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夕飯は、また狭い子爵家の食堂で全員が猪鍋をつついている。ジンジャー入りミソ味で身体がしっかり温まりそうだ。
晩酌はもちろん米酒だ。
「王妃様、本当に毎日、あんな遊びをしているんですか?」
「そう。お兄様がソリと馬を置いて行って下さったから。でも今日は私1人かもと思っていたから、リリベル嬢が帰って来てくれて良かったわ」
皆、無表情かつ無口で自分の器の猪鍋をつついている。
「具が無くなったからウドンを入れるか」
爺様が手際良く下茹でした太めのウドンを入れていく。
「ねえリリ、ララ、私お箸が使えるようになったのよ!」
母がお箸を持つ手を見せてくれた。
「お母様、練習したのね?」
「せっかくララにお箸をもらったからね。特にウドンは箸じゃないとね」
「私も練習するわ!」「王妃様、今から?」
「だって娘が嫁いだ国の道具なのよ。使えないと娘に顔向けできないわ!」
いや多分大丈夫だろうけど、水を差すのはやめた。
「箸もいいが王妃よ、明後日には王都に戻るぞ」
「えー遊び足りない!」
「年明けの挨拶には間に合わないが、第三王子は戻って来ているだろう。それに、もしかしたら南の王太子妃殿の出産報告も来ているかもしれん」
「直ぐに戻りましょう。陛下!」
変わり身が早い。でも公爵様も安心した顔をされた。
食後のデザートはリリベルの持って来た米酒ケーキだったが、やはりこれは皆が大絶賛だった。
「何だこれは!米酒の香りとしっとり感がバターと合わさって、またレーズンの酸味がアクセントになって堪らん」
「ココナッツも良いわ。お酒との相性がこんなにいいのね?」
「お父様!レシピは不明なの。でも生地にお酒を混ぜるだけじゃなく、焼き上がった後に少し浸すって言っていたわ。これはアップルワインでも作れるケーキじゃない?それとアルコール度数の高いお酒で作ってナッツやドライフルーツをもっと増やしたら保存期間も伸びるし保存食にもならない?」
「リリ!それだ!」
「クララベル、レシピは無いがどうだ?」
「多分。分かるわ。生地は再現できる。あとは焼く温度と焼く長さを、どれがベストか調べないと。きっとお酒の種類やケーキの具の内容と分量でも変わると思うわ」
「まあ!ここのお茶のお菓子は、もしかしたら全て子爵夫人のお手製だったの?」
「お菓子だけじゃなくてパンもよ。公爵様」
「まあ毎朝の焼き立てのクロワッサンもロールパンも?」
「お昼のベーグルや、バゲットも?」
「アフタヌーンティーの焼き菓子全般とチョコクロワッサンもフルーツのペストリーも全部なの?」
「まあご存知でしたのね?」
母はそう言ってコロコロ笑うが、彼らが知ったの今だからね。
でもそうか。帰ったら殿下は帰国なさっている。
リリベルに会ってくれるだろうか?
夕飯後、陛下と王妃様、公爵様は別荘に戻られ、我々、兄妹と私の護衛のリコピンは子爵邸に残った。
「それで、そこのリコピンは何者なんだ?」
「ベルモント!小公爵様よ」
「お祖母様!それいつの情報よ。もう公爵も騎士団長もご引退されているから」
「公爵で、騎士団長だったのか…また何でリリベルなんかに?」
「命令された訳じゃないぞ、子爵殿。俺が面白そうだから侯爵家がリリベル嬢の護衛を探していると聞いて立候補したんだ」
「リリの護衛は公募でもしたのか?」そんなの知らんわ!
「公募なんてしたらえらい事になるぞ!裏でもスゴい激戦だったんだから」
「そんな事よりお父様、北の陛下の荷物って?」
「ああそうだな。俺達夫婦の部屋にあるから取りに来い」
ここで爺様、婆様とはお休みの挨拶をして私と姉とリコピンが両親の部屋まで行く。
「お父様は中身を見たの?」
「ああ。でも要らない物だった。元から陛下にはお前達には要らない物だって言われてたしな」
部屋に入ると「ああ!ビーバーちゃん!」姉が大声を上げた。
「本当だ。ビーバーちゃんがいる」
「まあ、あなた達も知っていたの?このお人形、北の陛下からお土産だよって頂いたの」
そうかビーバーちゃんは北のお人形だったわ。
「まさかここでも見るとは…」
「他のどこで見たんだ?」
「南の王女殿下もこれを大切にお持ちなの。あと王妃様も」
「このお人形さんが王妃様のお母様だと伺ったわ」
いやお母様じゃなくてお母様がモデルのお人形です。人形がお母さんって怖い。
「それより荷物はこれだよ。かなり重いから運ぶの大変だぞ」
荷物は大きなカバンが2つだ。
「中を見てもいい?」「ああどうせリリのだ」
カバンを開けると中身は「魔石だ!」凄い量の魔石が入っていた。
「魔力石じゃないのか?」
リコピンも慌ててカバンの中身を手に取る。
「魔石だ…」「ほら僕達には必要ないだろ?」
確かに必要ない。でも南には…




