第4話 襲来(前篇)
ケンカイが発した強化念話の影響を受けたのはリネスだけではなかった。
東海母竜の娘達、外海に放たれた'妹達'もその影響を受けていた。
彼女達には標的の魔力波動が急に強まったと感じられていた。
特に、標的の近くにいた'妹達'は、感知に力を注いでいただけあって、標的の明確な位置がわかるほど巨力な波動を感じていた。
その念話の巨大な波動は衝撃のように、'妹達'を揺さぶる。
標的近海の'妹達'は、一瞬混乱したあと今までの暴走状態が完全に治まった。
標的がはっきりしたことで、本来の目的意識が強化され破壊衝動を抑えたのだった。
'妹達'は、互いに連絡を取り合い標的の位置を再度確認すると、標的がいる島を包囲するように分散していく。
さきほどまで破壊衝動のまま襲いかかる気でいた海賊船に見向きもせず、ゆっくりと態勢を整えていく。
既に標的は定まったのだ。
後は捉えて姉様に差し出すだけ。
'妹達'は時間をかけて態勢を整える。
ここで逃がせば、'姉達'を落胆させる。
ここで捉えれば、'姉達'に喜ばれる。
'姉達'の喜びは、自身の喜びであり、'姉達'の落胆は自身の落胆である。
彼女たちはそういう風に作られているのだ。
つい先ほどまで自分たちのすぐ後ろに'妹達'がいたことなど知らない海賊達は、目的の島に近付き歓声を上げた。
「頭ぁ、お宝が目の前にいやすぜ。簡単すぎる宝探しじゃねえですか」
砂浜に女が倒れているのが目に入ったのだ。
「おお、結構美人ですぜ。しっかり生きてやがる。こりゃ、楽しめまさあ」
見張り台から双眼鏡で女を確認した見張りの海賊が声を張り上げると、船のあちこちからさらに歓声があがり、さっそく上陸用の小舟を降ろそうとして喧嘩騒ぎが始まる。
頭である狐のウエイが、早いもの勝ちを宣言していたからだ。
見張り台の海賊も、慌てて上陸に参加しようと見張り台をおりながら、ふと気になった。
「あの女、あんなに全身縛られていて、よく島に上陸できたもんだ・・・」
この少し前の出来事。
ケンカイは、鴎のジョナサンが飛び込んだ洞窟めがけて突入した。
入口の半分は木や草で覆われていたが気にしない。
ぶつかる瞬間に身体強化を行い、強引にぶち破る。
直前のリネスからの会話は、変態に苛められてる(要約)、という内容だった。
リネスを攫ったのは女であるが、女に変態がいないわけではない。
リネスの主人であり、保護者でもあるケンカイとしては焦らずにはいられない内容だ。
洞窟に飛び込んだケンカイが見たのは、軍服を着た溺れているところを助けた女が硬直している姿だった。
そして、頭にジョナサンが乗ったリネスの姿も確認する。
「リネス、無事か!」
ケンカイの姿を見て、リネスがそれまでの醒めた顔から嬉しそうな顔に変わった。
屈託のない笑顔だったので、ケンカイは安心する。着衣に乱れもなく、変なことはされずにすんだようだ、と思う。
「で、こいつが、問題の変態女軍人か」
ケンカイが、ジロリと睨むと メイはぎこちない笑顔を浮かべた。
「ん、初めまして。助けていただたそうで非常に感謝、感激している次第でありまして・・・」
「恩を仇で返されたばかりだがな」
「そ、それは、お互いに不幸な勘違いのせいです。すれ違いというものが世の中には満ち溢れているのです」
「オレは何も勘違いした覚えがないんだが」
「ん、あー、失礼。私の勘違いのせいです」
「どんな勘違いをしたら、こうなるんだ」
「え、えーと、正直に話したら怒ると思うので、言わない方がお互いの為かと、ん、愚考するわけでして」
じりじりと後ずさりするメイ。
