第74話 召喚アイテムがない!
とにかく古田織部がプレイヤー。
三成は根拠もなくなぜか自信満々である。
「織部殿。なんか、貴殿が目覚めるのにアイテムないの?」
「アイテム?」
「なんか、どうしても抜けない刀とか、文字が光る秘密の書とか……開かずの扉とか。なんかそれっぽいもの、ないの?」
古田織部の眉間に深いシワが刻まれていく。
「ないだろ! ないに決まってるだろ?! 何なんだよ一体!」
三成にしつこく促され織部が持ってきたのは茶杓である。
「なんすか? これ」
「ちょっ! 国宝級だよ。銘は『泪』」
竹茶杓『泪』は千利休が自ら削り、古田織部に贈った茶杓の大名品である。
利休切腹の際に織部に遺された品だ。
『泪』と名付けたのは織部である。
織部はこの茶杓用に長方形の窓の付いた木箱を拵え、そこへ安置して利休の位牌代わりにした。
「この茶杓、めちゃくちゃ形状が良いですね!」
左近が感動して手を合わせて拝んでいる。
千利休が自ら削った茶杓はかなり薄い。
中央に一筋の溝が櫂先まで貫き、節の高い竹は繊細で優美な自然そのままの姿を写している。
「殿! すごくない?」
左近が興奮して言った。
「まあ……確かに」
見れば見るほどスゴイ良いものだと、数寄の才覚の無い三成でも一目で分かる。
利休のスゴさも肌で感じる。
ぶっちゃけ感動する。
ただ……三人で囲んでも何も起きない。
「なんか……他にないの?」
「ほ、他?」
「なんか……地味じゃない?」
「地味だと?! 天下の徳◯美術館所蔵品だぞ!」
織部の目が動揺している。
三成は腕を組んで顔をしかめる。
「……もしかして……違ったかな」
三成は小声で呟いた。
プレイヤーは古田織部じゃないのかも。
「おい! 島左近! この男、早く殺したほうが世のため人のためになるぞ!」
織部は三成の鼻先に指を突きつけて訴えた。
「まぁまぁ、織部様。そうは言ってもウチの殿は世界に影響を与えるほどの極悪人とは言えませんから」
「織部殿……とりま失敗を悔やまないように」
三成が冷静に織部に言った。
織部は激高する。
「勝手に期待して、勝手に失望して! 失敗扱いしないでいただきたい!!」
◇
夕暮れにキャンキャンと、犬が鳴いているのが聴こえる。
「まだワンちゃんが数匹、門のとこにいますね〜」
左近が三成に言った。
どこか楽しげである。
「このままだと三斎に居場所がバレるってこと?」
「時間の問題かと」
三成は座り込んで頭を抱える。
「お前と三斎の争いに巻き込まれたくないのだが……」
織部がボヤいた。
三斎こと細川忠興と三成の仲が頗る悪いことは有名な話である。
実際は三成は忠興と仲直りしようと四苦八苦していたこともあったが、上手くはいかず、とうとう細川ガラシャの事件が起きて二人の亀裂は深く、取り返しのつかないほど決定的なものとなった。
「乗りかかった舟じゃないですかー! そこを何とか!」
三成は織部の腰に縋り付く。
「やだよ! おとなしく三斎に殺されろ!」
織部は三成を振り解いて足蹴にした。
「気を取り直して、プレイヤー探しに話を戻そう! もう時間が無い」
三成は床に這いつくばりながら言った。
「なぜそこまでプレイヤーを探す必要があるのだ?」
織部の問いに、三成は西軍における質量保存の法則を話した。
「例えば、ワシが今、お前を屠れば大坂から人が飛んでくるということか?」
織部は三成のことをなんか無性に殺したい気になってくる。
「まぁ、そうなのですが。もしかしたら場所も関係するかもしれません。死んだ場所、ですね」
飛んでくる条件が、命を落とした場所が西軍陣地だからなのか、ただ単に命を落としたのが西軍所属の人間だからかも、定かではない。
「だから、今ここで俺を殺しても、大坂から人が飛んでくるとは限りません」
織部は膝を打つ。
「ということは逆に西軍陣地で東軍の者が命を落としても大坂から飛んでくる可能性があるということか!」
