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王妃様はリリベルを観察しておられた。
多分、子爵家が北の王家の名残を残しているのかを見ていたのではないか?と思ったのだけど。
あんなにたくさん北の話をしてくれたのは認めたということかな?
でも、もう二度と語ってはくれない気がする。王太子妃様は王妃様が北との決別を決めたと仰っていたし、青薔薇も処分された。
リリベルに託した最後の株は北の王家に返したという意味なんじゃないだろうか?考え過ぎかもしれないけど。
リリベルは学院の休みの日に再び大神殿を訪れた。そして大神官様方に王妃様から聞いた話を伝えた。
大神官様は驚きながらも、その話の方が信憑性が高いと、神殿に伝わる神話と言い伝えをもう一度、再確認してみると仰った。
リリベルは大事な話を、またもう一人に伝えるべきか悩んでいた。それはオリベル王女信望者の伯父に、北の王子の件を伝えるべきなのかということだ。
伯父はあれから子爵家の肖像画がある建物を立派に建て直してくれたらしい。全然関係ない先祖なのに礼を尽くしてくれたのだ。
やはり伝えておくべきだろう。
リリベルは大神殿の帰りに侯爵家にも寄って、伯父に会いに行った。
伯父は最近、ずっと王都にいるなと思ったら、ナル兄を侯爵家の領地にやっているらしい。
「休暇だよ」って伯父は言っていたけど、きっと違うな。
ナル兄ちゃん、ファイトだ!
「やあリリベル、聞いたよ。大活躍だったそうだね?」
伯父が満足そうに笑いながら言った。
「伯父様があの場に参加できるようにして下さったお陰です。こちらこそ、ありがとうございました」
「エリオットはしばらく後始末で忙しいようだ。今後の北との関係もどうするか考えねばならんしな」
「伯父様」「王妃様の茶会はどうだった?まさか第三王子と結婚しろとか言われてないよな?伯父様が止めてあげるぞ」
「ありがと伯父様。でもそんな事言われてないから大丈夫。それより実はね子爵領の野生馬はユニコーンの子孫じゃなくて、北の女神様の愛馬のスレイプニルの子孫かもしれないの。でもどう考えても私もそう思うんだよね。だってアイツら、いつだって闘争心の塊でしょ?」
「確かにな言われてみればそうだな」
「でもこの国の北の伝承はデタラメ過ぎて、いまいち本当の事を誰が知ってるの?って感じなの。特にうちの国は北の隣国を悪者にしがちだよね?」
「それなら良い人がいるぞ。国が一つだった頃からの神話を研究している人だ。彼もこの国は嘘ばっかりだと東に留学して、そのまま居ついちゃって、もう帰って来ないんだがね。連絡は取れる」
「本当?伯父様」
「ああ。春休みに行けるようにしてやろう」
「伯父様!大好き!」
リリベルはまた伯父に抱きついてしまった。
ああ、やっぱり最近、クセになっているかも。危ないな。
でも伯父ならいいか。「やっぱ娘はいいな〜」と目尻を下げて喜んでいるし。
そして、これも言わないとだろう。
伯父にはこっちが大事かもしれないのだ。
「伯父様、あとね…オリベル王女のお母様の王妃様と、本当の父親の北の王子は実は別れていなかったらしいの」
「!」「しかもうちの先祖の肖像画の中に、北の王子のもあるんじゃないかって王妃様に言われたの。それって子爵家の先祖って事?近過ぎる。最近の先祖だよね?爺様は70代なの婆様と10歳離れているから。まさか違うよね?」
伯父も眉間に皺を寄せてワナワナと震えている。
「リリベルそれは…」
「もしかして、モバイル5世かな?カルピス2世、バカンス3世か?そのあたりだと思うんだけど」
「‥‥なあリリベルもしかして先祖の名前、全部覚えているのか?」妙な名前を聞いて一瞬で冷静になる。
「うん。爺様に教わったよ」「ちなみに爺様は?」
「バスタブJr.…」
「‥‥リリベル、東に行く前に、先に先祖の肖像画を見に行く必要があるな。バスタブJr.氏にも話を聞いてみないとな」
「そうだよね」