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用済みだと追放された天才を怒らせてはいけない。彼は世界を壊す『技術』を持っているのだから/復讐のアーキテクト  作者: 赤腹井守
第六章 ブラッド・オブ・ザ・アイアンフォートレス

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055 復讐の道へ交差する時

 地下に広がる電脳の聖域。

 無数のモニターが暗い青色を放つその空間で、ミサゴは革張りのキャスターチェアに深く身を沈め、泥のような眠りに落ちていた。

 ダイダロスの監視網を潜り抜ける極限の緊張感と、カルキアの凶刃によって抉られた右腕の激痛。強引な自己縫合を終えた彼女の脆弱な肉体は、限界をとうに超えていたのだ。


 だが、その微睡みは、不意に鳴り響いた静かで規則的な警告音によって破られた。


『――警告。ミスター、当施設の上層、地上の廃屋付近にて、複数の生体反応を検知しました』


「……ん、っ……」


 ミサゴは痛む右腕を庇いながら、ゆっくりと重い目蓋を開けた。

 プロメテウスの流暢な人工音声が、彼女の眠気を一瞬で吹き飛ばす。ダイダロスの追手が、ついにこの完全なオフライン要塞を物理的に嗅ぎつけたのか。

 彼女は血の気の引いた顔でコンソールにすがりつき、震える左手でキーを操作して地上の隠し監視カメラの映像をモニターに呼び出した。


 暗視モードの荒いノイズが走る画面。

 そこに映し出されていたのは、完全武装したパンドラ社の暗殺部隊でも、重装甲の警備メックでもなかった。


 猛吹雪を避けるようにして、錆びた管理小屋の前に立つ二つの人影。

 パラディウムの凄まじい排熱によってボロボロに焼け焦げたダークスーツを着た、ボサボサの黒髪の青年。

 そしてその隣で、血と泥に塗れた緑色のコートを羽織り、研ぎ澄まされた戦士の警戒心を放っている金髪の男。


「……あいつら」


 ヒバリと、ハパロクラエナだった。

 ミサゴはモニターに張り付き、大きく息を吐き出した。全身の力が抜け、安堵と、そしてほんの少しの呆れが混じった複雑な感情が胸の奥で交差する。

 自分が外部ネットワークから完全に痕跡を消し、無音のSOSを発してから数日。彼らはダイダロスの目を掻き潜り、見事にこのムルキベルの最果てまで辿り着いてみせたのだ。


「……遅いわよ、本当に」


 ミサゴは誰に聞こえるわけでもない悪態を零し、プロメテウスに向けて短く指示を出した。


「プロメテウス。最終認証プロトコルを展開しなさい。……迎え入れてあげるわ」


 ◆◆◆


 猛吹雪が吹き荒れる地上の廃屋。

 ヒバリとハパロは、軋む木製の扉を恐る恐る押し開き、工具が散乱する薄暗い小屋の中へと足を踏み入れた。


「ここが、あの天才ハッカーの隠れ家か? ただの荒れ果てた小屋にしか見えないが」


 ハパロが腰の愛剣に手を添えながら、周囲の暗闇に鋭い視線を巡らせる。

 ヒバリは壁際の錆びた配電盤に目を留め、ゆっくりと歩み寄った。


「彼女の性格からして、入り口を分かりやすく飾るような真似はしない」


 ヒバリが配電盤のカバーに手を伸ばそうとした、その時だった。

 どこからともなく、極めて流暢で紳士的な男性の合成音声が、狭い小屋の中に響き渡った。


『――当施設へのアクセスを検知。これより、訪問者に対する論理パスワード認証を開始します』


 ハパロが咄嗟に剣を抜き放ちそうになるのを、ヒバリが手で制した。

 ミサゴの構築した支援AI、プロメテウスの声だ。


『問い――

 よく跳ねたり、よく伸び縮みするのは、男ですか、女ですか?』


 静かな小屋に、場違いなほど軽快ななぞなぞが出題された。

 ハパロは少しの間沈黙したが、すぐに小さく鼻を鳴らした。


