第6話 変貌する者達
「うう・・・」
しばらくたって、目の痛みが薄れ目を開けれるようになったメイが見たものは、黒こげになった怪物達の成れの果てと、幽霊船のような船であった。
この船がケンカイ殿の言っていた味方なのだろうか、とメイは思う。
「ん、取りあえず助かったのは有り難いことだ」
正直、怪物共を見たときは死を覚悟した。おのれ、リーイン大佐め、絶対証拠を掴んで報いを受けさせてやる。と、メイは相変わらず勘違いしたまま決意を固めたのだった。
そして、冷静になって自分の姿を見てみると酷い事に成っている事に気付く。
なにしろ、胸元の裂かれた軍服をきたままのた打ち回っていたのだ。
胸元は大きく広がり臍のあたりまでむき出しになっている。
これに涙目で海水にずぶ濡れとなってへたり込んでいるのだ。
「ん、これでは・・・襲われた後のようだな」
そのような趣味は無いのだが、と思いながら慌てて胸元を隠すメイ。
そんなメイの上にケンカイが覆いかぶさってきた。
「え、またか、ケンカイ殿。非常識にもほどが、ん?」
ケンカイは何も喋らない。そして、動くことも無かった。
驚くことに、ケンカイは意識を失っていた。
”リオウさん、大変です。ご主人さま、倒れちゃったぁ”
”ようやくじゃの。もっと早く倒れるかと思ったのじゃが”
”え、リオウさんがやったんですか?”
”いや、やったのはケンカイ自身じゃ。魔力の過剰消費による脱力状態じゃの”
”さっきの、雷の魔法で使いすぎちゃったのかな?”
”それだけではないがの。さて、リネス、ケンカイを運びあげてくるのじゃ。急いでやらねばならんことがあるでな”
”え、ボク1人じゃ無理”
”もう一人いるじゃろうが”
”メイさんですか。船に入れていいの?”
”この際じゃ、やむを得んわ。それより急ぐのじゃ”
”はい”
リネスは慌てて船から縄梯子を降ろして、ケンカイの元に移動した。
身軽さを活用して、滑り落ちるように降りる。
「あっ」
着地するとき、うっかりメイを踏んでしまったが決してわざとじゃない。
メイとケンカイが引っ付いているのを見て、もやもやした感情を発散したわけでないのだ。
「メイさん、ご主人さまを船に乗せるの手伝って!」
「いててて、いや、私の上に落ちてくることは無いだろう」
「急いでるの。さっさと手伝って」
「ん、仕方ない。手伝うが、後で私の仕事も手伝ってもらうぞ」
「いいから、早く」
「わかった」
二人掛かりでケンカイの重い体を何とか持ち上げて、縄梯子に捕まる二人。
リネスが念話でリオウに話しかけると、縄梯子は自動で上がっていく。
「おお、凄いな。ん、この船は魔動船か。私も乗るのは初めてだ」
メイは初めての体験に目を輝かせた。
甲板にまで辿りつくときょろきょろと周囲を見渡す。
「しかし、なぜ幽霊船のような偽装をしているのだ?」
「色々あったの」
「隠し事とはひどい。私とリネスの仲じゃないか」
「誘拐犯と被害者の仲で、ひどいと言われても・・・」
「まあ、いいさ。推測はつくからな」
メイは訳知り顔でリネスを見る。
リネスはとりあえず無視をした。
それより、ご主人さまを何とかしないといけない。
”リオウさん、どうしたらいいの?”
”操作室の方に運ぶのじゃ”
「メイさん、こっち」
船内にメイを案内したリネスは、リオウの指示に従ってケンカイを操作室に運び込んだ。
どうやって入ったのか判らないが、リオウが操作室で待っている。
ケンカイの襟元を咥えて、操作室の中央までひっぱたリオウは、リネスに出ていくように言った。
”すまぬが、他人の魔力が邪魔になるでな。操作室に近寄るでないぞ”
”・・・はい。ご主人さま、大丈夫なの?”
