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入学式の前に一度、学院で学力試験がある。その結果でクラス分けがあるそうだ。1組は上位30名だが、後は爵位順だという話。
高位貴族で最後のクラスって恥ずかしいものね。そこはちゃんと配慮されているのね。
試験のために馬車に乗り込もうとした時、兄が言ってきた。
「リリ!上位クラスは避けろ」それは点数操作をしろってこと?私はそんなに頭が良くないから、普通に解いても大丈夫な気がするけど。
でも兄のアドバイスは聞いておかないとね。なんせ上2人は王族に目を付けられたんだもんね。
リリベルは「了解!」と言って、兄の言う通り適当に試験問題を解いておいた。
子爵家の家庭教師の先生、今も子爵領で領民の子供達を教えているけど、なかなか凄い人だったのかな?問題、全部、先生の言う通りだった。
後日、リリベルは無事に3組になった。5クラス中の3組だ。兄にサムズアップされた。
「リリベルちゃん! 最新作が出たの。一緒に読まない?」
侯爵夫人が真新しい本を数冊抱えている。
「読んだら、領地のお義母様に送らないといけないから、どれも1週間以内よ」
「楽勝です!」
恋愛小説は子爵領でも女性陣でこぞって回し読んだ。マリィ姉ちゃんが王都に行ってからは、お給料で、いつも新しい小説を領地に送ってくれるので皆で楽しみにしていた。
今は直ぐに最新作や最新刊が読める。これは王都に出てきて本当に良かったと思うことだ。
「子爵領にも送りたいです」って言うと「大丈夫。お義母様が心得てらっしゃるわ」と言って下さった。有難い。
恋愛小説と言えど本は高級品なのだ。お古を譲って頂けるのは助かる。
最近までは敵国同士の王子と王女というのが流行っていたが、今は学園物が流行っているらしい。
ちなみに貴族が通うのが王立貴族学院だが、騎士になるための王立騎士学校、一般人も通う王立学園が王都にはある。あとは各貴族の領地にあったり、無かったりだが大きい都市を持つ領地には学校がある事が多い。
学園物とやらは王子や高位貴族が出てくるので、恐らく貴族学院が舞台のようだが、その中には元平民の貴族の女の子が学院に入学して王子や高位貴族と恋愛してなんとか〜というのが、貴族、平民を問わず、とにかく人気らしい。
私でさえ、よく貴族が剥げてるって怒られるのに、元とは言え平民が貴族学院にって絶対、無理設定って思うけどな。
「元平民が貴族学院で恋愛って、貴族には面白いんですか?」って聞いたら侯爵夫人が「下位貴族の主人公が健気で、貴族の中で負けずに頑張る姿が推せるのよ」って返ってきた。
とりあえずリリベルも夫人お勧めの学園物とやらを読んでみたが、下位貴族の自分に置き換えても、あまり非現実的で共感はできなかった。特に自分に近過ぎる設定は現実が見えてしまってダメなのだ。
敵国とか王女と騎士とか、死んだと思っていた幼馴染が生きていたとか、そういう自分では想像が及ばない非現実的な環境での恋愛が良いのだよと思った。
まあ、でも領地の女性陣は学園物も好きかもしれないな。
侯爵夫人が「子爵家の人達って意外とリアリストが多いのよねぇ。マリベルもそうだったわ。自分と環境が被らないリアルな恋愛を好んでたのよね」と言った。
なるほど。マリィ姉の本のチョイスがナイスな訳だ。価値観が同じだったんだな。
ここで侯爵夫人が「だったら“美し過ぎる令息と禁断の恋に落ちる伯爵令嬢”、もしくは“天使のような侯爵令息と禁断の恋に落ちる妖精令嬢”って言うのもあるのよ〜ホホホッこれは、ほぼノンフィクションね」と意味深な笑いを込めて言ってきた。
ヒー!!それうちの家族の恋愛のやつ。そもそも禁断でも何でもないからね!誰だよ書いたヤツ!?
「ここに“美しい侍従に囚われた王太子”というのと“美しい令嬢の虜になった学園教師”っていうのが加わるかもね」って言ってきた。
……それ18禁なのでは?!しかも兄と姉、上2人が魔性にされてる上、ルト兄のは相手が王太子殿下って大丈夫なのそれ?!聞いているだけでドッと疲れた。
リリベルはしばらく恋愛小説は止めて、学院の教科書を予習することにした。
「リリベルちゃんも真面目なんだから〜」そんなこと人生初めて言われたかも。
アイオット様に言ったら、マリィ姉ちゃんはアイオット様達と毎日、木刀を振っていたらしい。
姉ちゃんのその気持ち、ちょっと解った。