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「皆、ただいま」
東の国に帰化し神の司書となった彼は、西への帰省と絵本を広める仕事を終えて、約1ヶ月振りで自宅に戻った。
「あなた、長旅お疲れ様でした。お帰りなさいませ」
「ああ長い事、留守にして悪かったね。皆元気だったかい?何も無かったか?」
「ええ。ダンナ様もお変わりなさそうで安心しましたわ」
「ああ。お土産もあるし、話したい事も沢山だ。とりあえず帰国の報せを王城に出すから、その後ゆっくりお茶でもしよう」
「ええ、あなた。では居間でお待ちしておりますわ」
私は妻や長男、伯爵家の皆に挨拶をして書斎に入ろうと扉のノブに手を伸ばした。すると急に扉が内側から開いた。
「わあっ!」驚く間もなく中に引きずり込まれる。
そして私を引きずり込んだ犯人を見て、私はつい声を荒げてしまう。
「神様!何やっているんですかっ?!」
「だって君が帰って来たって気付いたからさ」
「何でここにいるんですか?ここは伯爵家の書斎ですよ」
「うん。本のある所には、どこでも繋げられるよ」
そうだ…この人、神様だった…。
「明日、ご報告に上がる予定だったのですが?」
「ねえ!ねえ見せてっお土産っ!」聞いてねえな。でも仕方ない。
「リリベル嬢から、お預かりしましたよ。お待ちの物はこちらですか?」
「ああ!姉さんの青薔薇だ!!しかもツボミまで付けてる。ちゃんと眠らせて届けてくれたんだな…」
神様は薔薇の鉢を抱き締めて涙を溢れさせてらっしゃった。
一人にして差し上げようと、私はソッと書斎を出てきた。
妻とお茶を飲んでまた書斎に戻ると、もう神様の姿は無く“君が帰って来た事と、明日、報告に来る事は伝えておくよ”と、恐らく長男が置き忘れたのであろう、孫のウサギのヌイグルミが喋った。
こういう奇妙な魔法は止めて欲しいな。
まだ何か喋ろうとウズウズしているヌイグルミを捕まえて、孫に返そうと、呼び鈴で部屋に来たメイドに渡す。
「あっ乱暴はやめてぇ」まだ喋るのか?
メイドがビビって私に返却してきた。
「どうすんだ?コレ?」
翌朝、王城にお土産の品々を携えて報告に上がると、殿下方に囲まれた。
「リリベル嬢は元気だった?絵本はどうだった?赤い王子様は?」 質問攻めだ。
私は殿下方の質問に答えながら、陛下に絵本が西の国で、とても好評だった事などを報告した。
その後、王城の書庫にも向かうと神様が書庫内をウロウロして考え事をされていた。
「神様?何かお悩みですか?」
「なあ、見て!青薔薇を咲かせたんだ。美しいだろう!国王家族にも見せてやったんだ。いつも世話を掛けているからな〜」
自覚あるのか。でも青薔薇は確かにとても美しかった。
「綺麗ですねぇ」
「そうだろう!姉上っ私は元気だぞ!」
薔薇に話し掛けている…が、ヌイグルミと話す私よりはマシだろう。
「神様、リリベル嬢からお預かりしたお土産がまだありまして」
「えっ?何だろう」
「西で人気の画家に、あの絵本を描かせたようです」
私は預かった絵本を神様に渡す。
「何だコレ!?スゴい色彩だ!マジか、この発想無かったなぁ」
神様は絵本を捲りながら、驚いている。
私も絵本を見たが、ジジイの目には色がうるさい感じがしたが、違うのか?
「それより神様、あのウサギが、まだ喋るんですけど」
「ん?ああ君との連絡係を任命しといたよ」
「あれは孫のヌイグルミなんですけど…」
「は?通りで君の書斎に可愛い物があると思ったんだ」
「それより聞いてよ!ああっ青薔薇が、薔薇が反応してる!姉さん!」
「神様?」あの薔薇一体何なのか…?
私は聞くけど、神様は人の話は聞かないんだな。
「なあリリベル嬢にお礼しないとな。夏休みは来てくれないの?」
「ずっと前から南の国に行く事が決まっていたそうですよ」
「もしかして赤い王子とかな?」
「ええ。彼の姉君が南の王家に嫁がれたそうですから」
「…王子が赤毛じゃ無ければな。でも凶は関係ないか」
「ん?凶ですか?」
「そうこのタイミングで方角的に南は大凶。きっと巻き込まれるな」
「赤毛は何か関係が?」
「ん〜今回は直接的には無いが…でも凶はリリベル嬢で相殺かな。あの子、やっぱり妹入ってる」
「は?今、何て?」
「なあ私、これからリリベル嬢への贈り物作るから、しばらくここに来ないで」
「ええっ!しばらくって、いつまでですか?」
「ウサギが伝えるよ。じゃあね」
私はあっという間に書庫を追い出された。ウサギは今朝、乳母が取りに来たけど大丈夫か?