”命に別状は無いのう。もともと殺しても死にそうにない奴じゃしの”
”ボクもそう思うけど”
メイは海姫の雷号の船内の豪華さに驚いていた。
幽霊船のような外観とは不釣り合いな豪華な内装を持つ魔動船。
魔法使い見習いらしいリネス。
先ほど見た賢そうな大アザラシ。
「ん、そういう事か。ケンカイ殿も人が悪いな」
「え、何か言った? メイさん」
リオウと念話をしていたため、メイの独り言めいたセリフを聞きそびれたリネスが問うがメイは笑ってごまかした。
「さて、リネス。約束通り、ちょっと、私の仕事の手伝いを頼みたい」
メイの頼みは簡単に言えば探し物であった。
だが、簡単な作業ではない。
沈没した海賊船の中にあった筈のものを探すというものだった。
狐のウエイが乗っていた海賊船は、'妹達'によって沈められ、海姫の雷号の雷撃によって砕かれていた。
砕かれた海賊船の漂流物の中から、目当ての物を探し出すというのだ。
しかも、目当ての物の形状は判らない。
そんな地図なしの宝探しだが、メイの指示に従って海面をジョナサンで捜索したリネスは、すぐにそれらしきものを発見した。
「メイさん。ひょっとして、これかな」
それは油を塗った革袋で作った大きな浮き袋のようなものだった。
「ん、確かめてみる」
メイはナイフを取り出して革袋の繋ぎ目を切った。
革袋の中からは、何十枚もの紙が出てくる。
「大当たりだな」
紙に掛かれた文章を読んだメイは満足そうに笑った。
「メイさん。それ何?」
「これか、今回の事件を引き起こした悪党の悪事の証拠だ」
この場合の悪党はリーイン大佐の事である。もちろん'妹達'に関しては無実であるのだが。
「海賊の頭と話したのだが、その海賊は随分と用心深い男だった。
裏切られるのを防ぐために用心しているようだったのでな、きっと取引の証拠をいざという時に活用するために保存しているだろうと推測していたのだ。
もしその証拠品が存在するのなら、何が起きても持ち出せるようにしている筈だと思って探してもらったのだ。
その成果がこれだ。
海賊船の状態を見たときに、ちょっと絶望的になったが。
ん、海賊の頭の用心深さに感謝するところだな。
船長室らしき場所と潮の流れから、大体どのあたりにありそうかも推測できたしな。
それにしても、リネスがいないと探すのは無理だったろう。魔法使いとは大したものだ。協力感謝する」
「メイさんって・・・」
リネスは驚きのあまり言ってしまった。
「変な妄想するだけの変態じゃなかったんですね。ボク、びっくりしました」
「いやあ、そんなに褒められても。私にとってはいつもの事だ」
「え、ボク、自分で言っておいて褒め言葉になってないと思ったんだけど」
「ん? 私は、似たような褒め方を良くされるのだが」
得意げに胸を張るメイ。
彼女は実績だけなら、監察局のトップレベルの成果を上げているのだ。
そのたびに上司に言われる言葉は、呆れたような、もしくは諦観したような褒め言葉めいた嫌味なのだが、メイは素直に褒められていると思っている。
結局、今回も任務を達成してしまっているのである。
この成果を上司に報告すれば、リーイン大佐の悪事は公となり、出世の道どころか命すら絶たれる状況になるだろう。
これで、また一つ悪が亡びる。
メイは満足そうに笑った。
規則違反を連発し、無謀な行動を繰り返しながらも成果だけは上げるメイ中尉。
きっと、今回の事件に関する報告書を受け取った上司は、又、髪の毛の薄くなった頭を抱えることになるだろうが。
久々に面倒な魔法を使うことになったのう。とリオウは思った。
