8 王子の反乱とその結末
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結局のところ、俺は傭兵部隊の隊長を引き受けた。
ちなみに副隊長にジョセフを任命した。
冒険者ナンバーワンのジョセフを副隊長に据えたことで、部隊の運営がかなり潤滑に進んだ。
まあ、俺が領軍の隊長をボコしたことで、冒険者たちに一目置かれるようになったのだが、それだけでは部隊の運営はうまくいかないからな。
妻たちにも話をした。
傭兵部隊の隊長を引き受けたこと、母国でクーデターが起き、王族たちがこの国に来ていること、復讐のチャンスがあるかもしれないこと、それを一生懸命二人に説明した。
二人は黙って聞いていたが、話し終わると抱き着いてきた。
「あなたの夢がかなうチャンスなのですね。妻としては応援するしかありません」アリアが言った。
フィリアも「お母さんと二人で待っているから、必ず願いを叶えてきてね」と激励してくれた。
俺は2人に、お金の在りかと換金できる貴金属の隠し場所を教えた。お金は生活のために使って、何かあれば貴金属を持って逃げるように指示した。
その夜は三人で愛を確かめあった。一晩中、いや日が昇ってからも時間ギリギリまで二人に愛を注ぎ込んだ。やっぱり二人は最高だった。
家を出る間際、アリアは言った。「お役目をみごと果たしてください。私とフィリアのことは気にしなくて大丈夫です」と言った。
「……」俺が何か言おうとしたが何も言えないでいると、俺の唇をひとさし指で押さえて、「何も言わなくて大丈夫ですよ。でもできれば生きて帰ってください」と言って、微笑んだ。
傭兵部隊での生活は、まず彼らを兵士として鍛えることから始まった。
冒険者たちは個人個人の戦闘力も高いが、対人戦は不慣れであり、また、集団戦の経験も足りなかった。
剣士や魔法使いなど各種別に分かれて訓練を行った。1か月もするとなんとか形になってきた。
なんとかこれで使い物になるかなと思っていた時、とんでもないニュースが入ってきた。
第一皇子が仲間とともに、王と王弟を殺して、王位を簒奪しようとしたのだ。
計画はとてもずさんで、王の私室に乗り込んで、いつもの通り王子が王と王弟にブラッカンへの進攻を強く主張するも、一蹴されたことに腹を立てて王子は王にいきなり切りかかったのだと言う。
突然のことで王は剣で刺されたが、王弟はすぐに王子の剣を止め、王子を殴り飛ばした。
何度か殴り飛ばしたうえで、衛兵を呼んだところ、王子は窓から逃げ出した。
実は王子の取り巻きが同時に王の部屋に突入して王と王弟二人を殺すはずが、剣を持った集団が王宮を歩いているのを衛兵に止めらないはずもなく、誰何されたところ、いきなり剣を抜いて衛兵に切りかかったそうだ。
そのため戦いになり、取り巻きたちは殺されるか、捕らえられてしまったため、王の部屋に行くことができなかったそうだ。
王弟はすぐに王宮を掌握、王都を封鎖したが、王子は北にある城砦に逃げ込み、捕らえることができなかったという。
そして王は治療の甲斐なくなってしまった。
王子のいる城砦は王都の真北にあり、北方防衛の拠点となっている城で、かなりの要害となっていた。そこに兵とともにこもり、徹底抗戦の姿勢を取っているそうだ。
王子は王を殺したのは王弟であり、正統な王位継承者として、各貴族に兵を率い逆賊である王弟チャク・ベナムを討つようにとの命令書を各地の領主に送りこんでいるとのことである。
伯爵は軍を率いて、王都に向かった。俺たち傭兵部隊も一緒だ。
王都に着くと俺はブラッカン王家の居所を訪ねた。ブラッカン王家の面々は取り巻きの貴族達とともに王家の離宮に住んでいたが、この事件のことを聞くと、取る物も取らずに逃げ出したそうだ。
そもそも王も王弟も受け入れに反対しており、ブラッカンに引き渡すべしと言っていたので、それを恐れてのことだろう。
ただ、第二王子だけが今回の反乱に加わっており、衛兵にとらわれているとのことだ。
ブラッカン王には正室に17歳と15歳の王子が二人、13歳の王女が一人おり、今回捕らえられたのはこの15歳の第二皇子だ。
第二王子の自分が王位を継承できるよう、少しでも有利になるようにベナム王家の王子に取り入っていたらしいが、それがあだになったようだ。
王都について、俺は直ぐに王弟に呼ばれたので、サンドール伯爵とともに王弟の執務室に向かった。