「ご主人さま、ご主人さま」
リネスはケンカイに近付くと、耳元に口を近づけて、真っ赤になりながら囁く。
「ボク、途中から意味がよくわからなかったんですけど、大体こんなこと言ってました」
メイに振り返ったケンカイは無表情だった。
「おい、女」
「は、はいっ、できれば、メイと呼んでいただけると・・・」
「誰が変態だって?」
「ふ、不幸な勘違いです」
「そして、リネスに何を吹き込んでるんだ。この変態」
「いや、さほど、ん、多少早いかもしれないが、いずれ経験するかもしれないことですし」
「なら、お前の言ったことを、お前にしてやろうか」
「え。私の性癖はノーマルですので、そんなハードプレイはちょっと」
メイは赤くなりながら、じりじりと逃げようとした。
「なら、そんなことを」
ケンカイはあっという間に距離を詰める。
「ガキに吹き込むんじゃねえっ!」
一応手加減はした左のボディーアッパーが炸裂する。
メイは体をくの字に曲げて悶絶した。
「くそ、無駄に疲れた。リネス、戻るぞ」
「はい、ご主人さま。えーと、メイさんどうします?」
ケンカイは少し考えた。このまま見捨てる誘惑に負けそうになるが、こんなのでも女である。
見捨てるのは後味が悪い。
「そのあたりに蔓があるな。何をしでかすかわからんから、縛っておけ。引きずって連れて帰る」
「わかりましたー」
結構、鬼畜な事をいうケンカイに対して素直に従うリネス。リネスの怒りもまだ解けていないようだった。
「こ、これは扱いがひどく無いかと、私は抗議したいのだが」
メイは、ケンカイにむかって文句を言った。
今、メイはケンカイに担がれている。
体全体を蔓で巻かれて動けない状態にされたうえで、足を肩越しに担ぎ上げられて頭は下。
大きな魚を運ぶかのような態勢だ。
「私は、これでも 見ているだけなら美人と局で評判の女だぞ。もっと、丁重に扱うことを希望する」
「メイさん、それ褒められてませんよ」
「地面を引きずっていかないだけましだと思え」
最初は引きずっていいこうかとしていたケンカイだが、森の中を引きずって歩くのは効率が悪すぎたため断念した。
「もうすぐ、砂浜だ。そこまで我慢しろ」
「ん、そこからは優しく運んでくれるのか」
「そこからなら、引きずられても、あまり痛くないだろう」
「ケンカイ殿、キミ、それは悪魔の所業ではないかね」
「なんなら、ここからそうするか? 木の根とキスするのもお似合いだぞ」
「酷い男だ、やはり変態ではないか」
「変態はお前だ」
掛け合いをやっている二人を横目に、ジョナサンを先行させてみたリネスは海から船が島にやってくるのを見つけた。
乗っている人間の面構えや恰好からして、どう見ても海賊だった。
「あれ、なにか来てる。あ、ご主人さま、海に海賊船がいます。こっちに来てる」
「なんだって」
ケンカイの目の色が変わる。
同時に漂う凶暴な気配。ケンカイは、苛立ちをぶつけるのに最適な相手を見つけてしまったのだった。
”爺さん、リネスをつれて海姫の雷号へ連れて行ってくれ”
”オヌシはどうするのじゃ?”
”聞くだけ野暮だろ”
見賊必殺。ケンカイの信条である。
”大角丸も下手に見つかって壊されると嫌だが、丁度いい囮がいるしな。ここで殲滅してやる”
”ご主人さま。どうします?”
リネスはケンカイとリオウが会話している念話を聞くことができないので、そう尋ねてくる。
”リネスは、海姫の雷号で隠れていろ。ジョナサンでの周辺の監視は続けてくれ。
オレは大角丸に寄ってから、海賊退治だ。大銛が無いと様にならんからな”
”メイさんはどうするんですか?”
