第6話 剣の誉れ
メイ大尉。監察局所属ユエンディー監査部部長。
男は本部から送られてきた資料を思い出しながら接触の機会を待った。
数々の功績を立て、21歳でありながら大尉に昇格した期待の若手女軍人。
独特の発想と型破りの行動力を持つ。強引な手法を好み軍規を破る事も多いが、挙げてきた成果で周囲を黙らせてきた女。
監察局局長の懐刀とも噂されている彼女が、何の目的も無くこの地に来たとは考えられないというのが、チャンター諜報部の本部から送られてきた見解だった。
事実、メイ大尉はユエンディーに派遣された諜報員である男がマークしている人物と、自然な接触が可能な立場になっていた。
正直、どんな手段を使ったのか、男には判らなかった。
メイ大尉の様子を見ながら、男はさりげなく決められた合図を送った。
白い黒犬亭の食堂の中に、表向きには探索者として活動をしている諜報部の男は、視界の隅にいるメイ大尉が席を立ち、手洗いの方に向かうのを確認すると、ごく自然に立ち上がり後を追った。
事前に教えられていた諜報部からの合図を受け取り、メイは驚く。
秘密主義の諜報部が、監察役である自分に接触してくるとは思っていなかった。
一体何の用だ、わざわざ挨拶に来るような殊勝な連中ではない筈だが、と思いながらケンカイ達と鋼鉄の盾のメンバーが同席しているテーブルから離れた。
「どうした?」
「ん、花摘みだ。少々飲み過ぎたようだ。漏らさない内に行っておく。
まさか見たいのか?やはり、キミにはそんな趣味が・・・」
「さっさと行って来い」
手洗いの方に向かうと、背後から誰かが近づいてくる気配がした。
その行動を不審がっているような雰囲気は周囲にはない。
場に溶け込んだ自然な動きだった。
周囲に人気が無くなると、その男が話しかけてきた。
小さな声、少し離れるだけで聞き取れなくなる指向性のある喋り方だ。
男は自分が諜報部のものであることを告げると、探るような目でメイを見ながら言う。
「それにしても、こうも早く我々がマークしている人物と自然に接触できるようになっているとは。さすが、監察局局長の懐刀の仇名は伊達ではないようですな」
「そんな風に言われているのか。意外だな」
「ご謙遜を。今回の合図に応えてくれたという事は、協力していただけると思ってよいので?」
「協力の内容による。先に確認しておきたいのはキミ達は誰をマークしているか、だ。
鋼鉄の盾のムロイは、おそらくヒンディア帝国の近衛隊出身のようだが、彼かな?」
「ムロイについても調査済でしたか。奴は近衛隊を退団してからヒンディア帝国とは一切接触しておりません。完全に切れています」
「だろうな、それではキミ達は誰をマークしているのかね?
きちんとキミの口から確認しておきたいのだが。互いの為にね」
「我々を信用していないと?」
「当然だろう」
「慎重なことですな」
本当は慎重ではなく、誰をマークしているのかメイには判らないだけだった。
ムロイの素性についても、盾の使い方から推測したハッタリである。
何しろ彼女は左遷されてここに来ているのだ。この都市の情報など最初からほとんど持っていない。
なのに、なぜか局長の懐刀呼ばわりされて、過剰評価されている。不思議なものだとメイは思う。
外部から見ると、今までの彼女があげてきた成果はそう警戒されるだけのものがあるのだが、彼女自身の自覚は薄かった。
だが、メイもチャンター共和国の軍部での成功に人生を捧げている女である。
功績を立てるチャンスがあるなら、逃がすつもりはない。ただし、ケンカイに迷惑がかかるようであるなら、うまく誤魔化すつもりではあるが。
「我々がマークしているのは、鋼鉄の盾ではありません。剣の誉れです。
協力していただけますか?」
剣の誉れのリーダー・ムルガルは、鳳凰亭にいた。彼が正規に所属している探索者の店だ。
そして、中年の男の探索者と同席し話をしていた。
