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第15話 まとまらない!

 宇喜多秀家が椅子を勢い良く蹴って廊下に出ると、長束正家が続き、左近はその後に続いた。

 

 背中に井伊直政の刺すような殺気をヒシヒシと感じる。

 三人は大広間を出て長い廊下を足早に走った。


 背後にバタバタと追ってくる気配がする。


 気がつくと毛利秀元の顔が左近の左横にあった。


「あんなこと言っちゃって、大丈夫ですか?」


 秀元はなんのことはない、という表情で応えた。


「あ、でも事実なんで……へへ」


 すぐ後に、伊奈図書が息を切らして追ってくる。


「あ、あのぅ〜みなさまがた、今日は宴を催す予定ですが……」


「いらん!」

 秀家が短く応える。


「かしこまりましたぁ! あの! 議事録は、追って使いの者に届けさせます! ので!」


「忝ない」

 左近は踵を返しニッコリ一礼する。


 何人かが廊下に立ったまま、彼らが通り過ぎるのを見ている。


 左近はチラリと廊下の奥に佇む福島正則らしき姿を横目で確認した。


「お気を付けて〜」

「ご武運を!」


 図書の裏返ったか細い声と、秀元の力強い声が同時に聞こえた。


「門に馬が用意されてるぞ!」


 秀家の声に、後の二人も全速力で走る。


 馬を用意していた者から、左近に松明が手渡される。


 二名の小姓が大小の刀を持ってきてくれた。


「ありがとう」

「武運長久を」


 松明を渡してくれた侍の胸の家紋は本多家の『丸に立葵』。


 本多忠勝の縁者だろう。


 木曽川の辺りの小屋に辿り着いた時、馬が走ってくる気配を察したのか、待機していた四人の従者が弾かれたように出てきた。

 

 素早く馬を小屋に繋ぎ、用意していた舟に乗り込む。


「お早いお帰りで。ということは会議は決裂ということで、よろしいですか?」


 従者の一人が左近に軽口をたたいた。


「おうおう! 決裂も決裂! 交渉は大失敗だったよ」


 従者四人は懸命に櫓を漕ぐ。


 雨も降ってないのに川の流れは速かった。


「川は何処につながってるのかな?」

 正家が呟く。


「海だろう?」

 秀家がさも当然のように応えた。


「この世界は実は平面でエッシャーのだまし絵みたいに水の流れがループしてたりして」


 正家の言葉に、左近は思わず暗闇の深い川の下流を見た。


 近日中に領内(決定というわけではないが)、揖斐川から先の地形や地質を正確に調べなければならないだろう。


 三本目の揖斐川の渡しで、左近は疲弊していた漕ぎ手の一人と交代した。


 舟の上で、長束正家が大あくびをして寝そべった。

 追手が来なかったことにようやく安心したのだろう。


 刀を戻してくれた時点で追っ手が来ないのは左近には分かっていたが、慎重な正家はそれでも警戒心を緩めなかったのだ。


「まずは戦支度かなぁ……」


「……だな」


 正家の言葉に、秀家が沈んだ顔で下を向く。

 

 川の風は心地良く、船の上の者たちを撫でていった。


 秀家は細い指で顔を覆った。


「私が……やらかしてしまった。本来ならば私があの場を収めねばならなかったのに。みなに申し訳ない」


「いや! 中納言様はカッコよかったですよ! 家康の子息を顎で使えるの、中納言様しかいません! この左近、胸がすく思いでした」


「確かに……あの忠吉の顔」


 フフっと、正家が思い出し笑いをした。


「不味かったのはこの左近ですよ〜決裂を決定付けてしまって……面目ない」


「いやいや、あれはあれで良かったのだ。左近はあれでいい。カマさないとね」


 そう言って、秀家も寝転ぶ。


「あ! 星がスゴイ綺麗だなぁ! 現代ではこの星は見られないね!」


 秀家は長い睫毛に縁取られた目を閉じた。


「長束殿は流石、五奉行。震えて臨んだかと思えば存外、一番堂々とされていたではないか」


 秀家が正家を褒めた。


「ま、前の晩に治部と恵瓊殿と擬似問答やってましたから。おかげでだいぶ寝不足ですよ」


 正家はもう一回大きなあくびをする。


「長束様、ありがとうございます」


「左近……勘違いするなよ」


 正家は少し上半身を左近に傾けて続けた。


「別に治部を救おうとして申したのではない。治部をひとり死なせれば、それだけで終わらず内府は次の粛清に動くだけだろう。


 結局は西軍の影響力を持つほとんどの者が潰されてしまうだろう。そして簡単に自身の国へと統一を図る。 だから私は自己の保身から、ああ言ったのだ。勘違いしないで欲しい」


「はい」


「ただ……西軍のみんなには治部の首云々の条件は伝えぬ方が良いだろう。万が一だが、内府への手土産として取りに来る者が居るかもしれない」


「はい……」

 確かにそれはあり得る話だった。


 左近はしばらくの間、主人の身辺警護にも気を回せねばならないだろう。


「そういえば治部は自分の首を持ってこい、と言われるのは予想してたぞ」


「そうですか……殿はなんと?」


「持っていって収まるなら構わないと殊勝な事申してたぞ。全く本心じゃないだろうけど」


 あまり嘘を吐くのが得意ではない主人の顔を想像して、左近は苦笑した。


「もし私があの場で治部の首を持ってくることにOKしてたら、ご主君命の左近に帰りの舟でグサリとやられるかもしれないからなぁ。

 治部はそこまで計算する男だよ。ホント、やな奴」


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