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用済みだと追放された天才を怒らせてはいけない。彼は世界を壊す『技術』を持っているのだから/復讐のアーキテクト  作者: 赤腹井守
プロローグ

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009 刺客・後編

 女は、背後から現れた男の方へと反射的に顔を向けた。

 その、ほんの一瞬の意識の空白。

 極限の死地に立つヒバリが、その隙を見逃すはずがなかった。


「――再充填リロードッ!」


 ヒバリの右腕の砲口が、再び純白の閃光を放つ。

 ズギュゥゥゥンッ!!

 二発目の熱量圧縮砲サーマル・コンプレッサーが、大気を焦がしながら真っ直ぐに女と男へと襲い掛かった。


「ちぃっ!」


 女は驚異的な身体能力で床を蹴り、全身を使って熱線を辛くも回避する。

 だが、射線上に立っていた男は逃げなかった。突然の極大火力に対し、彼は無造作に提げていた漆黒の巨大剣――バスターソードを、盾のように自身の正面へと構えた。

 熱量圧縮砲サーマル・コンプレッサーの圧倒的な推力と熱波が、バスターソードの分厚い刀身に直撃する。


「おおっ!?」


 男は余裕の笑みを浮かべていたものの、想像以上の破壊力に足元の石畳を砕きながら、大剣ごと背後へと大きく吹き飛ばされた。

 そのまま瓦礫の山へと激突し、濛々たる土煙が舞い上がる。

 だが、煙の中に転がったバスターソードは、溶け落ちるどころか刀身に傷一つ付いていなかった。ヒバリが、ルキオラの異常な魔力熱に耐えることだけを目的として狂気的なまでに頑強に設計した絶対的な排熱構造が、皮肉にもヒバリ自身の攻撃を完全に凌ぎ切ってしまったのだ。


「……ははっ、ええやんこれ」


 土煙を払い、男が瞬時に起き上がった。

 彼はまるで長年使い込んだ相棒のようにバスターソードを構え、その異質な機械装甲の腕から、すさまじい密度の魔力を柄へと注ぎ込む。

 チリチリと、大剣のスリットの奥が不気味に赤熱し始めた。


「試しにやってみよか」


「やめろ!」


 女が焦燥に満ちた声で男を制止する。生け捕りにしてジェネシス・コードを奪うという目的が果たせなくなるからだ。

 しかし、男はひどく軽薄に、そして残虐に嘲笑った。


「こんなんで死ぬぐらいの柔い頭なら、はなから用無しやろ!」


 男がバスターソードを力任せに振り下ろした。

 ルキオラとは違う、ただ魔力を暴力的に圧縮しただけの粗暴な一撃。しかし、内包された莫大なエネルギーの波が、斬撃の衝撃波となってクリーンルームごとヒバリに襲い掛かった。

 工房の天井が吹き飛び、壁が粉々に砕け散る。

 全てを破壊する熱と衝撃の嵐が過ぎ去った後。

 濛々と立ち込める煙が晴れると、そこには――半球状に展開された、幾何学的な『光の多面体バリア』に守られ、無傷で座り込むヒバリの姿があった。


「へえ」


「あの攻撃を、防いだ……?」


 バリアの周囲の大地はすり鉢状に深く削り取られているというのに、ヒバリのいる空間だけが完全に守護されていた。男と女が、その超絶的な防御力に感心したように目を細める。


「……兄ちゃん、これ以上余計な真似せんといてくれる? 大人しくしてもらおか。抵抗するなら、本当に手足もがなあかんくなるで」


 男がバスターソードを肩に担ぎ、脅すように言う。

 光のバリアが粒子となって霧散し、ヒバリの姿が露わになる。

 彼の右腕を覆っていた武骨な砲身は、すでにドロドロの液状となって崩れ落ち、元の作業着の腕に戻っていた。


(……くそっ、やっぱりナノ・ルーンの定着限界だ。短期間での二度の熱量圧縮砲サーマル・コンプレッサーとバリアの展開は、魔力回路に負荷が掛かりすぎる)


 ヒバリの身体はすでに限界を迎え、全身の筋肉が悲鳴を上げ、視界がチカチカと点滅していた。だが、彼はその想像以上の疲弊を悟られまいと、必死に呼吸を殺し、凍りつくような冷徹さを装って二人を睨み据えた。


