第3話 勘違いと思い込みの女
溺れかけているところを助けた女は、そのまま気を失っていた。
年のころは20歳くらいだろうか。短く揃えた茶色の髪が印象的だ。
中肉中背でひきしまった体形をしていた。
助けた上げた時、女はリネスが報告した通り足を縄で縛られていた。
この状態で着衣のまま海に飛び込むなど、普通なら自殺行為だ。
女は軍服のような服を身に着けていた。もちろんずぶ濡れである。
軍服には階級章や国旗らしいものが付けられているが、ケンカイ達にはこの辺りの国の知識が無いためそれがどこの国の軍服なのか判らなかった。
「まあ、判るわけないな」
ケンカイは大角丸の船長室の外で、濡れた軍服を観察していたのだがそれ以上判りそうもないので、軍服を盥に入れる。
盥に入った真水に浸して軍服から海水を抜き、絞ってから乾かすためにマストに引っかけておく。
女が付けていた下着は、リネスが取り上げてケンカイに渡さなかった。
「オレが下着に興奮するような変態だと思ってるのか、あいつは」
ケンカイはぼやく。
女を船に運び上げるところまではケンカイがやったのだが、介抱しようとするとリネスが船長室から飛び出してきて、船長室に女を運びこませた後、ケンカイを船長室から追い出したのだ。
「ご主人さま、女の人なんですから。気配りしてください」
「お前、オレが気を失った女に何かするような男に見えるのか」
「何かしなくても、見えちゃうじゃないですか。
駄目です。そんな、助平なこと!。
ボクが介抱しますから、ご主人さまは甲板にいてください」
「いや、役得という言葉があってだな」
「ボクが介抱しますっ」
リネスはケンカイの鼻先で扉を閉めたのだった。
”爺さん、この服に見覚えないか?”
”さすがに、無いのう。それより、この先どうするつもりじゃ”
”事情がわからんからなあ。置き去りにするのは気が咎めるが、海姫の雷号に乗せるのは反対なんだろう?”
”当然じゃ。あの船の事を知る者は少なければ少ないほどよいのじゃ”
”そう言うと思った。それじゃ、大角丸で行くしかないか”
ケンカイは立ち上がった。まだ船に繋いでいないリオウに飛び乗る。
”それじゃ、あっちから必要になりそうな物を持ってくるか。3人で乗っていくにはいろいろ足りないしな”
”まめな事じゃな”
”オレは気配りが足りないそうだ。今のうちに挽回しておく”
”オヌシ、娘に嫌われたくない父親みたいなことをしておるぞ”
”あんなでかい娘がいる歳じゃないぞ”
”今の外見を忘れとるのか。下手をすると孫娘じゃぞ”
”爺さんのせいだろうが。さっさといくぞ。船は沈めたままなんだろう、潜っていくしかないのか”
”そうじゃの”
ケンカイはリオウに乗り、海姫の雷号を沈めてある場所まで移動した。
結構深い海底に着底しているのだが、ケンカイにとっては問題のない深さだ。
海底に沈めている船まで潜り、必要そうな荷物を濡れないように纏めて持ちだす。
海姫の雷号を浮上させる訳にはいかないため、作業には時間がかかった。
この時、ケンカイは油断していたのだ。
そうでなければ、大角丸から迂闊に離れることは無かっただろう。
荷物を持って帰ったケンカイが見たものは、開け放たれた船長室の扉だった。
マストに掛けていた軍服が無くなっている。
大角丸には誰もいなかった。
助け出した女も、そしてリネスも。
(ここは、どこだ?)
