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「私はどこの家にも養子に入る気はないです」
ナル兄ちゃんも思ったんだ。きっと他力本願は違うと。
伯父は身分などどうとでもなると言ったが、それは伯父だからだ。
お祖母様は駆け落ちした。きっと爺様が貴族じゃなくてもそれを選んだはずだ。でも婆様と違って私が殿下を選ぶなら身分が足りない。それに婆様のように殿下と駆け落ちをしたい訳でもない。殿下には王子という責任がある。それを私のせいで放棄させるなんて絶対できない。私が自分で頑張るしかない。
殿下の「待っていて」は結局、何の事か分からなかったが、私は私に出来る事をする!フフフ。なんかそう決意すると力が漲る気がする。
「お父様!皆も、私は自分で自分に出来る事をして、必ずご褒美に殿下を貰ってくる!」
「おぉ!リリベルとうとう決意したか」
「お嬢!イイぞー!!」「ヒューヒュー!」
「え!?イイわよ。あなたにアイザックをあげるわよ」
『ハッ!?』全員で声の主を振り返る。
いつの間にか王妃様と陛下が子爵家の食堂の入口に立ってらっしゃった。
「王妃様がどうしても母のクロワッサンが食べたいって…僕が別荘までお持ちしますって言ったんだけど」
ルト兄ちゃんが済まなそうに一緒に立っていた。
一体、どこから聞かれてしまったの?
「まあ!クロワッサン。お昼に出せるように今から生地を作るわね」
母がバタバタと食堂を出て行く。
リコピンがガタンと立ち上がって、スッとリリベルの後ろに立つ。
ルト兄と父の手によってテーブルが片付けられ、祖母がクロスを替えてララ姉がサッとお二人にお茶を淹れる。
その間に祖母がお二人を席に案内する。
「南のローステッドティですわ。煎茶をローストさせておりますの」
「今朝、採れたてのリンゴだ」
と祖父がウサギさんにリンゴを素早くカットしてお二人に出す。
そして戻って来た父がそっとパンを盛ったカゴを出す。
「我々の朝食と同じ物で申し訳ありませんが、アップルペストリーとイチジクと栗のリュスティック、レーズンのシナモンロールです」
「お二人は朝食をお済ませだと説明したのですが…」
兄はそう言いつつもお二人の前にお皿とナプキンを置く。
私も何か…とリリベルが席を立とうとすると「着席!」と父が命令してきた。
なんでっ?!
「子爵家の者は、皆、連携が素晴らしいな」
陛下がポツリと仰った。下働きだがな。
「我が家はご存知のように使用人が少ないので」と父が申し上げると
「いや、でもどのような下位貴族でも、ここまで各々が察知して自発的に役割を分担して動けまい」と今度はハッキリ仰った。
「そうよ。それに子爵は元は侯爵令息でしょう?そうね、だから皆、教育も礼儀も行き届いているのね」
「鉄壁の淑女もおります」
とリリベルの後ろからリコピンが付け加える。
「成程。聖女殿の出身家門でもある。皆、優秀なのだな。王太子の侍従も余の長年の侍従と引けを取らない」
「お褒めに預かり光栄ですが、先程の王妃様のご発言は陛下のご意思とは異なると存じますが?」
「ああ、第三王子の事か」陛下は少し考え
「子爵令嬢は先程、自分が何かを成し遂げた褒美として第三王子を貰うと言っていた」
ちょっと話をでっかく盛り過ぎました…リリベルは背中がヒヤリとするのを感じる。
「だから成し遂げて見せよ。そなたの思うままに行動し南も火山の国も上手く丸め込んで見せよ」
ギャーッ!無理難題キター?!
「ただの子爵令嬢の私がですか?!」
「本当にただの子爵令嬢か?リコまで従えているのに?今回、北の国王からも何やら協力を取り付けたのであろう?それに他にも協力者が多そうだが?」
「リリ、さっき覚悟を決めたんじゃなかったのか?」
お父様、あなたは誰の味方なんですか?!
それに、それ言った時、まだ無理難題の条件無かったですから!