「初めまして、プルターク男爵。私がチャク・ベナムだ」と挨拶をしてきた。恰幅の言い、立派な体格をした偉丈夫だった。
「この度は拝謁の栄を賜り感謝に耐えません。トール・プルタークと申します」
そのあと、伯爵を交えて軽く雑談をした後、具体的な今後の戦略について話をすることとなった。
「私のような外国人がそのような件について、意見を述べてもよろしいのでしょうか」
「構わない。わしはいろいろな意見が聞きたいと思っている。戦巧者のトール殿の意見は是非にでも聞きたいと思っていた」と王弟様が言うので、「まずは、領地貴族たちにこの度の件について、正しい事実を知らしめる手紙を送ることです。さらに王弟の味方をすれば陞爵や領地の加増、報奨金が期待できるぞ、少なくとも中立を保つだけでも家の存続は約束しようと書くのです」
「しかし、それだけでわしの味方をしてくれるものだろうか」
「貴族たちが王子の味方をすることを躊躇するだけでも効果があります。敵の味方を増やさないことが一番な必要です。あと、王子がこもっている城砦ですが、城砦の司令官はご存じですか?」
「ああ、知っている。実に実直な奴で戦闘経験も豊富、義理堅い男だ。儂も何回か会ったことがある」
「それではその男を懐柔しましょう。手紙を書いていただけますか?」
「あいつを懐柔だなんて無理だ。非常にまじめな奴で融通の利かない男だ。王に対して忠誠を誓っている。いけば殺されるぞ」と王弟は慌てた。
「しかし、力攻めは愚策です。落とすのに時間がかかり、多くの兵が死ぬでしょう。それよりも懐柔して、中立にでも持ち込めればと思います。あと、こちらの王子の性格はいかがですか。聞いたところによると、かなり短絡的で、特権意識が強く、物事をあまり深く考えない性格のように思われますが」
自分の意見が通らないから、父親や叔父を殺そうなんて普通考えない。殺すにしろ、自分の手を汚すなんて何を考えているのだと俺は思った。
さらに伯爵から王子が王族としての特権意識が強く、家臣の言うことは聞かないうえ、自分に従って当然という意識の持ち主だと聞いた。付け込むスキは大いにありそうだ。
「身内の恥をさらすようだが、その通りだ。そのくせまずくなるとすぐ逃げる。今回北の城砦に逃げ込んだのは、王城を制圧した後、ブラッカンの王族を確保するため、東の離宮に兵を送ったのを見て、東は危ないと思い、北に逃げたのだろう。これからのプランなぞ何もないに違いない」
「北の城砦の兵力はどのくらいですか」
「昔、ボルガランド王国と対立していた時は1万以上の兵力を駐屯させていたが、王妃様が輿入れし、和平が進んでから1000人程度の兵を治安維持目的で駐屯させているだけだ。城の補修もしばらくまともにやっていない。逆にボルガランド王国との交易目的の商人たちの街が城砦内にできて、軍事設備は取り壊されたものも多いらしい」
「その商人たちは?」
「皇子が逃げ込んできてから、戦争に巻き込まれることを恐れて皆、城砦から出て行ってしまったとのことだ」
「王弟様、司令官あての手紙をお願いいたします。あと、伯爵さま、傭兵部隊200名を連れて行く許可を」
伯爵は傭兵部隊の派遣を認めてくれ、王弟は手紙を書いてくれた。
俺は商人として、その城砦に向かった。10台の馬車に荷物を満載して、傭兵部隊は護衛や御者などに仕事を割り振って、偽装した。
城砦の門に到着すると、番兵が幾人か出てきた。
「貴様ら何しに来た。ほう、沢山の物資を持ってきているな。これらは没収する」兵士の中で、一番偉そうなのが我々に向かって言った。
「私は、こちらの司令官様の知り合いから依頼されて物資を持ってまいりました。こちらの手紙を司令官様にお取次ぎください」
兵士たちは顔を見合わせて、相談し始めた。
「おい、どうする?」
「司令官の知り合いだそうだ。間違いなく貴族だろう。もしかしたら味方かもしれない」
「味方の貴族からの手紙を無視して追い返したら、俺たち間違いなく極刑だぞ」
「とりあえず、手紙を取り次ごう」と兵たちはごそごそと相談していた。
一番偉そうな兵隊が「手紙を指揮官に渡すので、こちらによこせ」と言ってきた。
俺は困ったような顔で、「依頼主から直接お渡しするようにと言われております。それができないと、依頼主から叱責を受けてしまいます」と言った。そして哀願するように、「司令官様にお渡しするだけでいいのです。お願いできませんか」と言って、袖の下を渡した。