「それで、使えそうな人物はおりましたかな?。若」
「若はやめてくれ。ここでは国のことは関係ない」
「おお、そうでした。久々にお会いするので、つい昔の癖が」
「久々とはいっても、3日ほどではないか。何を大げさな」
「それほど、心配しておったのです」
中年男は、本気で心配していたらしい。
「なにしろ、リリスと一緒ですからな」
「まだ、あいつを信用していないのか?」
「有能なのは認めますが、ムルガル様への態度や、普段の言動を見ておりますと」
信用できません、と言いたげに肩をすくめる中年男。
「誉れの道は、ムルガル様が居なくなっても順調に活動を続けています。
15階層への道が見つかるのもそろそろかと」
誉れの道は、中年男が現在のリーダーを務める探索者のチームである。
元のリーダーはムルガル。
「白い黒犬亭では、20階層まで発見されたようですが、本当ですか?」
「事実だ。しかも、そこまでの道を店の主人も正確に把握している。あの少年は隠し事をしないらしい」
「こちらに協力してくれそうな人物ですか?」
「リリスの見立てではやめておいた方が良さそうだ。私の手に負える人物では無いらしい」
「それは残念なことです。しかし、20階層ですか。この短期間の間にそこまで行くとは恐ろしい人物のようですな」
「代わりに、彼の奴隷である少女を誘ってみたのだが、乗り気ではないようだ」
「奴隷ですか、誘う価値があるのですか?」
「使い魔を使いこなしている魔法使いだ。できれば、私の仲間に引き込みたかったのだが、この2,3日の様子を観察したところ脈は無さそうだ。
リリスも同じ結論だよ」
「魔法使いですか。なるほど、それではその少年も簡単には手放さないでしょうな」
「国に帰った時のための資金も順調に貯まっている。私の戦力の中核となる人材もそろってきている。今回はうまくいきそうにもないが、まだこの都市には優れた人材が居るはずだ。もう少し、今の努力を続けよう」
「誉れへの道のメンバーも実力をつけてきておりますぞ。
私もうかうかとしておれません」
「それは頼もしい」
ムルガルの正式名は、ムルガル・ラシア。
チャンター共和国とヒンディア帝国に挟まれた小国の王族の出身だ。
地政学的に両大国に挟まれたラシア王国は、どちらの国に協力するかで常に揺れ動いてきた歴史を持つ。
その中で、両大国と対等の関係を結ぼうとした派閥があった。
ムルガルの父親、ラシア王国の第2王子がその筆頭だったのだが、10年ほど前に政争に敗れて死んでいる。
ムルガルは直臣であった中年の男に助けられて国を脱出し、自由都市であるユエンディーに逃げ込んできた。
ムルガルの目的は、ラシア王国への帰還。
そのために必要な資金や、仲間を求めて探索者を続けているのだった。
ケンカイ達は、鋼鉄の盾のメンバー達と同じテーブルを囲んでいた。
鋼鉄の盾のリーダーであるムロイからの誘いだった。
今回のサーシャの件に関する礼らしい。
あらかじめ、メリッサに頼んでおいたらしく、普段は食堂で提供していない筈の料理もたくさん出てきた。
酒も珍しい種類の物も用意しているらしい。
高級品らしき酒瓶も多い。既に、それらの酒瓶は封を切られ、主にムロイとケンカイの胃の中に消えていく。
もちろん、いつもの通り、ケンカイは氷を供給していた。
ユッキは相変わらず旺盛な食欲を発揮し、猫のリオウもその傍でいろいろと食べている。
リネスは、自分も食べながら、周囲に気を使う事を忘れない。
完成した料理を運ぶのを手伝ったり、グラスに酒を入れて渡したりしている。
メイは手洗いに行ったまま戻ってきてなかった。
鋼鉄の盾のメンバーの態度は、極端である。
友好的なのは、ムロイとサーシャ。
非友好的なのは、ラーシャとラーリー。
特に赤黄頭のラーリーは、ケンカイを時折睨んでいる。
「しかし、儂も長い間、探索者をしておるが、海熊の銛のようなチームは初めて見るな」
