12 ベナムとの交渉とボルガランドとの和平
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俺は、ベナム王国に行った。人数はごく少数で、後から正式な使節を派遣してもらうことになっていた。
ベナム王国の王都、ハノーファーに着いた。そこでサンドール宰相に面会を申し込んだ。宰相はすぐに会ってくれた。
「ひさしぶりだな、お前のうわさは聞いているぞ。ギスカール王国と戦い、見事勝利を治めたそうじゃないか」
さすが情報収集能力の高さは大陸一だ、更にその情報を取捨選択し、こちらへのジャブとして使用してくるのは宰相の力量だな、と俺は思った。
「いえ、たまたまの勝利です。皆が頑張ってくれました」
「よき指揮官がいなければ、勝てる戦も勝てまい。お前は誇ってもいいぞ」とにこにこしながら言った。
「ありがとうございます」
「それで今回の用事はボルガランドとの和平か」
「何故お分かりですか」
「北は、蛮族の一部を帰順させ、暫定だが安定を得ている。西はさっき言ったとおりだ。前王家の負債は東のボルガランドだけだからな。それに我が国とボルガランドは友好関係にある。この度、王の息子にボルガランドの王女が嫁ぐことになった。更に友好関係が高まるぞ」と言って笑った。
曰く、この発言の意味はボルガランドと敵対するならブラッカンは滅ぼすぞと言うことだ。
「ええ、我が国はボルガランドとの和平を結びたいと考えております」
「その仲介を我が国に頼みたいのか」
「その通りです」
「で、その代わりにブラッカンは我が国に何をしてくれる」宰相は笑顔で尋ねた。
「我が国が、貴国の忠実な同盟国として働くのではだめでしょうか」
「ブラッカンには、人も物資も送っている。その代償としても少ないぐらいだと思うが」
俺はにこりとして、「我が国の貴族の三分の一はベナム貴族の次三男です。外にも、この国出身者が多数おります。私自身ベナムの貴族の地位をもらっております。すでに我が国は貴国と血で結ばれた同盟国であると認識しています」俺は言葉をつづけた。
「現在の皇太子は独身です。もし可能であれば、王女を我が国にいただければ、更に両国の関係は強まると思うのですが」
「それはいい考えだ。ブラッカン王太子の正妃として我が国の王女を嫁がそう。これは両国の友好に大変効果的だ」宰相は微笑みながら言った。
ブラッカン内のベナムの影響力は大変強い。更に王妃がベナム王家の者を送り込めば、ブラッカンの貴族はベナム貴族の縁者ばかりで、王はベナム王の孫、これでは事実上、属国のようなものだ。まあ、表面上はそうなるな。
ただ、こんなものはいくらでも巻き返せる。
「ありがとうございます。さすれば我が国とボルガランドはベナムを通して血縁関係となるわけですね」
「そうだな、それで戦争状態と言うのは、我が国にとってもあまり好ましくないな。それについて我が国も手を貸さなくはないがな」宰相は言う。
もう少し何かつけろと言うことか。
「我が国は私の指揮の下、軍事力の強化に乗り出しています。北の蛮族への直接の対処は我が国にお任せいただければと思います。その代わり、ボルガランド王国は我が国への協力を、ベナム王国は後方支援をお願いしたい」
つまり、血を流すのは我々がやるので、ボルガランドはその補助を、そしてベナムは戦争で得た利益の一部を傷つくことなく手にできると言うわけだ。
ただ、それだけではないぞ。
「この関係をつづけるために、三国で同盟を結びませんか。そうすればこの三国の友好関係が永続的になると思うのですが」
宰相は何か考えているようだった。そして俺に笑顔を向けると、「貴殿の言いたいことはわかった。王と相談してみよう」と言って、「プルターク準伯爵のお帰りだ」と、部屋付きの執事を呼んだ。
さて、これからどう出てくるか。
おれは単なる武人で、こういう外交の仕事は専門外なのに、外交伐の連中がまともに仕事をしないから俺にお鉢が回ってくる。まあ、商人として働いた経験が多少なりとも役に立ってはいるけれど、と思いながら、ハノーファーの屋敷に向かった。
宰相とベナム王が話をしていた。
「以上の申し出がトールからありました。いかがいたしましょうか」
「お前の中では結論が出ているのだろう。それを話してみろ」
「王女の降嫁の話と、三国同盟の件、ともに受けてもよろしいかと思われます」
「理由は?」
「ブラッカンの属国化をさらに推進できるからです。多くのベナム貴族の次三男がブラッカン貴族となっていること、その上更に我が国の王女が産んだ子がブラッカンの王となることで、我が国の影響力がさらに増大し、ベナムの利益につながると思われます」
「同盟の件は?」
「相互防衛同盟にいたします。北の脅威に対してはブラッカンとボルガランドに当たらせ、こちらは後方支援の兵を送ればいい。それに対して、我々が抱える南の問題に彼らの戦力、特にトール・プルタークの戦力が使えるのはとても有効です」
「南の問題か」
「はい、王が南の抑えである大公からこの国の王になることで、現在南の抑えが効かなくなってきています。実際に旧ブラッカン王家をかくまっているネシーナ王国は、我々の引き渡し要求をのらりくらりとかわしています。外にも我が国に反抗的な態度を示す国が増えております。ひとえに、我が国が権力争いで国力を落としていると判断されているためです」
「実際は、トールのおかげで内戦にもならず、国力は維持されているのだがな」
「確かに、若干の混乱はありましたが、ほぼ影響はありません。しかし、彼らはおろかにも推測で物事を進めているようです。ここで役立つのが三国同盟です」
「軍事協定を結ぶことで、トールを引っ張り出すわけか」
「トールは我が国の貴族位も持っています。王命を出すことはできますが、彼は元々ブラッカンの貴族です。我が国の貴族位を放棄すれば、直接の命令権は無くなります。しかし同盟国として条約に基づき参戦を要請すれば、逆にブラッカンの貴族として断れません」
王はニヤリと笑いながら言った。「一つ思い付いたのだが、あいつを伯爵に陞爵して、南方に領土をあたえたらどうだろう。あいつの妻たちの故郷、獣人たちの村がいくつかあっただろう」
「はい、一応私の領地ですが、獣人たちは税もまともに治めませんし、ピストの町に出稼ぎに来て、住民たちと軋轢を生んでいます。まあ、大部分はトールがブラッカンに連れていったため、治安がだいぶ良くなりましたが」
「獣人たちの村とその周辺をトールにあたえよう。お前には王都近郊に代替地を与える。お前の忠義に対して領地をあたえる約束だったが、今回の反乱があっさり解決したため、領地を没収できる反対派の貴族が少なく、余剰地がなかったからな。お前だけ特別扱いすることを他の貴族達が許さなかったが、今回の件で、お前に領土が与えられる」
「有難き幸せ、今後とも忠義を尽くします」と深々と礼をした。
「さて、では仕事を進めてくれ」
「御意」
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