011 轟く機龍
ヒバリの呟きから数分後。
その言葉に応えるように、遥か上空の雲を切り裂いて、鼓膜を劈くような凄まじい爆音が郊外の荒野に轟き渡った。
「ギュァァァァァァァァァッ!!」
翼竜特有の耳を劈くような絶叫と、重金属が擦れ合うような異質なジェット駆動音が混ざり合った、この世の生物とは思えない鳴き声。
直後、空から一つの巨大な影が、弾丸のような猛スピードでヒバリの目の前の地面へと墜落するかのように急降下してきた。
ズドォォォォンッ!! という地響きと共に土煙が舞い上がり、周囲の木々が爆風で激しく揺れる。
「相変わらず、着地が荒いな。トドロキ」
ヒバリは舞い上がる土煙を腕で払いながら、呆れたように、しかしどこか優しげな口調で声をかけた。
煙の中から現れたのは、全長五メートルほどの中型飛竜。本来なら群青色の鱗を持つ美しい魔獣であるはずだが、その姿は異様だった。
竜の右翼、後脚の一部、そして背中から尾にかけての脊椎が、重厚な金属装甲と巨大な魔力推進器へと完全に置き換えられていたのだ。胸部にはクリアパーツで覆われた人工魔力炉心が赤々と明滅し、金属の翼からプスプスと排熱の蒸気を吐き出している。
半分が機械で構成されたサイボーグ・ドラゴン。その爆音を響かせるスラスターの駆動音から、ヒバリは彼をトドロキと呼んでいた。
『マスター。お呼びにより只今到着いたしました。本日のスラスターの調子も極めて良好でございます』
トドロキの首元に埋め込まれた人工声帯から、低く渋い、少しノイズの混じった機械的な男の声が響いた。見た目は狂悪な兵器そのものだが、その執事のように紳士的な口調には、ヒバリに対する絶対的な忠誠と人懐っこさが滲み出ている。
トドロキは巨大な機械の頭部を、ヒバリの胸元に器用にぐりぐりと押し付けてきた。
「よしよし、いい子だ。突然呼び出して悪かったね。声帯の機能も問題なく作動してるみたいだ」
ヒバリはトドロキの硬い鱗と金属装甲の境目を撫でてやった。
かつて王都ソラリスの管轄外の荒野で、密猟者によって魔力器官と右翼を根元から切断され、瀕死の状態で捨てられていたこの飛竜の幼体を拾ったのはヒバリだった。
彼は放っておけず、工房で廃棄予定だった試作魔力炉心と可変式のメタルウィング、そして知能の高い飛竜と意思疎通するための人工声帯を強引に移植する大手術を行い、この竜の命を繋ぎ止めたのだ。以来、トドロキはヒバリに絶対の忠誠を誓っている。
「オーラムまで行きたいんだ。急ぎでね。乗せてってくれるかい?」
『承知いたしました。目的地を黄金都市オーラムに設定。ナビゲーション・リンクを要求いたします』
短い指示に、トドロキは恭しく応えて身を低くした。
ヒバリはトドロキの背中――脊椎の機械装甲が剥き出しになっている鞍の部分へと跨る。
ヒバリが自身の左手首のインプラントを操作すると、彼の着ている作業着の袖とズボンの裾がジュワッと焼け焦げ、皮膚の下から這い出してきた液状のナノ・ルーンが、瞬時に両手と両足を覆う流線型の『金属装甲』へと変質した。
「……近いうちに、耐熱・耐火仕様の専用アンダースーツを作らないとな。ナノテクを展開するたびに服が焼け焦げるのは面倒だ」
ヒバリはボロボロになった袖口を見下ろし、技術者らしくぼそっとボヤキを漏らしながら装甲の最終調整を行う。
「――接続開始」
ガシャンッ!!
ヒバリの両手両足の装甲から鋭いプラグが展開され、トドロキの背中にある接続ポートへと物理的、かつ魔力的に直接突き刺さった。
ヒバリの超高度な演算脳と、トドロキの魔力炉心およびスラスターの制御システムが、神経レベルで完全に同化する。
『神経接続完了。動力システム、マスターの制御下に移行いたしました。いつでも発進可能でございます』
トドロキの右翼の巨大なスラスターが、青白いプラズマの炎を噴き上げて尋常ではない咆哮を上げた。
ヒバリという最強の頭脳が、トドロキという狂気の推進力を完全制御する「人竜一体」のシステム。これにより、トドロキは生物の限界を超えた超音速での巡航機動が可能となるのだ。
「フルスロットルで頼む」
ヒバリの思考コマンドを受信した瞬間、トドロキは大地を粉砕するほどの推力で跳躍した。
ドンッ!! という音の壁を突き破る衝撃波を置き去りにして。
半機械のドラゴンと復讐のアーキテクトは、空を一直線に切り裂く青白い彗星となって、南の空へと爆発的に消えていった。




