる。
しかも、自動人形の顔は世話になったミトア姫に良く似ているのだ。
リネスにとっては、非常に気まずい事態だったので、急いで布を加工して胸に付けたのである。
「それで、ケンカイ。この海姫は何ができるんだ?」
「ああ、まだ迷宮で試してないので確実に作動するかどうか判らないんだが」
ケンカイは、昨日のリオウの説明を思い出しながらメイに話す。
「迷宮内の結界と魔法回路を利用して、宿泊可能な空間を作り出すことができる。
具体的には、宿泊空間内への怪物の発生防止および侵入の防止だな」
「それじゃ、この人形を連れて行けば一切怪物に会わなくて済むのか?
ん、それは凄いじゃないか」
「いや、そこまで便利なのは無理だ。移動中は空間の維持が出来ないらしい」
「らしい?」
「いや、出来ない」
つい口が滑るケンカイ。製作したのはケンカイという事になっているのだ。
「まあ、あれだ、実際迷宮で試していないからな。ちょっと自信がなくて曖昧な言い方をしてしまった」
「そうなのか」
苦しい言い訳だが、メイは特に気にしなかった。
「それで、宿泊空間の中には、風呂からトイレ、炊事場まで全部そろっている」
「おお、それは凄い。是非試してみたいものだ。ここで、試しに稼働できないのか?」
「えーと」”爺さん、出来るのか?”
”ここでは無理じゃの。迷宮の中で作動するように作ったからのう。海姫の雷号の中でなら展開可能なのじゃが”
「ここじゃ、無理だ。試しに久しぶりに迷宮に潜るつもりでいる」
準備を整えるために、20日ほど迷宮に潜っていないケンカイ達であった。
もちろん一番の要因は、この宿泊用魔法道具の完成が遅れたことである。
「ご主人さま。今日はどこまで潜りますか?」
「20階層だな。そこで一泊してみて問題なければ次の日から21階層の探索をする」
「それじゃあ、食料とか多めに用意しておいた方がいいですね」
「食べるもの。大事」
ユッキがコクコクと頷く。
「美味しいと嬉しい。あたいも手伝う」
「途中でつまみ食いしちゃ駄目よ。ユッキちゃん」
「・・・努力する」
残念そうなユッキを連れて、リネスは台所に移動した。これから持っていく食料を選ぶようだ。
「選び終わる前に無くならなきゃいいけどな」
「ん、まさか。と言いたいが、ユッキがいると不安になるな」
メイは台所の方向をちらりと見てから、ケンカイに近寄る。
ケンカイに抱き着き、耳元で囁く。
「実は、少し話しておきたいことがあるのだ。
・・・誉れの剣の事だ」
誉れの剣は、鳳凰亭から白い黒犬亭に移籍した探索者チームだ。
ただし、鋼鉄の盾と同じく、今の体制となる前に体験移籍をしていたチームである。
ムルガルという男と、リリスという少女の二人組のチームだった。
「なんだ?」
「リネスとユッキでは、腹芸などできそうにないからな。ん、キミだけに話しておくが、もし二人にも話す必要があると思うなら、キミから話してくれても構わない」
「難しそうな話だな」
「面倒な話でもある。だが、聞いておいてほしい」
メイは話始めた。
「我が軍の情報部がマークしている人物が、剣の誉れにいる。リリスという女だ。
ん、あの小柄な美少女だな。本当に少女がどうかは判らないが」
「ムルガルは関係ないのか?」
「ああ、彼はただ故郷の国での王座略奪を狙っているだけの人物だ。我々にとっては害のある人物ではない。むしろ、ラシア王国の政情を考えると密かに援助したい人物だな」
「キナ臭い話だな。そのラシア王国ってのはどんな国だ?」
「チャンターとヒンディアに挟まれた小国だ。最近はヒンディア派の勢力が強くて、我らとしては煙たい存在だな」
「ふむ、それで、なぜリリスをマークしているんだ?」
「キミになら信じてもらえるかもしないが。
情報部がリリスという少女をマークしだしたのは最近ではない。
30年前からマークしているらしい」
「じゃあ、あの女は本当は30歳以上か。随分若く見えるな」
「ああ、30年前も若く見えたそうだ」
メイは腕を組んだ。
「その時も20歳前の少女に見えたそうだがな」
メイは詳しい話をケンカイに説明し始めた。
その内容は奇妙で、にわかには信じがたい内容であった。
リリスという少女の存在が確認されたのは30年前。
チャンター共和国の国境付近にある街に、彼女は現れたという。
規模はさほどではないが、歴史は古い街だったそうだ。