”本人曰く、見てるだけなら美人なんだ。役に立ってもらう”
”えと、メイさん、変態さんだけど、悪い人じゃなさそうです。見捨てないで上げてください”
不安そうな顔になるリネス。ケンカイはリネスの頭に手をやり撫でる。
”見捨てはしない。けど、少しは痛い目に合ってもらわんとな”
にやりと笑うケンカイ。ケンカイの少しが常識の範囲だといいなあ、と思うリネスだった。
「キミ、いや、ケンカイ殿、ん、ケンカイ様。今、海賊がどうのと言う声が聞こえたのだが・・・」
「ああ、なんか、あっちの方から来ているようだな」
「まだ何も見えないんだが、どうやって知ったんだ」
「リネスは魔法使いだ。見習いだがな」
「ん、そうだったのか。幼いのに大した魔法をつかえるとは感心する」
「ボク、幼くないです」
リネスが膨れる。見捨てないように頼まなくてもよかったかも、と思ってしまう。
「ん、しかし、あちらの方向か。リーミン号の巡回航路方向からくるということは、やはり私の推測は正しかったな。リーイン大佐は海賊と繋がっているに違いない」
「お前の推測か」
ケンカイは鼻で笑った。
「リーインてのが誰か知らんが、この際関係ない。
海賊は死ね、これで十分だ」
ケンカイはメイを持ち上げて、海岸近くの砂浜に放り投げた。
「ちょっと武器を取ってくるから、そこで待っていろ。リネス、行くぞ」
「え、ちょっと、せめて縄を解いてくれないか」
「そんな必要はないだろう」
ケンカイはメイの腰のあたりをちらりと見て、そう言った。
そして、そのままリネスを連れて去っていく。
「やれやれ、あの強さの上に目敏いときたか。ん、たいしたものだ。私の印象が最低レベルになっているようなのが非常に残念だ」
メイは去っていくケンカイの後ろ姿を見て呟いた。
「さて、どうするか、身の安全を最優先するか、彼を信じて虎穴に入ってみるか・・・
ん、幼女趣味の変態じゃないのなら、私のような美人を見捨てることはしないだろう」
メイは、あっさりと覚悟を決めた。彼女は優秀な軍人なのだ。
度胸満点で、少しは緊張してくれと、よく上司に言われる程だ。
そういうわけで、メイ中尉は隠し持っていたナイフで蔓を切って脱出することをやめて大人しく砂浜に転がったままになった。
「逃げないのか、度胸だけはあるようだな」
ケンカイは、少し感心したようにつぶやいた。
”爺さん、先に大角丸だ。武器が無いのは前回で懲りた”
”竜使いが荒いのう。まあ、大した距離ではないわい”
「ご主人さま。メイさん、あそこで大丈夫なんですか?」
「逃げる気なら、とっくに逃げてる筈だ。しっかり、ナイフを隠し持っていやがったからな」
「え、そうなんですか。じゃあ、メイさん何で縛られて転がったままなんでしょうか」
「そうする方がいいと判断したんだろう。何か海賊絡みの任務でもしているようだしな」
「任務ですか?」
「何の任務かは知らんけどな」
大角丸が近付き、ケンカイはリオウの背から甲板に飛び乗る。
「さっき言った通り、海姫の雷号に隠れてろ」
「はい、偵察は続けますから、ご主人さま、無理して怪我とかしないでくださいね」
「オレを誰だと思っている。海熊の一族だぞ」
「それでも、心配なものは心配なんです」
リネスはリオウに連れられて大角丸から離れる。
「心配ね・・・」
リオウは頭を掻いた。面と向かって言われると体がむず痒くなる。
大銛を用意し、いつもの手斧と短剣を腰にさしながら、さきほどから何かが気になっていた。
「なんか、見落としている気がするんだがな。はて」
海姫の雷号は海底に沈んでいる。
そこにいくには潜っていくしかない。
”リオウさん、い、息がぁっ”
”もう少しじゃて、辛抱するんじゃ。離すでないぞ”
水中で呼吸が可能になるような便利な魔法は無い。
リネスは先日の潜水の訓練の成果を試されることになっていたのだった。
「おお、なかなかの上玉じゃねえか」
「けどよお、誰が見つけたことになるんだ、これ」
「ああん、見つけたのは見張っていた俺じゃねーか」
「ふざけるな、捕まえたのは俺だ」
「何言ってやがる、俺だろ」
「同じ小舟で来たんだから、全員一緒だろ、お前たちの手柄じゃねーぞ」
海賊たちは揉めていた。
山狩りでもして見つけるつもりだったお宝は、島に着くと同時に見つかった。
しかも、予想していたより美人の上玉だ。
顔もスタイルも悪くないとくれば、争いになるのは当然だった。
争いはだんだんと熱を帯び、刃物沙汰になりそうな雰囲気になった。
