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次の日、慌ただしく陛下、王妃様、ルト兄と共にリリベル達もまた王都に戻る馬車に乗った。帰りは王家の馬車に公爵様も含め6人乗る。
公爵様の馬車は4人乗りだが4頭立ての馬車なので子爵領のアップルワインやリンゴなどのお土産物がたくさん積み込まれ荷馬車になった。
特に王妃様は母のパンや焼き菓子が気に入ったようでバスケットを大事そうに抱えていた。
あれから結局、リリベルは朝食時の流れで南の国や火山の国と荒波を立てずにザック殿下を奪還するという任務を負ったが、全くのノープランでどうしたらいいのか分からない。
そもそもお互いの気持ちも、ちゃんと確かめ合った訳でもない。ただ漠然と両想いですよね?という事だけだ。
身から出た錆とはいえ、どうしたもんかと眉間に皺を寄せていると陛下が仰った。
「令嬢、そなたはまだ知らないだろうが、アレは学院卒業と同時に王族を抜ける決意をしておった」
リリベルが驚愕に目を見開いていると「何かやりたい事を見つけたのだと言っておったな。余はまだ時期尚早だと、己を磨く事を優先するよう伝えたが、まさか…あの子供だった王子がたった1年程でそこまで言い出すようになるとは思わなかった」
ザック殿下が王族を抜けると言い出したのは、もしかして私のせいなの?
「何をやりたかったのか…まだ聞いてはいなかったが、王族を抜けなければならない程のものであったのか?否、子爵令嬢、そなたと一緒になる為に王族を抜けようと思ったのだろう。余も王太子もアレが望むなら子爵家出身であっても、そなたを婚約者に据えてやろうか?と言ったのだ。だが、そうしたら逆にそなたを逃すだろうと…いや、そなたは逃げ出すだろうと言っていた」
陛下はそう仰ると面白そうにクククと笑った。
それは間違いない。逃げただろ〜な。
「子爵家の者達を見ていて思った。皆、自発的に考え動く者ばかりだ。強制してはいけない者達だと思った。恐らく望んで子爵位にもいるのだろう。せっかく嫡男が伯爵位を手にしたのに、欲が無いわけでもない。だが権力欲は無い。…そうか筆頭侯爵家の者もそうであったな」
「陛下、前子爵は私と兄の従兄弟でもあるの」
王妃様の言葉に公爵様とララ姉ちゃんが驚いている。そう言えばララ姉ちゃんには、まだ爺様の生い立ちを話していなかったかもしれない。
「王妃様!筆頭侯爵家にオリベル王女が降嫁して彼らに北の王家の血筋が入った事は存じておりましたが、子爵家にまでとは?」
「前子爵のお父上は私とお兄様の伯父にあたるのよ。つまり彼はオリベル王女の弟なの」
「なんと!」
公爵だけでなくララ姉も口に手を当て驚いている。
「公爵、これは王家の更なる醜聞に繋がる故、長いこと秘匿とされていた事だ。それに産まれた赤ん坊は行方知らずとして処理されておった。当時を知る者はもういない」
「そうですか!そうですわよね。ですが納得ですわ。子爵家の者達の容姿。まるで北の王家の血筋そのものですもの」
その夜、宿でまたリリベルは姉と同室になった。
「ララ姉ちゃん、ゴメンね。爺様の生い立ち、昨年の今頃の時期に私達も初めて知ったの。隠していた訳じゃないけど色々あって言うの忘れてた」
「そうね。驚いたけど、今更、だからどうって事ないしね。でも私達、両親共に北の王族の血が入っているって事?ちょっとカッコいいじゃない?」
「姉ちゃん、東の王族もなの。爺様の産みのお母様は東の王女殿下だったから」
「わー凄い。でも自国なのに西の王族の血は混じってないっていうのが面白いわよね。でもリリが殿下と結ばれれば!ウフフフフッ」
やめてぇ!姉は容赦なくリリベルの苦手分野で抉ってくる。
でも「そうだ!姉ちゃんこれ見て」
「へえ綺麗なガラスペンね。瞳と同じエメラルドグリーンだわ。持ち手は黄色。これあなたの色なのね」
「東の神様の贈り物なの」
「ねぇリリ?東の件も姉ちゃん聞いて無いわよね?」
「あっ!それは道中でちゃんと説明するから。とりあえずこれなんだけど」
リリベルはリングを付けて色を変える。
「わっ赤になった!しかも持ち手は青って殿下の色じゃない!」
「姉ちゃん!これってどういう事?わざわざ色を変えれるようにしてまで殿下の色を持たせるなんて」
「ねえリリ、このペンは神様のジョークではないの?」
「殿下も持ってるの。私と逆の色でリングでエメラルドグリーンになるの」
「成程ねぇ。殿下は何て?」
「分かんない。何も。でもこの色を見て自分を意識しないのか?って聞かれた。でも私は意識しちゃいけないんだって思ってた。私は殿下と身分違いだから」
そう言いながら涙が出てきた。
もうすでにそんな状況なんかじゃなくなっているのに。