「よく跳ねたり、伸び縮みする……つまり『弾性』だ。それと同じ読み方……答えは『男性』だろ。子供騙しの言葉遊びだな」


 ハパロが呆れたように結論を口にした、その直後だった。

 ヒバリは一切の躊躇なく、即座に虚空へ向かって答えた。


「いや、『女性』だ」


 その言葉に、ハパロは驚いてヒバリの顔を見た。


「おい、ヒバリ。どう考えても『男』だぞ。ただの同音異義語のなぞなぞじゃないか」


 ハパロの鋭い指摘に対し、ヒバリは静かに首を縦に振った。


「ああ。なぞなぞの正解として考えれば、間違いなく『男』だ。でも、ここを開けるための本当の鍵は『女』なんだ」


「どういうことだ?」


「この問題は『弾性』を求めてるんじゃない。よく跳ねたり縮んだりする――喜怒哀楽の激しいお調子者のことを指しているんだ――つまり、この秘密のアジトの主様のことだよ」


 ヒバリが解説を終えた直後。

 床下から、重々しい油圧の駆動音が響き渡った。埃まみれの床板が静かにスライドし、暗闇の奥へと続く冷たい金属の階段がその姿を現した。


『――認証クリア。ようこそ、ミスターの聖域へ』


 プロメテウスの恭しい歓迎の声を聞き、ハパロは小さくため息をつきながら剣から手を離した。


「いまだに納得がいかないんだが」


「行こう、ハパロ。彼女が待っている」


 二人は暗い階段を慎重に下りていく。

 やがて辿り着いた地下空間は、無数のスーパーコンピュータが鎮座する、冷房の効いた広大な電子の要塞だった。


 その中央。

 壁面のモニター群に背を向けるようにして置かれた革張りのキャスターチェアが、ゆっくりと回転した。

 そこに座っていたのは、右腕に痛々しい包帯を巻き、顔色を悪くしたゴスロリ姿の少女、ミサゴだった。


「……アンタのせいで、かなり迷惑したわよ」


 ミサゴは開口一番、酷く不貞腐れたような、しかしどこか安堵を滲ませた表情でそう言い放った。


 その姿を見たハパロクラエナは、完全に虚を突かれたように目を丸くして立ち尽くした。

 王都の裏社会において、『Mr.シンギュラリティ』の名を知らぬ者はいない。あらゆる強固な防壁を紙切れのように食い破り、国家機関の極秘データすら容易く掌握する電脳の帝王。その正体が、過剰なフリルのドレスに身を包み、生意気な眼差しを向けてくるこの二十歳そこそこの小柄な少女だとは、到底信じられるものではなかった。

 ハパロが呆気に取られているのを他所に、ヒバリは少しだけ申し訳なさそうに、しかし温和な笑みを浮かべた。


「遅くなって悪かったよ、ミサゴちゃん。君が無事で本当に良かった」


 ヒバリの素直な安堵の言葉に、ミサゴは調子を狂わされたようにフイッと視線を逸らした。


「……ふん。無事っていうか、ギリギリ生きてるだけよ」


 ミサゴは自身の右腕を忌々しげに見下ろした。

 分厚く巻かれた包帯の表面には、どす黒く変色した血が広範囲に滲んでいる。

 彼女は、王都での大規模ハッキングによる陽動を行ったあの日から、ダイダロスによる執拗で狂気的な追跡を受け続けていた事実を語り始めた。


「カルキアとかいう女に襲われてから……電脳空間でどれだけ防壁を張ろうが、あいつらは物理的な足跡を完璧に辿ってきた。あいつの高周波ブレードに、私の腕の肉を骨の寸前まで抉り取られたのよ」


 ミサゴの声が微かに震える。それは怒りではなく、圧倒的な暴力の前に晒された生身の人間の、根源的な恐怖の残滓だった。

 電脳の海では神に等しい彼女も、現実世界では戦闘力を一切持たない脆弱な少女に過ぎない。彼女は追跡の目を逃れるため、自身の命綱である全ての通信デバイスを自らの手で破壊し、完全なオフライン状態という暗闇の中を、文字通り泥水をすするような思いでこのムルキベルの最果てまで逃げ延びてきたのだ。