「……ルキオラさんを、どうした?」


「誰?」


 男は心底不思議そうに首を傾げた後、自分の肩にある大剣を見て納得したようにポンと手を叩いた。


「ああ、これの持ち主か。殺したで」


 淡々と、天気の話でもするかのように男は答えた。


「平和ボケしたハンター達やったなぁ。すぐ背後取られて死によったわ」


 鼻で笑う男の言葉に、ヒバリの心臓が冷たい手で鷲掴みにされたように凍りついた。だが、内心の激しい焦りと絶望を押し殺し、表情の筋肉を石のように固める。


「……目的は、僕か?」


「せやで」


「だったら、ほかの人たちは関係ないだろう」


「もう遅い。全員殺したし」


 男はあっけらかんと答えた後、ヒバリの心をさらに抉るように言葉を重ねた。


「あのデカい盾持ったおっさんは、酒飲んでる隙に胴体真っ二つ。赤毛のガキはあっちゅうまに斬り飛ばしたし、弓持ってた渋いおっさんも一瞬で細切れや。どいつもこいつも、脆くてつまらんかったわぁ」


 次々と仲間の残酷な死に様を聞かされ、ヒバリの腹の底からドロドロとした怒りが沸き上がる。


「田舎のギルドが最近腑抜けって話、ホンマやったんやな。お陰様でなんの苦労もせずにチャチャッと済ませられたわ」


 しかし。

 ヒバリは、フッと薄く、ひどく冷たい笑みを浮かべた。


「……そうか。お前がおしゃべりで助かったよ」


「あ?」


 男が怪訝な顔を見せる。

 その時、女が上空の微かな駆動音に気づき、ハッとして見上げた。遅れて男も、己の頭上に影が落ちていることに気づく。

 吹き飛んだ工房の天井の先。夜空を背にして、一基の異質な『小型ドローン』が静かに浮遊していた。

 ヒバリの腕から崩れ落ちた液状のナノ・ルーンが、バリアの陰で密かに再構築され、空へと放たれていたのだ。ヒバリは彼らと会話を交わし、わざと心を抉らせることで、このドローンの構築が完了するまでの『時間稼ぎ』を行っていたのである。


 男の目が見開かれた。だが、遅い。

 ドローンの中心には、ヒバリの右腕にあったものと同じ、極太の砲身が備わっていた。


「盾を構える暇があるかな」


 ズギュゥゥゥゥンッ!!!

 直後、上空のドローンから放たれた一条の熱線が、男の身体を脳天から真っ直ぐに貫いた。


「――――ッッ!?」


 回避不能の死角からの狙撃。男は焼け焦げ、バスターソードを取り落として地面に激しく倒れ伏した。

 彼が纏っていた襤褸布の外套が燃え尽き、その下から、金属の骨格と人工筋肉が複雑に絡み合った身体と顔が、無残に焼け焦げた姿であらわになる。


「なっ……!?」


 一瞬で相棒が撃ち抜かれた光景に、女が慄然と息を呑む。

 上空のドローンが、ジィィン、と滑らかな駆動音を立てて砲口の向きを変え、今度は女の眉間へとピタリと狙いを定めた。


「次も、外さない」


 ヒバリが、座り込んだまま冷淡に死を宣告する。

 女は悔しげに顔を歪めた。片腕を失い、相棒も倒れ、上空からは未知の兵器に狙われている。これ以上は完全に分が悪い。


「……クソッ!」


 女はすぐさま踵を返し、驚異的な脚力で暗闇の奥へと駆け出し、撤退していった。

 女の気配が完全に消えたことを確認し――


「……はぁぁっ……、はぁっ……」


 ヒバリは、全身の強張りを解いて深々と安堵のため息をついた。

 上空で浮遊していたドローンが、パシャッと形を崩し、ただの液体の飛沫となって地面に降り注ぐ。


 ――完全なハッタリだった。


 ドローンを形作ることはできても、もうこれ以上、熱量圧縮砲を放つだけの魔力エネルギーは、ヒバリのスーツにも、彼の身体にも残存していなかったのだ。女が引かずに突っ込んできていれば、間違いなく殺されていた。


「くっ……!」


 ヒバリは全身を襲う激痛と疲労に耐えながら、やっとの思いで立ち上がった。

 よろめく足取りで、地面に倒れ伏しているサイボーグの男へと近づく。男は完全に機能を停止し、頭部からは微かに黒い煙が上がっていた。

 ヒバリは、焼け焦げた男の機械の身体を冷ややかに覗き見る。

 そして、男の金属製の右肩の装甲板に、微かに印字されている『ロゴマーク』を見つけた。


「……TALOS(タロス)

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