溺れていた女、メイ中尉は眼覚めた。
ベッドに寝かされている。体は拘束されていない。
体には毛布が掛けられているが、服は脱がされており、下着すらつけていない全裸姿であった。
(特に何かされた形跡はないな)
自分の体を確かめて、少しほっとする。
覚えている記憶は、リーミン号の窓から海に飛び込んだところまでだった。
記憶の片隅に白い鳥が残っていたが、それが何かは判らない。
あの時は混乱していたとはいえ、今考えると海に飛び込むことは自殺行為だった。
それでも無事だということは、おそらく誰かに助けられたのだということだ。
メイ中尉はチャンター共和国の監察局に所属する軍人である。
監察局とは、軍人の不正を暴くための組織であり、後ろめたいことをしている軍人、つまりほとんど全ての上級軍人に嫌われている組織だ。
メイ中尉は監察局に配属されてから、持ち前の直感と行動力と強運で実績を積んできた。
そういうと優秀な人材のように思えるが、実際には思い込みによる無茶な捜査の仕方で強引に成果を上げてきた女性軍人である。
他人から見れば自爆同然のやり方で、何故か成果をあげる女。それがメイ中尉だ。
彼女の仕事のやり方は、成果を上げても上司に睨まれるタイプの仕事のやり方だった。
今回も、正体不明の襲撃事件が発生したことに乗じて、以前から監察局がマークしていたリーイン大佐の船に強引に乗り込み、隙を見て船長室に忍び込んで調査をしていたところをリーイン大佐の部下に見つかって捉えられるというお粗末きまわりない事態を引き起こしていた。
本来、監察局の軍人が監察役として出向くときは、裏から手助けするためのサポート要員を潜入させて置くのが普通なのだが、彼女は自分の判断で勝手に乗り込んでいったため、サポート要員のいない一人きりの状態だった。
どう客観的に見ても、そのまま闇へと葬りさられる運命だったのだが、監禁されていた彼女に劣情を催し、強姦しようとした護衛隊の軍人を返り討ちにすることで、なんとか逃げる機会を得たのだ。
その方法が海に飛び込むという自殺まがいのやり方だったにせよ、彼女は持ち前の強運で今回も助かっている。
(無駄だと思っていた胸の脂肪も役に立つものだ)
男が見れば、形の良さに目を奪われるであろう乳房に毛布を巻きつけて、メイ中尉は身を起こし、周囲を観察する。
飾りなど見当たらない無骨な部屋だった。揺れている感覚があるため、船上のようだと彼女は思う。
その時、部屋についていた扉が開いて一人の少女が呟きながら入ってきた。
茶色の髪に茶色の目をした少女。
手に着替えと思わしき服を抱えている。
体形からして10歳くらいの幼い娘だと、メイ中尉は思った。
リネスが聞いたら怒る事間違いない。
「ご主人さま、どこ行ったんだろ。あ、起きて大丈夫ですか?」
素早くリネスを観察したメイ中尉は、リネスの太腿の付け根にある奴隷環に気づいた。
それにご主人さまという娘の台詞。
この娘は奴隷で、ご主人さまという人物がいる。ご主人さまという人物は今ここにいないようだ。
メイ中尉は、頭の中で状況を整理する。
それにしても、あのような個所に奴隷環をつけるとは・・・
奴隷環は主人となる人間が直接取り付ける必要がある。どこにつけてもいい奴隷環を、わざわざ幼女の太腿、それも股間にちかい付け根につけるとは・・・
(可哀そうに、この娘のご主人さまとやらは、幼女趣味の変態に違いない)
メイ中尉はそう思った。
きっとそのご主人さまとやらは、この少女に奴隷環を取り付けるとき嫌らしい顔で太腿を撫でまわし、抵抗できぬ少女が震える様を楽しんでいたに違いない。なんという変態だ。
持ち前の直感と行動力と強運で実績を積んできた、言い換えれば思い込みによる強引な行動を強運で実績に変えてきた彼女。
非常に思い込みの強い彼女は、この時点でリネスのご主人さまを幼女趣味の変態と決めつけてしまったのである。
「はい、これ乾いたので着ても大丈夫ですよ。
着ていた服の方は、まだ乾いてないんです」
リネスは持ってきた着替えを渡した。
それはメイが着けていた下着で、水洗いして乾かしたものだった。
