10 闘いの日々と新しい妻
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軍の再編は、訓練を続けてなんとか軍としての体裁を整えたところで、問題が発生した。
北の国境を越えて、敵が侵入してきたのだ。
北はいくつものの部族が割拠しており、有力部族が周辺の少数部族をまとめてお互いが争っていた。
そのうちの一部族が国境を越えてきたとのことだ。
俺は、5000の兵を連れて北の国境に向かった。
北には800人程の狼人族がいた。見るとほとんどが女子供ばかりだった。皆薄汚れていて、やせ衰えていた。
俺は、部族の女に声をかけた。
「俺はブラッカン王国軍指揮官のトール・プルタークだ。ここの族長と会いたい」
女はびっくりしたようだったが、族長のところに案内してくれた。
族長は女だった。「私はウルティ、この部族の族長代理だ」
詳しい話を聞くと、部族間抗争で、男たちのほとんどが殺され、やむなく逃げてきたとのことだ。
「我々はここに住むことにした。しかし、我々は家畜も食料も失って、困っている。村を襲おうとしたがこの近くになかった。更に狩るべき獲物もない。なので、食料を要求する」
北部国境地帯に元々いた住民は敗戦の影響でみな南の土地に立ち退いていた。
「我が王国に従い、我が国の国民となれ。この地で農業を行い、略奪をやめよ。そうすれば、国として保護する」
「そんなことはできない。我々には部族としての誇りがある。ここで我々は独立した生活を営む。邪魔をするなら戦いだ」
俺は一呼吸置くとゆっくり話し始めた。
「ここに来るまでにこの部族の民を見たが、女子供ばかり。更に相当飢えているようだ。もしわれわれと戦いになれば相当の犠牲が出るぞ。それはお前の望むところなのか」
族長代理は黙考し始めた。
そしておもむろに口を開いた。
「そなたは軍の代表であろう。私と一騎打ちで決闘せよ。これは我々に伝わる神聖試合と言う儀式だ。勝った方がその言い分を聞かなくてはならない」
「わかった。受けよう。勝った時の条件はこちら側では先ほど言ったものが条件だ。そちらの条件は何か」
「わが部族に土地と食料をよこせ」
「食料はどのぐらいか。土地はここになるぞ」
「もっと豊かなところがいい。ここでは狩猟も略奪もできない」
「それは無理だな。ここ以外は空いた土地がない」
族長代理は黙ってしまった。
「食料は我々が一年間食っていける分だ。内容は問わない。土地はここでいい」
「わかった、それでは一騎打ちをして、どちらの言い分が通るか決めようか」
俺は、その族長代理と決闘することとなった。
俺の後ろには、わが軍の兵士たち、彼女の後ろには部族民たちがかたずをのんで試合を見つめていた。
試合開始の合図とともに、大剣を担いで族長代理は突っ込んできた。
俺はひょいとよけて、腹に一発当身をくらわせた。
族長代理はウっとうめいて、腹を抱えてしまった。すぐに大剣を取り上げ、腹を蹴り上げた。
族長代理は気を失ってしまった。
弱い、こいつ戦ったことがあるのか、俺はそう思った。
俺は大声で言った。
「神聖試合でお前たちは負けた。今後お前たちは我が国の国民となる。この地にて畑を耕し、土着せよ。その間の食料や農業の指導は我々が行う」
部族の者達は誰も声をあげなかった。
しばらくして族長代理が目を覚ました。俺の話を聞いてさめざめと泣いた。
聞くと元々は夫が族長で、夫の死後族長の代理をやっていたそうだ。女たちの中では一番強かったため、軟弱な南の人間なら勝てると思ったそうだ。
言語の話し合いをしていく中で、ここで農業をすること、農業指導と防衛のための兵士として、300名の兵を駐留させる旨伝えたところ、いきなり目を輝かせて「300名は男か。この部族には男が子どもしかいない。婿にもらっても構わないか」と尋ねてきたのでお互いの合意があればと言っておいた。
すると、「私も夫を亡くしている。子は1歳と3歳の娘がいる。お前、私を娶ってくれ。私だけでもいいが、もし必要なら娘二人もつけるぞ」と言い出してきた。
もうすでに妻が2人いるからと断るが、「お前は強い。強い奴はたくさん妻を持つべきだ。現に前の夫は5人も妻がいたぞ。私が一番妻だったがな」と言っていた。
娘は丁寧に断った。息子が生まれたら婚約させる約束でごまかそうとした。
本人はすごく乗り気で、断り切れなかったので、愛人ならと言ったら、「それなら現地妻だな」と言って、笑って抱きついてきた。
族長代理、ウルティは胸も含めて全身が無駄なく筋肉がついていて、肌は強力なゴムの様だった。