今、その街は存在しない。
彼女が現れてから、数日の内に住民同士が殺し合いを始めた。
そして、あっという間に大量の血が流れ、街は死体に覆われた。
街を逃げ出して生き延びた住民たちの話で、浮かび上がってきたのが小柄でグラマーな美少女の姿だった。
彼女は、街に現れると、多くの街の男に話しかけた。
話しかけた内容はいろいろあったが、話の結末は同じだった
「何かあったら、私を守ってね」
女にいい顔をしたい男たちは、特に考えもせず安請負した。
所詮、口だけの約束だと思って。
そして、数日後。彼女に話しかけられた住民が、他の街の住民を殺し始めたのだ。
きっかけは、リリスが街の子供をいきなりナイフで刺したことだった。
リリスを捕まえようとした人間達の前で、リリスは言った。
「約束は果たしてね。さあ、私を守って」
そして、その街は亡びたのである。
「というような事があったようなのだ」
「本当か?」
「ああ、そしてその後も、似たような事件が数回起きている。
ただ、後から起きた事件ほど、リリスの確認が難しくなっているようなのだが」
「手口が巧妙になったってことか?」
「そういうことらしい」
にわかには信じがたい話にケンカイは戸惑う。
「そのリリスって女の目的は何だ?」
「それを知りたい。どうも、単独で行動しているというより、背後に何らかの組織の影が見えるらしい。だから、今回は泳がせているようだ」
「うーむ、それでオレに何をしろと?」
「いや、特にしてほしいことは無いのだが、あの女が接触してきているのは確かだ。
用心しておいてほしい。30年前の話が事実で、キミが迂闊に操られるようなことになったら、誰が止められるんだ」
「それで、あの時、やたらと話に絡んできたのか」
鋼鉄の盾を救出した後の酒宴での出来事をケンカイは思い出した。
「あと、キミの様な強力な魔法使いなら、なにか心当たりがあるのでは無いかと思ったのも事実だ。リリスの使ったらしい妙な力の正体とか、対策とか、どうだろう?」
”爺さん、心当たりはあるか?”
”うーむ、その話が事実なら、女が使ったのは制約術か。また特殊な魔法じゃのう”
”対策は?”
”オヌシなら心配いらぬぞ。魔力の絶対量が違いすぎるからのう。魔法を掛けようとしてもまずかからんわい。ワシとしては、その女の背後におるという組織の方が気になるのう”
「オレに関しては心配無用だと思う。一応用心はしておくが」
「ん、そうしておいて欲しい」
扉が開いてリネスが荷物を抱えて戻ってきた。
どうやら準備は終わったらしい。
そして、ケンカイに抱き着いているメイを見た。
「メイさん、朝から、そんなことしないでください!」
「ん、そんなことってどんなことだい?」
「ど、どんなことって、その、そんな事です。もうっ」
「さあて、お姉さんにはリネスちゃんが思った事が判らないなあ。もっと具体的に言ってみて欲しいなあ」
「そ、そ、そんな事言えませんっ」
真っ赤になるリネス。
「ん、やっぱりリネスちゃんは可愛いな。初心な反応がなんとも言えない」
メイは、ケンカイから離れた。
「では、私も用意をしてくるか。ケンカイ、先ほどの話は忘れないでくれ」
「ああ、わかった」
ケンカイも席を立つ。
リリスの件が、嘘か本当かは判らない。
また会うことがあったら、その時考えればいいか、と思っていた。
それよりも今は、自動人形型宿泊用魔法道具への興味の方が強い。
ケンカイも、迷宮探索の準備をすべく自室に戻った。
この時、ケンカイは知らなかった。
リリスとの対決が、まもなく行われるということを。
”よし起動させて見るのじゃ”
その後、ケンカイ達は20階層で探索を行った。
自動人形型宿泊用魔法道具・海姫は、20階層の入口からは自分でケンカイとリネスの間を歩いている。
リオウ曰く、戦闘能力はほとんどないが頑丈なので盾代わりにはなる、という事なので、メンバーの中で一番打たれ弱いリネスを庇うために、その位置に配置することとなったのだ。
そして、20階層での探索も制限時間間近になった頃、ケンカイ達は迷宮の一角にある部屋の中にいた。
これから、海姫の起動試験を行うためである。
”これまでの所は運用するのに問題ないのう。あとは、肝心の性能じゃな”
”そっちの方が重要だろ。最初に試せばよかったんじゃないか?”