それでも、内心ワクワクするような昂揚感を覚えるのは、人の姿を捨ててまで魔法に魅入られてしまった性なのかもしれない。
リオウは、ケンカイによって供給された魔力を用いて海姫の雷号の魔法回路の一部を活性化させる。
そして、活性化した魔法回路を調整し、自身のもつ魔法回路と同調させた。
魔法式が脳内で高速で描かれる。描かれた魔法式を魔法印に展開させた後、自身の魔力とケンカイの魔力を融合させて、同調させた魔法回路に流し込んだ。
通常なら必要となる触媒の準備が無くとも魔法印を描くことができるのは、竜であるリオウだからこそ可能な方法である。もし、同じことを人間の魔法使いが行えば、簡単な魔法印を描く程度でも触媒の準備に相応の費用と時間が必要となる。
だが、今回で無くなるのう、とリオウは額にあった皮膚に覆われて見ることのできない角の根本部分が消えていくのを感じていた。
封印された島から脱出するときに、竜としての特徴である魔法器官のほとんどを捨てる羽目になったのだが、数少ない残りとして角を切り落とした根本部があったのだ。
竜の角は、高度な魔法を扱う時によく必要となれる触媒である。
むしろ、無限に再生して供給される角を目的として、人の姿を捨てた魔法使いも多い。
それほどまでに有効で貴重な触媒なのだ。
もっとも現在においては、欲しがる人間の魔法使いがいるかどうかは疑問である。
今、リオウが描いている魔法印と同じものを描けるだけの力量と知識のある人間の魔法使いなど、現在においては存在しないからだ。
リオウはゆっくりと効果を確かめながら魔法を発動させていく。
今回の魔法行使に伴う最大の危険性は、封印を受けた島へ再召喚されることだ。
島から脱出した時の逆の手順で魔法を行使する作業は、リオウといえども精神を消耗していく難解な作業だった。
だが、これは必要な事なのだ。
そのことをリオウは理解していた。だから、魔法をかけやすくするために、ケンカイに限界まで魔力を行使させたのだ。
魔力の不足は、魔法に対する抵抗を弱める。
それは、魔法使いには常識である。
逆に言えば、魔力が満ち溢れている相手には魔法は作用しづらいのだ。
特に、ケンカイの様に規格外の魔力の持ち主に魔法を掛けることは困難だ。
だが、今の魔力が枯渇した状態であれば話は異なる。
気を失うほど魔力を消耗したケンカイは、魔法に対しての抵抗力を著しく欠いていた。
だから、リオウの行使する魔法を防ぐことはできない。
だから、高度な魔法を掛けることが出来る。
リオウは、自身の肉体の変化を感じながら、ケンカイへの魔法発動を加速した。
問題となるポイントを高速で通り抜け、リオウの魔法は最終発動を行った。
そして、二人の肉体は変貌した。
”爺さん、これは何だ”
ケンカイは目覚めた。最初は何が起こったのか判らなかった。
起き上がってみた景色に違和感を感じただけだ。
リオウの言うとおりに海姫の雷号に魔力を流し続けていると急に目の前が暗くなって、気づいたら操作室にいたのだ。
そして、ケンカイの前にはリオウがいた。
だが、その姿は若い大アザラシでは無い。
”うむ、先ほどの東海母竜の作品共、オヌシには女面の怪物共と言った方が良いかの。あやつらに感知されぬためにな、ちと魔力波動を変える必要があったのじゃ”
”どういうこった?”
”あやつらは、オヌシの魔力波動を辿って襲ってきたのじゃ。放っておくと、延々と襲われ続けたのじゃぞ”
”なんで、オレが狙われなきゃならんのだ。その何とかって奴は、爺さんの知り合いだろう?”