体力は底なしで、こちらも苦戦したが妻たちで鍛えたテクニックを駆使して、何とか勝利をもぎ取った。はっきり言って、昼は雑魚だったが、夜は相当の手練れだった。
さて、一旦ブラッカン王国の王都ベーリングに戻ろうとしたら、また、王から急使が来た。
いったい今度は何だよと、急使からもらった手紙を開けてみると、今度は西のギスカール王国が3万の兵を率いて攻め込んできたそうだ。そもそも前の戦いから西側の国境部分を占領していたが、さらに奥に侵攻してきたそうだ。
とりあえず、大急ぎで軍を率いて行かなくてはならない。
西側からベーリングに向かう途中で、オトイネップという城砦がある。その城砦は、南はワップ川の大渓谷、北は大氷山地があり、天然の狭隘地でそこにきづいた要塞は西からの侵略を防ぐにたる要塞だった。
しかし近年手入れをまともに行わなかったせいで、かなり補修が必要な状況となっていた。
俺はとりあえず、ジョゼフに1000名の騎兵をつけて城砦に送った。
城砦を抜かれたらベーリングまで平原だ。平原での会戦は兵力数の多い方が有利である。
なんとかして要塞で食い止めなくてはならない。
一番信用できるジョゼフに兵を率いさせた。「わかった、砦に行ってそこを占拠して防衛拠点として整備しておくな。壊れたところは補修して、敵を迎え撃つよ。俺の命にかけて絶対に抜かせない」ジョゼフは微笑みながら言った。
「そうだ、約束忘れてないよな」ジョゼフはにやにやしながら言った。
「約束?」
「俺が死んだらカリナたちの面倒を見てくれってことだよ」
「……わかった。でも死ぬなよ」
「おまえこそな」
笑いあって別れた。
俺は残りの3700人を率いて、山岳地域を踏破していった。
ここは、地元の人間ぐらいしか知らない間道で、俺はここで戦ってこのあたりの道はよく知っているため、この道の存在を知っていたが、敵はこの道の存在自体知る由もないだろう。
なんとか兵を率いて間道を進むと、敵の後方部に出ることができた。
直ちに攻撃を開始、俺は先頭に立って突き進んだ。
「我が名のはトール・プルターク。死にたいものはわが前に立て!」
俺は叫びながら突き進んで行った。
敵兵たちは混乱し、前に逃げようとするも人で詰まっていて進めない。思い余って、渓谷に飛び降りるものが続出した。
ついに敵は降伏した。
捕虜たちを引き連れて城砦に入った。城砦は敵の攻撃でかなり傷ついていた。
「よお」傷だらけであちこちに包帯を巻いているジョゼフが立っていた。
「よお」俺は半分泣きながら答えた。
「半分死んだ。残りもみな負傷している。でも守り切ったぞ」とジョゼフは少し誇らしげに言った。
「よくやってくれた。本当によくやってくれた」涙を流しながら感謝の言葉を伝えた。
捕虜にした兵士たちのうち、将校以上は拘禁し、兵士たちはわが軍に編入した。
敵の捕虜を編入するってどういうことか?もともと兵士は村の次三男、貧民街の男などが多く、村の無駄飯くらいを間引いたり、金のために集まった奴らが多い。
だから待遇さえ与えたら平気で寝返る奴らだ。
また、捕虜は基本重労働に従事させ、使いつぶすことが多い。貴族であれば身代金と引き換えに解放されるが、平民はほぼあり得ない。
それに比べたらと志願する者も多いわけだ。
さて、これからは講和のための戦争だ。
敵の司令部はギスカール王国北部の街、ビエンナーレに置かれていることが捕虜たちからの情報で分かっている。そして進攻軍が大敗したことはまだ知られていない。
このチャンスを生かすため、俺は兵2000をギスカール兵に偽装して、ビエンナーレに向かった。いや、もともと1000は元ギスカール兵だから偽装ではないけれど。
敵がこんなところまで来るとは思っていなかったのか、悠々とビエンナーレまで到着することができた。
門番に向かって、「至急の要件があるため、司令官に面会したい」と言ったところ、戦果が知りたかったのか、総司令官と参謀たちがぞろぞろとやってきた。
当然全員捕虜にし、ビエンナーレの街に突入した。主要か所を抑えて町を占領した。
すぐに本隊を呼びビエンナーレの街を完全に占領するとともに、その西側にある港、ビールポートを占領、ワップ川北岸に防衛線を築いた。
これ以上の進攻は、現在のブラッカンの国力から不可能なため、後は講和を結んでもらうだけだ。この旨をジャック王に伝えたが、相変わらず外務系の貴族達は業務放棄をしているらしい。
やむを得ない。俺自身が敵との講和に臨むことにした。
俺は、欺瞞情報を流し始めた。やり方は、現地の冒険者や商人に金を渡し、あちこちに嘘の情報を流すことだ。
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