「……それで? そっちの金髪の物騒なのは誰?」


 ミサゴの視線が、ヒバリの背後に立つハパロへと向けられる。

 ハパロは一歩前に出ると、かつての傲慢な天才剣士としての気配を完全に殺し、一人の戦士として静かに頭を下げた。


「ハパロクラエナだ。……お前が彼を助けてくれたハッカーだな。恩に着る」


 その真摯な態度に、ミサゴは小さく肩をすくめた。


「まあ、自己紹介は後でいいわ。アンタたち、逃げ回るのに飽きて、本気でダイダロスを潰す気でここに来たんでしょ?」


 ミサゴの瞳に、ハッカーとしての底知れぬ野心が宿る。

 ヒバリとハパロが静かに頷くと、彼女は自身の背後にある巨大モニターを指差した。


「ダイダロスの連中が血眼になって私を追ってきたのは、私が王都のシステムを荒らしたからじゃない。私が逃亡の過程で、奴らの『一番見られたくない腹の中』を覗き見たからよ。……私がこのデバイスに掻き集めた情報を、プロメテウスに解析させたわ」


 ミサゴがコンソールを操作すると、壁面のモニターに巨大な組織図と不気味な計画書の断片が次々と展開されていった。

 そこに示されていたのは、世界経済の根幹を担うバルカン社を筆頭に、魔導兵器最大手のTALOS社、医療企業パンドラ社、そして王都のソラリスを含む数多の巨大ギルドたちが、裏のネットワークにおいて完全に一つの極太の資金源とデータリンクで結ばれているという、腐敗しきった世界の真実であった。


「ダイダロスは、単なる裏社会の犯罪シンジケートじゃない。表経済の中枢企業を完全に掌握し、それらの技術を意図的に統合させている。……彼らが裏で推し進めているのは、アノマライザー計画と呼ばれる、極秘の生態兵器開発プロジェクトよ」


「アノマライザー計画……生態兵器だと?」


 ハパロが眉をひそめて問い返す。

 ミサゴは、モニターに映し出された幾つものおぞましい生体データの画像を示しながら、淡々と、しかし嫌悪感を隠しきれない声で説明を続けた。


「強靭なモンスターの細胞を人間の肉体に直接移植し、パンドラ社のマインドコントロール技術で理性を完全に破壊する。さらにTALOS社の機械装甲でその肉体を拘束し、命令のみに従う『不死の兵器』を量産する実験よ。……倫理も道徳も完全に無視した、吐き気を催すような狂気の坩堝。実験台にされた人間たちのほとんどは、魔獣の細胞の拒絶反応に耐えきれずに肉体が融解して死んでいるわ」


 ミサゴの言葉が紡がれるたび、地下室の温度が急激に低下していくかのような錯覚に陥る。

 ハパロは自身の顔を歪め、吐き気を堪えるように奥歯を噛み締めた。彼がソラリスの隊長として守ってきたはずの王都の平和が、いかに血塗られた土台の上に成り立っていたかを嫌というほど思い知らされたのだ。

 その傍らで、ヒバリはモニターを見つめたまま、一言も発していなかった。

 彼の薄暗い瞳が微かに見開かれ、その顔から一切の感情が抜け落ちていく。まるで底知れぬ深淵を覗き込んでいるかのような、絶対零度の静寂が彼の全身を包み込んでいた。


「……ミサゴちゃん。『アノマライザー計画』の中枢工場は、どこにある」


 ヒバリの声音は、普段の温和な彼からは想像もつかないほどに冷たく、重かった。

 ミサゴはモニターの画面を切り替え、広域地図から一つの都市、そしてある特定の区画へと急速にズームアップさせた。


「……ここよ。この工業都市ムルキベルの心臓部。プラント乱立地帯の最深部に位置する、バルカン社とパンドラ社の『共同管理資材庫』と偽装された巨大施設。ここが、兵器開発と量産の中枢工場である確率が極めて高いわ」