その兵隊は悩んだようだったが、「わかった、司令官に取り次ごう。その代わり、わしも立ち会わせてもらうぞ」と言ってきた。
さすがに二人では会わせてもらえないかと、少し残念だったがやむなく了承した。
司令官の部屋に行き、兵隊が声をかけた。
「司令官のお知り合いから物資と手紙が届いています。手紙を直接渡したいと使いの者が言っておりましたので、連れてまいりました。入ってよろしいでしょうか」
しばらく間があったが「入れ」と言う声がかかった。
俺は入り口から数歩部屋に入ると、跪いて「此方が手紙でございます。お受け取り下さい」と言って、手紙を差し出した。
ちらりと司令官の顔を見ると、かなり憔悴している様子だった。
手紙を開き、読み始めると、驚愕の顔に変わった。
そして、兵隊の方を向くと、「こいつと話がある。しばらく席をはずせ」と言って、兵隊を部屋から追い出した。
司令官は立ち上がり、「お立ちください。あなたはトール・プルターク男爵ですな。私はフレデリック・カーペント男爵です。あなたの戦いぶりは噂で聞いております」と言って、握手を求めてきた。
俺も立ち上がり、握手を交わすと「カーペント男爵、はじめてお目にかかります」と言った。
二人で座ると、しばらく沈黙が流れた後、カーペント男爵が口火を切った。
「手紙を読みました。残念ながら降伏することはできません。私は軍人です。王家に仕える身です。王子がこの城砦に来た以上、彼を守ってここで戦います」
「カーペント男爵、軍人としてその気持ちはよくわかります。しかし忠誠はそれを理解する者に対して尽くすべきです。私の父も兄も国のために戦い、壮絶な戦死を遂げました。私も10年にわたり、各地を転戦させられました。そして、最後は殿として死を命じられました。それに対して、敗戦の責任をすべて我々軍家に押し付け、ブラッカン王はわが家門の取り潰しという行為に出ました。忠誠の結果がこれです。きっと王子はあなた達を戦わせ、自分は逃げ出しますよ。まあ、もう逃げられるところはありませんが。ブラッカンは王家をかくまい、軍を差し向けようとしたとして、処刑台が待っていますし、ボルガランド王国は王妃から連絡が行っており、入国と同時に捕らえられることになるでしょう」俺は言葉をつづけた。
「その間、あなたたちは絶望的な玉砕戦を強いられ、あなたを含めて、多くの兵が死ぬでしょう。王子はあなたたちに感謝することなく、逆に罵るか、下手をすればあなたに罪を擦り付けようとするのではないですか?部下たちにそのような過酷な運命をせおわすのですか?」
カーペント男爵は黙っていた。
「あなたと兵たちの罪は問わないと王弟様は言っています。もし、あなた自身が手を下しにくいのなら我々が行います。門を開けて、我々を入れてください。しばらく目をつぶっている間に我々が片づけます」
沈黙が流れた。
カーペント男爵はぽつりと言った。
「皇子から命じられている、兵を率いて王都を奪還せよと。私と指揮下の兵は王都に向かい直ちに出発する」そう言うと、カーペント男爵は部屋を出て行った。
俺は、後ろ姿に敬礼した。
城砦守備軍は王都に向けて出発した。
それと入れ替わりに我々傭兵部隊が城砦に突入した。
王子のいる屋敷に突入、難なく王子を捕らえることができた。
王子は酒を飲み散らかし、罵倒の言葉を吐き、服は汚れ切っていた。体からは異臭がした。
王子を捕らえた俺は王弟に連絡、カーペント男爵の件も伝えた。
カーペント男爵は城砦からしばらく行ったところで、王弟からの使者の命令で、武装を放棄した。降伏ではなく、王族の命令による武装解除を受け入れた形だった。
王子は王都に護送した。
護送中、「放せ、俺はこの国の王子だぞ。不敬だ。全員処刑するぞ」と喚き散らしていたので、水も食料も与えずほっておいたら、1日で静かになった。2日目には「水、水をくれ」と言い出し、3日目には何もしゃべらなくなった。
なので、水だけ与えた。食料も要求してきたが無視した。
3日ごとに水をあたえた。
王都に着くと、牢に押し込んだ。
3日後、公開処刑が行われた。
牢屋の中で何も食べさせてもらえず、わずかな水のみ与えられたため、力が入らず処刑人二人に支えられて刑場に入った。
弱弱しく泣きながら助けを乞うたが、ひもは首に巻き付けられ、つるされた。
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