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国政の会議には王太子である兄と王太子妃である義姉はいつも参加していたが、俺はこれまで参加したことはなかった。
15歳で成人した時から、そろそろ参加だけでもと言われていたが、どうせ王族には決定権は無いだろと思って出なかった。
だが今回、北の件を話し合うと聞いて初めて参加した。
結局、結論は出なかったが、大臣をはじめ重鎮達の意見の中でも、発言する義姉上が凄かった。
皆、あの若い義姉上の意見に耳を傾けるし尊重する。王族に決定権は無いが決して無視される訳ではなかった。義姉上は妊娠中でお腹も大きいのに、あんな場で。
兄に「義姉上は凄いな」と正直に思ったことを伝えると、兄は
「マレシアナは小さい頃から、とても賢かったんだ」と言った。
だから絶対に王妃になるならマレシアナだろうと思っていたと。
「でもマレシアナは『殿下が王にならないなら私も王妃にはなりません』って言うから、私も頑張ったんだけどね。マレシアナには負担ばかりかける」と言って押し黙ってしまった。
俺は「兄上、私もこれからしっかり勉強するから。義姉上をちゃんと助けられるように頑張るから」と言うと兄は、
「ありがとう。宜しく頼むな」って言ってくれた。だから、
「二人で頑張れば義姉上を助けられるよ」と言うと、
「そうだな」と言って笑ってくれた。
兄も多分、名ばかりの王太子でありたくないと思っているのだ。
だからきっと二人で頑張れば、ただの国の飾りでは無くなるはずだ。
義姉上は議会の後、自室で休憩しているそうだ。身重の体だから休み休み仕事をしているらしい。
俺は冬休みに入ったから自分の勉強や教育が終われば時間がある。何か手伝えることは無いかと義姉の元を訪れるとマレシオンもいた。彼も姉を気遣い手伝いに来たのだそうだ。
だが義姉はマレシオンを公爵家に返した。俺に手伝ってもらうからって
「あなたは公爵家の仕事をしなさい」と言っていた。
そう彼にも守る家がある。それに公爵家は実力主義なのだと言っていた。彼は嫡男でも安泰ではないのだ。
マレシオンは「姉を頼みます」と言って後ろ髪を引かれるようにして帰っていった。きっと俺よりマレシオンの方が役に立つだろう。だけど、俺だって頑張らないといけないのだ。
義姉は「殿下、よくやる気になられましたね」と言った。
俺は初めて参加した国政会議で王族が蔑ろにされている訳ではないのだと悟ったことを伝えた。もちろん義姉上だから尊重されているのだと分かっているという事も付け加えて。
そしたら義姉上は「殿下、例え政治の場で王族に決定権は無くても、あの場に参加資格もあるし、発言もできる。それだけでも凄い事なのだと知って下さい」と言った。
「それは普通の貴族には無い資格で経験と実績を持った者だけが集う場所に王族というだけで参加できるのだということなのですよ」とそう言った。
そして「決して王族の影響力を舐めてはいけません。もし議会で決定した事と反対のことを王族がしたとしても国民はそちらが正しいのではないかと思うのです。それでも王族には決定権が無いと思えますか?」と聞いてきた。
俺は色々と間違った認識をしていたんだと改めて思った。
ただ疑問がある。
「義姉上、なぜ父上は国王は会議に参加されないのだろう?」
義姉は「これは私の憶測ですが、陛下はご自身のせいで王族が国政の決定権を失ったと罪悪感をお持ちなんだと思います。そして王妃様に悪意の矛先が行かないよう、自分は飾りの国王で良かったと、面倒ごとを押し付けられずに済んだと思われる王を演じておられるのだと、そう私は思っております」
「そして王妃様も派手な茶会や行事を主催されないのも、慎んでおられるからです。北の外交官達に毎回、良い顔をしないのも、青薔薇を披露しないのも、これ以上、北の事で周囲に迷惑を掛けたくなかったのですよ」とそう言った。
「じゃあ姉上が南の隣国に嫁いだのは…」
「王族が今まで最低限だった南の隣国との交流に役立ったと思われるのに必要な事だったのです」
俺は何も知らなかった自分を恥じた。
俺は目先のことだけで周囲のことは何も見えておらず、王族の自覚ですら半人前だったという訳だ。
「アイザック殿下、まだ間に合います」
そう言ってくれる義姉の言葉を信じるしかなかった。