だから小早川秀秋は西軍陣地内での力攻めに固執しているのだろう、と三成も考える。
西軍陣地内で人が死ねば例え東軍の人間だろうと、その代わりに女が増える可能性がある。
「女が増えれば、その分争い事もなくなるでしょ。だからプレイヤーを探して、人が死ぬ以外の方法で、チャチャっと女を増やしてもらいたい」
三成は単純に女が増えれば様々な問題が解決すると思っている。
「いやいや、逆だろ。中途半端に女が増えれば争いのタネになるのは明らか」
織部の意見に三成はなるほどと頷く。
戦国武将なんて元々肉食系体育会系の集まりなのだから、女の数によっては不毛な争いが繰り広げられるだろう。
「確かに。悩ましいな……」
増やすにしても上手く増やさないといけない。
中途半端は逆に命取りである。
左近が主君と織部のやり取りを放っておいて、先ほどからなにやらセッセと半紙に筆で書いている。
「織部様の仲間になってくれそうな人を選んでください」
左近が出した紙には「毛利秀元」と書かれている。
「ワシの弟子のひとり……お前らとも近しいな」
左近は右に秀元の紙を置く。
次の用紙を見せる。
「田中……吉政か。ワシとは全く接点が無い」
左側に紙を置く。
「なんの意図だ?」
「せっかく、古田織部様にご助力いただけるのですから、西軍と行動してくれる人を増やそうと……」
「西軍と行動するとは言ってないぞ。ましてや味方じゃない」
左近の言葉を遮って織部がピシャリと言った。
「おい! 石田三成!」
織部は再び、三成の鼻先に指を突きつける。
「ワシは確かに徳川家康から死を賜った。申開きもしないで、従容と首を差し出した。恨みがないわけではない。
ただ誰が天下を治めるべきかとどうかと言われたら真っ先に徳川家康の名前を挙げるぞ」
織部はひと思いにそう言うと、三成の胸ぐらを掴んだ。
「徳川家康以上にワシはお前が嫌いだ。理由は分かるよな」
三成は胸ぐらを掴まれたまま、目を伏せて口元に微かな笑みを浮かべている。
「ちゃんと聞いてるのか?」
「聞いてますよ。聞き飽きたくらい、聞いてます」
三成はゆっくり織部に視線を合わせる。
「ただ、このままだと西軍は日々、削られていってその度に大坂から飛ばされてきた女が増えて、たまに男も増える。
魂が入れ替わっていく。 正義も成されないまま。残酷で、欲望に血塗られた殺戮が行われる。
そのようなことを許して良いのだろうか? それなのに貴方はまだ内府か俺のどっちが好きか、みたいな小せえことに固執するんですか?」
三成の瞳が剣呑に光る。
「それこそ、こんなこと許してたら、貴方だっていつ西軍陣地内に送り込まれて、気に入らないから、はーい! 別の魂を召喚します! みたいなことになりかねないじゃないですか?
みんな、自分は絶対大丈夫みたいな顔してるけど、その根拠って何なんですかね? 人がヤラれてたら、いつか自分もヤラれるかもって危機感持つのが普通でしょ」
「ぐぬ……か、感じ悪い」
織部は呟く。
感じ悪いけど、ご尤もである。
「とにかく、佐久川喜重郎の件で分かったのは心の内で東軍寄りなのか、西軍寄りなのかなんて高度な判定してくれるわけじゃない。
息絶えた場所なのか、西軍というレッテルを貼られたままだったからなのか不明だけど。彼の死で現に人が増えたわけで……」
三成は胸ぐらを掴んだ織部の手首を逆に掴んだ。
「レッテルを貼られて死んだ。奇しくも大坂の折の貴方の処遇と同じことが行われたのだ」
織部の手をゆっくり振り解いて戻す。
「そんなこと、許していて良いんですか?」
織部は下を向いた。
「言ってることはご尤もだが、言い方がムカつく」
「すいません。そこはどうにもできなくて」
三成はさも気の毒そうに、まるで他人事のように言った。
「分かった……協力しよう」
織部は顔を上げて宣言した。
「但し! 石田三成! 宗匠(千利休)の恨みは忘れぬぞ! お前を一生許さないからな!」




