表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/60

第11話 会議は踊らない!①

 早朝大垣を出た島左近、宇喜多秀家、長束正家ら西軍の使者は、いわゆる「御吉例街道」(徳川家康が関ヶ原勝利の凱旋で戻った道)を清洲城目指して進んだ。


 木曽川を渡った後、馬を用意して待っていてくれていたのは毛利秀元であった。


「申し訳ないが、従者たちはここに置いていってもらいたい」


 若返った秀元はいかにも素朴な青年、といった風情である。


 左近に申し訳なさそうにそう伝えた。


 書記などのために連れてきた4人の従者は、秀元が用意した小屋で待機となった。


「僕は今回、何が話し合われるのかは具体的には聞かされてないんです。

 ただ広間で傾聴を許されました。和議が上手くまとまればいいのですが」


「一回目ですから、まだ結論は出ないでしょう」


 左近は秀元を安心させようと、なるべく笑顔で応える。


 清洲城下に近づくに連れて、左近はある異変に気がついた。


 人々の顔が明るい。


 左近はまざまざと勝者と敗者の違いを見せつけられたような気がした。


 揖斐川、長良川、木曽川で舟を渡してくれたのは藤堂高虎の家臣だった。


 キビキビとした動きと礼儀正しい姿に感心するとともにちょっと切ない。


「なんか、西軍の雰囲気と違うね……」


 宇喜多秀家も何となく居心地が悪そうに左近に呟いた。


 左近も苦笑するしかない。


 道中、やはり女の姿を見ることは無かったが、気にするような素振りも見せず、兵士たちは己に今出来ることをやっている。


 そんな様子だった。


 大小の刀を預けてから、清洲の大広間に立ち入った時、滅多に物事に動じる質ではない左近も、流石に息を呑んだ。


 壇上には長机と西洋風の椅子が用意され、長机には白いテーブルクロスのようなものがかかっている。


 舶来品であろうガラスで出来たコップと水差しが柔らかい夕陽を受けて鈍く光っている。


 脇には書記らしき者が紙と筆を用意して着席している。


 さながらTVで見る首脳会談である。


 テーブルの前の傾聴席に居た徳川家の四天王の一人、本多忠勝がサッと立ち上がり左近に隣に座るように促した。


 長束正家が義兄に恭しく挨拶をする。


「お久しぶりです」


 忠勝は頷きながら大きな手で正家の右手を優しく包んだ。


 左近は横に座っていたもう一人の様子を見て、席に座った。


 こちらに一切目をくれることもなく、ツンとした形の良い鼻を啜っている。


 四天王の一人、井伊直政だ。


 左近の席は傾聴席の1列目、本多忠勝と井伊直政に挟まれた席ということになる。


 本多忠勝と島左近は今回の会議のメンバーのはずだが傾聴するだけで、意見は挟めないということだろうか。


 壇上には既に上座奥から宇喜多秀家、長束正家が座り、下座の席二つはまだ空いている。


(この水、飲んで大丈夫かな?)


 長束正家がコップを手に取りながら左近に目配せしてきた。


 左近はウンと頷く。


 宇喜多秀家は気にする様子もなく、水差しでコップにドバドバと水を注ぎ既に飲んでいる。


 傾聴席2列目の入口に近い端に毛利秀元が座り、その横の恰幅の良い紳士が左近に微笑みかけた。

 藤堂高虎である。


 さも窮屈そうな様子で小さな椅子に巨体を収めようとしている。


 4列目最後尾の席あたりに池田輝政と、浅野幸長の姿がチラリと見えた。


 関ヶ原とは遠いが垂井一里塚付近で陣を構えていた隊もここに飛ばされてきたようだ。


 後は主だった大名は見られず徳川の家臣団で固められたのであろう。


 よく見たらもっと知り合いがいたかもしれない。


 だが、左近のすぐ後ろの席にフラリと入ってきた田中吉政が座った時、左近の心にゾワリとした感情が込み上げ、他の者は目に入らなくなった。


 色の黒い痩せた体躯の吉政は口笛でも吹きそうな軽薄な表情で壇上を見ている。


 主人を捕縛し、臆面もなく差し出した男……左近は軽く頭を振って目を閉じた。


 過去に囚われてはいけない。


 この世界には過去、互いに傷つけ合った者しかいないのだ。


 バタバタと衣擦れの音がして、二人の男が急ぎ足で入ってきた。


 猫背の顎の張った男が先に入り、丸顔の眉毛の凛々しい男が続いた。

 黒田長政と松平忠吉であろう。


 下手奥の席に忠吉が座り、長政が手前の椅子を引いた。


 長政は立ったまま傾聴席を見回した。


 長政の藪睨みのような目が素早く左近を見つける。


 すぐに彼は秀家と正家に向き合い、何も言わずに席に座った。


「お待たせしました。これより第一回関ヶ原合戦後東西両軍和議に向けての講和会議を始めます」


 書記が朗々と歌い上げた。




【黒田長政】 安土桃山から江戸初期の武将。孝高の子。豊臣秀吉に従い、九州平定、文禄の役・慶長の役に活躍。秀吉死後、関ヶ原の戦いでは徳川方につき、大功を立てて筑前52万石を拝領。



【田中吉政】 戦国末・近世初頭の武将、大名。近江に生まれる。初め宮部善祥坊に仕えて因幡鳥取にいたが、のち秀吉に仕えた。1588年(天正16)従五位下兵部大輔。翌年三河岡崎城を与えられて5万石余を領し、のち加増されて10万石となった。このとき秀吉から一字を与えられて吉政と改称。関ヶ原の戦いでは東軍に属し、石田三成を捕縛するなどの戦功をあげ、筑後一国32万5000石余を与えられて柳河に居城を置いた。筑後守。慶長14年2月18日、江戸参府の途中で没した。享年62。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