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第13話 会議は踊らない!③

「領土安堵の第一の条件、これは身分制度になります」


「身分制度が第一の条件ですか?」


 長政の言葉を受けて正家が尋ねた。


「ええ。西軍のみなさまには基本的には全員が帰農していだく方向で考えています」


「なんと……」


 ため息混じりの声を出して中納言秀家が異を唱える。


「内政干渉ではありませんか?」


「勘違いなさらないでいただきたいのは、東軍も身分制度を大方撤廃し、ほぼ全員が帰農するということです」


「ほぼ……全員」


「まあ、我々のような大名クラスは別として、武士という身分を返上し、国にとっての良き民となる。

 これこそが平和国家への礎となると上様はお考えです」


「ちょ、ちょっと待って……」


 秀家が手のひらで長政の発言を制す。


「我々は、つまり今存在している者はすべてみな武士なわけだ。

 足軽とか大将であるとか、兵士としてのランク付けはあるものの……身分制度の撤廃というのは、一見すると良いように聞こえるが、ある意味大名というか、東軍の大名だけが武士であるという特権階級を新たに造るだけにならないか? 

 つまりは今のままで身分制度は無いに等しいのだから」


「おや、あまりご自身の立場を分かってらっしゃらないのかな……」


 掠れた声で長政が応えた。

 会場の全員が長政の薄く尖った唇に注視する。


「領土安堵ということはつまりはどのようなことか誤解がありそうですね? 

 我々だって無条件に西軍のみなさん、これからは自由にして良いですよ、と言う訳にはいかないじゃないですか?

 二度と戦争が起きないためにどうしたら良いのか?」


 長政は秀家ではなく、傾聴席に向かって話し始めた。


「そう考えるのであれば身分などに関わらず善良なる民として国に仕える。

 その気持ちを大事にすべきと上様はお考えです。

 刀や鉄砲などに何の意味がありますか? 農地を耕し、命を育む民に比べたら無意味な存在です。

 武器弾薬、大砲……人殺しの道具です。それらを封印する勇気こそが平和を成し遂げる。そうは思いませんか?」


 東軍の面々の中には熱心に頷く者もいた。 左近は隣の井伊直政を横目で見た。


 直政は冷めきった目で遠くを見つめている。


 忠勝は会議が始まるやいなや、腕を組み目を閉じて何も反応していない。


「命、育めないよねぇ。女いないんだから」


 秀家が正家に小声で漏らした。


「だから、もう二度と東西両軍の間で戦争は起こしたくない……すなわち武士という殺戮軍団を解体し、武器弾薬を鍬に作り替える。

 そして農地を耕し、新たに農民として生まれ変わる。このように上様は」


「考えてるわけですね」


 正家がチャチャを入れた。


「はい」


 長政はニッコリと微笑む。


「それに関連して、第二に年貢、すなわち税金の話になります。

 揖斐川より北、すなわち東軍の領地はいわば天領となるわけですから税金は安くなる。

 申し訳ありませんが西軍のみなさんは上様直轄の天領というわけではないのですから、天領に比べたら税金は高くなる。自明の理ですね」


「税金が東軍に取られるということか?」


 秀家の問いに、長政が吹き出した。


「あのぅ、さっきから本当にみなさまはご自分の立場というのを分かってらっしゃるのかと頗る疑問ですね。

 あなたたち領地安堵にほっとしているのに、税金取られるの? って……当たり前じゃないですか! 発言が矛盾してません?」


「いや……まあ、そうなんだが」


 秀家は口ごもった。


「弁えていただかなきゃ困りますよ。まぁ、いいや。まだ話し合いは一回目ですからね。

 もちろん西軍のみなさんが飢えるような年貢を取り立てるなどはしませんよ。そこは安心してください」


「検地……」


「はい? 何ですか大蔵殿?」


「私に検地させてください! それが条件で飲めるかもしれません」


「ほほう……」


「つまり私と治部は、検地にかけてはプロですから。西軍の領地、そして東軍の領地、正確に検地をしなければ、米や作物が採れる土地なのか全くわかりません。

 地殻変動が起こったわけではなくても、土地の性質は以前と変化している可能性があります。


 ですから、まずは検地です。測量です。

 そこから、年貢について取り決めるべきです。

 そもそも土地が痩せていたら、年貢どころの騒ぎじゃないですから」


 ここで忠吉が初めて口を開いた。


「一理ありますね」


「す、水路なんかも整備していければ……本当は水路建設は増田ました(長盛)の役目なんですが……」


「分かりました……検地に関しては次回に持ち越しましょう。私も上様と協議します」


 長政はゴホンと咳払いした。


「もちろん、私たちが検地するのは東軍の領地もですよ」


「書いておいて」


 長政が顎を上げて図書に指示をだした。


 清洲の大広間に強烈な西陽が差してきた。

 日が暮れようとしている。

 傾聴席もざわつき出し、一回目の会議は終わるかに見えた。


「では、最後の条件をお話します」


 長政は高らかに宣言した。


「本日の会議は大変有意義なものでした。しかしながら、何という違和感! 何というおためごかし! 誰もこの戦争の責任の所在を追及しようとしない! 歴史に対する冒涜でもあります」


 長政が自分に酔ったような口調で続ける。


「私はここで最後の、かつ最も重要なる和議の条件をみなさまにお伝えしなければならない。


 すなわち石田三成の首です。


 この戦争の最たる責任者、この混乱の原因たる大悪人、三成の首を取ることで、この戦争を終わらせるべきかと思いますが、みなさまいかがでしょうか?」





【井伊直政】 安土桃山時代の武将。はじめ今川氏、のち徳川家康に仕える。徳川四天王の一人。関ケ原の戦いの功により近江佐和山18万石を領した。彦根藩主井家初代とされる。関ヶ原合戦の古傷が元で慶長7年2月1日死去。享年42歳。

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