「ありがとう。私は・・メイ。チャンター共和国所属の軍人だ」
一瞬、偽名を名乗ろうとも思ったが、名前どころから所属まで明記した軍服を見られている筈で、すぐにばれる嘘をついても仕方がないと思い直し、メイ中尉は素直に本名を名乗った。
「助けてくれたことに感謝する。それで、ここは何処だろうか?」
「あ、ボクはリネス、ご主人さま、あ、ケンカイ様の、契約奴隷です」
リネスは、メイが自分の太腿にある奴隷環を見ていたことに気づき、正直に境遇を告げる。契約奴隷であればさほど差別的な扱いを受けることはないのだが、自分のことを奴隷と他人に言うのは初めてで、気恥ずかしくなり声が小さくなった。
メイは下着を受け取り身に付けながら、リネスの様子から彼女が奴隷の身を恥ずかしがっているのではないかと推測する。
メイの知る限り契約奴隷自体は恥ずかしがるほどのものではない。
身元保証の無い人間を雇う時に結ぶ場合もあるくらいのものだ。
もし、恥ずかしがることがあるのなら、その契約内容に問題があるに違いない。
やはり、変態的な行為を強要させられることを契約させられているのだろう。
幼いながら(メイはリネスを10歳くらいだと思っていた)しっかりした娘になんと酷い事をする奴だ。
下着を着け終ったメイは、リネスが自分を真剣な顔で見ていたことに気づいた。
実のところ、リネスはメイの形の良い胸を見て、あの大きさくらいなら、ボクもきっとなれる筈などと考えていたのだが、メイはリネスが悩み事を抱えて相談したがっているのではないかと思う。
この場合の悩みとは、やはり、自身へのご主人さまとやらの変態行為に関する事に違いない。
「ここは、大角丸という船の船長室です。メイさんが海に落ちた場所近くの島に停留しています」
「そうか、ところでキミは、私に聞きたいことがあるのではないか?」
メイ本人としてはさりげないつもりで、リネスを誘導してみた。
「え、えーと」
リネスは確かにメイに聞いてみたいことがあった。なにせ、メイは足を縛られた状態のまま海に飛び込んでいたのだ。きっと、複雑な事情があるに違いない。
でも、それは迂闊に尋ねていいものかな?とリネスは戸惑う。
「言い辛い事は判る。キミのような幼い子供には理解しきれない経験をしたのだろう」
なんで、ボク、幼い子供扱いされてるんだろう? リネスは不思議に思ったのだが、理解しきれない経験をしてきたのは事実だった。
気づいたら空飛ぶ船に乗せられて遥か1万km東の海にいたというごく最近の経験だ。
だが、その事を知っている者は、ケンカイ、リオウ、自分の三人だけのはずだった。
「え、なぜ、それを知っているんですか?」
「やはりそうか・・・」
自分の推測が当たったと思い、メイは悲しそうに俯いた。
不幸な推測など外れるほうがよいのだ。やはり、この子はご主人様の変態行為の餌食となっている。それは、虐待であり幼女が受けて良いものでは無い。
「私は任務の途中でキミと巡り合ったのだが、これは不幸な少女を救えという神の啓示かもしれない」
「え? ボク、不幸じゃありませんよ」
犯罪奴隷になるところを助けてもらっただけでも幸福で、その後のケンカイとの生活も楽しい事が多い。この人何を言い出したんだろうと、リネスは不安になる。
「そりゃ、時々変なことが起きるし、ご主人さまも乱暴な事や変な事をする時もあるけど、ものすごく優しいし」
基本的にケンカイの行動に悪意は無い。本人が常識と思っている行動が、一般人からみると迷惑になることがあるだけだ。
それによく巻き込まれるリネスだが、リネスの反応からやり過ぎたことを理解したケンカイは、きちんと後で慰めてくれる。
仕事をすればちゃんと褒めてくれる。
それは、海賊船に捕まっていた時どころか故郷のスラムで生活していた時と比べても、遥かに幸福な生活だとリネスは感じていた。
「酷い事をされた後に、優しくされる・・・なんということだ」
メイはリネスに同情的な視線をむけた。
「キミには判らないだろうが、それは洗脳手段の一つだ。
変態行為だけではなく、洗脳までされているのでは、キミが幸福だと思い込むのも無理はない」