”あの時、雷の手を振り払ったのは、オヌシじゃしのう。その時、魔力波動を読み取られたのじゃろうて。
ワシにもアヤツが何を考えておるかは判らんのじゃが、できるだけ会いたくない知り合いなのは間違いないのう”
”迷惑な事だな”
”迷惑は事じゃ”
ケンカイは溜息をついた。
”だからと言って、これは無いだろう。どうせなら、本来の姿に戻してくれ”
”それをするとじゃな、また、あの島に閉じ込められるぞい”
”それは勘弁だな”
”じゃろ?それに、オヌシ、ワシのせいでジジイになったと散々文句をいっておったではないか”
”事実だろ”
”なら文句はあるまい”
”やり過ぎなんだよ”
”うるさい奴じゃの。もう処置は終わったのじゃ、終わった事を言っても仕方が無いというものじゃぞ”
ケンカイは更に溜息をつく。
ケンカイの目の前にいるリオウは、若い大アザラシの姿から、年輪を経た貫録のある大アザラシの姿に変貌していた。
そして、ケンカイは若返っていた。
本来の彼の年齢である25歳を遥かに通り越して、今の姿は10代半ば。
15か16歳くらいの、幼さが残る若々しい姿だ。
以前の姿が50歳前後であったため、その落差は大きかった。
身長も頭一つ位小さくなっている。
骨太の骨格は変わらない。
しかし、骨格を覆う筋肉はよく鍛えられてはいるものの、以前と比べると厚みが少なかった。
鏡に映る顔には皺の一つもなく、すべすべとした張りのある若い肌に、白髪など一本もない黒髪。黒い瞳も白目の部分が少なく、黒い瞳孔が目立つ。
美少年とは言えないが、若い姿のケンカイには妙な可愛さがあった。
例えていうなら、子熊のぬいぐるみのような可愛さだ。
「どう見ても、ガキだな」
酒場や娼館に入ろうとして悶着を起こしそうだな、とケンカイは思う。
そして、この姿でリンダと再会した場合、彼女は気付いてくれるのだろうかとも。
もっともバトア王国までの距離を考えると、まだまだ先の話ではあるのだが。
もともと体力の不安など欠片も感じてなかったケンカイにとって、若返った事に対する感動や喜びなどなかったのである。
リネスはメイの手伝いを終えて、操作室に戻ろうかどうか悩んでいた。
リオウが複雑で高度な魔法を使うような事を言っていたため、念話で話しかけることも躊躇っているのだ。
連絡があるまで、甲板にいる方がいいのかな? 他の船室でも問題ないと思うけど・・・などと考える。
メイは甲板に座り込んで、回収できた海賊の資料を読み漁っていた。
真剣な表情で、時折何事か呟きながらものすごい速度で内容を確認している。
メイの軍服は海水で湿ったままで、短く整えられていた筈の髪も砂や海水で酷いことになっている。
そういや、ボクも濡れたままだった。
海姫の雷号に入るときに、潜水する必要があったため、リネスの服も海水で濡れている。
今までは状況が逼迫していたので気にならなかったのだが、危険が去った今では湿った服を来た感触はべたべたとして不快な物だった。
リネスは一通り資料に目を通し終えたらしいメイに話しかけた。
「メイさん、お風呂入りませんか?」
「ん? 確かに少し汚れたかな。だが、風呂など、どこにあるのだ?」
「えーと、いっぱいあります」
海姫の雷号は、客室には全て個別の風呂がついている。
さらに、ミトア姫やリンダの使っていた個人の部屋にもついており、更には船員用の大風呂まであったりする。
海水を真水に濾過する魔法装置が組み込まれている海姫の雷号に於いては、真水は貴重品ではないのだ。魔力の心配が無いケンカイなら、これで真水を造り続けるだけで大儲けできるだろう。
さらにこの船は、湯を沸かす魔法装置も完備している。
通常なら、魔力を消費するために使用に慎重になるこれらの装置も、リオウやケンカイといった魔力の塊のような存在が船のマスターとなっている今では使い放題となっていた。
水は常に貯えてあり、沸騰させた湯自体も蓄えてある。
今の様な魔力枯渇状態でも、風呂だけは好きなだけ入れる魔動船。
それが、海姫の雷号である。
元々、ミトア姫やリンダのためにそのように改修されていたのだろうが、風呂好きのケンカイの意向も加わり、更に湯周りは改善されているのだ。
