第66話 現実じゃない!
――どうやったら金吾さんに分かってもらえるのだろうか。
彼はゲームの中にいると思っている。西軍の陣地は狩り場だと思っている。
他者が自分と同じように確かに存在している、と理解するにはどのように説明したら良いのだろうか……。
「……どう先生! 安藤先生!」
ぼんやりした視界を不思議に思う。
先ほどまではあんなにハッキリした雪景色を見ていたのに。
目の前で手のひらが振られる。
「安藤先生! 大丈夫ですか?」
目の前には60歳くらいの眼鏡をかけた女性。教頭の望月先生だ。
「安藤先生!」
今度はハッキリと望月先生のキンキンした声が聞こえた。
「熱中症かな……大丈夫ですか? 保健室で休まれますか?」
すぐ横隣の机に体育の田中先生のジャージ姿もある。
胸元にIBUKI GAKUEN T.SHOTAと書かれている。
田中先生の名前は確か田中翔太……。
「あの……えっと」
「だからーー! 二年一組の与田真佐人! 階段から落ちて足くじいたんですって」
聞いてなかったのぉっと言って望月先生は椅子に座っている安藤の肩を手で叩く。
田中先生が腕を組んで呆れたように言った。
「またお騒がせは与田かぁ、アイツ。先週ピアス開けたんっすよ」
職員室のガヤガヤ音が一斉に鳴り響く。
電話が鳴る音がやけにうるさい。
「でも、あそこ。親が案外うるさいんですよね」
望月先生はちょっと眉を顰めながら小声で話す。
「だから、いちおう病院にケガの具合を聞きに行ってもらいたくて。安藤先生、あそこのクラスの副担任ですよね」
田中先生がさも気の毒そうに見てくる。
「どうせ、フザケて手摺とかで滑ってたんじゃないですか? お騒がせな」
「あの……」
安藤は唾を飲み込んだ。
えらく喉が張り付いていて喋りづらい。
「せ、関ヶ原、関ヶ原は?」
「は?」
田中先生がカレンダーに目をやる。
「そう言えば、今日って新暦で言うと関ヶ原の日ですね。関ヶ原町ではお祭りやってるみたいですよ」
田中先生は明るく言った。
「でも、今から行っても終わってますよ」
「安藤先生! そんなことより、与田のこと宜しくお願いしますね! 伊吹山総合病院ですからね!」
望月先生は安藤の膝を持っていた書類で叩いた。
「リアルな夢だったな」
職員室を出るところで本郷真美子と肩がブツかった。
真美子が眉を顰める。
「す、すみません」
英語教員の真美子は確か同い年の43歳。
年の割には小綺麗にしているが、なにしろプライドが高い。
安藤のことも嫌悪感たっぷりの目で睨みつけて職員室に入って行った。
「はぁ……ついてない」
駐車場でキーをかざすと、ポンッという小気味よい音がしてロックが外れた。
安藤の愛車はトミーカイラtb/B4 2,2。
安藤は少し低い車体に乗り込み、バックミラーで顔を映した。
「わ! オジサン!」
日頃の苦労のためか、このところ急に老け込んだ気がする。
腰も痛いし、首も痛いし。
首を回しながら、そろそろ歳なのかと思ってあきらめる。
「伊吹山総合病院っと」
カーナビに病院名を入れる。
携帯を取り出して、まずは病院に連絡を入れる。
与田が帰った後では意味がない。
「もしもし……私、長宗我部……じゃなかった。
そちらで治療中の伊吹学園二年の与田真佐人のクラス副担任をしております安藤幹夫と申します」
エンジン音がなぜか懐かしい。
毎日この車で通勤しているはずなのに。
「お腹、空いたな」
安藤は自分が空腹なことに気がついた。
病院に食堂があるだろうか? それともコンビニに寄るか?
車は青い木々の間を軽快に走り出した。
【安藤幹夫 あんどうみきお】 1981年生まれ。乙女座。B型。 学校法人伊吹学園高等部2年1組副担任。専門教科は国語。生徒からの呼び名は「安藤」もしくは「アンドゥー」。 趣味は車、観劇、推し活。アイドルグループ・MEIMOREのアカこと新条アカネ推し。 好きな作家は坂口安吾。
女性がトミーカイラの助手席に乗ったことは、まだない。
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