”連れていく事ができぬなら、宿泊用機能があっても運用できぬじゃろ”
今までの所、迷宮の中を探索するのに海姫を連れて行っても特に問題は起きていない。
海姫は相当頑丈であった。20階層に出現する怪物相手では傷もつかない。
もっとも、攻撃能力が不足しているので、海姫も相手を傷つけることはできないが。
”まあ、いい。とりあえずやってみるか”
ケンカイは、海姫に命令した。
もちろんリオウから教わった内容そのままである。
「結界を展開」
「魔力提供者ノ命令ニ従イ、結界ヲ展開シマス」
海姫は部屋の隅に移動すると、胸を覆っていた布を外し、胸の前で手を合わせた。
船首像として船に飾られていた時と同じポーズだ。
次の瞬間、海姫の背中が裂けた。
避けた断面から、太い水晶の様な杭が複数飛び出し壁に突き刺さる。
「コノ部屋ノ、制御ヲ迷宮カラ切リ放スコトニ成功シマシタ。
続イテ必要設備ヲ形成シマス」
部屋の床が変形し、盛り上がっていく。
それは、あっという間に形を変えて完成していく。
厨房設備、風呂、トイレ、ベッドが床から生えるように部屋の中に作られた。
その様子をケンカイ達は、一目でみることができた。
”うむ、成功じゃな”
満足そうなリオウ。完成した設備はどれも一流と呼ぶに相応しい物だ。
どれもが、一目みただけで高級感にあふれ、使い勝手のよい上質のものであることが判った。
「ん、ケンカイ、キミは散々否定してきたが・・・」
メイが部屋の様子を眺め、ケンカイに真剣な表情で尋ねた。
「やはり、何だ。女性が用を足すところとか、風呂に入るところを見たいという願望があるのか?」
「ご主人さま、これは酷いです。セクハラです」
「見通しがいいから、あたいは好き」
全ての設備は良質で一流の物だった。
それが一目で見える部屋。
厨房設備にも、風呂にも、トイレにも、ベッドにも。
全ての設備は、迷宮の部屋に完全な状態で形成されていた。
ただし、設備同士を隔てる壁は無い。
どんな設備を使っても、全てが丸見えの部屋。
それが、海姫の造りだした宿泊空間であった。
”爺さん・・・、オレを変態にしたいのか?”
海姫は、ケンカイが作ったことになっているのだ。
このプライバシー皆無の部屋が、自分の趣味だと思われたく無いケンカイだが、だからといってリオウの事をばらすわけにもいかない。
”うーむ、そういえば、そういうのを恥ずかしがる感覚というものも、人間には有ったかのう”
”すぐに、壁を作れ”
”海姫を改造せぬと無理じゃ”
”じゃあ、今回は失敗ということだな。結界を解除するのも、命令すればいいのか?”
”いや、一度結界を展開すると6時間はこのままじゃぞ。途中で解除するなら、海姫を壊すしかないのじゃが、何が起きるか判らんぞい”
”なんだ、それは。なんで、そんな不便な仕様になっているんだ”
”解除の時も展開の時と同じく魔法を使うのじゃ。元の状態にしておかぬと、どんな揺り返しが迷宮からくるか判らんからのう”
”それで?”