さすがにそこまでの説明はせずに、リネスはメイを自分の使っている部屋に案内する。
リネスはケンカイの隣の客室を使っていた。
当然、風呂もついている。
「ん、これは凄い」
メイは浴場を見て、目を見張った。
彼女は、基本的に堂々としている。
濡れた服を脱ぐと、体を隠すことなく風呂場に入っていった。
そこで見たものは。彼女にとって初めて見る豪勢な浴場だった。
それが、船の中にあるのである。
豪華客船の特等室にならあるかもしれないというレベルの風呂場だ。
「直ぐに、浴槽にお湯を張りますね」
リネスは日ごろから慣れた作業なので、手際よく操作を行った。
あっというまに広い浴槽にお湯が張られ、湯気が室内を巡る。
「ボクが使っているのと同じのでいいなら、ここに洗髪剤と石鹸があるので使ってください」
ちなみに、ミトア姫が使っていたのと同じ超高級品である。
在庫が大量にあるので、よく価値を知らずに使っているのだが、値段を知ったらリネスは使う気になってないだろう。勿体なくて。
「おお」
洗い場で超高級石鹸と洗髪剤の泡の感触を楽しみながら、メイは隣で頭を洗っているリネスを見た。
やはり目につくのは太腿根元に付けられている奴隷環だ。
凹凸の少ないリネスの体のワンポイントとなっており、妙に似合っていたりする。
そして、メイはある事に気づいた。
「どうしました?」
「ん、リネス。謝罪をしたい」
「え?」
「いや、初潮が来てるってのは本当だったのだなと、幼い娘扱いをしてすまなかった」
メイは奴隷環のすぐ近くを見て、自分の間違いを認めざるを得なくなったのだ。
「ちゃんと生えているからな、たしかにリネスの言うとおりだった」
「ど、どこを見て言ってるんですか!」
「女同士だ、恥ずかしがることもあるまい」
「恥ずかしいのは、メイさんの言い方ですっ!」
「ん、そうなのか? ごく普通だと思うのだが」
メイは首を傾げた。
「だが、やはり胸と尻が無いな。栄養が不足しているのか?好き嫌いはよくないぞ」
「うー、これでも少しは成長したもん。ボクはこれからなんです」
「そうか、そうか」
メイは胸を張った。サイズは普通なのだが、つんと張りのある形のよい胸を見せつける。
「まあ、私ぐらい成長すれば、リネスは可愛いからきっとモテるようになるだろう」
「リンダさんは、お湯のなかで胸が浮いていたけど・・・」
「それはでかすぎるな。私ぐらいなのが一番なのだ」
メイはリネスの手を取り、自分の胸に当てる。
「ほら、揉みやすいだろう」
「ほんとだ、って、メイさん、少しは恥じらいって必要だと、ボク思います」
「大丈夫だ。私は、女には興味が無いからな」
「そういうことじゃなくて」
「それにしても、この浴槽は凄いな。底の石は大理石か?」
「ボクも知らないんだけど、触ると気持ちよくて好き」
浴槽に入り、女二人で喋りながらゆっくり湯につかる。
ミトア姫やリンダが相手では、気後れがあったせいでこうはいかなかった。
メイさんは変態っぽいけど、付き合い安い人かも。
ゆったりと湯につかり、気ままにお喋りしながらリネスはそう思った。
「え、えーと、ご主人さま?」
操作室に来い。来ても驚くなよ、若くなった。という念話を受けて、リネスはメイをつれて操作室に向かった。
そして、部屋の中に入った彼女が見たのは、15歳くらいに見えるケンカイの姿だった。
老人の姿から少年の姿に変わっても、ケンカイの面影はハッキリと残っている。
それでも若くなったケンカイの外見は、中々のインパクトをリネスに与えた。
「ご主人さまって、若い頃は可愛かったんですね」
「ん、この少年がケンカイ殿か?」
メイは食い入るようにケンカイを見つめた。
「そういや、こいつもいたんだな」
いろいろあったので、メイの事を失念していたケンカイ。
海姫の雷号に関する事や、その他もろもろのことをどう誤魔化して説明するか、他言しないように説得するにはどうしたらいいか、と頭を悩ます。
リオウの言うように始末するのは後味が悪すぎる。
”何かいい案はないか?”
”始末するか、攫って閉じ込めておくのはどうじゃ?”
”もう少し穏やかな案は無いのかよ”
”東海母竜に捕まりたくないのでな”
”そんなにヤバい奴なのか?”
