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リリベル達が伯父の屋敷に向かっている頃、侯爵邸では義姉のアイリーンが陣痛で叫んでいた。
「イタイ、イタイ、イターイ!!マリベルっマリベル呼んでー!」
「アイリーン頑張って」ベルトルトが側で、ずっと手を握って励ましている。
「聖女様はさすがにちょっとね」侯爵夫人が冷静に突っ込む。
「ギャー!マーリーベールー、ソフィーナ!ソフィーナでいいから」
「もう呼びにやったわよ」「ビアンカー!「は、まだか」
「王太子妃殿下、先程、侯爵家から連絡が入りまして、アイリーン様の陣痛が始まったそうです」
「まあ!王宮の医師の派遣は?」
「すでに手配致しました。公爵夫人も向かわれているそうです」
「そう。ソフィーナが。あの子も3ヶ月前に出産を終えたばかりなのに悪いわね」
「でも元聖女候補でらっしゃいますから安心ではありませんか。王太子妃様のご出産の時も治癒魔法が素晴らしかったですわ」
「そうね」アイリーン頑張って!とマレシアナが心の中で励ましていると、
「マレシアナ!!」と王太子殿下が慌てて入室してきた。
「まあ王太子殿下どうされましたの?」
「ライオットが休暇を取ったのだが」
「はい?」それが何だと言うのだ。
「兄上に会いに行くと言うのだ」
「…?ライオット卿がベルトラント卿にですか?」休暇の理由が妻と子の為ではなく、元第一王子に会いに行くと?
「正確にはライオットは叔父に会いに行くそうだが、兄に会いに行くのはアイザックだ」最初からそう言え!
「はい。それで?」
「私も行きたい」…やっぱりか。
「……学生で夏休みのある、アイザック殿下とは違いますわよ」
「それに王太子殿下は来月、王女殿下と海に行かれる計画をお建てだったのでは?」
その休暇だけは頑張って勝ち取ってやったのよ!
本当に王太子は相変わらず元第一王子が好きなのだ。別にそれは構わないが、流石にいきなり出掛けられるのは困る。
しかし王太子殿下は「マレシアナ〜」と甘えてくる。
そう言えば以前、ベルオットが言っていたことを思い出す。
オリベル王女の名前の一部をもらった王家のベル。
オリベル王女の妹だったカテリーナ王女が名付けた彼は緑色の瞳だったはずだ。
また“緑色のベル”か。
マレシアナは仕方なく何か立て込んだ用事は無かっただろうか?と殿下の侍従に確認しようと立ち上がる。
と、その時、マレシアナは立ち眩みに襲われ倒れそうになる。
慌てて殿下が支えてくれたが、そのまま吐き気に襲われる。
「マレシアナ!大丈夫か?」
「殿下…殿下の匂いがダメです…」とマレシアナはそのまま血の気が引いてソファに傾れ込む。
直ぐに医師が呼ばれて、その後、マレシアナの2人目の懐妊が判ったのだった。
そして王太子殿下は兄に会うのを諦めたのだった。
少し寝てマレシアナの体調が戻った頃、侍女から報告が来た。
伯爵ご夫妻に無事に女の子が誕生したと。
また女子か。ソフィーナのところも女子であった。
まあ最近は女性当主も多い。それに、まだ皆、若いのだ。
自分は次は王子が欲しいな、と思いながらマレシアナはアイリーンが無事に出産を終え、母子共に無事であったことを女神様に感謝した。