”問題は、魔法の形成時間での。これは、儀式魔法に近い高度な遣り方なのじゃ。
魔力を使って魔法を形成するまでに相応の時間が必要となるわけじゃ。
今、海姫は体内で解除用の魔法陣を作っている最中じゃ。
それが完成するまで動けぬし、必要な時間が大体6時間というわけじゃ。
儀式魔法というのは、そもそも体内の魔法回路だけでは魔法を形成できぬ時に使われる手段の一つでの、本来なら大きな魔法陣を描いてから実行する場合が殆どじゃが、この海姫はワシの超絶的な技術によって、それと同じことを体内で行うことが出来るようになっておる。これは元々の素材の良さに加えて・・・”
”ああ、もう説明はいい”
途中から理解できない話になってきたので、ケンカイは念話を止めた。
「まあ、なんだ。6時間はこのままの状態が続く。
怪物が部屋の中に沸いたり、外からこの部屋に入り込むことは無い筈だ」
「ん、つまり、ゆっくり寛げるという訳だな」
メイは部屋の中を見回した。
「迷宮の中で、寛げる場所を作り出すか。
やはり、キミは凄い魔法使いだな。ケンカイ」
「ケンカイ、凄い」
感心した様子のメイとユッキ。二人は部屋の中の設備をいろいろと弄り出した。
”ご主人さま、事前に気付かなかったんですか?”
”爺さんに任せっぱなしだったからなあ。リネスこそ爺さんが作るときに手伝っていたんだろ。判らなかったのか?”
”試験的に起動させる時は、危険かもしれないっていわれて部屋の外に出ていたんです”
「おお、ちゃんと湯が出るぞ。どこから水が来ているのか知らないが、凄いな」
「お風呂広い。あたい嬉しい」
「ん、せっかくだ。迷宮の汚れを落とすか」
「お風呂、入る」
「え、ちょっと、二人とも。このお風呂、外から丸見えなんですよっ」
「丸見えといってもな、居るのはケンカイだけだ。ん、私には今さらだな」
「あたい、ケンカイと一緒に入りたい」
「ユッキちゃん、何を言ってるんですか。ダメです。ダメ」
「じゃ、リネスと一緒に入る」
「え?」
「ん、決まりだな」
メイはにやりと笑った。
「そういえば、リネスと一緒に入るのも久しぶりだ。ん、お姉さんがどこまで成長したか確かめてあげよう」
「あたい、メイと入るの初めて」
「ああ、そうだったな。ユッキは風呂が好きか?」
「広いと嬉しい。泳げる」
「ユッキちゃん、泳いじゃダメ」
ユッキの場合、泳ぐという時は脚を尻尾に変化させるのだ。
そうなると、メイにユッキが人魚であると知られてしまう。
”リネス、ユッキの傍にいろ。うっかり尻尾を出されるとまずい”
”う、うう・・・判りました。でも、こっちを見ないでくださいね。ご主人さま”
”ああ、判っている。オレ《・ ・》は見ない”
「ユッキちゃん、ボクも一緒に入るから。泳いじゃダメだからね」
リネスはケンカイの視線を気にしながら服を脱ぎ風呂に入った。
ケンカイは、とりあえず厨房の機能の確認も兼ねて料理をしている。
その様子を横目でみながら、風呂につかるリネス。
昔はそこまで気にならなかったのだが、1年前にケンカイが若い姿になってからはどうしても意識してしまうのだ。
リネスも14歳。そろそろお年頃である。
「おお、リネスも少し育ったな」
「メイさん、声大きいです声」
「でも、あたいより、小さい」
「同じくらいでしょっ ユッキちゃん」
「ん、確かに・・・いや、年齢を考えるとリネスの惨敗か」
「ボク、今成長中なんです!」
「うんうん、早くお姉さんくらいになるのだ」
「メイさんだって、言うほど大きくないじゃないですか」
「そのかわり、いい形をしているだろう。これぐらいが丁度いいのだよ」
「何が丁度いいんですか?」
「ん、揉むのに」
「胸を揉むのか?なんで?」
「ゆ、ユッキちゃんは知らなくていいの!」
”おなご連中は五月蝿いのう”
”あいつら、オレがいるの忘れて無いか?”
”楽しそうでよいではないか”
”それにしても・・・”
ケンカイは料理をする手を止めた。
”爺さん、何でユッキばかりみてるんだ? やっぱり何か隠していないか?”
”・・・オヌシ、ワシの目を通して見ておったのか。やはり助平な奴じゃのう”
ケンカイとリオウは感覚の共有が出来る。もっとも普段はそれをするのはリオウの方なのだが。
”誤魔化すのはいい加減にしろ。爺さん”
”・・・別にオヌシが知る必要はないことじゃ”
”何か隠しているのは認めるんだな”
”まあ、そうじゃの。じゃが、言いたくもないし、オヌシが知っておくべきでもないことじゃ。もし、あの娘っこがワシ達の邪魔となるようなら、ワシが処分する”
”ユッキに甘すぎる爺さんに、そんなことができるのか?”
