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冬休みは伯父と子爵領に帰省することになった。
ザック殿下も来たがったけど、さすがに年末年始は王族も家族と過ごすらしくて許可が降りなかった。そして新年は王族詣でもある。
王族が国民への新年の挨拶に王城のバルコニーに立つのだ。その時は王城の前の広場も一般開放されるから殿下も参加しないといけないのだそうだ。
そもそもザック殿下が子爵領なんて来ちゃったら、更に殿下との仲を噂されるだろう。それを突っ込んでやったら、意味に気付いたらしく殿下は大人しく引き下がった。
マリィ姉ちゃんに冬休みは帰省すると告げに大神殿に行ったら、姉はライオット兄の公爵家に聖女候補時代の皆と集まるらしい。
年末年始の大神殿は24時間礼拝をやっていて、その日は一日中大ホールを開けているそうだ。
マリィ姉ちゃんは新年は出番が無い。年末年始は逆に貴重な休みになるらしい。その日は侍女さん達もお休みだ。
聖女であるマリィ姉ちゃんの神殿からの移動は、警備上とても難しいらしいのだが、ライ兄が権限をフルに使って神殿を説得してくれたらしい。
一応、神殿側からも聖騎士様が付いてくるそうだが、多分、女性騎士様だろう。姉は候補だった2人が子連れらしく、会うのを今からとても楽しみにしている。
お世話になったミネルバ様へのご挨拶にも伺った。
ミネルバ様は「久しぶりに母と行動できて楽しかった」と言って下さったが、騎士団長が次男様との縁談を持って来たそうで「年下なんだけど、どうしよう?」と悩んでらっしゃった。
そしてミカエル様にもお会いしたが、
「私がその時、子爵領担当じゃないのが残念です」と手を握られた。
うん告白されてからアプローチがスゴい。
去り際も手の甲にキスされた。なんか新鮮。
ご一緒してたマリィ姉ちゃんの侍女のココットさんに、
「リリベルさんは赤面したり狼狽えたりしないのね?」と言われたが、
「何で?」と逆に思った。
でもココットさんも姉と一緒に年末は公爵家に行くらしい。
そしてもう一つ、年明けは“美しい侍従に囚われた王太子”の舞台が上演される。
本当はそちらも応援したかったが、伯母と侯爵夫人にお任せした。
あれから無事に俳優も決まり、何とか杮落としまで見通しがついたと言っていた。今は猛稽古中なのだとか。
舞台は侯爵家の威信にかけて失敗できない。
季節は冬に入り、冬休みに入る前にリリベルは生徒会室のプランターの白菜を役員達に配った。
なかなか花が咲かないと言っていた侯爵令息は最初、フリルレタスとルッコラをお裾分けしたら、ビックリしていたが、
「サラダにして美味しくいただいたよ」と言ってくれた。
特にカブは甘味があって美味しかったので、生徒会室で皆で齧っていたら、また差し入れに来た高位貴族の令嬢達が怯えて逃げていった。
シャーロット嬢が「お菓子は置いてってー!」叫んだが今回は間に合わなかった。残念だ。
白菜も少し重いけど皆、喜んでもらってくれた。リリベルと殿下が世話したのだから、きっと美味しいはずだ。
そして休みに入る直前、リリベルは大神殿に呼ばれた。
姉にではなく、また神殿の奥に連れて行かれ大神官長様と大神官様方にお会いした。
大神官長様は神殿の古い書物を調べ直したが、子爵領の野生馬に触れる記載は無く、ただ女神様の愛馬のユニコーンは穏やかで優しく清らかな馬であったと記載があり、また性別が無いとあったことから、子爵領の馬は、やはりスレイプニルの子孫である可能性の方が高いと仰った。
そして北の姉神、東の兄神との関係性もこちらに都合の良いように解釈がなされており、改めて客観的に神話や言い伝えを見直す必要があるのだと仰った。
大神官長様は、この件に関して女神様からは何もお告げはないが、色々、野生馬を始め北の女神に対して誤解をしていたことが恥ずかしいと仰っていた。
国側にもこの件を進言するので、今後、北との関係性にも良い方に影響するといいがとリリベルに伝えて面会は終わった。
リリベルは大神官様に、北の女神とスレイプニルに関する情報を知りたいとお願いしたのだが、今、伝えた以上の情報が神殿にも無く、やはり物資の輸出入以外のやり取りが少ないのが、北の情報がほとんど無い理由だろうと仰った。