「は?」
リネスには理解できないことを言い出したメイ中尉は、しばし考えていた後、決意を決めた表情になる。
「私を信用しろ、きっとキミを今の境遇から助け出してやる」
「なにを言ってるんですか、メイさん」
ひょっとして、この人、海に落ちた時に酷く頭を打ったのかも。リネスはそう思いメイに近付いて頭を調べようとした。
メイは素早くベッドから降り、近づいてきたリネスの首に腕を回す。
そして、そのまま頸動脈を締め上げた。リネスは一瞬のうちに意識を無くした。
「少々手荒だが、これもキミの為だ。私に任せろ」
そして、使えそうなものを物色し、干してあった半渇きの軍服を身に着けたメイは、リネスを抱えて大角丸から逃げ出したのだった。
女がリネスを連れて逃げ出した後、大角丸に戻ってきたケンカイは焦っていた。
”リネス、どこだ。返事をしろ”
ケンカイは念話でリネスに呼びかけるが、返事は返ってこない。
”うむ、気絶しているか眠っておるかじゃの。
ジョナサンは自立状態で解放状態になっておらんから、リネスが生きているのは間違いないの”
ケンカイは改めて船の甲板を見回す。マストに掛けていた筈の軍服が無い。
女を寝かしていた船長室からは、ナイフなどの小物が無くなっていた。
「あの女が、連れ去ったのか」
状況を見るとそうとしか思えなかった。しかし、なぜリネスを攫う必要があるのかが判らない。
こちらを信用できなくて、逃げ出したのなら判らなくもない。一般の航路を外れた無人島に潜んでいた何者かなど、海賊などの無法者くらいしかありえないからだ。
だが逃げるのにリネスを連れて行くことに意味があるのか?
逃げるのを優先するのなら、人質など邪魔なだけだろう。そもそも、こちらを悪漢の類と思っているのなら人質の効果など無いと思うのが当然だ。
ケンカイも、まさか逃げ出した女、メイ中尉が、ケンカイの事を幼女趣味の変態と思い込み、リネスを助け出すつもりで連れ出したなどということは、思いつきもしなかった。
甲板の上から周囲を見下ろすと、砂浜に残っている足跡を見つけることができた。
ケンカイは足跡が山の方に向かっているのを見て、顔を顰める。
ケンカイは海で暮らす漁師だ。陸での追跡技術など持っていない。
足跡をつけてみたが、案の定、山に入るとそれ以上痕跡を追うことができなくなった。
既に日は暮れかけている。
夜になって山に入っても、どうにもならないだろう、とケンカイは思った。
何度か念話で呼びかけてみるが、リネスからの返事は無い。
苛立って、間近の細い木を殴りつける。ケンカイの怪力で殴られた木が根元から折れた。
”ケンカイよ。オヌシ、少し落ち着け”
”ああ、そうだな”
”リネスが目を覚ませば、すぐに居場所がわかるじゃろ。それから動いた方が良いぞ”
”それは判ってるんだが・・・”
”なぜ、あの女がリネスを攫ったのかは知れぬが、危害を加えるつもりならその場で始末しておけばよかっただけじゃ。
わざわざ連れて行ってから危害を加えようとはすまい。第一、オヌシ、夜の山での探索など慣れておらんじゃろ。うかつに彷徨えば迷うのがせいぜいじゃぞ”
ケンカイは溜息をついた。
リオウのいうことはもっともだ。いざ行動する時に備えて、準備を行い力を蓄えておいた方が良いだろう。冷静さを欠いていたことを自覚してしまった。
痕跡を見失った所まで戻り、持ってきた荷物の中からいくつかの食料を取り出して簡単に調理する。
1人で食べる食事はひどく味気ないものに感じたケンカイだった。
メイ中尉は大角丸から逃げ出した後、気絶したリネスを抱えて山中へ逃げていた。
リネスは年齢からすると軽い部類に入るのだが、それでも人1人抱えて山の中を歩き回ることができるという女性とは思えないずば抜けた体力、これが彼女の行動力の源泉である。
山に入ってからは、急ぎながらも慎重に自分の歩いた痕跡が残らないように注意して歩くメイ中尉。
その隠蔽技術は驚くほど高い。
素質と才能とやる気だけは優秀な軍人、とどこでも言われてきたのが彼女であった。