「そうなのか?」
「うむ、魔法使いが二人おる時点で、既におかしい。儂らもサーシャが所属しておるが、1人でも他のチームに羨ましがられておるからの」
「魔法使いくらい、どこにでもいるだろう」
「おるわけがなかろう。少なくと使い物になるほどの腕の持ち主はな」
「まあ、魔法なんざ、使われる前に殴り倒してしまえば関係ない。
普通の魔法なんかあっても、少々便利くらいだと思う程度だな」
「そういうものかのう」
そのような会話を繰り返していると、酒を飲んで自制心が薄れてきたのかラーリーがケンカイに絡んできた。
「てめえ、さっきからムロイの兄貴にタメ口ききやがって。俺様はともかく、兄貴を舐めてやがったら許さねえぞ」
「よさぬか。ラーリー。ケンカイ、すまぬな。事前に言い聞かせておいたのじゃが、自分が20階層に連れて行ってもらえなかったので、拗ねておるのじゃ」
「あ、兄貴、俺は別に拗ねてちゃあ。なんで、このガキ相手にタメ口きかせてるんっすか。
兄貴の方が経験も実力も年齢も上っすよ」
「経験はともかく、実力はどうじゃろうなあ。
ケンカイは少年にしか見えぬのだが、喋っていると何故か同世代の感覚になる。
儂が構わぬと言っているのに、おまえが文句を言ってどうするのじゃ」
「そういや、ムロイのおっさんて、歳いくつだ?」
「うむ、もうじき30じゃな」
「てことは、今20代かよ。見えないぞ」
ケンカイは驚いた。まあ、お前が言うなと言われかねない事だが。
ムロイはどう見ても40台にしか見えない外見だった。なによりも雰囲気が老成しており、それがさらに実年齢以上に見られる原因となっている。
ムロイは苦笑いを浮かべる。
「うむ、よく言われる」
それではケンカイと話していると、同年代と思えてしまうのも無理はない。
今は若返っているが、ケンカイの実年齢は、現在26歳である。
「ラーリー、儂はケンカイと一緒に迷宮に潜ってきたのだ。その実力もこの目で見ておる。
それとも、儂の目利きが信じられぬと言うのか」
「けど、兄貴でも間違えることも・・・」
「儂がおまえを拾ったのも、自分の目利きを信じてじゃ。今は只のバカじゃが、そのうち化けるだろうとの。
年下の少年に負けて悔しいのだろうが、そこで捻くれるか、発奮するのかで男の価値は変わるのじゃ。儂の目利きが間違えていたことにせぬようにしてくれよ」
「あ、兄貴・・・」
ラーリーは涙ぐんでいた。絡み上戸のうえ泣き上戸のようだ。
「俺、頑張るっす。いつか、このガキ、いや、ケンカイ以上の探索者になるっす」
「うむ、それでこそ儂が見込んだ男じゃ」
「てめえ、ケンカイ。今に俺様はてめえなんざ足元にも及ばぬ大探索者になってやるからなあ。その時になって、吼えずらかくんじゃねえぞ」
「だから、そういう態度を改めろと言っておるのだ・・・」
必要な資材と魔法道具を手に入れたら、さっさと探索者をやめて故郷を目指すつもりのケンカイだったが、さすがにそのことを言うのはやめた。
せっかくやる気を出してくれたのだ。
探索が進むことは自分のためになるのだから、ラーリーのやる気に水を差す必要はない。
サーシャはリネスの隣に座っていた。リネスも彼女より年下ながら、使い魔という高度な魔法を行使している少女だ。
当然、興味があった。
だが、リネスの腰は軽く、あっちにいっては料理を持って来たり、そっちにいってはお酒を作ったりと、自分の席にいない時間の方が多い。
なので、空いた席の向こうにいるユッキと、その近くのテーブルの上で料理を食べている青い猫に構うことが多くなった。
もっとも、ユッキは食べることに夢中になっており、ほとんど反応が返ってこない。
仕方ないので、試しにケンカイの使い魔の猫の背中を撫でてみた。
「あ、いい手触り」
長毛大型の青い猫は、一瞬視線をサーシャに向けたが、その後は撫でられても気にせずに料理を食べている。
