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馬車は途中の街々で一泊ずつして、無事に三日目の午前中に伯爵領に到着した。フィリップ様もアドリアン様のお父上も、ずいぶんと神経をすり減らしただろう。
だが伯爵邸が見えてくると、二人とも顔を明るくした。
やっと解放されると思ってんな、これ。
馬車が伯爵邸の門を入って建物のエントランスに着くと、何人かが出迎えてくれているのが見える。使用人の他に屋敷の主人らしい女性と男性、小さな子供と、あと一人、あの金髪は?
「ラント様!」「兄上!」
二人の声が違う呼び名でハモった。
マリィ姉ちゃんの赤面の主じゃん!
ザック殿下、あなたのライバルですよ!と思って馬車から降りると、アドリアン様のお父上が3番目の伯父と思われる人に抱き付いて泣いている。
横の女性はプラチナブロンドに緑色の瞳だ。彼は母親の色そっくりなんだ。顔は王家かな?
「第三王子殿下も皆様も、よくお越し下さいました。歓迎致しますわ」
とご婦人が仰り、ご挨拶下さった。
「突然の訪問、ご迷惑をお掛けします。子爵家のリリベルです」
リリベルもスカートを摘み挨拶を返す。
執事に屋内に案内され居間に通される。
「あ!うちのクマさんと一緒!」
そこでまた再会を喜び合うはずが、リリベルの声で中断される。
伯爵邸の玄関を入って居間の入口付近に、うちと同じクマの剥製が置いてあったのだ。
「ああ、君はベルモントの?」と伯父が言う。
「はい。5番目の子のリリベルです。伯父様」
「弟も皆も元気なのかな?」
伯父様は父とは全く似てないが水色の瞳が一緒だった。
「元気です」と伝えると「そうか良かった。ライオット、兄も元気かい?」とお尋ねになったので「前侯爵様もお元気です」答えたのはリリベルだ。
だってライ兄より最近、一緒にいるのはリリベルの方だ。
伯父は一瞬驚いたが「そうかライオットも結婚したんだったな。おめでとう」と笑った。
そして居間で、また再会を喜び合う。
フィリップ様もザック殿下もアドリアン様のお父上も、皆、この家族と会いたかったのね。
殿下も言ってくれるといいのにと思っていると、アドリアン様が「ラント君は新人の時、俺が世話係りだったんだ」って仰った。
そうか皆、縁のある人ばかりだったのね。
私が伯父にクマさんのお礼を言いたいなんて言ったから、ザック殿下は連れて来てくれたんだ。
いっぱい文句言って悪かったなと、ちょっと反省した。
リリベルがふと横を見ると、小さな男の子と目が合った。
男の子は父親そっくりだが瞳は緑色でマジマジとリリベルを見つめてくる。ララ姉の息子といい、リリベルはどうも小さな子に好かれるようだ。
リリベルには下がいないから、ちょっと嬉しい。
腕を伸ばすと男の子も抱っこの手を伸ばしてきたので、そのまま膝に抱き上げる。男の子は無口だが目は雄弁だった。ローテーブルの上のお菓子を見ている。
リリベルがクッキーを渡すと、男の子は目を輝かせてかじり出す。可愛い。どんどんお菓子をあげたくなる。
だがマドレーヌを食べ終わると眠くなったみたいでウトウトし始めた。
そう!ララ姉の息子と同じ!リリベルが背中を優しくたたくと、男の子はあっという間に夢の中に旅立っていった。
きっと次はヨダレを垂らすんだ。そこも学習済みだ。
リリベルは「フフフ」と笑いながら周りを見渡す。
皆、久しぶりの再会なのだ。喜び、真剣に語り合っている。
リリベルもそんな幸せな雰囲気に浸っていると緊張が緩んだのか眠くなってきた。
3日間の強行軍もなかなかだった。
「ちょっと失礼」と目を閉じる。
「大変!息子がいないわっ」と夫人がオロオロし始めた。
「えっ?!あいつ誰と一緒にいたんだ?」
「最初、私と手をつないでいたんだけど」
皆で慌てて子どもを探し始める。
すると誰かが「ああっ」と声を上げる。
「リリベル嬢のところに…」
「まあ!」「どうりで静かだと思った」
リリベルは小さなご令息を抱いてソファで撃沈していた。
「リリベル嬢、無防備だな」
「ライオット、お前ちゃんと妖精に警戒心、教えたのか?」
「とりあえず息子を回収するから令嬢を…」
「何だよライオット?」
「殿下にそんなことさせられません」「では、私が」
「あ、フィリップ!リリベル嬢は見た目より重いぞ!」
「何で殿下がそんなことを知って?」
「じゃあ俺が運ぶか〜」
「アドリアン!リリに触んな!」
「ベルトラント、ご令嬢をお部屋にお願い」
「はい母上」
皆が気付いたら、リリベルはもういなかった。
リリベルが目を覚ますと窓の外は夕焼けが見えた。
「やっちまったな」と思ったが、お風呂をいただいて夕食の席に呼ばれた時は、皆も仮眠したのだと聞いて少し安心した。