思い込みによる使命感に満ち溢れた彼女を止ることは、彼女の上司でもできないのだ。
そんな彼女がようやく足を止めたのは、山に入って日が暮れてきてからだった。
隠れるのに都合のよさそうな洞窟があった。
入口を手早く周囲の草や木の枝で隠しながら、メイ中尉はリネスを担いでその中に入る。
ここまで逃げてくる間に、食べれそうな木の実を集め、出会った兎を仕留めて食料の確保に成功していた。
驚くほどの手際だ。
ついでに途中で見つけた薬草を調合して睡眠薬を作り、リネスに投与していたりもする。
無駄に優秀、これも彼女の評価の一つであった。
そして、ようやく腰を落ち着けた後、メイは思考を巡らせる。
「さて、これからどうすればいいんだ」
ここは無人島。ということは助けを求める他人などいない。
島からの脱出手段も無い。さて、どうしよう。
信じられないほど後先を考えない。彼女が上司や同僚に恐れられる最大の特徴を如何なく発揮するメイ中尉である。
「ん、とりあえず寝よう。きっとなんとかなる」
それで今まで何とかなっていた強運な彼女は、深く考えるのを止めて体を横たえた。
直感と行動力と強運の女軍人メイ中尉は、いついかなる時でも彼女らしさを失わない立派な軍人である。
巻き込まれる方はたまったものじゃないという点は、ケンカイと非常に似ているのかもしれない。
夜は更け、そして明けていく。
「あいつ、いつまで寝てるんだ!」
ケンカイは苛立っていた。
夜明け間近になっても、リネスと連絡がとれないのだ。
時々念話を送っているのだが、まったく返事が返ってこない。
気絶状態から、そのまま寝てしまったのだろうか。
”爺さん、念話でたたき起こす方法ってないのか”
”うむ、無くは無いが。結構、難しいぞい”
”あるのか、どうやればいいんだ”
”要領としては、オヌシが大銛に魔力を流したやり方に近いのう。
念話そのものに更に魔力を流す感じじゃ。
とはいっても、結構難しくての。修行した魔法使いでなければまず無理じゃぞ”
”爺さんはできないのか?”
”できんことはないが、魔力を無駄使いするし、大声で自分の居所を教えるようなもんじゃしの。今の状況じゃ止めとくのが無難じゃ”
実際、自分の存在を隠したいリオウにとっては論外な方法だった。
ケンカイにやり方を教えたのも、まさかできるはずがないと思っていたからだ。
「こんな感じか」
ケンカイには未だに魔力というものをいま一つ理解していないが、とりあえず便利に使える力だという程度の認識はできていた。
バトア王国での一連の戦闘で魔力を利用する方法をいろいろ試せたこともあり、以前よりは抵抗がない。
あの時、雷の手を打ち払った時の感覚を思い出しながら、念話を行う。
””リネス、いつまで寝てる。さっさと起きろ!!””
ケンカイの念話が、爆発的に響きわたった。それは念話を同調させているリオウにも響き、あまりの念話の大きさにリオウすらも一瞬目を回す。
”つくづく、わからん奴よの、オヌシは”
そして、その念話は寝ているリネスを叩き起こすことに成功したのであった。
「はっ、ご主人さま、おはようです」
リネスは頭を殴られたような衝撃を受けて目を覚ました。
そして、自分がどこにいるかわからなくて混乱する。
「あれ、ここ何処?」
混乱したまま周囲を見回すうちに記憶が戻ってくる。
「あ、メイさんが抱き着いてきて、、、その後どうなったんだろ?」
一瞬の内に頸動脈を決められて落とされたので、リネスの記憶は曖昧なままだった。
周囲を見回して、ケンカイが居ないことはわかった。
”ご主人さま、どこですか”
”ようやく起きたか。お前こそどこにいる? 怪我は無いか?”
”えーと、どこか判りません。洞窟の中かな? 怪我とかは無いです。大丈夫です。
船室でメイさんが急に抱き着いて来て、それで、ご主人さまの念話で今気づいて、えっと・・・”
”落ち着け、メイっていうのが、あの女か”
”あ、そうです。軍人さんって言ってました”
”とりあえず、そちらに向かう。ジョナサンを呼べ。オレはジョナサンを尾けていく”
”はい、あの、ご主人さま・・・心配してくれてたんですか?”