猫に食べさせちゃダメな料理もあるけど、使い魔だから関係ないのかしら。と思っていたサーシャの後ろから声がした。
「ああ、自分だけずるいー。あたしも猫ちゃん撫でる。抱きしめる。持ち帰りたい」
声のした方向に目を向けると、小柄でグラマーな女がいた。同じ年齢くらいの色の白い美少女だ。
ちなみに、サーシャはラーシャと同じくヒンディア出身者らしい褐色の肌をしている。
リネスより少し黒っぽい褐色の肌は、ヒンディア出身者の特徴である。
「なんだ、あんた。何か用かい?」
ラーシャが声をかけると、女は小首も傾けながら言う。
「うん、ちょっとした用があるんだ。だけど、今はそれより猫ちゃんをもふりたい」
「変な女だね。あたしぁラーシャ。あんたは?」
「あたし? リリスだよ」
リリスはにっこりと笑った。
「鋼鉄の盾のラーシャさんだね。そっちの羨ましいのが妹のサーシャさん」
「よく知ってるね。何者だい?」
「有名人だから知っているだけだよ。あ、そういやこういう言い方のほうがいいのか。
あたしは、剣の誉れのリリス。
只のネコ好きの美少女だよ」
リリスは真剣な表情にかわると、ずいっとサーシャに近づいた。
「でね、でね、そろそろ代わってくれてもいいと思うんだけど。お願い~」
猫ちゃん、なでなでしてあげるねーと言いながら勝手にリネスの席に座るリリスだった。
”この前の鎧男の仲間の女がきとるぞい”
”ああ、リネスを引き抜こうとした奴か”
酒と話に夢中になっていたケンカイは、リオウからの念話でリリスが来たことに気付いた。
ケンカイのいない間に、リネスに接触した彼らだがそれ以来接触は無い。
ケンカイは、彼らが自分に直接、リネスを売れと言ってくるかと思っていたのだが。
”いい機会だ。話をつけておくか”
”手荒なことはよすのじゃな。ユッキが隣におる”
”爺さん、前から思ってたんだが、ユッキに気を使いすぎじゃないか?”
”・・・気のせいじゃよ”
それ以上追及することはせず、ケンカイはリリスに近寄った。
リリスは猫のリオウを撫でようとして逃げられていた。
リオウはユッキの後ろに逃げ込み、首だけテーブルの上に出して料理を食べている。
「ああん、猫ちゃん。撫でさせてよー」
「おい、あんた、何してるんだ」
「あ、ケンカイさん。お邪魔していまーす」
リリスは屈託なく笑って、挨拶をする。
ユッキごとリオウを捕まえようと身を乗り出したのを、ケンカイはリリスの頭を掴んで阻止した。
「なにを、して、いるんだ」
ゆっくりと、脅すように言うケンカイ。
「猫ちゃんを撫でようとしてるだけだよぉ。ちょっと、頭痛いんだけど。離してくれると嬉しいなあ」
「猫が目当てか。リネスに変な事を言ったのはお前だろ」
「あれは、ムルガルに頼まれて、交渉しただけ。
気にしなくてもいいよ。
でも、ひょっとして、リネスちゃんを売ってもいい気に、、いたたたた。
冗談だって、冗談。やめて、本気で痛い」
ケンカイが本気になれば素手で人の頭蓋骨を握りつぶせる。
痛がらせるだけの今回は只の脅しだ。だからと言って痛くないわけでは無いのだが。
ケンカイの手から逃げ出したリリスは、頭を押さえながら恨めしそうにケンカイを見た。
「だって、次の日、リネスちゃん、ものすごくご主人さま好き好きって顔してたもの。
せっかく前の日にうまく揺さぶれたと思ったのに。
ねえ、ケンカイさん。あの子に何をしたのかなあ」
「何もしてねえよ」
「ぶー、あたし、今回の失敗でボーナス貰い損ねてるのに。秘密にするなんて、おねえさん悲しいなあ」
「次は本気で頭を潰すぞ」
「なんて、思ってないからね。もう、今回はリネスちゃんは諦めました。ムルガルにも無理だって言ってるから、もう勧誘の心配はしなくていいよ」
「そりゃ、よかった。じゃあ、用は済んだな。さっさとどこかに行け」
「むぅ。あたしの様な美少女に向かって、失礼な事を。
