第181話 ダンジョンじゃない!
ドンドコ ドンドン ドンドコ ドンドン ドンドコ ドンドコ……
太鼓を打ち鳴らす音が聴こえる。
祈りを捧げるように、彼らは手をかざし、足を踏み鳴らす。
三成と家康は二人揃って、なんだかよく分からない楕円形の石造りの輪の中心に座らされている。
白髪の男が恭しく、ヒゲの長い威厳のありそうな老人に手をかざした。
ヒゲの老人はおもむろに頷いた。
「ここで……喰われるのかな?」
三成は陽射しを受けて、鼻の先が赤くなっている。
直射日光に弱いのである。
「いや……分からん」
家康が注意深く周囲を観察する。
いくら観察したところで、喰われる時は喰われる。
二人が首根っこを掴まれて連れてこられたのは、腰蓑のみを身に着けた褐色の男たちの集落である。
男たちは顔に赤や白の思い思いのペイントをしていて、あまり笑顔を見せず、彫りの深い顔に思慮深そうな目をしている。
「ポリネシア……ぽいな」
「この世界軸にポリネシア人がいるのか?」
家康は疑問を投げかける。
ポリネシアは、太平洋のミッドウェー諸島、ニュージーランド、イースター島を結んだ三角形の中にある諸島の総称である。
今までの世界軸では……説明も見当もつかない。
家康はヒゲの老人のすぐ隣の祭壇のようなものに視線を移した。
何か宗教的な儀式を思わせる、鉱石など色とりどりの装飾品が祭壇の上に置かれている。
ドンドコ ドンドン ドンドコ ドンドン ドンドコ ドンドコ……
腰蓑の男たちの数名が松明に火を灯すと……突然、先ほどの若い大柄な男がナタのようなものを手に登場した。
「わわわ! ヤバい! ヤバい!」
思わず三成は家康に身を寄せる。
「おおお……ちょ、ちょっとナタはヤバい」
家康も三成に寄って縮こまる。
若い男は軽々とナタを振り回し、まずは跪いて、祭壇に祈りを捧げた。
舞踊のような動きが美しい。
ヒョイと立ち上がって、座った二人の目の前に立つ。
周囲の男たちが飛びかかって二人の肩を掴んで地面に固定した。
「やぁーー! ちょっと! 俺はあんまり喰うとこないから! 隣の男の方が美味しいから!!」
「ワシはこう見えて筋肉質だから! 隣の方が旨い可能性が高いぞ!!」
若い男は容赦なくナタを振り上げた。
二人は目をギュッと瞑る。
ナタが振り下ろされ……甲高い金属音が鳴った。
手錠の鎖の部分が真っ二つになる。
「……」
「……」
二人は無言で自由になった手首を撫でた。
輪っかの部分はまだチャラチャラとくっ付いているものの、だいぶ助かる。
助かったのだ。
というか、助けてくれた。
「ははぁーー! ありがとうございます! 何でもします! 隣の男が!」
「……みな、褒美をつかわせるぞ! なんならワシの家臣に加えてやっても良い!」
ヒゲの老人がおもむろに傍らから羊皮紙を取り出す。
それをナタを持った男が二人の前にバサリと落とした。
関ヶ原合戦図屏風……の一部のようである。
若いナタを持った男が羊皮紙と三成の着物を交互に指差す。
「ハッ! そうか。家紋……おーイエスイエス! これ俺! ミーね!」
大一大万大吉の特徴的な形が功を奏した。
「で! こっちがワシ。因みに勝ってるから! こっちの方が時代劇とかで超有名だから!」
徳川家康の葵の御紋も載っている。
良かった。
彼らに歴史の知識がありそうだ。
それならば話は早い。
ヒゲの老人が満足げに数度頷いた。
三成と家康はニコニコして愛想良く見返す。
三成はヒゲの老人に目配せして、親指をぐっと立ててみた。
男たちはみな満足げに頷き合い、二人から距離を取るように、石で囲まれた楕円形から離れる。
少しすると、彼らはなにやら盾のようなものを手に持ってきた。
「なんだろうな……言葉はまるで通じないようだし……儀式かな?」
家康は不安を口にした。
関ヶ原合戦図屏風を持っていても……会話の内容は伝わってはいないようだ。
「喉が渇いたな」
三成は水を飲む仕草をする。
若い男が気がついて、石で出来たコップに水を入れて持ってきてくれた。
二人は一気に飲み干す。
「ありがたい!」
「旨いなー!」
彼らの友好的な雰囲気に三成と家康は思わず見つめ合って笑い合った。
良かった。
最悪の事態は無事に回避できそうである。
ドンドコ ドンドン ドンドコ ドンドン ドンドコ ドンドコ……
気がつけば、木製の盾を持った男たちにぐるりと囲まれている。
家康が盾を渡された。
家康は自分の鼻先を指差す。
「え? ワシが持つの?」
若い男がシッカリと頷いた。
「俺もか?」
三成には小さな盾が渡される。
外に出ようとすると若い男が身体で制止する。
「?」
嫌な予感がする。
「み、三成……マズイぞ」
「はぁ?」
三成は振り返った。
男たちによって、檻が持ち込まれてガシャンッと扉が開いた。
薄暗い中から、素早く茶色い何かがニョロリと出てきた。
見たこともない巨大蛇である。
男たちはすぐさまその場を離れて逃げた。
「……」
別の男が槍を持ってきて三成に渡した。 男は白い歯を剥き出しにして、ニッコリと微笑む。
この島ではじめて見た満面の笑みである。
「ナヴィアーゴーラヒーヤー!」
「ゴーラヒーヤー!!」
「ゴーラヒーヤー!!」
男たちは楽しそうに口々に囃し立てる。
みな一様に笑顔だ。
「いやいやいやいや」
「三成……蛇責めとは、まさしく因果応報だな」
家康がなぜだか遠い目をしている。
「やってないからね!!!」
利休の娘への蛇責めは冤罪である。
家康も槍を持たされる。
三成が失敗したら、次は家康らしい。
ドンドコ ドンドン ドンドコ ドンドン ドンドコ ドンドコ……
「ちょ、ちょっと! マジかよ!!」
男たちは盾で輪を作って地面に何度か叩きつける。
ようは、一人で戦えというらしい。
「ななな、何で!! こうなる??!!」
三成は大蛇を見つめる。
袴が嵩張って動きづらい。
大蛇は赤い舌をチロチロと出しながら、鋭い視線で獲物(三成)を見つめ返していた。