 ダイダロスの心臓が、彼らが今いるこの街そのものに存在しているという事実。

 ハパロは即座に戦術的な思考を巡らせ、厳しい表情で口を開いた。


「敵の本拠地がこの街にあるのなら、ここから先は一歩間違えれば完全に死地だ。工場への潜入経路の確保、敵の戦力の把握、そして撤退ルートの構築。……ミサゴの言う通り、正面から突っ込むのはただの自殺行為に過ぎない。慎重に動くべきだ」


 かつての部隊長としての冷静な判断。ミサゴもそれに同意するように頷いた。

 だが、その張り詰めた空気を、ヒバリの冷酷な宣告が切り裂いた。


「……いや。僕一人でも、その工場に乗り込む」


 ヒバリの唐突な単独行動の宣言に、ハパロとミサゴは同時に目を丸くした。

 冷静沈着で、常にアーキテクトとしての論理的な計算に基づいて行動するはずのヒバリが、死地に自ら飛び込むような非合理的な選択を口にしたのだ。


「おい、ヒバリ。何を言っている。お前のその装甲がどれほど強力だろうと、敵の総本山に単騎で挑んで生きて帰れる保証などどこにもない。なぜそんなに焦っているんだ」


 ハパロはヒバリの肩を強く掴み、問い詰めた。

 ヒバリはハパロの手を静かに振り払い、モニターに映るアノマライザー計画の悍ましいデータを、まるで過去の亡霊を見据えるような虚ろな瞳で見つめながら、重い口を開いた。


「……僕は、その『アノマライザー計画』の被験者だった」


 その告白が落ちた瞬間、地下室の時間が完全に停止したかのような錯覚に陥った。

 ハパロの喉から息を呑む音が漏れ、ミサゴはキャスターチェアから立ち上がりかけてそのまま硬直した。

 ヒバリは自身の頭部を指差し、感情を完全に押し殺した声で、かつての地獄の記憶を淡々と語り始めた。


「僕が六歳の時だ。冷たい手術台に縛り付けられ、頭蓋骨を開かれ、生身の脳髄に『特殊な魔導回路』を物理的に刻み込まれた。……魔獣の肉体を移植された者たちが次々と拒絶反応で肉塊へと変わっていく中、僕の脳細胞だけがその魔導回路の暴力的な情報量に耐えきり、適応してしまった。僕のこの異常な演算能力は、天賦の才なんかじゃない。ダイダロスによって造り上げられた、呪われた後天的な欠陥に過ぎないんだ」


 痛みを通り越し、人間としての尊厳を完全に蹂躙された過去。

 ヒバリの薄暗い瞳の奥に、手術室の無機質な照明の眩しさと、血に染まった白衣を着たミレポラの狂気的な笑顔が、今も鮮明に焼き付いていた。


「……彼らは、僕の脳に刻まれたその演算処理のアーキテクチャを『ジェネシス・コード』と呼んでいる。ダイダロスが血眼になって僕を狙う真の理由は、復讐の阻止などではない。アノマライザー計画を真に完成させ、理性のない魔獣の肉体を完璧に制御するための『神の演算(ジェネシス・コード)』を、再び彼らの手中に収めるためだ」


 ヒバリの推測は、絶望的な未来の輪郭を明確に描き出していた。


「もし彼らが僕を捕らえ、ジェネシス・コードを完全に解析し量産化に成功すれば、アノマライザー計画は最終段階へと移行する。自我を持たず、完璧な戦術演算を行える不死の化け物たちが、軍隊として世界中へと解き放たれることになる」


 その事実の重さに、ハパロは血の気が引くのを感じた。

 ミサゴは血相を変え、ヒバリに向かって声を荒らげた。


「ちょっと待ちなさいよ! それなら尚更、アンタをダイダロスに近づけるわけにはいかないじゃない! アンタが敵の本拠地に乗り込むなんて、奴らに『ジェネシス・コード』という最後のピースを自ら献上しに行くようなものよ! 頼むから冷静になって!」


