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「で、その事に女性の聖騎士様が派遣される事は関係あるのですか?」
ザック殿下の侍従であるフィリップ様の興味は、子爵領の野生馬よりも女性聖騎士様のようだ。
まあ野生馬は子爵領だけの事だし一般的には聖騎士様の方が大人気だ。しかも女性の聖騎士様は多分30人もいない。
「野生馬は多分、関係無いと思います。でも子爵領は私が物心つく頃から女性聖騎士様の派遣だけだったと思います」とリリベルは正直に言っておく。
フィリップ様はかなり驚愕しておられた。
私も深く考えたことは無かったけど、誰かさんの意図を感じる気はする。伯父あたり?多分、毎回、多額の寄付を神殿にしてるんじゃないかな。だからこれは殿下には言わないでおくけど。
話しているうちに薬草園に到着する。
神官様は見て欲しい薬草の場所にリリベルを案内する。
リリベルが真剣に薬草の様子を見ている姿を見て、
「随分と前から彼女はここに出入りしているのか?」と殿下がユリアさんに質問をする。
「マリベル様が聖女になられてから、リリベルさんは時々、王都にお越しになるのです。ご本人は遊びに来ているおつもりのようですが…」
「彼女は植物を育成したり繁殖させる力があるだろう?」
「王家も、もうお気付きなのですね。聖女様が人の癒し手であるとすれば、リリベルさんは植物の癒し手なのです。今は失われた神殿のもう片方の聖女なのだと大神官様は仰っておられました」
「神殿はそれを知っていて、もう1人の聖女を確保しないのか?」
「マリベル様だけでも、我々は十分に女神様に守られ、安泰ではありませんか?」
「それは、そうだが、でも!」
「それに女神様は植物の担い手には一切の神託をなさらないのです。彼らは自由に生まれ、生まれて来ない時代もあるそうです。きっと彼らを自由にされることは女神様のご意志なのでしょう」
「でも、もったいないな」
「はい。だから、こちらにお越しになる時はお手伝い願っております」
「それだけでいいのか?」
「十分です。我々はその存在を確認できただけでも僥倖なのだそうです。しかも聖女様のお身内です。有り難く見守らせて頂いております」
リリベル嬢は広い薬草園を走り回っている。俺は彼女に声を掛ける。
「リリベル嬢、何か手伝うことはないか?」
「殿下!ザック殿下、水撒きします。ジョウロを持って地下の井戸に「魔法で水を撒けばいいのでは?」
「え、でもこれだけ広いので、魔法だと魔力不足になります」
「私は水魔法に特化している」
「エエェッ!!赤いのに」
「よく外見から、そういう目で見られるが、実際、言われるのは初めてだな」
「殿下にも遠慮が無いって本当だったのですね」とフィリップ様も仰る。
リリベルの背中に冷たい汗が流れる。最近、気安くし過ぎたのかもしれない。いくら気さくな方でも王子様でらっしゃるのだ。リリベルはちょっと反省するのだが、でもよく考えたら殿下に嫌なことを、たくさんされているからじゃないのかな?と考えていると、
「リリベル嬢、また変な事考えてないで、どこに水を撒くのか教えてくれ」と殿下が仰る。
リリベルは「勘がいいな」と思いながら、殿下に具体的にお願いする。
ザック殿下はさすが王族なのだと思えるほど、魔法で広範囲に雨のように水を撒いてくれた。
すごい、すご〜い!一家に1人じゃなくて一農家に1人じゃない!とリリベルは感動するのだった。