「お前たち、やめねえか」
それを制止したのは、頭である狐のウエイだ。
面倒な捜索を焚き付けるために言った早い者勝ちが、余計面倒な事を起こしそうになってしまった。
「頭、横取りするつもりじゃないだろうな」
狐のウエイは、文句を言ってきた男を殴りつける。
「馬鹿野郎が、俺がそんなことするみみっちい男に見えるっていうのか。
先に最低限確認しとかねーと、旦那に報告する時困るんだよ。
後からじゃ、確認もできなくなってるだろうからよ」
厭らしい笑いを浮かべながら、ウエイはメイに近付いた。
「よう、女軍人さんよ。あんたが、メイ中尉って女ネズミだよな」
「ん、キミたちはもう少し衛生に気を配ったほうがいいぞ。正直臭い」
メイは周囲を囲む海賊達に臆することなく言い放った。
「元気がいいねえ、大歓迎だ。なんせ、あんたはこの後、忙しくなるからなあ」
縛られたメイの体をなめまわすように見る狐のウエイ。
「ん、できれば御免こうむりたいものだが。一つ聞かせてくれ、私の名前をどこで知った。
今の私の軍服は見えないはずだが」
「それを知ってどうするんだ。どこにも報告できやしねいぜ」
「せめて、私の推測があっているかどうか確認したいだけだ。私は真面目な軍人だからな。任務には忠実なのだ」
「冥土の土産が欲しいってか。真面目な事だねえ。
命乞いでもしたほうがよくないかい」
「命乞いなどしても、助かるとは思えないのでな。私は合理的なのだ」
「合理的ねえ」
「ついでに執念深い、最後まで諦めないのも信条なのだ」
「そりゃあいい。最期まで楽しませてくれるってわけだ。
途中で反応が無くなるとつまらないからよお」
「ん、そうなるのか。じゃあ、そうならない事を約束するから、教えてくれ」
「いい度胸だな。それに、いい胸だ」
狐のウエイは、縛られたままのメイの胸に手を伸ばし、強く胸を揉んだ。
「最後まで楽しませてくれるってえなら、教えてやるか。知り合いの大佐様に教わったんだ。ここにくりゃ、安全で楽しめるってな」
「それは、リーイン大佐か?」
「そこまでは、言わねえよ」
「もし、リーイン大佐なら悪いことは言わん、今のうちに付き合いを止めておくんだな。
証拠はないが、過去にいくつもの海賊団と取引をして、裏切ってきた男だぞ」
「ほほう、俺達の心配かよ。け、俺はそんな連中とは違う。裏切られるようなドジは踏まねえし、用心だってしてるぜ」
「ん、そうか。用心しているのか」
「それがどうしたってんだ」
「いや、取りあえず聞きたいことは全部聞けたんだがな」
「そりゃ、よかったな。じゃあ、この後はお楽しみだ」
「タイミング的には、この辺りだと思うのだが」
「何いってやがんだ、この女」
狐のウエイはナイフを取り出すと、蔓の一部を切り取る。胸を覆っていた蔓が切り取られた。
そのまま、軍服のボタンを斬り飛ばして襟を大きく広げた。
「おお、やっぱりいい胸してるじゃねーか。手下どもにくれてやるのは惜しいが、約束なんでな。お前ら順番を決めるぞ」
歓声を上げる海賊達。その歓声をかき消すように、空気を切り裂く唸り音が聞こえた。
立っていた狐のウエイの上半身が吹き飛んだ。
さらに、大銛はその後ろにいた海賊集団に飛び込み、盛大に血しぶきをまき散らして砂浜に突き立つ。
「我は海熊の一族にて、銛撃つ者」
砂浜に朗々とした声が響く。
「てめえら、全員死にやがれっ!」
ケンカイが片手に大銛を掲げて大見えを切ったのだった。
海賊達は呆気にとられていた。
美人の女軍人を嬲り者にできるお楽しみの時間が来たと思ったら、彼らの頭が肉片になったのだから無理は無い。
それをやったと思しき人物は、白髪の混じった黒髪に黒い瞳、顔だけなら初老に見える男だ。
だが、その体格は凄まじい。みるからに頑丈そうな骨太の骨格。その上に盛り付けられた強靭な筋肉が見て取れる。
しかも、その体が自然に滑らかに動く。余計な筋肉をつけすぎると、動きはぎこちなくなるものだが、目の前の男にはそれが一切ないのだ。
その男は、先ほど狐のウエイを粉砕したのと同じものらしい丸太のようなものを持っていた。丸太の先端には大きな鉄の塊のような銛先が鈍く光る。
とても人間が振う武器とは思えないそれを、軽々と振り回しながら近付いてくる男。
茫然としていた海賊達が、大銛の軌跡に巻き込まれて吹き飛ばされる。
「だ、だれだ、手前」
「お、お、俺達を誰だと思ってやがる!」
気を取り直すことに成功した数人の海賊が声を発するが、次の瞬間目の前に現れた男の振う大銛に叩き潰された。