それに用はまだ済んでないよ」
リリスは、ケンカイを指さす。
「次の勧誘の標的は、ケンカイさんの猫です。
今なら、あたしのハグもつけちゃう。さあ、どうですか!」
「失せろ」
ケンカイはリリスの首筋を掴むと、そのまま持ち上げて歩き出した。
「あれ、あたし猫じゃないから、そこもたれたら結構痛い、ていうか、ものすごく痛い。
放してえ」
「ほれ」
ケンカイは店の外にリリスを放り出した。
「うーむ。ひどいのです。あたしのような美少女に対する仕打ちと思えない。ありえない。
謝罪と賠償を要求します」
「嫌だ」
「・・・むぅ、言質を寄越さない人ですねえ」
「キミ相手では当然だろう」
横から現れたのはメイだった。
「初めまして。剣の誉れのリリス。私はメイ。先日から海熊の銛に参加している者だ」
「あら、これはご丁寧に。あたしはリリス。ご存じのようですけど」
「ああ、知っている。正直、キミのような存在はケンカイに近寄って欲しくないものだ」
「えぇ。別にケンカイさんを誘惑なんてしてませんよぉ」
「ん、そういう意味ではないのだが」
「じゃあ、どういう意味なのかな」
「くだらん企みに巻き込まれたくないだけだ。私はチャンターの軍人だからな」
「じゃあ、ムルガルとは相性わるいね。もっとも、あっちの鋼鉄の盾の人たちと比べたらマシかもだけど」
「ん、そういうことにしておくか」
「またまた、気取っちゃって。監察局の出世頭さまが、何でここにきているのかな。
教えてほしいなあ」
「勝手に考えるのだな。頭は使わないと性能が落ちる」
リリスは肩をすくめた。
「頭を使いすぎると、頭痛がするから、今日は帰るね。
・・・交渉するなら、お姉さん相手がいいのかな?」
「簡単に利用できるとは思うな。私には決定権は無い」
「あら、また逃げられちゃった。本当に頭痛がしてきちゃった。じゃあ、ケンカイさん。また後日」
「もうこなくていいぞ」
「あっは、それ無理。だって、あたしたちも体験とはいえ、この店の所属になってるの」
リリスは、わざとらしい敬礼をした。
「それでは筆頭探索者殿。たかが雇われの下っ端探索者は帰ります。後日、またお会いしましょう」
”あの女は去ったのかのう?”
”ああ、よかったな爺さん。お持ち帰りされずにすんで”
”この分体だと、撫でられるくらいは何ともないんじゃが、あの女に撫でられると妙な感じがしたのじゃ。気を付けておくのじゃな”
”撫で方が乱暴だとか、そういう訳じゃないのか?”
”そういう類の話じゃないぞい”
”ふむ、そういやさっきメイがあいつと話をしていたが、何か意味深なやりとりをしてたな”
”では、話を聞いておくのじゃな。情報はあるに越したことはないからのう”
リリスは鳳凰亭にある自分の部屋に戻った。
部屋に入り、すぐに魔法を発動させる。防音の術が発動し、リリスの部屋から漏れる音は一切なくなった。
「あーあ、面倒面倒。あたしのこと知っている奴がいるなら用心しないとね」
鍵をかけている机の引き出しをあけると、そこには遠距離通信用の魔法道具があった。
リリスはそれを取り出して操作する。
操作といってもスイッチや操作用のボタンがあるわけではない。
魔力を注ぎ込み、魔力の流れを制御することで使えるようになる。
この魔法道具が奪われて勝手に使われることを避けるために、わざとそうしてあるのだ。
「あら、先を越されたのね」
リリスが残念そうな、そして悔しそうな表情となる。
「ラシア王国は陥落済、と。ヒンディア帝国派を同志の誰かが取り込んだようね。アイツかな」
リリスは、さらに魔法道具を操作していく。
「ああ、やっぱり撤退命令がきてる。じゃあ、もうムルガル達は用無しか。
最後に役に立ってもらおうかな。今回の獲物は大物っぽいし、ダメ元でも挑戦はしておかないとね」
リリスは、ぼそりと、しかし、真摯な表情で呟く。
「魔法帝国のために」