”捕まったら、あの《・・》島の暮らしにすら憧れることになるじゃろうの”
”そいつは嫌だな”
リオウとケンカイが念話を交わしている間に、メイは暫し考え込んでいた。
「やはり、これは私の推測通りのようだ」
ふむふむと、メイは一人頷く。
「推測?、お前のは妄想の間違いだろう」
しかも枕詞に変態的ながつくんだろうが、とケンカイ。
幼女愛好家の変態行為が趣味の老人扱いされたケンカイである。メイの推測など信用する訳が無かった。
「ん、いや、ケンカイ殿も人が悪い。確かに嘘は言っていないが、私でなければ誤魔化されるところだ」
「何のことだ?」
メイは得意気に言った。
「ふむ、ではズバリ核心を突かせてもらおう。
ケンカイ殿、キミは魔法使いだな」
「・・・は?」
「今、思い返してみれば、キミはリネスの事を魔法使い見習いだと私に言った。
ん、だから不思議な事が起きた時は、リネスがやったのだと思っていたのだが、さすがに見習いにあれだけのことは出来ないだろう。
それに、よくよく考えてみれば、キミは自分の事を魔法使いでは無いと言ったわけではない」
人差し指でケンカイを指さす。
「見習いというからには、師匠がいるに違いない。
つまり、キミは自分がリネスの師匠であることを黙っていたのだ。
嘘を吐いたわけでないのが巧妙なところだな」
「はあ」
「そう考えれば、なぜこんな無人島にキミ達がいたのか納得がいくというものだ。
魔法の修行のためなら、人気のない場所に籠るのも当然の話だ。
特に秘術と言われるような、高度な魔法の修行か伝授かまでは判らないが、秘密にしたい魔法があるのなら、人目につかないところに行くだろう」
メイの鼻息が荒い。自信たっぷりの推測を披露できて嬉しそうだ。
「そして、この魔動船。幽霊船の様な外見にしてまで存在を隠そうとしている。
魔法使いが秘密主義なのは常識だが、ケンカイ殿はそれが行き過ぎているようだ。
だが、それも個人の自由。
それをケンカイ殿が望むのであれば、私はそれを尊重しよう。
助けてもらった恩もある。キミのことは誰にも言わない事を約束しよう」
何故か上から目線なのが腹が立つが、得意そうな表情を見れば、彼女が本気でそう思っていることは間違いない。
”・・・とりあえず、このまま勘違いしてもらっておけばいいか?”
”そうじゃの、どうやら本気で言っているようじゃしの。”
”リネス、メイの話に乗っかるぞ。その方が都合がよさそうだ”
”はい、わかりました。結構賢い人なのに、変な事思いつきますね。メイさん”
証拠資料に関しては、驚くべき推測から正解を導き出していたのになあ、とリネスは思った。
「ふむ、そこまで判っているとは。少しみくびっていたようだ」
「いやいや、うまく隠していたと、私は思うのだよ。ただ、その若返りに関してはやりすぎたというか、性急すぎたのではないかな。
私がリネスと一緒にお風呂に入っている間に、魔法を使ってしまえば他に魔法使いがいることくらいすぐに判るというものだ」
そして、メイは何故か頬を赤らめた。
「ん、そこまでして私の趣向に合わせてくれようなどとは、さすがの私でも少し照れてしまうではないか」
「は?」
「これまでも散々、気のあるところを見せられていたが、若返ってまで私にアピールしてくるとなると、なんというか、私も応えなくてはいけないかなと・・・」
「いや、まて、何のことだ。
お前、性癖はノーマルって言ってなかったか?」
「ああ、ノーマルだ。私は正常な少年愛好家なのだよ」
自信たっぷりに答えるメイ。
”やっぱり、こいつ始末するか”
”そうです。やっちゃいましょう。ボク手伝います”
”いや、おぬし等。とりあえずうまく話がまとまっとるのじゃ。余計なことはせぬほうがよいぞ”
”だがなあ・・・”
延々と少年趣味の素晴らしさを説明し始めたメイ。
力説する美人は、やはり残念美人のようだった。