「いい恰好になってるな」
ケンカイは、メイの所まで辿り着くと一旦足を止めた。
今のメイは、軍服の胸のところが大きく開かれて、形のよい乳房に作られた谷間がはっきりと見える状態だ。
「現れるのが、少し遅くないかね」
メイは隠し持っていたナイフで、素早く体を縛る蔓を切断し立ち上がる。
胸元を隠すように軍服を直すが、ボタンが切られているため中途半端に隠せるだけだった。
「ん、まあ、これくらいはサービスだ。存分に目の保養をしたまえ」
直すのを諦めて、むしろ見せつけるように胸を張るメイ。
「やはり、お前、変態女か」
「失礼な。私は至ってノーマルだ」
ケンカイは、腰の短剣を抜いてメイに渡す。
「自分の身は自分で守れ」
「私を救いにきてくれた白馬の王子様は随分と薄情な事を言う。ん、守ってやるくらい言ってくれれば、私も嬉しいのだが」
「阿呆か、オレは、」
ケンカイは自分たちを遠巻きに取り囲んでいる海賊達を睨みつけた。
「こいつらを、ぶち殺すために来たんだ。それ以外はおまけだ」
”リオウさん、酷いです。潜るならそう言ってくださいよぉ”
辛うじて溺れずに海姫の雷号へ辿り着くことができたリネスは、しばらく蹲った後、ようやくリオウに文句を言える程度に回復した。
”すまぬのう。ケンカイの奴が全く問題にしてなかったのでな。リネスも平気だと思い込んでいたのじゃ”
”ご主人さまを人間の基準にしちゃダメです。ボクが死んじゃいます”
”うむ、以後気をつけるかの”
”お願いします。リオウさん”
リネスは気を取り直して、ジョナサンに同調する。
ジョナサンは、気ままに空を飛んでいた。リネスが同調することで、リネスの意志に従って行動するようになる。
空の上から、リネスはケンカイとメイを確認した。
そして二人を包囲しようとしているのか逃げようとしているのか遠巻きに囲む海賊達。
さらに、沖に浮かぶ3本マストの大型海賊船。
海賊船からさらに海賊達が上陸しようと、上陸用の小舟に乗り込む姿を確認したリネスは、変なものを見つけてしまった。
海賊船より沖側に浮上した異形の物。
それも一つでは無く、複数。
”リオウさん、変なのがいますっ!、あれ、何!”
”ワシはオヌシの見てるものは見えんでな。どんなものか説明してくれんとわからんぞい”
”女の人です、いや、人じゃなくて、蛇かな、魚かな、とにかく変なのがいます!”
島を取り囲んでいた'妹達'のうち、砂浜の見える位置に待機していた数匹は肉眼で標的を確認した。
彼女たちは動きだした。
標的であるケンカイに向けて。
ケンカイと彼女たちの間に、海賊達が居たことは、海賊達にとっては不幸な出来事だった。
”ご主人さま、変なのが来ます。気を付けてくださいっ”
リネスからの念話がケンカイに届く。
”変なの?”
思わず隣のメイをちらりと見る。
「ん、やはり私の魅惑の胸を見たいのか」
視線に気づいたのか、メイはわざとらしく胸を片手で隠す。
「残念ながら、サービスはここまで。でも、もしかすると激しく動くと胸ポロするかもしれないのだが。その瞬間を見逃しても、私への文句は受け付けない」
こいつより変なのがいるのだろうか? とケンカイは思う。
だが、海に目を向けた途端、さすがのケンカイもメイに謝りたくなった。
「すまんな、メイ」
「ん、何がだ」
「さすがのお前も、あれよりは変じゃないな」
「なにやら、酷い言われ方だが、寛容な私は許してやろう。それで、あれって・・・」
メイはケンカイの指さす方を見て絶句した。
「・・・キミ、あれと比べるのは、さすがに失礼ではないかと思うぞ」
そこにいたのは海から現れた竜の宮の'妹達'。
「ん、で、あれは何だ」
「知らん」
'妹達'は途中で遭遇する海賊達を蹴散らし、踏み潰し、貫き、噛みつきながら砂浜へ迫ってきた。
'妹達'は美しい女性の顔をしていた。だが、その目には生気が無い。
そして、女性らしい部分はその顔だけだ。
顔から伸びる鱗に覆われた長い首。水かきと鉤爪の着いた強靭な四肢。わずかに痕跡が残る小さな羽。うねる棘付の尻尾。首と胴の境目にある大きな口。
あえて例えるなら、小型の人面竜。
それが'妹達'であった。
'妹達'は海賊船に接触した。海賊船は船底に穴をあけられて、みるみる沈んでいく。
逃げ出そうとした海賊は、ことごとくすり潰されていく。
そして、'妹達'は海岸目指していく。
そこにいる目標めがけて。ただひたすらに。