 ミサゴの激しい制止。それは、論理的に考えれば至極当然の帰結であった。

 しかし、ヒバリはゆっくりと首を横に振った。彼の瞳に宿る光は、論理や合理性を遥かに凌駕する、極めて純粋で、どす黒い炎へと変貌していた。


「……冷静になんて、なれるはずがない」


 ヒバリの口から、血を吐くような怨嗟の声が漏れ出した。

 彼の脳裏にフラッシュバックするのは、世界で唯一、己の能力を恐れることなく、真っ直ぐな黄金色の瞳で「ありがとう」と笑いかけてくれた女性の顔だった。

 そして、その温かい笑顔が、ダイダロスの刺客によって理不尽に奪われ、冷たい石畳の上で心臓を貫かれた無惨な死体へと変わった光景。

 自身の居場所であったアウラ・コピアの仲間たちが、血の海に沈み、燃え盛る炎の中で肉塊へと変えられていったあの夜の惨劇。


「僕は……ルキオラさんたちを失ったあの日から、ダイダロスをこの世界から完全に消し去るためだけに、今を生きているんだ」


 ヒバリの拳が、爪が手のひらに食い込んで血が滲むほどに強く握りしめられていた。


「奴らがアノマライザーの量産を完了させる前に、僕が自ら工場へと赴き、元凶の全てを物理的に焼き尽くす。……この命に代えてでも」


 それは、正義の使者の覚悟ではない。己の魂を完全に悪魔へと売り渡し、復讐という名の修羅道へと身を投じた、哀しき復讐鬼の狂気であった。


 その底知れぬ憎悪の熱量に当てられ、ミサゴは言葉を失い、ただ唇を震わせることしかできなかった。

 沈黙が支配する地下室。

 やがて、ヒバリの傍らに立つハパロクラエナが、腰に提げた新生カランサルティアの柄に手を添え、ゆっくりと前へ出た。


「……ヒバリの言う通りだ」


 ハパロの翡翠色の瞳にもまた、ヒバリと同じ、絶対に退かないという死狂いの光が宿っていた。


「俺もまた、かつての部下たちを無残に殺され、姉の命を理不尽に脅かされた。……テネブレの誇りを汚し、俺から全てを奪おうとした外道どもを、このまま野放しにしておくつもりは毛頭ない」


 ハパロはヒバリの背中に並び立ち、強固な決意を込めて宣言した。


「一人で背負い込むな、ヒバリ。お前の復讐の道に、俺の剣も付き合わせてもらう。俺たちは、奴らを殺すためだけにここまで来たんだ」


 共闘の再確認。

 かつては互いに軽蔑し合い、部隊を崩壊させた二人の男が、すべてを失った地獄の底で、真の『最強のバディ』として完全に意志を統合させた瞬間だった。


 二人の瞳に宿る、決して消えることのない復讐の炎。

 その圧倒的なまでの狂気と覚悟を前にして、ミサゴは深く、長くため息を吐き出した。

 ハッカーとしての論理的思考が「やめろ」と叫んでいても、彼らの魂の慟哭を止める権利は自分にはないことを、彼女は痛いほど理解していたのだ。


「……はぁ。どいつもこいつも、死にたがりばっかりで嫌になるわ」


 ミサゴは自身の前髪を乱暴に掻ききり、諦めたようにキャスターチェアに深く座り直した。

 そして、プロメテウスに向けて短く指示を出す。

 壁面の巨大モニターに、ダイダロスの秘密工場の詳細な立体マップデータと、予想される防衛設備の配置図が赤く浮かび上がった。

 レーザートラップの網の目、重装甲メックの巡回ルート、そして無数の狙撃手の配置。それはまさに、足を踏み入れれば数秒で肉片となる、完璧な死の要塞の姿であった。


「……で、どうするの?」


 ミサゴは背もたれに寄りかかったまま、死地へと向かおうとする二人の復讐鬼に向けて、半ば挑発するように、そして彼らの生還を祈るように問いかけた。


「この鉄壁の要塞を、一体どうやってこじ開ける気?」

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