”? 当たり前だろう”
そっか、心配してくれたんだ。とリネスは嬉しくなった。
顔がにやけているのを自覚して赤くなる。
その時、美味しそうな匂いと共にメイが洞窟に入ってきた。携帯用の鍋を持っている。
どうやら、朝食の準備をしていたようだ。
メイは実に晴れやかな表情をしていた。後ろめたいことなどなにもないかのようである。
それがリネスには奇妙に思えた。人を攫っておいて、どうしてあそこまで晴れやかな顔をしているんだろ、と。
メイ本人としては、幼女趣味の変態から被害者を救いだしたと思っているので後ろめたい思いなどあるわけもないのだが。
「ん、起きたか。朝食ができているぞ。私は野外料理だけは得意なんだ。昨日しとめたウサギを煮込んでスープを作った。旨いぞ」
と、メイが朗らかにリネスに語りかける。
「メイさん。ここ、何処ですか。ボクを攫うなんて、何を考えているんですか」
「ここは山の中腹あたりかな。いい洞窟があったので助かった。
手荒な事をしたのは謝罪するが、これもキミのためだ。
私はキミを助ける。そう決めたんだ」
「助けるって? 何をです」
「やはり、キミはまだ幼い。何も判っていないのだろう。だが、大丈夫。私はキミの味方だ。もう嫌な思いをする必要は無いんだ」
「だから、何を言ってるんですか。それに、ボク、幼いっていう年齢じゃないです!」
「ん、背伸びしたい年頃なのかもしれないが、10歳未満の少女を幼いと言わずに」
「13歳です!」”13歳です”
リネスはメイの言葉を遮った。
”どうした、何かあったのか!”
制御を間違えたらしく同時に念話を送ってしまった。リネスはまだ念話に不慣れで、会話とは別の内容を念話で送るような器用な事はできない。
”あ、いえ、今、メイさんに事情を聴いてます。ご主人さま”
”あまり、刺激するなよ”
”あ、はい”
リネスが念話に気を取られている間に、メイはリネスに近づいた。
鍋を地面に置いて、そのままリネスの胸とお尻を触る。
「ひゃい」
「ん、嘘は良くないな。13歳なら、もっと胸と尻が大きい筈だ」
リネスは本気で腹が立った。人間、自分が気にしていることを他人に言われるのは辛いのだ。
「これから、大きくなるもん。とにかく、ボクが13歳なのは間違いないです。幼くないです。訂正してください」
「わ、わかった。ん、だがリネス。状況は変わらん。初潮も来ていない女の子が変態的行為の餌食となっていたことには変りはない」
「初潮は、2年前に来てますっ。どこまで子供扱いしたいんですか、て、変態行為の餌食って何?」
「ん、初潮も過ぎたのにその胸では、、あ、なんでもない。そう睨むな。あ、変態行為というのはだな。ごにょごにょごにょごにょ・・・」
メイは自分が思っていたことを説明した。
メイの思い込みと、メイの考えていたケンカイのリネスに対する変態行為の説明にドン引きになるリネス。
”ご、ご主人さま、メイさんって変です。変態です。しかも、ボクをいじめます”
”何、大丈夫かっ、ジョナサンが降下している。もう少しだ”
「と、いうように私は推測していたのだが」
説明を終えたメイは、リネスの醒めた目を見て首を傾けた。
「ん、もしかして、ひょっとしてだが、そんなことは無いと思うのだが・・・」
メイの額から冷や汗が流れている。
「私の勘違いだったという可能性はあるのか?」
リネスは、ゆっくりと頷いた。
メイの表情が強張る。本人としては、またやっちゃった、という感じである。
「ん、あれだ。
そう、よかった、変態行為を受けた幼女なんていなかったんだ。
なんて素晴らしいことなんだろう。
それじゃ、船に戻ろうか。ん、リネスのご主人さまも待っているだろう」
「もう、遅いです」
リネスの頭に、鴎のジョナサンが着地した。
続けて洞窟の入り口を隠していた木や草が吹き飛ぶ。
そこには、殺気を隠さないケンカイが仁王立ちで立っている。
急いで駆け付けたせいで、呼吸が荒く、全身から湯気のような汗がでている。
荒い息を吐くケンカイの顔と、猛獣のような全身の筋肉を見たメイは思った。
あ、これ、私、死ぬかも。




