表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

気に食わねぇ奴

よろしくお願いします

「……なあ、立ちってなんなん?」


由美は少し驚いた顔をして、それから優しく説明する。


「んーとね…試合みたいに、順番に並んで弓を引くことだよ」


「へぇ……」


渡辺はもう一度前を見る。


ただの練習とは違う。

空気が違う。


一人一人が、同じ動きで、同じ呼吸で弓を引いていく。


そして——


パシッ。


矢が的に刺さる。


その瞬間。


「よしっ!!」


大きな声が道場に響いた。


渡辺はびくっと肩を揺らす。


「な、なんだ!?」


横を見ると、由美が少し照れながら笑っていた。


「大会とかだとね、当たったら“よし”って言うの」


「え、そうなん?」


「うん、それが弓道の醍醐味なんだよ」


渡辺は「へぇ……」と呟きながら、もう一度前を見る。


(“よし”、か……)


次の射。


神崎の矢が放たれる。


パシッ。


見事に的の中心へ。


「……よしっ」


少し遅れて、渡辺が小さく声を出す。


なんとなく、言ってみたくなった。


だが——


次に弓を引いたのは氷室冬矢だった。


無駄のない動き。

さっきよりもさらに静かで、鋭い。


(……なんかムカつくな)


そう思った瞬間。


パシッ。


矢は当然のように的に刺さる。


「……あちゃー」


思わず、残念そうな声が漏れた。


一瞬、空気が止まる。


そして——


氷室が、ゆっくりとこちらを振り向いた。


的の前から、真っ直ぐに。


その目は、はっきりと渡辺を捉えている。


(やっべ)


渡辺は一瞬だけ目を逸らす。


だがすぐに、強がるように睨み返した。



練習が終わり、道場の空気がゆるむ。


「じゃあなー」「お疲れ様です」


部員たちがそれぞれ帰り支度を始める中、渡辺も鞄を肩にかけた。


(疲れた……腕いてぇ……)


そんなことを考えながら外に出た、その時。


「おい」


後ろから声がかかる。


振り返ると、氷室冬矢が立っていた。


「……なんだよ」


少し警戒しながら返す。


冬矢はまっすぐ渡辺を見ている。


「なんのつもりだ?」


短い一言。


渡辺は一瞬黙って、それから鼻で笑った。


「は?」


そして、はっきりと言い切る。


「俺はよぉー——お前が気に食わんのじゃ」


空気が少しだけ張り詰める。


冬矢は一瞬も動じない。


「……そうか」


淡々とした声。


「まぁ——俺もお前に“よし”って言う日は来ないだろうがな」


渡辺の眉がぴくっと動く。


「……どういう意味だよ」


低く返す。


冬矢は視線を逸らさずに言う。


「一生当たらないって言ってんだ」


一拍置いて、続ける。


「お前、やる気ないだろ」


その言葉が、思った以上に刺さる。


「……なんだと、てめぇ」


思わず声が荒くなる。


冬矢は構わず続ける。


「由美……だったか」


わざとらしく名前を口にする。


「デレデレしてるよなお前」


渡辺の表情が強張る。


「彼女目当てで入っただけなんだろ?」


図星だった。


言い返せない一瞬ができる。


その隙を逃さず、冬矢が言い切る。


「やめとけよ」


静かな声。


「お前には合わねぇよ弓道」


その言葉を、自分に問いかける


(……なんで俺、弓道やってんだっけ)


由美の顔が浮かぶ


「……」


結局、何も言えないまま、俺は立ち尽くした


冬矢はそんな渡辺を一瞥して、背を向け、そのまま歩いていく。


足音が遠ざかる。


渡辺はその場に残されたまま、拳を握る。


(……ちくしょう)


読んでいただき、ありがとうございました!

もし良ければブクマや評価をつけていただけると、とても励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