第186話 バカなのかもしれない!
巨大な蛇が三成を睥睨している。
「ムリムリムリムリ」
ドンドコ ドンドン ドンドコ ドンドン ドンドコ ドンドコ……
ズンズン! ズンズン!
激しく太鼓を叩くリズムと、取り囲んだ男たちの盾を大地に叩きつける独特のリズムが合わさり……めちゃくちゃカオスな雰囲気を醸し出している。
大蛇は赤く長い舌をチロチロと出している。
全長は4メートルほどか……本土では見たことのないほどの大きさである。
顔は大きく、胴も太い。
どう見てもアナコンダである。
「イヤイヤイヤイヤイヤ」
ない! これは状況的にありえない!
「三成! 大丈夫だ! アナコンダだから、きっと毒は持ってないぞ!」
家康よ、何が大丈夫なんだ!
捕まって締め上げられたら一巻の終わりである。
大蛇はしばらくトグロを巻いて地を這ってジッと顔を伏せていたが、狙いを定めると三成の足元にガッと噛み付いた。
「オワッ!」
すんでのところで横に飛んで逃げる。
ドッと男たちの笑い声と歓声が上がった。
なぜか、受けている。
大受けである。
三成は汗ばんだ手で槍を持ち直した。
槍先は鋭く鈍く光っている。
男たちが取り囲んでる輪は直径10メートルほど。
その中で……大蛇と闘わなければならない。
「クソッ!」
殺るしかない。
三成は腰を低く落とした。
槍を大蛇の喉元辺りに突き刺そうとした瞬間、大蛇は三成の右足首に絡みついて、三成の身体は地面に引摺り落としされた。
大蛇が胴にまとわりつき、思いっきり締め上げる。
三成は慌てて、大蛇の太い胴を数度刺した。
大蛇は驚いて力を緩める。
その隙にかろうじて逃げ出す。
「ナヴィアーゴーラヒーヤー!」
大歓声である。
男どもを皆殺しにしたい!
三成は殺気立った目線を男どもにも流す。
「フゥ……フゥ」
自らの息遣いが煩いほどに感じる。
汗が流れて目に入ってくる。
大蛇のトグロを巻く力は信じられないほどである。
もう一度捕まったら……。
大蛇は注意深く、ずる賢そうな小さな目でこちらの様子を伺っている。
大蛇は左から腰のあたりを突き刺すように噛み付いたかと思うと、尾を器用に使って三成の太ももに絡みつく。
「エィ!」
引きずられそうになる中、三成は尾の細くなっている部分を槍先で刺す。
太ももからは離れるが、大蛇は左の袖に噛み付いたまま腕を振り回す。
家康が入ってこようとするのが横目で見えたが、男たちに制止される。
左の鎖骨を狙ってくるところを大蛇の首根っこを素手で思いっきり抑え込んだ。
槍を捨ててグッと力を込める。
大蛇は三成の胴体に巻き付いて力の限り締め付ける。
「ぐぬぬっ」
暑さと苦しさで意識が遠のく。
そこへスルスルと木の蔓が地面から湧き出た。
そして大蛇の首元を覆う。
グッグッっと、蔓は大蛇の首元を絞める。
まるで――三成の力を助けるように――。
大蛇が静かになって動かなくなった。
「おおおおーーー!」
男たちのどよめきが起こる。
「ラーダマーノンラ!!」
「カーラダマーノンラー!!」
口々に男たちは叫んだ。
意識が……かなり遠のいている。
暑さにやられてクラクラである。
三成は家康を振り返った。
家康はウンウンと頷いて拍手をしている。
ま、次はお前の番だったからな。
三成は心の中で悪態をつく。
三成は立ち上がり、称賛の輪の方に歩き始めた。
「三成!! 後ろ!!」
家康がいきなり槍を投げた。
左手で受け取って振り返る。
眼前に大蛇の顔が迫っていた。
喉元に一発、三成は片足を踏み込んで槍をぶっ刺した。
「おおおおおーーー!!!」
大蛇はもんどり打って斃れる。
三成は片膝をつく。
視界が……既にチカチカしている。
「み、三成! 上を見ろ!!」
「な、なに……今度はなに?」
三成はフラフラになりながらも見上げた。
☆宝箱☆2000ポイントゲット☆
雑な宝箱のドット絵と、奇妙な文字が右上の空間に浮かび上がっている。
「ポイント……ゲット……?」
三成は息も絶え絶えに、文字を仰ぎ見る。
薄いピンクとグリーンの安っぽいフォントが空間に浮かび上がって……消えた。
「これって……もしかして……」
家康の声が男たちの歓声に消え入りそうだ。
男たちは口々に何やら叫んで楽しそうに騒いでいる。
「ゴーラヒーヤー!」
既に盾を捨ててズンズンと踊りに興じている。
「……この世界、バカなんだ!」
三成は、自らの頭上に浮かんだ宝箱を指さす。
「気がついたぞ! ようやく気づいた! この世界、思ってたよりよっぽどバカなんだ!
この世界がゲームの中だとしたら、どうやってクリアするのかずっと考えてた!
魔法ポイント? どうやって?
和平条約を結べば? 天下統一すれば?
違うんだ。もっと根本的にバカなんだ!
いがみ合うなんてバカバカしい!
RPGや、シミュレーションゲームですらない!
もっと単純な怪物を倒すための関ヶ原を舞台にしたダンジョンなんだ!」
先ほどの若い男が水を持ってきてくれた。
三成は零しながら一気に飲み干す。
「金吾が……なんか、意味深なこと言うから、もっと深刻な世界なのかなって思い込んでた……あんなやつの言うことマトモに聞いて……俺がバカだった」
家康が三成の背中を支えた。
家康は一瞬、真剣な目をする。
「単純なダンジョンとバカにするのは、ダンジョンマニアのワシとしては納得いかないな……」
「うるせー! そういうことじゃねぇんだわ」
今更ながら家康の話の腰を折るスタイルに猛烈に腹が立つ。
三成は思わず家康の襟首を掴んだ。
☆ピコン☆
何やら機械音がして……家康の顔の上に薄っすらと文字と数字が並ぶ。
統率:98
武勇:87
人望:35
知略:96
モテ度:62
内政:82
「人望が……35p……全然無いではないか……?」
三成は素早く数字をチェックする。
「ハァ?!」
家康の目が剣呑になる。
「貴様!! どの口が言ってんのじゃ!! 貴様こそ、人望は2pじゃないかよ!!」
統率:90
武勇:79(3up)
人望:2
知略:92
モテ度:98
内政:88
確かに三成が自分の鼻先に浮かび上がった数値を見ると、人望は2pである。
これって、100点満点だよね……?
流石に2pって……。
「あ! その代わり『モテポイント』が98pですからー!」
三成は勝ち誇った顔をする。
「98ぃ?? バカ言え! 作ったやつの作為があり過ぎだろう!!」
家康は口角泡飛ばし、夢中で反論してくる。
確かに……この世界を作った人間の独断と偏見がありそうだ。
先ほど出会った小さな子どもがニコニコしながらいがみ合う二人の前に現れた。
大きな瞳で二人の顔を交互に見つめてくる。
立ち上がり、手招きする。
ついて来い、と言っているらしい。
「つ、疲れたな……内府……」
「そうだな……少し休もう……」
家康は先に立ち上がって三成に手を貸した。
彼らは『長老』の家でその夜、歓待を受けた。