”オヌシが、あれだけ懐かれていざという時に処分できるとは思わんでな”
”まあ、むしろ邪魔するかもな”
”・・・オヌシ、やはりワシの影響がでておるのう”
”どういうこった?”
”お互い様というやつじゃ。気にするでない”
”ご主人さま、どうしたんですか?”
リネスからの念話がケンカイに届く。
料理をする手が止まっていることに気付いたのだろう。
ケンカイの視線を気にしていたからこそ気付けたのだが。
”ああ、なんでもない。
それより、少しは成長しているな。胸”
”い、いつ見たんですか。セクハラです。ばかあ”
リネスは慌てて浴槽に身を沈めた。
もっとも、ユッキが猫のリオウを浴槽に引き込んでいるので、実の所意味が無いことには気づいていないリネスだった。
「ん、ベッドも一つしかないのだな」
「大きいベッド」
「え、まだ寝なくても大丈夫だよね」
「ん、寝心地を試す必要があるだろう」
ケンカイの用意した食事を食べた後、メイとユッキは部屋のベッドに飛び込んだ。
「おお、ふかふかだ。スプリングの硬さも丁度いいな」
「あたい、眠い。リネス、一緒にお昼寝」
ユッキは、早速横になるとリネスを手招きする。
「ボクは、ご飯の後片付けしないと」
「じゃあ、ケンカイ。一緒にお昼寝」
「一応、海姫の試運転だからな。寝る訳にはいかん」
万が一、リオウの製作にミスがあって部屋の中に怪物が沸いてくる可能性を考えると、眠るわけにはいかない。
「ん、ユッキ。私が添寝してあげよう。一応あの二人より柔らかいぞ」
「ケンカイかリネスがいい」
即答するユッキ。さすがのメイも少しへこんだ。
「・・・というわけだ、二人ともユッキの希望だ。さっさと、ベッドに入ろう」
「だから、寝る訳にはいかないんだが」
「ん、寝なければいいだろう。横になるだけなら問題ない。ほら、リネスも」
「ボクは、片付けが・・・」
「そんなの、ユッキが寝付いた後でやればいいだけだ。さあ、みんなでベッドの感触を確かめよう」
「なんで、そんなにノリノリなんだ。お前は」
「ははは、年下の少年少女と一緒のベッドで同衾できるチャンスを逃がすわけにはいかない。ん、リネス、そっちの意味じゃないぞ。一緒に眠るだけだ」
真っ赤になって後ずさったリネス。
ケンカイは、ベッドに上がり、ユッキをメイから離して自分の横に置く。
「お前の横に置くと、ユッキが心配だ」
「むう、これだと普段と同じではないか。リネスはお姉さんの隣に来てくれるよね」
リネスはユッキの隣に行った。
ユッキは、ケンカイとリネスに挟まれて嬉しそうだ。
しばらくニコニコしていたが、直ぐに目がとろんとなって眠ってしまう。
「ユッキちゃん、本当に寝つきがいいなあ」
「メイも寝てるな。呑気な事だ」
「あの、ご主人さま・・・」
「何だ?」
「ボクもしばらく、ここにいていいですか? 片付けは後でしますから」
「リネスも眠くなったのか? まあ、オレが起きているから好きにしろ」
ケンカイは身を起こそうとしたが、メイが腕にしがみ付いていた。
幸せそうな寝顔を見ると、無理やり引き剥がす気にもならないケンカイ。
「うーむ、いざとなったら放り投げりゃいいか」
武器は手の届く範囲に置いてある。ケンカイは起き上がるのを諦めた。
そして人の体温を感じながら、ベッドに横になっているとケンカイにも眠気が押し寄せる。
”おい、爺さん”
”なんじゃ?”
”何かあったら、起こしてくれ”
”何も起きぬよ。ワシが作ったのじゃぞ”
”そりゃ、頼もしい”
そして、ケンカイも眠ってしまった。
リオウ特製のベッドは、抜群の寝心地を発揮することを証明したのだった。




